ネットワーク・エフェクト

ビジネス

『ネットワーク・エフェクト』アンドリュー・チェン

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内容

ネットワーク効果

「ネットワーク効果」の絡み合う3つの効果を解説する。

 

ひとつは「ユーザー獲得効果」。

新規顧客の獲得を促進することだ。

つまりバイラル成長のことである。

ネットワークが広がるほど、口コミと紹介によるバイラル成長よって、低コストで効率よくユーザーを獲得できるようになる。

ドロップボックス、メッセージアプリ、SNSなどはユーザーが自然と友人や同僚を招待したくなる性質がある。

 

2つ目は「エンゲージメント効果」。

ユーザーが増えるほど製品から離れづらくなり、利用頻度が増すことだ。

ネットワークが広がると、ユーザー間の交流が促進される。

これはAT&Tのテオドール・ベールが定義した古典的なネットワーク効果の意味に最も近い。

 

そして3つ目が「経済効果」だ。

ネットワークが広がると、収益を得やすくなり、コンバージョン率も高まる。

コンバージョン率及び単価の上昇という形で製品を収益化しやすくなる。

 

それぞれの効果に何が影響しているのかを理解できると、その高め方もわかる。

「ユーザー獲得効果」は、バイラル成長やネットワークに知り合いを招待したくなるような素晴らしい体験を提供すると加速する。

たとえばペイパルのユーザー紹介制度やリンクトインの知り合いレコメンド機能などだ。

 

「エンゲージメント効果」はネットワークの拡大と共に高まる。

さらに効果を上げるには、ユーザーの「エンゲージメントの度合い」を高めるのがよい。

具体策としては、ボーナスの提供、マーケティング、ユーザーとのコミュニケーションの改善、新しい使い方の紹介などだ。

ウーバーの場合、空港への送迎以外に外食時の移動や毎日の通勤といった使い方を提示した。

 

そしてビジネスモデルに直接影響するのが「経済効果」だ。

これはネットワークの拡大と共に高まり、収益化につながるコンバージョン率やユーザーあたりの収益が上がりやすくなる。

たとえばスラックでは、ある会社の社員が使えば使うほど、その会社が有料顧客になる可能性が高まる。

アバターのカスタマイズ用の衣装や武器を提供している「フォートナイト」のようなゲームでは、一緒にプレイする友人が多いユーザーほど課金する傾向にある。

 

これら3つの効果がすべて合わさると、ユーザー数十億人の獲得に向けて勢いがつく。

 

ネットワーク製品

シンプルな使い勝手は競争優位になると、言うのは簡単だ。

顧客はどんどん追加機能を求めるし、競合他社はより多くの機能を用意している。

それでもネットワーク製品で重要なのは「ひとつのことを完璧にできる」ことなのである。

 

ネットワーク製品が提供する体験は、他のソフトウェアとは根本から違う。

従来の製品で重要なのは使い勝手だが、ネットワーク製品で重要なのはユーザー同士の交流がもたらす体験にある。

また、従来製品は便利な機能を追加して利用法を増やすことで成長するのに対し、ネットワーク製品はネットワーク効果によるユーザー獲得で成長する。

 

ネットワーク製品には成長の鈍化に対抗できるネットワーク効果がある。

マーケティング施策の効果の減退は避けられないが、新規登録の工程の最適化や招待する友人のレコメンド機能の実装などを通じ、バイラル成長を増幅させられるのだ。

ユーザーの「過密化」によってコンテンツの発見が困難になった場合もアルゴリズムによるレコメンド機能やフィードの実装といった手段で対抗できる。

またユーザーが多いほど、ネットワーク効果を強化できるのも利点だ。

これにより、従来のマーケティング施策の効果が弱まっても、高い成長率を維持できる。

 

細かな最適化によって高いリテンションを実現した製品でこそ、こうしたバイラル成長を生む施策の効果が発揮されやすいのだ。

バイラル成長の測定と最適化は数学の問題のように感じるかもしれない。

だが、実際はどちらかというとコピーライティング、ユーザー心理学、プロダクトデザインの問題である。

 

ツールとネットワークをあわせ持つプロダクトの分類

■コンテンツ作成ツール+シェア機能(インスタグラム、ユーチューブ、グーグルスイート、リンクトイン)

■コンテンツ管理ツール+コラボレーション機能(ピンタレスト、アサナ、ドロップボックス)

■コンテンツ履歴管理ツール+最新情報の共有(オープンテーブル、ギットハブ)

■コンテンツ検索ツール+コンテンツ作成に参加(ジロー、グラスドア、イェルプ)

 

