内容
するべきことが明瞭でない状況では、人格が表面に現れやすい。
この先何が起きるのか明確に分からない状況に耐え、意欲を必死に保ち、周囲からの支えも受けつつ自分の思いを見つめて進むというような場面である。
こういう状況は、仕事、人間関係、健康問題など、私たちが成功を望むすべての分野で起こりうる。
エリート候補生が試練を乗り切るために必要な資質、うまくできる人などに共通に見られる資質だというのは、驚くに当たらない。
それは「心理的な不快感」に耐える能力である。
ホールネス
ホールネスを持つ人とは、約80%の時間はポジティビティを感じ、残りの20%の時間はネガティビティを有益に使える人のことだ。
最大の優位性をもたらすものは幸福感よりも、よいことも悪いことも受け止める大きな受容力、つまり「ホールネス」
不快感を避ける
快適さが簡単に手に入るにつれて、私たちは不快感を避ける傾向を強めてきた。
問題を避けるということは、問題解決の道を探る努力を避けることでもある。
ネガティブな状況を避けてばかりいたら、人としての成長と成熟が妨げられ、冒険の機会を逃し、人生の意味や目的を掴めなくなる。
「不快」というのは内的なもので、個人が感じる主観的状況であるのに対し、それを和らげる「快適さ」は外的なもので、人間を取り巻く物質的世界にあると考えられているということだ。
生活が快適になればなるほど、不都合だと思える出来事に対して、こらえ性がなくなる。
こうして生活が快適になる一方で、人々の心の健康状態が低下してきていることに、研究者たちは注目している。
特に不安心理が高まってきているようだ。
人々は今、これまでになく豊かな選択肢と自由と個の力を手に入れたため、いろいろなことが避けられるようになり、特に好ましくない感情を避けるようになった。
人々の苦悩と破壊的行動を増大させている直接の原因
- 成功して称賛を得なければ、周囲に受け入れてもらえない
- 人間は「正しいこと」をするべきで、そうでなければダメな人間だ
- 人間は安楽であるべきで、不快さや不便さはあってはならない
子どものことを気に掛ける親たちも教育関係の人たちも、ネガティブストーリーの教材や、子ども同士の人間関係の中に、「不快さを我慢する強さ」を養う機会をもっと見出してはどうだろうか。
- 心理的な不快さには利点があること
- 辛い心理状態がポジティブな結果に結びつくこと
- 難しい人間関係を耐えることによって世界が広がること
一般に考えられているほどには、人は「何かをしろ」と言われることを嫌がらない。
人が嫌がるのは、それをどうやるかをこまごま指示されることだ。
ゴミ袋を置く位置が悪いと言われたら不愉快だし、何週間もかけて書いた報告書の体裁についてあれこれ言われたくない。
ネガティブ感情
ネガティブ感情というのは、非常に強いモチベーションを生み出すことがある。
いつもポジティブなことを探して、ネガティブ感情を消したり、押し殺したり、隠したりしていては、人生という試合に勝利することは難しい。
ネガティブ感情を無理に取り除こうとすると、意に反して、幸福感、生きる意味、気概、好奇心、成熟、叡智、人間的成長なども一緒に損なわれるからだ。
ネガティブな事柄に無感覚になれば、ポジティブな事柄に対しても無感覚になる。
人はポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事により強く反応する。
何かを悪いものだと感じる能力が、生存に必須の能力であるのと同じように、ネガティブ感情もまた、生きる上で必須の感情である。
憂鬱な気分になりやすい人は、細かい点に気がつく傾向があるという。
人の表情を読み取る能力などは、特に高い。
私たちにとって一番大事なことは、他者から受け入れられることだ。
しかし他人の言動はコントロールできないので、これが難しい。
コントロールできるのは自分の思考と行動だけである。
他者をコントロールできないことからくる不安が、心理状態の中でもっとも不快なものかもしれない。
ポジティブな人はルームメイトの気分をポジティブに変えるとよく言われるが、実はネガティブな人がルームメイトに与えるネガティブな影響の方が大きい。
少々ネガティブ感情が勝っている場合、いくつかの状況においてよりよい行動が取れる。
たとえば、相手が信頼できる人間かどうかをより正しく見極められる(友人やビジネスの相手を選ぶ場合など)。
危機的状況にある時、詳細に注意を集中できる(警官の仕事など)。
