内容
ブリッツスケーリングとは
これは総力をあげて成長に集中する電撃戦だ。
たとえ先の読めない状況であっても、ブリッツスケーリングは効率よりもスピードを重視して、電撃的な成長を実現する。
スタートアップがある程度成功すると、キラープロダクト、大規模な市場、安定した流通、配信チャネルが必要なステージを迎える。
つまり「スケールアップ」になることを狙わねばならない。
成功すれば何千万人、いや10億人以上の生活に影響を与え、文字どおり世界を変える企業になれる。
ネットワーク効果とは、プロダクトやサービスが普及すればするほどその効能も上がる現象を指す。
先の見通せない環境に対応するには、効率よりもスピードが優先される。
急速に成長しながら企業を運営する戦略とテクニックのセットが、ブリッツスケーリングだ。
テクノロジーの革新によって得られた利益のほとんどは生産者側ではなく、消費者側が獲得した。
成功を収めたのはライバルより圧倒的に速く成長する方法を見つけたごく一部のスタートアップだけだ。
ブリッツスケーリングには十分に計算されたリスクをカバーできる財務能力が資金と人材の双方で必須の要素となる。
燃焼には燃料と酸素の双方が必要なのに似ている。
スタートアップの組織がロケットと違うところは、空中を飛びながらつくり上げていかねばならない点だろう。
起業家は組織のリーダーとして十分な燃料と酸素の補給に気を配ると同時に、ロケット本体を加速に合わせて調整、強化していかねばならない。
周囲は最初にスケールアップしたスタートアップに対し、そのエコシステムでのリーダーだと認識する。
そうなると人材と資金の双方が洪水のように集中する。
シェアと売上の拡大はニュースになるかもしれないが、実際に顧客と売上をスケールさせるには組織の変革が必要だ。
これには社員数と業務の範囲、財務やプロダクト、テクノロジー開発の戦略などすべてに関連してくる。
組織と売上の拡大が顧客の拡大とシンクロして成長できない場合、事態は簡単に制御不能に陥る。
スピード
たとえ行き先が見えなくてもいい、なにがあろうと効率よりスピードを優先するという戦略はわれわれのビジネスで決定的に重要なポイントだ。
ビジネスモデルが多くのメンバーとそのフィードバックに依存している場合は特にそうだ。
ある分野でライバルより先に地位を築いていれば、フィードバックも先に得られる。
これがライバルに対する決定的な優位性をもたらす。
どんなビジネスであれ、規模が問題になるなら、ライバルに先んじることが成功への重要な入り口だ。
企業がブリッツスケーリングに頼りたくなる理由は、大企業と戦う主要な優位性のひとつがスピードだからだ。
スタートアップは素早く動くことでテクノロジーの進化が生んだ新しいチャンスを生かせる。
大企業と同じペースでのろのろと進んでいたら、同じ土俵で戦うことになり、大企業の豊富な資力が大きな優位性をもたらすことは明らかだ。
ブリッツスケーリングを実行すると決めたら、次に考えるべきことは「どうすればもっと速く動けるか」だ。
これは単にもっとよく働くとか、同じリソースをもっとうまく使うとかいう話ではない。
大切なのは、ほかの会社が普通はしないことをする、あるいはほかの会社がすることをしない、ということだ、なぜなら自分たちは不確実性の高いことや、効率の悪いことを進んで受け入れようとしているのだから。
目標はあくまでスピード。
フェイスブックが小さかったときはシステムを壊すことを気にかけずにスピードを維持できた。
しかしわれわれが巨大になるにつれて、ものを壊すとかえってスピードが遅くなってしまう。
システムが複雑になると、壊れたものを修正するのが加速度的に困難になる。
安定したインフラの確保に少しばかり余分に時間を使うことで、われわれが何かを壊しても素早く回復できるようになる。
つまり結果としてスピードを維持できる。
フェイスブックの規模は、素早く前進することで得られる利益より、戻ってバグを潰すことで時間を失う不利益のほうが大きいというところまで来てしまった。
新しいテクノロジーではなくビジネスモデル
