内容
開発提案の構成
開発提案は以下の構成だった。
1 企画の背景
2 開発の狙い
3 セリングポイント
4 商品力目標
5 パッケージ
6 車両各部概要
7 車種構成
8 質量企画
9 原価企画
10 開発大日程
CE17か条
その1「車の企画開発は情熱だ、CEは寝ても覚めても独創商品の実現を思い続けよ」
その2「CEは高い目標を完遂できる段取り力を身につけよ」
その3「CEは誰よりも旺盛な知的好奇心を持て」
その4「CEは自分の思いや考えをわかりやすく表出する能力を身につけよ」
その5「CEはいざという時に助けてくれる幅広い人脈をつくっておけ」
その6「CEは自分のグループの人事・庶務係長と心得よ」
その7「CEは愚直に地道に徹底的に図面をチェックすべし」
その8「CEは愚直に地道に徹底的に原価の畑を耕し原価目標を達成すべし」
その9「CEは自分の商品をどう売るか営業任せにするな、自分なりに宣伝、売り方を考えよ」
その10「CEは自分に足りない専門知識は専門家を上手に使え、しかし常に勉強を怠るな」
その11「CEは現地現物を率先垂範せよ、自らの五感を総動員して体感せよ」
その12「CEは早い段階で『ユーザーとの対話型開発』を実践せよ、迷ったらお客様を観察せよ」
その13「CEは開発日程遅れを最大の恥と思え」
その14「CEは一生懸命若手や次世代CEを育てよ、時には厳しく上手に叱れ」
その15「CEは最も強力な新市場開拓の営業マン、積極的に新市場へ出かけよ」
その16「CEは自分を支えてくれる関係者全員に対する感謝の心を常に忘れるな」
その17「CEは24時間戦える体力、気力を日頃から養っておくこと」
一番多い質問はCEに求められる資質についてだ。
わかりやすく説明するのは難しいが、たいていは次のように答えている。
・開発する製品が好きで好きで仕方がないこと
・複数分野の専門知識に精通し、目的達成に必要となる知識の領域を短期間に拡張できる能力を持つと同時に、各分野の専門家集団を動かすための論理的思考能力とコミュニケーション能力をあわせ持っていること
・商品価値とそれを実現する各要素に関しての専門家と同等かそれ以上の詳しい知識レベルを有していること。具体的には、人文系の知識では、社会や顧客の動向、法律、規制など。経済系の知識では、利益、原価など。アート系の知識では、意匠、質感、感性価値など。自然科学・工学系では、使用環境条件、実現のための各専門技術などということになる。
・日本語力(わかりやすく伝える力)、リーダーシップ、人間力を持っていること
私が、世界戦略車カムリのCEを務めていた時、オフィスに掲げた行動指針が以下である。
製品企画のチーム全員に徹底した。
1 新しいこと、難しいことへ積極果敢に挑戦
・自分がパイオニアになる気概
・フレキシブルかつ失敗を恐れないプラス思考
・お客様の圧倒的感動が発想の原点
2 Zとして強力なリーダーシップ
・専門家や関係部署の知恵の結集
・ものの本質や「こころ」を見抜く
・より広くより高い視点からの即断即決
3 社内外の関係部署から信頼されるZ
・企画内容、開発方針のわかりやすい説明
・公平でオープン、かつ約束、時間、期日の遵守
・議事録やエビデンスの作成
CE制度
①原価企画
CE制度を支えるさまざまな仕組みの中で、最も重要なのが原価企画だ。
トヨタでは他企業とは異なるやり方、仕組みを取り入れている。
特長的なポイントは次の3点だ。
一つめは、トヨタの経理部では、企業会計(法律上必要)のための経理=財務会計と、原価管理のための経理=管理会計と二手に分かれて仕事をしている。
法律上必要ではない管理会計をわざわざやるのは、原価低減を行い利益を生み出すためだ。
商品別、つまり車種ごとに原価を割り出し、原価低減に不可欠なデータベースをつくる。
具体的には、生産ラインに届いた時点を想定し、一点ごとに、材料費、加工費、金型費(原価企画台数が設定されているので一点ごとの金型費を計算)などに分解され、歩留まり、不良率、生産性、設備や金型サイズを考慮し算定される。
単品部品でない多くの部品から構成される部品でも同様だ。
単品をアッセンブリーする組付け費がそれに加わる。
トヨタで設計者一人ひとりが自分事として、仕事の中に原価低減の仕事を盛り込んでいけるのは、「商品別の原価」が常に開示されているからに他ならない。
二つめとしてあげられるのは、トヨタの原価低減が企画段階から始まっている点だ。
原価低減は以下の3つの段階において活動を行っている。
A 企画・設計段階
