成長に投資して資本を築く(人的資本、社会資本、金融資本)

まさたい

両利きの経営

ビジネス

『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー

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内容

マネジメント

マネジャーの仕事とは何か。

そう尋ねて返ってくるのはたいてい、目標を明確に設定する、管理システムを設計する、業務を遂行するための組織構造とプロセスを確立する、資源を配分する、法令が遵守されるよう監視する、問題を解決するといった答えだ。

リーダーシップでは、魅力的なビジョンを提供し伝達する、人々を刺激してやる気を引き出す、必要に応じて資源の再配分する、システムや構造の改変により組織変革を支援することが中心となる。

 

マネジメントは列車を確実に定時運行させることだとすれば、リーダーシップは適切な目的地に列車を確実に向かわせることだ。

マネジメントは実践を、リーダーシップは戦略と変革を扱う。

長い時間をかけて組織を成功へ導くためには、その両方が必要なことをほとんどの学者や実務家はすでに認識している。

 

顧客中心

アマゾンの戦略を説明する際にベゾスが指摘するのは、顧客志向を打ち出す企業は多いが、そのほとんどがそうなっていないことだ。

その理由として、

「企業はスキルを重視する。

新しい分野に事業を広げようと考える際に、最初に考えるのは『なぜこれをやるべきなのか。自分たちにはその分野のスキルがない』ということだ。

すると、企業の寿命は有限になってしまう。

というのは、世の中は変わっていくため、かつては最先端スキルだったとしても、すぐに顧客には不要なものとなるからだ。

それよりも『自社の顧客には何が必要か』から始まる戦略のほうがはるかに安定している。

この問いを考えてから、自社のスキルとのギャップを調べていくのだ」

 

文化をマネジメント

GEの元CEOであるジャック・ウェルチは、リーダーが文化をうまくマネジメントするために二つのことが必要だと述べている。

一つは、同じメッセージを送り続けること。

そして二つ目に、「聞き飽きたと思わせる」こと、つまり、何度も繰り返すことだ。

 

事業開発プロセス(AGC)

三つの新しい戦略的新規事業を独立部門として立ち上げ、年間約五〇〇〇万ドルを新たな成長に向けた活動に割り当てた。

その根底には、次に示す三段階の厳格な事業開発プロセスがあった。

①アイディエーション……マクロ動向や顧客との緊密な関係を活用して将来の技術や事業の可能性を明らかにしたうえで、本社の事業開発部内の少人数チームでそれぞれについて探索する。

②インキュベーション……チームに専門家を加えて増強し、新しいアイディアの実行可能性を見極める。

③スケーリング……資源の追加投入または買収を通じて、戦略的新規事業部門が自分で機能できる規模に達するまで、役員クラスの直轄組織とする。

 

両利きならではの強み

これらの事例の中で目を引く最も重要な共通点は、探索ユニットが大組織の資産を活用でき、それが競争優位性につながった、ということだ。

その資産とは、技術的資産(AGC、サイプレス、チバビジョン、HP)や、ブランドや顧客へのアクセス(USAトゥデイ、フレックス、ダヴィータ、サイプレス)である。

両利きの経営の真の優位性は、新参者の競合他社が持っていない、あるいは、新たに開発しないといけない資産や組織能力を使って、新規事業が有利なスタートを切れるところにある。

こうした優位性は単に資金力からもたらされるものではない。

新規事業に必要な資金なら、ベンチャーキャピタリストでも供給できる。

 

ここで紹介した事例を特徴づける第二の重要な共通点は、それぞれ上層部が支援していたことだ。

ここまでの事例でもわかるように、新規事業が既存事業にとって邪魔な存在や脅威と見なされることには相応の理由がある場合が多い。

探索事業に資本を割り振れば、必然的に既存事業に再投資して得られるリターンよりも不確実性は増す。

経営陣の継続的な支援がなければ、探索ユニットは資源(人材、技術、資本)不足に陥りやすくなるのだ。

 

経営陣が果たすもう一つの重要な役割は、新規事業と成熟事業との接点を管理して、避けられない対立を解決することだ。

両利きの経営の付加価値は、成熟事業の貴重な資源を新規事業に適用できるところにある。

リーダーシップが介入しないと、こうした事業は孤立したユニットとなり、ある事業から別の事業へとスキルや学習を有効活用する機会が持てなくなる。

 