相手の意見を変えようとする時、効果的な主張ができる(権威ある立場にいる人が日々必要としていること)。
「怒り」の代わりに「失望」を表わした場合は、それほど重大な問題ではないと軽くあしらわれてしまいがちだ。
感情を表した方がよい結果を生む状況では、自分がどう感じているかよりも、何を達成したいのかに注目する方がいい。
- 不正に立ち向かおうとする時、「怒り」は「幸福感」に勝る
- 忍び寄る危険を警戒する時、「不安」は「幸福感」に勝る
- 損失や個人的問題に対処するために援助を求める時、「悲しみ」は「幸福感」に勝る
怒り
怒りは人間としての当然の権利が侵害された時に生じることが多い。
怒りによって、自分や自分にとって大事な人を守り、健全な境界を維持するための行動が引き起こされるのである。
実は、あまり信じたくないことだが、偉そうにがなり立てる人の方が、望み通りの結果を手にする可能性が高いという。
時にリーダーが少々いらだちを表すことによって、部下がてきぱき働き始めるということがある。
怒りが生じるのはふつう、自分が公正に扱われなかったと感じた時、あるいは自分が何か意味のある目標を達成しようとしている時に、それが邪魔されてできないという時だ。
怒りの感情は、可能性の限界を試そうとする気持ちを生じさせる。
怒りの感情は人を創造的にすることがある。
不当な扱いを受けた時に感じた怒りを押し殺すタイプの男女は、相手の不愉快な行動に対して怒りを表わすタイプの人たちに比べ、気管支炎や心臓発作を起こす確率が高く、寿命が短い傾向があると結論づけている。
恥ずかしい
「恥ずかしい」という感情は、屈辱的な状況になる前に警告として働く。
自分が何か些細な間違いをしており、少々訂正が必要だと知らせてくれるのである。
不安
不安を感じると知覚が高まることだ。
視力が向上し、非常に遠くのものまで見える。
聴覚も研ぎ澄まされ、周囲のさまざまな音の中から、一定の方向から聞こえる音を明確に聞き分けることができる。
さらに問題解決能力も急に高まる。
どんなグループも、さまざまな性格や強みを持つ人が混在している方がうまく働くが、その中に少なくとも1人は、不安感の強い見張り番がいるのが望ましい。
問題を発見して危険を事前に取り除くという行動は目立たないが、それがもっと評価されるインセンティブ構造を作る。
ポジティブ感情
ポジティビティを頻繁に感じる人たち
・シートベルトを着用するなど、健全な行動を取る
・収入が多い
・結婚生活がうまく行っている
・仕事において、顧客や上司からより高い評価を得ている
・より寛容である
・昇進の機会に上司から指名されることが多い
あまりに強烈なポジティブ感情を経験すると、いくつかの面で問題が生じることを発見した。
まず、「対比効果」である。
強い昂揚感を経験すると、ほかのよい出来事がかすんで見えてしまう。
幸福なマインドセットに警告
- 幸福は、長期的成功の妨げになりうる
- 幸福を追求したことがかえって逆効果を生み、不幸になることがある
- ネガティブ感情を持つ方がいい場合がある
- ほかの人が幸せそうだと、自分のやっていることに身が入らない
幸せな人たちというのは、今の状態に満足しているために、身の回りにあまり注意を払わず、目の前で起きていることでもよく見えていないことが多い。
幸福な人たちは概して、親切で、感謝を忘れず、良き市民であることを大事に考えている。
しかし身の危険が迫る状況で、ネガティブなステレオタイプが触発されると、それらの美徳も消え失せてしまうようだ。
幸福な人たちは、深くしみ込んだ偏見から抜け出すことが難しい。
幸福になりたい願望がもっとも強かった人たちほど、孤独感が強く、憂鬱で、目的意識も低かった。
またポジティブ感情も少なく、プロゲステロンレベルも低く、EQも下がっていた。
愛とは、他者の視点を取り入れてものを考えることだ。
自分の幸福に価値を置きすぎることはその妨げになる。
その結果、孤独などの不幸な副産物が手元に残る。
強いポジティブ感情は非常に気分のいいものだが、それによって「幸福のベースライン」が上がってしまうために、他のポジティブな出来事に心が浮き立たなくなることを、研究結果が示している。
幸福
将来どんなことが自分を幸せにするのかを正しく予想できない理由のひとつは、「自分には不快な感情に耐えたり、適応したりする能力がある」ということを見落としているからだ。