マジックモーメント

ネットワークが充実し、ユーザーが使い、人々がうまくつながっていると、製品の魅力がユーザーに伝わる。

これが「マジックモーメント」、つまりユーザーに価値をしっかり提供できている状態だ。

そのサービスは仕事やエンターテインメント、マッチング、ゲームを介してユーザーをつなげられている。

 

ネットワークが機能していない状態を「ゼロ体験」と呼んでいた。

たとえば、乗客がクルマを呼ぼうとウーバーアプリを開いて住所を入力したのに、その地域にクルマが1台もいないという最悪の体験だ。

 

新しいネットワークにゼロ体験が多いのは必然である。

この破壊的な力に対処しない限り、ネットワークはいつまでも拡大できないのだ。

ウーバーでは未達成の依頼というゼロ体験を数値化していた。

都市や地域ごとにどれくらいの頻度で起きているかを把握するためだ。

新製品の運営チームは、地域別や商品カテゴリー別など適切な区分でゼロ体験を見つけて数値化し、ダッシュボードに組み込もう。

消費者の何割がゼロ体験をしているのか把握することが目標だ。

この割合が高いとアンチネットワーク効果が発生し、ネットワーク拡大への突破口を開くのは困難である。

 

ネットワーク製品を適切に立ち上げれば、ユーザーはアプリを開くたびに素晴らしい体験を得る。

ゼロ体験は最小限になり、ほとんどがマジックモーメントになる。

機能とネットワークの両方が動作している状態だ。

どちらか一方が欠けても成立しない。

 

戦略

転換点を超えるためによく使われる戦略を紹介しよう。

ひとつはサービスを「招待制」にして、バイラル成長を促進し、ネットワークの拡大を目指すことだ。

招待制はFOMO(取り残される恐怖)を利用していると言われるが、そこが重要なのではない。

最初に選んだユーザーを軸に、コピー&ペーストするようにユーザーを増やせることが重要なのである。

 

もうひとつは「ツールで誘って、ネットワークで引き留める」戦略である。

たとえば、ドロップボックスの初期ユーザーはファイルのバックアップや、仕事場と自宅のパソコン間でファイルを同期させるために利用していた。

これがツールの部分である。

その後、同僚とフォルダを共有するという、より便利でサービスから離れづらくなる利用法が生まれる。

これがネットワークの部分だ。

 

「成長を金で買う」方法だ。

マーケットプレイスのようなユーザー間の取引が発生するネットワーク製品で需要を高めたり、利用を促進したりするキャンペーンを実施するような方法である。

クリエイターの投稿に報酬を支払ったり、ライドシェアのドライバーの報酬を増やしたりすることもこれに該当する。

 

ネットワークのハードサイドのユーザーが少ないなら「フリントストーン戦略(人力・自動化戦略)」が有効だ。

運営チーム自ら仕事を引き受け、穴を埋める方法である。

初期のレディットがよい例だ。

レディットは自動化ツールやコミュニティ機能を追加して自律的にサービス規模が拡大するまで、自分たちでリンクやコンテンツを投稿していた。

 

「フリントストーン戦略」の名前はこのクルマに由来する。

足りない機能を人力で補うという意味だ。

 

フリントストーン戦略にはグラデーションがある。

■完全人力──人が手作業ですべてをこなす

■人と機械のハイブリッド──ソフトウェアが大部分をこなすが、人も関わる

■全自動──アルゴリズムがすべてをこなす

 

法人獲得

法人向け企業の立ち上げ期の顧客獲得の方法は3つしかない。

個人の人脈、顧客への営業、メディア掲載である。

選択肢はわかりやすいが、限られている。

 

ほぼすべてのサービスはまずは個人の人脈を駆使し、それから潜在顧客を探している。

問題は2つのうちどちらの手段を選ぶかではなく、次の手を打つ必要が出てくるまでに人脈だけでどこまで行けるかだ。

法人向けサービスを立ち上げるなら人脈の広さは大きな強みである。

人脈は顧客候補を紹介できる投資家から出資を受けたり、Yコンビネーターのようなインキュベーションプログラムに参加したりすることで広げられる。

メディア掲載で事業をうまく立ち上げられたケースは多くない。

 

Yコンビネーターでは「スケールしないことをやれ」とよく言っている。

創業者が事業の立ち上げ時によくやるスケールしない施策は、ユーザーを一人ひとり探し回ることだ。

これはどのスタートアップもやらなければならない。

ユーザーが来るのを待っていてはダメだ。

自ら外に出て、ユーザーを獲得してくる必要がある。

 