事例全体に見られる第三の重要な共通点は、探索ユニットを大組織から分離させることの重要性だ。

既存の施設を使うことの効率性については議論が分かれるところだが、前述の事例はいずれも、探索ユニットを本社組織から物理的に切り離していた。

古い構造やプロセスから解放され、新しいスタートを切るうえで、こうした分離はきわめて重要だったと新規事業のリーダーたちは強調している。

このように距離を置かないと、古いマインドセットから生じる慣性によって、新規事業の成長に必要な焦点がぼやけ、熱量の低下を招きかねないのだ。

 

リーダーの課題

リーダーの課題は、全く異なる三つのプロセスを設計することだ。

それは、新しいアイディアを繰り返し生み出すこと。

そのアイディアを選別し、顧客にとって価値のある形で企業資産や組織能力を活用する対象を見極めること。

新たに立ち上げた事業を大きくして収益性の高いビジネスにすることだ。

 

そのためには、三つのイノベーションの規律(ディシプリン)に熟達しなくてはならない。

①可能性を秘めた新規事業を見つけて発展させる「アイディエーション」、

②そのアイディアを市場で検証する「インキュベーション」、

③既存の資産や組織能力を再配分して新規事業の成長を支援する「スケーリング」(規模拡大)である。

 

両利きの経営を成功させるためには三つとも必要で、一つか二つが得意なだけでは不十分だ。

後述するように、アイディエーションやインキュベーションに特化した企業は、新しいアイディアを生み出して検証することはできても、事業を大きくしきれずに終わってしまう。

 

デザイン思考

このプロセスは次のような原則(実践)に基づいている。

①共感……顧客の問題を深く理解することから始める。顧客の置かれている環境を理解し、共感することが求められる。

②課題設定……顧客が抱えている真の問題を明らかにする前に、解決策に飛びついてはいけない。つまり、根本原因に関する洞察を踏まえて、最初の課題定義を変更することを受け入れなくてはならない。

③アイディア発想……ブレインストーミング(突飛なアイディア、批判や評価をしない、他の人のアイディアに肉付けする、「イエス・アンド」法)を用いて顧客の悩みの種を解決する代替手法を生み出す。

④プロトタイピング……解決策の大まかなプロトタイプを開発する。顧客に関する重要な洞察を検証するプロトタイプに集中する。完璧さを求めすぎれば、良いレベルにすらならない。

⑤検証……プロトタイプをユーザーと共有し、その声に注意深く耳を傾ける。

 

アイディエーション

アイディエーションにおいて、検証やスケーリングに適したアイディアにつながる実践法が二つある。

 

スケールの大きい野心的な目標……

破壊的変化の機会や脅威に見合った大きさの野心的な目標を設定すれば、漸進的・戦術的なアイディエーションから抜け出せる。

これは、新しい製品やサービスだけではなく、新規事業やビジネスモデルへの抱負を定義するということだ。

技術系企業であれば、既存の部品を売るだけでなく、サービスを新たな収益源にしたいと宣言するような場合がそうだ。

 

探求ゾーン……

野心的な目標を設定するだけでなく、市場、ビジネスモデル、注力すべき問題や顧客の種類を定義することで、アイディアに境界線を設けることも重要だ。

これにより、野心的な目標を実現できそうな分野に集中して取り組めるようになる。

それをしないで、ハッカソンのような民主的なアイディエーションの手法を用いるだけでは、既存事業に役立つアイディアは量産されても、破壊的な脅威に対応できない場合がある。

 

インキュベーション

仮説検証……

インキュベーションで中心となっている考え方は、市場機会に関する仮説を立案し、実際の顧客体験を通じてその仮説を検証または棄却し、学習に基づくモデルの適応化を何度もぐるぐる回すというものだ。

このアプローチでは、ほとんどの企業経営者にとっての成功への道筋ではなく、小さな失敗を重ねながら学習することが非常に重視される。

そのためには、解決策をすべて構築してから検証するのではなく、限られた仮説に対して一連の小さなテストを設計し、素早く検証することが重要になる。

 