モースは共同研究者と共に行った調査で、「幸福を追求することが大事だと考えている人たちは、そうでない人よりも寂しさを感じることが多い」
あまりに幸福の重要性が強調されると、寂しくなるばかりか、その影響は身体にまで及ぶようだ。
できるだけ苦悩の少ない人生が健全な人生だとも思わない。
実際には誰の人生にも、親を失くす、離婚する、望んでいた昇進の機会を逃すなどの辛い出来事は避けがたく起こる。
その時にその辛さを受け入れようとしないと、それが苦悩に変わるのである。
感情的・身体的な不快感、人間関係における不快感から目を背けた時に、苦悩が生じる。
幸福を選び損なう理由のほとんどは、「選択を行う時点」とその「選択の結果を経験する時点」で心理的状況が異なるという単純な事実だ。
何かを欲しいと思うと、手に入れた後もそれをずっと好きなはずだと考える。
だが実際はそんなことはない。
リーダー
リーダーの様子は、目標とする結果を劇的に向上させうるほど、人々の感情を動かすということだ。
だがそのためには、幸福感と不幸感がそれぞれどんな状況において有利に働くのかを、リーダーがきちんと理解していなければならない。
ポジティビティが常に理想だという思い込みに基づいて雰囲気づくりをしてはいけない。
むしろ、優れたリーダーは、自分の感情表現を部下が取り組んでいる仕事の特質に適応させる。
マインドフルネスにとらわれるな
レストランのウェイターが、客の注文を繰り返して確認すると、しなかったときに比べて、チップが68%以上も増えることを発見した。
ウェイトレスがきちんとこちらの言うことを聞いていて信頼できるということを、この復唱という単純な行為が客に暗示したからである。
感情を効果的に調整できないと、個人生活ではうつ、人への攻撃、不貞など、仕事上では、業績の悪さ、盗み、ハラスメントなど、さまざまな問題を引き起こす一因になる。
従って、強い怒り、恐怖、悲しみ、屈辱感などの感情を制御することは、非常に重要だ。
もっともクリエイティブなアイデアがどうやって生まれたかを調べたところ、誕生の場所はオフィスではなかった。
アイデアが一番生まれやすいのは「通勤途上」だった。
次が僅差で「シャワーを浴びている時や風呂に入っている時」である。
我々はこういう環境を、「ACH(偶発的な創造性の拠点)」と呼ぶ。
複雑な決断が必要な時には、まず意識上で情報を集めた後、意識的思考を中断し、時間をかけて無意識に選択をゆだねるのがよい。
大量の情報を分析、操作、統合する場合などは特に、無意識の思考には有利な面があるようだ。
多くの選択肢がある場合に、ベストの判断に達するのに、マインドフルな思考だけでは不十分だということは明らかだ。
「意識的思考」と「無意識の思考」の相対的強みを、どちらも活かして使う必要がある。
選択肢が多くて高い認知能力を要する状況における、最良の決断法は次のようなものだ。
- 短い時間、状況をマインドフルに熟考する
- 考えることをやめる
- 思考を温める間、何かまったく無関係の活動をする
- 決断する
達成感を描いた写真を見た人たちは、成約率を58%も増やした。
にこやかに話す販売スタッフの写真を見ながら電話した人たちは、ビルの写真を見ていた人たちより、85%多く売り上げた。
それぞれ自分の目標やモチベーションのタイプを表わす言葉や絵を、部屋の壁やデスクの上に、飾るといい。
ネガティブ感情を反転
サイコパシー傾向(特に怖いもの知らずの性質)を多く持つアメリカ大統領は、より優れた業績を挙げていることがわかった。
それらの大統領のサイコパシー傾向と、高い説得力、優れた危機管理能力、進んでリスクを取り新しい法案を提出すること、周囲から世界的存在と見られること、議会とよい関係を維持することなどの優れた特質には、直接の因果関係が見られた。
人を努力家でイノベーティブな人間にしたいと思うなら、一番簡単なのは、能力を最大限引き出す役割を与えることだ。
不安定さを除きたい時、人は創造性に対してネガティブな姿勢を示す。
しかし、創造的なアイデアをオープンに受け入れるためには、それがもたらす居心地の悪さも同じように受け入れる必要がある。
自分は特別だと思っている尊大な人たちは、不安定な状況にもうまく対処する。
彼らは怖れの感情をオープンにし、怖れることを怖れない。
自分が望む人生、自分にふさわしい人生、そのためなら努力を厭わない偉大な人生をめざして、ひたすら突き進んでいるので、余計なことを考えないのである。
ネガティブな感情は、それを理解し識別することによって、心身に無害なものに転換できるということだ。
