内容
新製品を市場に送り出す際には、失敗は常に〝選択肢の一つ〟だからだ。
むしろ、何かしら新しいことや従来と違うことをする場合はいつでも、最もありがちな結果こそ、「失敗する」なのだ。
このことは芸術や科学の世界、人間関係を含むあらゆる場合についていえる。
新しいことのほとんどは失敗する。
失敗の原因
失敗(Failure)の原因は、市場参入(Launch)か機能(Operations)、またはコンセプト(Premise)である。
⑴市場参入(Launch)の失敗
販売やマーケティング、流通のいずれかに問題があり、対象市場に到達するために最低限必要な認知度や在庫を確保できなかったときに起きる。
⑵機能(Operations)の失敗
新製品のデザインや機能、信頼性の面で、ユーザーの最低限の期待を満たせなかったときに起きる。
⑶コンセプト(Premise)の失敗
そもそものアイデアが、人々の興味を引かないものだったときに起きる。
商業的に失敗する製品のうち、市場参入や性能面で劣っていたために失敗するものの割合はごくわずかにすぎない。
ほとんどの場合、「そもそものアイデア」が悪かったせいで失敗する。
私たちは、「そのモノ」を適切につくりはしたが、そのコンセプト自体が「ライトイット(正しくつくれば市場が欲しがるもの)」ではなかった──つまり、そもそもが需要がある製品でなかったのだ。
「ライトイット」とは、適切に実現すれば市場で成功するアイデアを指す。
曖昧な思考を検証可能な仮説に変える
あいまいな表現を避け、できるかぎり数字を使うというものだ。
「データは意見より強し」という考え方と、そのデータを表現する最良の方法としての「数字にする」という考え方はセットだった。
数字を使うことで、「あいまいな思考」は「具体的で検証可能な仮説」になる。
自分の思考からあいまいさを排除したいとき、数字ほど効果的なツールはない。
それもありがたいことに、こうした数字は、当初は概算でかまわない。
というより、そのときの状況が許す以上に細かいことにこだわるべきではない。
XYZ仮説
少なくともXパーセントのYはZする。
最初にX、Y、Zに当てはめる値は、たんなる出発点にすぎない。
XYZ仮説は、チーム内の「暗黙の了解」を浮かび上がらせるためのツールとしても役立つ。
「XYZ仮説」は、あいまいな思考を排除するための特効薬になる。
「xyz仮説」とは、あなたの「市場の反応に関する仮説(MEH)」をやや小規模でシンプルにし、いますぐ検証できるようにしたものだ。
サンプル数
妥当なサンプル数とはどれくらいか?
おそらく一〇〇人から一〇〇〇人ほどいれば、大半の統計学者からはお許しが出るはずだ。
ただし、そのサンプルは、私たちのターゲット市場(あなたの製品やサービスを実際に購入してくれそうな人々)を表す典型的なものになるように十分注意しよう。
プレトタイピング
プレトタイピングという言葉は、「先行する」と「ふりをする」という二つの重要な要素を組み合わせているのだ。
プレトタイプをつくるのはおもに、そのアイデアをそもそも手がけ、製品化すべきかどうかをすぐさま低コストで確かめるためだ。
プレトタイピングツールは、あるアイデアが「ライトイット」か「ロングイット」かを見きわめる際、「想像の世界」のどんな市場調査よりも、すばやく確実にヒントを提供してくれる。
もし実験で得たYODが自分の仮説と一致しない場合、失敗する確率が高いプロジェクトに早めに見切りをつけられる。
もし実験で得たYODが自分の仮説と一致した場合、パートナーを募集したり、資金提供者を確保したり、見込み客を説得したりする際、いっそう有利になる。
開発の世界では、動作しないプロトタイプや模型を使うことはまったく珍しくはない。
しかし、模型をまるで本物のように扱い、実際に使ってみることは(とくに、ジェフ・ホーキンスのように、ある程度の長期間そうすることは)非常にまれだ。
覚えておこう。プレトタイピングでは、「ふりをする」ことが重要な要素になる。
自分のアイデアがどれだけ多くの人に興味をもってもらえるかを調べる手段として、「玄関口(たとえば、広告やウェブサイト、パンフレット、実際の店頭など)」を設け、その製品やサービスが実在するかのようなふりをする。
さらに「玄関」をノックしてくれた人々には、なるべく気前よく振る舞いたい。
YODのお礼に何かしら価値のあるものを提供し、協力に感謝しよう──そうすれば、Win‐Win‐Win(ウィンウィンウィン)になる。
1.「ピクセル・レーサー」と「ロスト・イン・ビットランド」に興味をもった人は喜ぶ。希望のゲームを手に入れられるうえ、五ドル割引してもらえるからだ。