フィードフォワードの評価……

中核事業で一般的に実践されていることに対してインキュベーションが挑戦することになるもう一つの重要な分野が、評価制度だ。

ほとんどの組織では、過去の業績データを確認し、期待値と比較し、誤差を正すために行動する。

これは「目標は何か」「実行してどうだったか」「差が生じた原因は何か」「どうすればその差を埋められるのか」というフィードバック・ループだ。

インキュベーションには、戦略目標に向けたパフォーマンスを追跡する「フィードフォワード・システム」が求められる。

 

投資家のガバナンス……

インキュベーション・プロセスにおける実験の意思決定には、上級マネジャーが正式に関与する必要がある。

インキュベーションから新規事業のスケーリングに移行する際の最大の脅威は、収益性の高い事業部門であり、短期的に一定の見返りが得られる現在の投資を、破壊的な新規事業の創出という予測困難な機会に振り向けることに反対する。

こうした部門のマネジャーは、悪意を持って行動しているわけではない。

将来の可能性よりも確実な利益を主張するのは、合理的な選択であることが多い。

 

スケーリング

スケーリングを成功させるためには、四つの要素が重要となる。

①両利きになる取組みを正当化する明確な戦略的意図、

②経営陣の積極的な関与と支援、

③探索部門と深化部門を分けた両利きの組織構造、

④探索と深化の間で相反する要求に対してバランスをとるためのビジョン、価値観、文化という共通アイデンティティである。

 

①戦略的意図……探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的意図には、探索ユニットが競争優位性を築くために利用可能な、組織能力や資産を明確にすることも含まれる。

②経営陣の関与と支援……新規事業の育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護する。

③両利きのアーキテクチャー……新規事業が独自に組織構造面で調整を図れるように、探索ユニットは深化型事業から十分な距離を置き、企業内の成熟部門が持つ重要な資産や組織能力を活用するのに必要な組織的インターフェースを、注意深く設計できるようにする。これには、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、組織に再び統合するか、もしくはスピンアウトするかという明確な判断基準も含まれる。

④共通のアイデンティティ……探索ユニットや深化ユニットにまたがって共通のアイデンティティをもたらす、ビジョン、価値観、組織文化。こうしたものがあると、全員を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持つのに役立つ。

 

リーダーシップの原則

両利きの経営の成功と失敗にかかわるリーダーシップの原則は次のとおりだ。

①心に訴えかける戦略的抱負(ありたい姿)を示して、幹部チームを巻き込む。

②どこに探索と深化との緊張関係を持たせるか、明確に選定する。

③幹部チーム間の対立を避けて通るのではなく、向き合う。

④意図的にユニットごとに異なる基準を課して「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。

⑤探索事業と深化事業に関する議論や意思決定の実践に時間を割く。

 

最も成功している企業がイノベーションストリームを構築し、両利きの行動をとっていることはもう明らかなはずだ。

深化ユニットで重視されるのは漸進型イノベーションと絶え間ない改善だが、探索ユニットでは実験と行動を通じた学習である。

探索ユニットはスピンアウトせずに、深化ユニットの中核となる資産と組織能力を探索ユニット内で活用する。

内部的に矛盾をはらんだ探索ユニットと深化ユニットを共存させるには、包括的で心に訴えかける抱負、基本的価値観、幹部チームの強い結束力が必要になる。

こうした要素がすべて合わさると、探索ユニットは未来を見出す権限を与えられ、幹部チームは一定の尺度で有望な実験を行う選択肢(明日の主流事業への道を開くか、別の事業をさらに追加するか)が持てるようになるのだ。

 

面白かったポイント

面白い。

企業が市場の変化に対応して、生き残る、持続的に成長するためのエッセンスが詰まっている。

これは大企業、ベンチャーに限らず実行するのが難しい課題。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

第1部 基礎編:ディスラプションに向き合うリーダーシップ
第1章 イノベーションという難題
第2章 探索と深化
第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる
第4章 競争優位/競争劣位としての組織文化

第2部 実践編:イノベーションのジレンマを解決する
第5章 7つのイノベーションストーリー
第6章 実行面で成否を分ける紙一重の差
第7章 イノベーションの3つの規律三領域

第3部 飛躍する:両利きの経営を徹底させる
第8章 両利きになるための4つの要件
第9章 両利きをドライブさせるリーダーシップと幹部チーム
第10章 変革し続けるために

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