創業者が自分でユーザーを探すのをためらう理由は2つある。

ひとつは、恥ずかしい、面倒くさいといった気持ちの問題。

外に出かけて知らない人たちと話し、おそらくそのほとんどから拒絶されるよりも、家でコードを書いていたいと思っている。

しかし、スタートアップが成功するには、少なくとも創業者のひとり(大抵はCEO)が営業とマーケティングに多くの時間をかけなければならないのだ。

 

法人向けサービスでは、コンサルティングから始めることもグレアムは推奨している。

つまり、初期の顧客をコンサル先のクライアントのように扱うということだ。

そしてクライアントが必要とする機能にその都度対応し、実際のサービスに落とし込む機能を決める。

こうすることでプロダクトマーケットフィットを達成するチャンスを高められる。

 

とはいえ、この手法には限界がある。

何千もの顧客企業をコンサルする方法では、利益率の高い急成長スタートアップはつくれない。

とはいえ、消費者向けサービスであれ、法人向けサービスであれ、がむしゃらに手を動かす方法は有効だ。

加えて、オペレーションの拡大と営業主導のアプローチを学ぶことは転換点を超える助けになる。

 

ドロップボックスの成功で重要だったのは、2012年前後のこの中間の部分なのである。

創業からIPOまでの10年間で、ドロップボックは最も価値あるユーザー属性とそうしたユーザーのいるネットワークを特定し、彼らの需要を満たす機能を追加することで営業先を開拓していったのだ。

こうした施策の積み重ねが、ネットワーク効果を脱出速度まで加速させ、IPOを成功へと導いたのである。

 

初期の法人向けスタートアップは他のスタートアップや小さな企業を顧客にすることである程度成長する。

これはスラックやズーム、ドロップボックスなどの成長を促進した「ボトムアップ」型の流通モデルだ。

問題は、小さな企業は価格に敏感だったり、資金が少なかったり、ビジネスモデルが変わりやすかったりすることで(場合によってはすべての理由から)、離脱する可能性が高い点だ。

一方、大企業に導入してもらうのは難しいが、多くの社員が使うほど収益を伸ばしやすくなる。

したがって、法人向けサービスを展開するスタートアップはボトムアップ型の収益モデルを構築しつつ、法人営業の専門部署を設置するというのがよくあるパターンである。

 

成長と収益の方程式

アクティブユーザー数の増減=新規ユーザー数+再帰ユーザー数-離脱ユーザー数

月別のアクティブユーザー数の推移は、期間ごとのアクティブユーザー数とその増減から導き出せる。

今月のアクティブユーザー数=先月のアクティブユーザー数+アクティブユーザー数の増減

 

天井

天井の存在は急成長している大規模な製品をつくれている証拠だ。

しかし、難しいのはこの問題に正しい答えがないことである。

スパムや市場の飽和など、ここで挙げる問題への特効薬はなく、世界最大級のネットワーク製品はいずれもこうした問題の解消に継続的に取り組んでいる。

 

製品に次の成長の波を引き寄せられるのは、新製品の開発とイノベーションしかない。

だからスタートアップはやがて複数の製品を展開するようになる。

どの企業もどこまで成長しても「天井」問題への対応が終わることはないのである。

 

米国事業の成長がホッケースティック曲線から直線に近づく頃、イーベイは海外事業と決済事業を積み増した。

全体で見ると事業の成長はホッケーティック曲線のように見えるが、実際は直線的な成長を遂げるいくつかの事業の組み合わせなのだ。

 

ネットワークの飽和とは、ネットワークの密度が高くなるにつれて、最初ほど新たなつながりによる価値の増加が見込めなくなることである。

100人目のつながりは、最初の数人とのつながりより価値が低いということだ。

たとえば、イーベイで「ビンテージロレックスデイトナ」を検索したとしよう。

表示される出品数が0件から数件に増えると、サービスの体験とコンバージョン率は劇的に上がる。

検索結果が数十件になるまではどんどんよくなるだろう。

しかし、1000件、5000件もある必要はない。

買い手がすべてを確認することはないだろう。

 

ネットワークの成長とともにユーザー体験は徐々に劣化する。

一方、運営はネットワークの成長を促進する施策を続け、成長の鈍化に対抗しようとしている。

つまり、ネットワーク効果対アンチネットワーク効果の駆け引きが起きているのだ。

そしてアンチネットワーク効果がチームの努力を打ち消すほど強くなると、製品は天井に突き当たるのである。

 

失敗の理由はさまざまだが、迎える結末はどこも同じである。

成長が止まって衰退し、消えていく。

 

