内容
オブジェクト指向
ソフトウェアの開発方法論でいうオブジェクト指向にも用いられています。
オブジェクト指向でいう「インスタンスとクラス」という関係がまさに本書でいう「具体と抽象」の関係に当たり、また「上位の抽象レベルであるクラスの属性を、抽象レベルが下位のサブクラスも受け継ぐ」という関係を「インヘリタンス(継承)」という言葉で表現し、ソフトウェアの対象物(オブジェクト)を記述するのにこのような具体と抽象の関係をフルに活用しています。
具体と抽象
具体的にすればするほど理解できる人の数は増えていきます。
したがって、多数派の人を相手にして「数を稼ぐ」必要がある政治や「マス」メディア(少数のニッチではなく多数派の大衆を相手にするもの)や、ページビューを稼ぐ必要のあるネット広告や記事などは、とにかく「具体的でわかりやすく」することが求められます。
実際には、世の中の仕組みを作ったり、多くの人が参加する仕組みの基本構想を作ったり、建築物のコンセプトを作ったりと、本書でいう「系」をスタートさせる人には抽象概念を操る力が必須になるのですが、このような人たちは社会の(特に抽象度が上がるほど「超」がつく)少数派になるために、こうした価値観が理解されにくいのです。
メタ
抽象化するとは事象の関係性を見ることであり、そのためには事象そのものから離れてそれらを客観視する必要があります。
これがいわゆる「メタの視点」であり、幽体離脱して上から俯瞰するといったイメージになります。
戦略的思考
優先順位や重要性というのは、複数の事象を同時に見て関係性を見るからつけられるものだからです。
したがって、物事の優先順位を常に意識している人は、抽象度の高い視点で物事を見ている可能性が高く、逆に「全て大事」となかなか優先順位がつけられず、「何も捨てられない」と考える人は具体的な世界にどっぷりと浸っている可能性があります。
このことは、戦略的な思考に抽象化の視点が不可欠であることを示しています。
戦略的に考えるための重要な視点が「優先順位をつけること」であり、それを基にして「捨てること」だからです。
抽象化
まず抽象化の最も基本的な定義は、同じ属性を持ったもの同士をまとめて一つに扱うという「分類」の機能です。
抽象化とは異なるものをひとまとまりにすることであるとお話ししましたが、別の見方をすると、あるグループと別のグループの間に「線を引く」ということです。
抽象化とは対象物に付随する様々な特徴のうち、ある目的に合致した特徴のみを抜き出すことです。
したがって、例えば100ページの資料を「一言で説明する」といった形で、何らかの膨大な情報量を短く集約して表現することも、抽象化の一つの側面です。
ここで重要なことは、まとめるという行為は、「目的に応じて異なる」ということです。
特定の特徴だけ抜き出すことが抽象化であるとすれば、別の言い方をすれば、抽象化とは数多い情報の中から特定のものを抜き出す反面で、逆に不要なものを捨てるということです。
企業経営における計数管理を行う上で、コストセンター、プロフィットセンター、インベストメントセンターという考え方があります。
コストセンターというのは例えばスタッフ部門などが典型的ですが、そこで管理すべき指標は(これらの部門では売上という収益は発生しないので)コストの最小化という1点で、1次元の管理といえます。
これに対して、プロフィットセンター(例えば事業部)では、売上とコストの管理による利益の最大化という2次元の管理になります。
さらにこれに「投資」という時間軸が加わったものがインベストメントセンターと呼ばれる管理単位で、これは単純化すれば上記の3つの指標を管理するという点で3次元の管理になります。
ここまで述べてきた他の問題と同様に、次元が増えれば増えるほど打ち手の自由度が上がって、低次元のものに比べて多くの戦略オプションを考えることができるようになります。
具体化
抽象化のための疑問詞の代表がWhyとすれば、具体化のための疑問詞の代表はHowです。
手段(具体の代表)と目的(抽象の代表)の関係を考えればわかりやすいですが、手段から目的を考えるのがWhyで、目的から手段を考えるのがHowです。