現在成功している企業のほとんどは、新しいテクノロジーを開拓したスペースXではなく、既存のテクノロジーを組み合わせたテスラ的な企業だ。
配車サービスのウーバーや宿泊ネットワークのエアビーアンドビーも、前例のない新しいテクノロジーを導入したわけではない。
新しかったのは彼らのビジネスモデルだった。
それが驚異的なスピードで彼らを大企業にした。
フロントオフィスだけでなくそれを運営するバックオフィスにもイノベーションがなければ、金融市場が利益を求め始めたらクラッシュする。
優れたプロダクトを開発することは重要だが、ユーザーを獲得するのも重要であり、次に優れたビジネスモデルを構築することも同じくらい重要だ。
これは鎖であり、鎖の輪のひとつが切れたら鎖全体が用をなさない。
既存の強力なネットワークを利用することはビジネスモデルの重要な部分を占めることがある。
既存ネットワークの利用がいわば宇宙ロケットの第一段として作動し、サービスを軌道に打ち上げる場合は特にそうだ。
スタートアップを成功させるための最も重要な要因は、市場とプロダクトが適合するかどうかだ。
まず自分で手作業でやる、どうにもならなくなったら自動化する。
そうできた秘密は他企業がアマゾンのコンピューティング・インフラを活用できるようにした点にあった。
Gメールは大成功し、グーグルのキラー・プロダクトのひとつになったが、バズ、ウェイブ、グーグル・グラスなど失敗して消えたり方向転換したりしたサービスや製品も多い。
この失敗のリスクをカバーできる高い粗利益率に基づく財務力と、赤字プロダクトを廃止する断固たる経営判断の両方がある。
たとえばグーグルがユーチューブを買収したときには、ユーチューブに高いプロダクト・マーケットフィットがあることを見てとると、巨額の資金を投じて社内で開発したビデオ・サービスを惜しげもなく廃止している。
会社を始めることは崖から飛び降り、落ちていく途中で飛行機を組み立てるようなものだ。
スタートアップの結末のデフォルト値は「死」だ。
戦略
ブリッツスケーリングの目的は、リスクやコストの増大と引き換えに電光石火の成長を実現することだと思い出してほしい。
ブリッツスケーリングを実行する意味があるのは、膨大な成果を出すには市場に素早く参入することが決定的に重要な戦略だと決心したときだけだ。
大きな成功を収めるには、大きくて新しいチャンスが必要だ。
十分な市場規模と粗利益が見込めて、膨大な潜在的価値を生み出す支配的なリーダーや寡占のない状態だ。
大きくて新しいチャンスが訪れるのは、技術革新が新しい市場をつくったり既存の市場を破壊したりするときが多い。
中国・アジア市場の可能性は長期的に見て米国のeコマース市場よりも大きいことに気づいた。
組織の成長が戦略を上回ることを示す前兆
- 成長速度の低下(市場やライバルと比べて)
- ユニットエコノミクス(顧客当たり粗利益)の悪化
- 従業員ひとりあたりの生産性の低下
- 管理コストの増加
あるステージでスケールアップするためにしたことを繰り返しても、次のステージではスケールアップできない。
ステップ1 スケールしないことをする。
ステップ2 ブリッツスケーリングの次のステージに到達する。
ステップ3 ある部分についてはスケールするやり方を見つけると同時に、別の部分ではスケールしないやり方を見つける。
ステップ4 ブリッツスケーリングの次のステージに到達する。
ステップ5 市場を完全に制覇するまで以上を繰り返す。
ひとつはその市場で唯一のプレイヤーになることだ。
二番目は、その市場で有望な成長戦略を発見する最初のプレイヤーになることだ。
三番目はスケールの追求を明確に最優先することだ。
成功を確信し、コミットして投資するスタートアップはライバルに勝てる可能性が高くなる。
各ステージでの創業者の役割
第1ステージ(ファミリーサイズ)
創業者は自分で隅々まで会社の成長をコントロールできる。
こうした初期段階では、創業者はブリッツスケーリングの手立てを含めて自ら考え出さねばならない。
第2ステージ(部族サイズ・100人未満)
創業者は実際に作業する社員を指揮する立場に移る。
組織がある程度拡大すれば、創業者はチームを指揮、監督することになる。