従って、感情をなだめるための不健全な行為──大酒、過食、他者への攻撃、自傷など──に走ることもなくなる。
ネガティビティをどれだけ経験するかが、その人の成功の可能性に影響を及ぼすのではない。
ネガティブ感情を正しく識別できるかどうかが重要なのである。
心理状態を受け入れる
ポジティブもネガティブも含めた広範囲の心理状態を受け入れる能力を身に付けて、人生の出来事に効果的に対応することの方が大事だ。
ネガティブ感情とポジティブ感情の両方を経験した人たちの出したアイデアは、ずっと幸福だった人たちの出したアイデアより、9パーセントほど創造性において優れていた。
また仕事においても、試練に伴うストレスは、モチベーションを高める効果があった。
生活の質を測るのに、血液検査やレントゲン検査と同じくらい確かなものがあるとすれば、それは人々が日々の経験を語る豊かなストーリーである。
人が1日の出来事──タイヤがパンクしたとか、会議に遅れてしまったとか、実に面白い人物に出会ったとか、素晴らしい夕焼けを見たとか──を語る時、そこにはその人の達成感、挫折感、生きる姿勢、願望、憧れなどが表れる。
その人のアイデンティティ、なりたい自分、したいことなどが、具体的な出来事を通して見えてくる。
セラピーの効果が出始めた時というのは、仕事や人間関係に関する幸福感と悲しみの入り交じった感情を、患者自身が冷静に受け止められるようになった時だった。
自分の感情や思いにどう関わるかということが想像以上に重要だということだ。
たとえ意図的にでも「不安」を「興奮」と言い換えられれば、わずかながら力強い変化が起こり、自分の気持ちにではなく状況に注目するようになる。
人が進歩するには、複雑でミステリアスで、不確定で挑戦的な経験が必要で、それがなければ、学ぶことも成長することもできない。
しかしまた一方、安定した状況は予測が可能であるために、気持ちに安らぎを与えてくれる。
自分は今の状況をよくわかっていて制御できると思うと、安心してありのままでいられる。
退屈な状況では喜びも意味も見い出しにくいし、退屈している自分に欠陥があるかのように思えてしまうからだ。
ある程度の知的能力とやる気がある人は決して退屈などせず、自分から面白いことを見つけ出せるはずだと考える風潮がある。
退屈している時にも何か特別なことが起きる可能性がある。
脳を自由に遊ばせていると、うまくすればそれが創造性と成長のきっかけとなるし、うまく行かなくても、少しの間つまらない気分を味わうだけのことだ。
退屈はまたエネルギーが低下している状態でもある。
やるべきことが完成して、そこに問題がないことの表れでもある。
つまりすべてをやり終えたので、目的を失くしたような気分になるのである。
そこで退屈から強いモチベーションが生まれることがある。
退屈が新しいものに目を向けさせ、自己満足から押し出してくれるために、安全も成功の保証もない不確かなものに挑戦しようという気持ちになる。
退屈も不安も不快ではあるが、どちらも非常に有用だ。
自分が生活の新しいもの、もしくは慣れ親しんだものに多くの時間を使い過ぎていると知らせてくれるからである。
ホールネスとは、自分の人格のあらゆる部分-明るい部分と暗い部分、強さと弱さ、成功と失敗-に心を開いてそれを受け入れることである。
自分の感情をより明確に理解できる人の方が、ストレスの高い状況によりよく対処できるだろうと推測したと思う。
その通りである。
言葉が意識を決定する
もともと複雑な感情を、複雑なままに理解する方がいい。
それによって最高の喜びも捉えられるし、また悪い状況に落ち込んだ時に、その状況に対処するスキルも使える。
面白かったポイント
ネガティブの感情を理解することの重要性がよくわかる本です。
これまで、ポジティブがよくてネガティブはよくないと単純に考えていたのですが、それは違うんだと勉強になりました。
人間なので、ポジティブもあればネガティブもあります。
自分の感情を正しく理解することが大切で、なぜその感情を芽生えているのか、その感情をエネルギーに転換することが重要です。
ネガティブな感情を押し殺すのが一番よくない。
また、幸福を追い求めると孤独感に苛まれるというのも興味深い。
人間の感情を理解するための必読書です。
満足感を五段階評価
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