いわばWhyとHowは逆変換の機能を持っているのです。
具体的にするというのは、簡単に表現すれば「固有名詞」と「数字」に落とし込むことです。
マネジメント
具体的な指示を期待する部下に上司が具体的な指示を出すということで、部下は上司のことを「面倒見の良い上司」と感じるはずです。
新入社員やその道に明るくない被依頼者の場合はこのように感じることが多いでしょう。
抽象的な指示を期待する部下に上司が抽象的な依頼をするというパターンで、例えば「好きなようにやっていいよ」と言われて自由にできると部下が喜ぶといったような場面です。
このような上司はいわゆる「任せるのがうまい上司」ということになります。
続いて、ギャップが生じる2パターンです。
期待が具体的なのに指示が抽象的であるとは、懇切丁寧な具体的指示を待っている部下に「適当にやっといて」とか、「好きにやっていいから」という指示がいくという状況です。
この場合、部下は「丸投げされた」という感情を抱くことになります。
期待が抽象的であるのに実際の指示が具体的であるとは、例えば、自由にやりたいと思っている部下に対して、上司がいわゆる「箸の上げ下ろしにまで口出しする」といった状況です。
この場合に部下は上司に「もっと自由にやらせてほしい」という不満を感じることになります。
このような状態は「マイクロマネジメント」とも呼ばれます。
仕事の依頼
仕事という問題解決が「依頼する→依頼される」という一連の抽象から具体への変換行為だとすると、依頼者と被依頼者の関係は、「抽象から具体への流れを走るリレーの、バトンを渡す側と渡される側」という形で表現することができます。
まずはバトンパスのポイントは、部下の成長にしたがって、自由度を上げていくほうがよいでしょう。
さらに言えば、バトンパスのポイントを部下が実際に受け取れるポイントよりも少し上流側にして、部下に「取りに来させる」。
それによって、少しでも上流側で受け取れるようにさせて、それを繰り返すことでいつの間にか受け取れるポイントを抽象度の高い上流側に変えていくのです。
アナロジー
抽象化の応用としてアナロジーが挙げられます。
アナロジーとは日本語でいう「類推」で、「類似のものから推し量る」こと、つまり似ているものから新しいアイデアを得ることです。
ここでいう類似というのが、具体的な類似点ではなく、抽象度の高い類似点であることがアナロジーの特徴です。
したがって、類似点とはいっても、見た目の類似点ではなく、抽象化された特徴のレベルの「目に見えない類似点」を探すことが、アナロジーに必要なことになります。
「共通点を探す」というのがやるべきことなので、多くの人はどちらか片方の特徴を列挙して、その共通点が他の一方にも当てはまらないかをチェックするということをやり始めるのではないかと思います(これも無意識にですが)。
それではその場合、どちらのほうから始めるのが早く解答にたどり着く可能性が高いでしょうか?
そう改めて問われてみると、何となくイメージがわかってきたのではないかと思います。
それは、「特殊性が高い」(一般性が低い)ほうに着目したほうが良いということです。
抽象化能力が高い人は、周囲からは「飽きっぽい」と見えます。
これもなぜかおわかりだと思います。
抽象化能力が高いと、他の人にとっては別のことをやっているように思えることが、全て「ドリル」のような単純作業を繰り返す行為に見えてしまうのです。
面白かったポイント
メチャクチャ面白い。
なぜ自分が抽象化、具体化を行ったり来たりするのがうまいのかというと、学生時代にオブジェクト指向を学んだからだというのは納得。
部下のマネジメントのフレームワークとして非常に有効というか、この概念の理解は必須ですね。
あと、自分の飽きっぽい理由が言語されていてスッキリしました。
満足感を五段階評価
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目次
第1章:なぜ具体と抽象が重要なのか?
第2章:具体と抽象とは何か?
第3章:抽象化とは?
第4章:具体化とは?
第5章: 「具体⇄抽象ピラミッド」で世界を眺める
第6章:言葉とアナロジーへの応用
第7章:具体と抽象の使用上の注意