B 生産準備段階
C 量産段階
一般的な原価低減の意味する「ムダ取り」はCの量産段階での手法で、ここが世間では注目を浴びているが、じつは努力の割に成果は少ない。
原価の大半は、A、Bの段階で決まってしまうからだ。
トヨタは特にこのAの段階を最大の原価低減ポイントとみていて、「利益は企画・設計段階ですべて決まる」とまで言われ、CEの旗振りが大いに期待されることになる。
3つめは、「売価-利益=原価」の公式から、目標原価が与えられることだ。
CEが任命される頃、販売側から開発部門に対して、競合他車より少しでも安くという考えと、車体カテゴリーやサイズ、エンジン排気量などから、車両販売価格が提示される。
また、利益は、会社全体の利益計画から車種ごとに分担額が示される車種別利益ガイドラインが存在し、この車種ならいくら儲けなくてはいけないかすぐにわかる。
従って、この公式から、これから開発する車の原価目標がおのずと見えてくる。
この目標を達成し、企画台数以上を販売できれば会社の利益計画も達成できることになる。
問題解決
QCの教科書には必ず登場する8ステップで行う問題解決法のことだ。
ステップ1 問題を明確にする
ステップ2 現状を把握する
ステップ3 目標を設定する
ステップ4 真因を考え抜く
ステップ5 対策計画を立てる
ステップ6 対策を実施する
ステップ7 効果を確認する
ステップ8 成果を定着させる
伝え方
トヨタでは「伝える」ことの本質は、「最終的な行動につなげること」と言われている。
トヨタでは、伝えることを「目的」ではなく、実行に移すための「手段」だととらえている。
1確実に何かを伝えるためには、考え方をシンプルにまとめ、はじめに結論を言う
伝えたいことにタイトルをつける。伝えたいことを3つにまとめる。
2必要事項を「紙一枚」にまとめる
トヨタでは必要事項はすべて「A3またはA4サイズの紙一枚」にまとめるという不文律が浸透している。パワポが主流になったとはいえ今でも残っている。そのため、どんなタイプの人も、おのずと短く書く習慣がつき、ひいてはそれがムダのない考え方をする思考風土をつくりだしている。
3「見える化」でその内容を相手の心に届ける
「図表にする」「張り出す」といった一般的な「見える化」はもちろん、「やってみせる」「態度で示す」といった実践的な「見える化」も重視される。
4「どう実行するか」もあわせて伝える
普通は「わかりました」の返答をもらって終わるところを、そこで終わらせず、実際にやったかどうかまでを必ず確かめる。当然、伝える時も、「理解してもらおう」「納得してもらおう」とするだけでなく、「どうしたら行動に移してもらえるか」までを意識する。従って、「気をつけよう」「頑張ろう」を結論にすることはなく、「頑張るとは具体的に何をするのか」というところまで、相手に示唆する。
5失敗に価値があることを伝える
大切なのは、失敗から学ぶこと。失敗を次の成功を生み出す機会ととらえる。トヨタでは、失敗をリポートにして他の人に伝えることが求められる。「なぜ失敗したのか」という原因を5回以上の「なぜ」を繰り返し究明し、「同じ失敗を繰り返さないためにどうすればいいか」という対策にまとめて文章化する。
6悪い情報も「見える化」する
いい上司は、部下が悪い情報を伝えても、決して叱らない。むしろ「ありがとう」とさえ言ってくれる。正しい判断を下すには、「バッド・ニュース・ファースト」の考え方が重要。トヨタでのさまざまな「見える化」の中の一つに異常や問題が起きた時は、すぐにその不具合をみんなに見えるようにする。悪い情報を改善のチャンスとして前向きにとらえる風土につながっている。
7嫌がられるほど言い続ける
自分の意見や思いがうまく伝わらない時は、相手のせいにしないで、原因を自分の中に探してみる。リーダーがやるべきことは、わかりやすい言葉で繰り返し説明し、全員が同じ目標に向かって能力を発揮できるように、「コミュニケーション」を取り続けること。トヨタでは、「一言に一度却下されたアイデアでも、二度、三度と手を変え品を変えて主張し続けよと言われる。
8議事録を必ず作成する
会議での意思決定は正確にかつ誤解が生じないようわかりやすく明文化、また、宿題事項(誰が、何を、どうする、いつまでに)も明文化し後日フォローしやすくする。この習慣も全社に定着している。また、私は、議事録を書記がそのまま発行するのは厳禁とし、上司の確認を義務付けた。時に書記役の日本語力の不足で、会議での結論が正しく伝わらないことがあるからだ。重要な会議や大きな宿題が出された議事録は私自らが目を通しサインした。議事録はその会議で生まれた叡智の結果。次回の会議では、まず前回会議の議事録のおさらいから始めた。