隣接ユーザー

隣接ユーザーとは、製品は知っている、あるいは試したことがあるけれど、使い続けなかった人たちのことだ。

使い続けないのは製品のポジショニングや続けるまでの体験に何か問題があるからだ。

インスタグラムは4億人以上のユーザーにプロダクトマーケットフィットしていたものの、インスタグラムはどんな製品で、それが自分の生活にどう役立つか理解していないユーザーが何十億人といたのである。

 

隣接ユーザーの考え方は、売り手やクリエイターといったユーザー層をどんどん惹きつけるためにサービスを常に進化させる必要性を示している。

たとえば、ウーバーがフルタイムで働けるリムジンのドライバーを獲得し尽くしたときに次に狙ったのは、普段自家用車を運転しているが運転を仕事にしたことがない人たちだった。

やがてそうした人たちを獲得し尽くすと、今度は自動車を保有していないユーザーにクルマを貸してドライバーになってもらおうとした。

このように隣接ユーザーを獲得し続ける必要がある。

 

コンテキスト

コンテキストの崩壊が起きづらい製品には、ネットワークを分ける機能があるということである。

フェイスブックはメインのニュースフィードとは別にグループをつくれる機能を提供している。

スナップチャットのストーリーも、アプリの1対1のメッセージ機能を補完する別機能である。

どちらも独自のコンテキストを持つ、ネットワーク内ネットワークをつくるものだ。

インスタグラムには、「フィンスタ(裏アカ)」(2次、3次アカウント)をつくる機能がある。

それぞれのアカウントで別のフォロワーを集められるので、親や上司などに見られる心配なくコンテンツを共有できる。

 

私たちは長期を見据えてエアビーを発展させる戦略を取った。

最終的に私たちが勝てたのはよりよいコミュニティをつくれたからだ。

彼はコミュニティをわかっていなかった。

製品自体も私たちの方がよかったと思う。

 

優位性の強さ

投資の鍵は、その産業が社会に与える影響の大きさや今後どれほど成長するかではなく、その企業の競争上の優位性、とりわけ優位性の強さを見極めることだ。

広大で今後も続く参入障壁を備えた製品やサービスが投資家に利益をもたらすのである。

 

トップ企業にとっては、低価格で参入する競合はさほど脅威にはならない。

たとえば、ドロップボックスのような製品が社内で広く使われていれば、たとえ機能が似ていても、社員全員を別製品に移行させるのは難しい。

ネットワーク製品が独占的に普及すると、競合製品は簡単に取って代われないのだ。

機能をコピーすることは簡単でもネットワークをコピーすることはほぼ不可能なのである。

だから市場の勝者が価格決定力を持ち、莫大な経済的利益を得ることになるのだ。

 

面白かったポイント

めちゃくちゃ面白かった。

ネットワーク製品の凄さは指数関数的に伸びることであり、怖さは指数関数的に衰退することだ。

ユーザー体験を数値化してチューニングし続けないと、新しいネットワークに食われてしまうという弱肉強食の世界。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

第1章 ネットワーク効果
01 ネットワーク効果とは
02 歴史を振り返る
03 コールドスタート理論

第2章 コールドスタート問題
04 タイニースペックの事例
05 アンチネットワーク効果――破滅に向かわせるマイナスの力
06 アトミックネットワーク――クレジットカードで起きたこと
07 ハードサイド――ウィキペディアの事例
08 ハードな問題を解決する――ティンダーの事例
09 キラープロダクト――ズームの事例
10 マジックモーメント――クラブハウスの事例

第3章 転換点
11 ティンダーの事例
12 招待制――リンクトインの事例
13 ツールで誘って、ネットワークで引き留める――インスタグラムの事例
14 成長を金で買う――クーポンを使う
15 フリントストーン戦略――人力で始めたレディットの事例
16 がむしゃらに突き進む――ウーバーの事例

第4章 脱出速度
17 ドロップボックスの事例
18 3種の効果
19 エンゲージメント効果――壊血病の事例
20 ユーザー獲得効果――ペイパルの事例
21 経済効果――信用調査機関の事例

第5章 天井
22 ツイッチの事例
23 ロケット成長――T2D3(3倍、3倍、2倍、2倍、2倍)
24 市場の飽和――イーベイの事例
25 クリック率低下の法則――バナー広告で起きたこと
26 ネットワークが反乱を起こすとき――ウーバーの事例
27 永遠の9月――ユーズネットの事例
28 過密化――ユーチューブの事例

第6章 参入障壁
29 ウィムドゥ対エアビーアンドビー
30 好循環と悪循環
31 チェリーピッキング――クレイグスリストの事例v 32 ビッグバン型の立ち上げは失敗しやすい――グーグルプラスの事例
33 ハードサイドのユーザー獲得競争――ウーバーの事例
34 バンドル戦略――マイクロソフトの事例

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