2.「デジ・コング」と「テープワーム」に興味をもった人は、希望のゲームは手に入らないが、得になることはある。私が別のゲームを無料進呈するからだ。私の想像だが、新発売のゲーム(二九・九五ドル相当)を無料でもらえたという驚きは、大半の人にとっては、「テープワーム」をプレイできないという失望を補って余りあるのではないかと思う。
3.私も得をする。なぜなら、それほど多くの人に興味をもってもらえないようなゲームを開発して宣伝することに時間や費用をムダづかいせずに済んだからだ。
データではなく意見に頼ったせいで、アントニアとサンディは「想像の世界」の「誤検出」に惑わされ、「新製品失敗の法則」の犠牲となった。
プレトタイプと見なされるためには、三つの重要な条件を満たす必要がある。
1.「身銭」を伴ったYODの収集につながること。
2.すばやく実践できること。
3.低コストで実践できること。
「身銭」を切ってくれないかぎり、その相手はお客(またはユーザー)候補ではない。たんなる観客だ。
アイデアのポテンシャルや成功率を見きわめるときは、客観的なデータにもとづくのが鉄則だ。
データはいつも、何らかの「身銭」を伴っていなければならない。
データに関しては、「量」よりも「質」が重要になる。
そしてデータの質の高さを示すものとして、「身銭」の多さに勝るものはない。
ローカルに検証する
つまり「グローバルに考え、ローカルに検証する」とは、あなたのアイデアを形にして全世界に広めたい、という志をもつのはいいが、そうした野心的な計画に着手する前に、もっと身近で小規模な市場をターゲットにアイデアを検証しようという考え方を指す。
・「想像の世界」に長居して、意見や他人のデータ(OPD)を検討し、事業計画を立てるのに何か月もかけたチームは失敗する傾向がある。
・最低限のプランニングと検証しかせず、大急ぎで製品を市場に送り込んだチームは失敗する傾向がある。
・大急ぎで市場テストをおこなったチームは成功する傾向がある。
要するに、「想像の世界」に長居するのは禁物だが、完成版の製品を慌てて市場に出すのも考えものだということだ。
一刻も早く製品を世に送り出したいと思うなら、まずはその意欲をプレトタイピングによる市場でのテストに役立てよう。
正反対にする
私のお気に入りのエクササイズの一つに、自分の思い込みをすべて書き出し、正反対にすることで別の可能性を発見するというものがある。
伝統的なサーカスに関して一般的に定着していると思われるイメージをリストアップしてもらう。
大テント、動物、安い切符、土産コーナーの呼び込み、複数パフォーマンスの同時進行、道化師、ポップコーン、力持ちの男、火の輪くぐりなどなど。
ひととおり出尽くしたところで、それらを正反対にしてもらう。
つまり、いま挙げた項目の逆を想像してもらうのだ。
そうすると新しいリストは、小テント、動物はなし、高い切符、呼び込みもなし、進行するパフォーマンスは一度に一つだけ、道化師もポップコーンもなし、といった感じになる。
こうした二つのリストを作成したうえで、伝統的なサーカスの要素で残したい部分と変えたい部分を選んでもらう。
その結果生まれるのは、シルク・ドゥ・ソレイユ風ともいえる、まったく新しいサーカスだ。
ご存じのようにシルク・ドゥ・ソレイユは大成功している一方、伝統的なサーカスは事実上過去のものになった。
失敗しない技術
「ライトイット」とは、適切に実現すれば市場で成功する新製品やサービスのアイデアを指す。
そしてそれが三番目の「厳然たる事実」につながっている。
それは、あなたが成功するための唯一のチャンスは、「ライトイット」の製品を手がけ、適切に実現した場合のみ、ということだ。
「それが欲しいかどうか(または買うかどうか)、人々にたずねればいい」だ。
残念ながら、そうしたアプローチは「想像の世界」で生み出されて実行されるため、手に入るのは意見だけでデータではない。
人々の意見は、いわゆる「専門家」の意見も含めて、成功を予測するための信頼できる判断材料にはならない。
あなたは、あなた自身のデータ(YOD)を収集する必要がある。
正しいYODと見なされるためには、あなたが収集する市場データは何らかの「身銭」を伴う必要がある。
自分のアイデアをプレトタイプするにつれ、そのアイデアが「ライトイット」かどうかだけでなく、自分(たち)がそのアイデアを実現する「ライトパーソン(またはチーム)」であるかどうかもわかってくるだろう。
アイデアを検討する際には、市場との相性だけでなく、自分との相性も確認しよう。
面白かったポイント
ビジネスアイデアをビジネスモデルにするためのすばらしい教科書。
プレトタイピングの手法を実践すればビジネスモデルの精度を上げ、失敗する確率を下げることができる。
データは量より質、質というのは身銭を使う顧客のデータというのは本質ですね。
ビジネスモデルのテストをする会社をすれば儲かるかもしれない。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