最後に、もう一度A3一枚のメリットを整理する。
・案件テーマに関して、限られた紙面の中に極限まで絞り込み磨きあげた言葉、数字によって、起承転結で簡潔にまとめられている。従って、数十秒で読め仕事のスピードアップにつながる。
・一人の人間が与えられた時間内で、体を使って説明できる情報量には限界がある。聴く側にも限界があり、A3一枚がちょうどよい分量。
・二つに折ればA4にファイリング可能。
主査に関する10か条
第一条 主査は、常に広い知識、見識を学べ。
時には、専門外の知識、見識がきわめて有効なことがある。
専門といっても要するに井戸の中の蛙に過ぎない。
専門外の専門があると、別の見方で問題を見直すことができる。
第二条 主査は、自分自身の方策を持つべし。
白紙で方策なしで「頑張ってくれ、宜しく頼む」では、人はついてこない。
しかし、始めから出しすぎて相手に考える余地と楽しみを与えず、固い形で「俺の言う通りにやれ」でもいけない。
少しずつ暗示を与えて、いつの間にか皆がなびいている形がよい。
第三条 主査は、大きく、かつ良い調査の網を張れ。
特に初期Surveyの段階でいかなる網を張るか。
その方向と規模が将来の運命を決することがある。
第四条 主査は、良い結果を得るためには全知全能を傾注せよ。
5000時間級のビッグ・プロジェクトにいかにして自分の総合能力を集中し、配分するか。
真剣さが体ににじみ出るようになると人はおのずからついてくる。
体を張れ。始めから逃げ場を探してはならぬ。
第五条 主査は、物事を繰り返すことを面倒がってはならぬ。
自分がやっていること、考えていることが果たしてよいかどうかを毎日反省せよ。
上司に向かって自分の主張を何回も繰り返せ。
協力者に自分の意図を周知徹底させるためには少なくとも5回は同じことを繰り返すつもりでいよ。
第六条 主査は、自分に対して自信(信念)を持つべし。
ふらついてはならぬ。
少なくとも顔色、態度に出してはならぬ。
困った時には必ず妙案が出てくるものである(頑固ではいけないが)。
第七条 主査は、物事の責任を他人のせいにしてはならぬ。
体制を変えてまでも、良い結果を得る責任がある。
ただし、他部署に対しては命令権はない。
あるのは説得力だけである。
しかし、もしそれが真実ならば、無限の威力を持っていることを知れ。
他人のせいにして、言い訳を言ってはならない。
第八条 主査と主査付き(補佐役)は、同一人格であらねばならぬ。
主査は単なる管理者ではない。
Engineeringに上下があってはならない。
本質的なことで権限委譲してはならぬ。
仕事に障壁をつくってはならぬ。
主査は主査付きを「仕事のやり方」について、叱ってもよいが「仕事の結果」について、叱ってはならない。
叱りたい時は自分を叱れ。
第九条 主査は、要領よく立ち回ってはならぬ。
〝顔〟を使ったり、〝裏口〟でこそこそやったり〝職制〟によって強引に問題解決を図ったりすることは永続きしない。
後でぼろが出る。
第一〇条 主査に応募な特性
1 智識(点在している)、技術力(それを組み立て進展させる力)、経験(上限、下限の経験により適正なレベルを設定する能力)
2 洞察力、判断力(可能性の)、決断力
3 度量、Scaleが大きいこと―経験と実績(良否共に)と自信より生まれる。
4 感情的でないこと、冷静であること―時には自分を殺して我慢しなければならない(怒ったら負け)。
5 活力、ねばり(Tough Energy)
6 集中力(Power)
7 統率力(Team内)―相手を自分の方向になびかせること。
8 表現力、説得力―特に、部外者・上司に対して。口ではない、人格。
9 柔軟性(Optionを持つ)―ギリギリの時にはメンツにこだわらずに転身が必要な時がある。そのTimingが問題。
10 無欲という欲―人のやったことを自分に。偉くなろうでなくて、よい仕事をしよう。要するに総合能力が必要。
面白かったポイント
製品の経営者の視点が学べる本。
トヨタは基本を愚直にやりつづけるので圧倒的な強さがあると思う。
目先のテクニックを追いかけるのではなく、基本を定期的に振り返り、基本を忠実に継続することが大事だと改めて認識。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