創業者の役割は生産性をできるだけ高めるようチームの運営を助けるところにある。
第3ステージ(村サイズ・数百人)
創業者は効率的な組織のデザインを始めねばならない。
創業者は組織の方向付け、効率化するための大きな展望が必要になる。
創業者にとってこれはおそらく気乗りのしない作業だろう。
創業者というものは自ら動いて価値を生み出すのを好むもので、組織を指揮するのは苦手なことが多い。
このステージになると創業者は外部から経験あるエグゼクティブを採用する必要がある。
第4ステージ(都市サイズ・数千人)
創業者は高度なレベルで組織の目的と戦略を決定する必要がある。
創業者の役割は重大で戦略的な決定をすることだ。
こうした決定は日々の業務にもいわば戦術的な影響を与えるだろうが、それに対処するのは部下のマネージャーの業務だ。
第5ステージ(国家サイズ・数万人)
創業者はひとつのブリッツスケーリングを完了させ、会社を新しい分野のブリッツスケーリングに向けて組織をつくらなければならない。
新しいプロダクト、新しいビジネスモデルが必要となる。
マネジメント
ファミリーステージでは、チーム全員があらゆる重要事項の決定に関与する。
村(ビレッジ)ステージ以降になると、このやり方はほぼ不可能になる。
社員は自分たちが直接かかわるチームや分野に付いていくだけで精一杯になり、ほかの部門の業務はほとんどわからなくなる。
中途入社した社員はあたり前だと思っても、初期からの社員はこの変化に当惑し、インサイダーだった自分たちが今はアウトサイダーのように扱われていると感じてしまう。
海兵隊は海岸を占領し、陸軍は国を占領し、警察は国を統治する。
海兵隊は混沌状態に対応し、その場で答えを見つけるスタートアップ要員だ。
陸軍の兵隊は海岸を占拠した後に早期に陣地を奪取したり確保したりするスケールアップ要員だ。
そして警察官の仕事は、破壊するよりも安定を維持することだ。
海兵隊と陸軍は協力して働くことが多いし、陸軍と警察も一緒に仕事をするが、海兵隊と警察が協力して仕事をすることはめったにない。
中央集権化がボトルネックとなり、情報の流れや意思決定、さらには実行を妨げるようになる。
急速に専門化する全員の日常業務を効率的に管理することなどできない。
そんなシステムでは、組織目標の説明責任を果たすことはできない。
ブリッツスケーリングを目指す組織に秩序が必要なのは、スピードを最大にするためだ。
指導者集団の学習速度は、将来を予測する能力に影響する。
一方、最前線チームの内部構造の強さは、重要な場面で迅速に動くことや競争優位性を獲得する能力に影響する。
人間は社会的な動物なので、同僚やチームメイト同士のつながりには日常的な会話が必要だ。
創業者やCEOが、遠方の社員のために1対多のつながりを生む放送チャンネルを意識的につくるべきなのもこの時期だ。
もちろん村ステージでは、会社がダンバー数(個人が安定した人間関係を維持できる100~250人程度)を超える可能性が高く、そもそも創業者が十分な頻度で全員と顔を合わせる時間もない。
エアビーアンドビーのブライアン・チェスキーは毎週日曜日の夜、全社員に長いメールを送り、この問題に取り組んでいる。
会社にとって重要だと自分が考えていることを共有する。
この放送型コミュニケーションの長さ、具体性、そして信憑性が、エアビーアンドビー社員一人ひとりに、チェスキーの人となりや重要なものを伝えた。
物事を書き留めるリーダーは、概してコミュニケーションのトラブルを避けられる。
思考プロセスをまったく異なる方法で明確化するからだ。
会議を開いて「よし分かった、これで全部決まった」と言うだけだと、伝言ゲームが始まる。
判断を間違ったときのリスクやコストは非常に大きく、専門チームの費用はそれに比べれば小さい。
局所的な最適化は全体の最適な結果に必ずしもつながらないからだ。
専門のグロースチームなら、全体像を見ることでプロダクト部門とマーケティング部門の判断がどう組み合わさって期待通りの結果を生み出しているかを確認できる。
最高のグロースチームは、「好奇心」のあるユーザーを「習慣になった」ユーザーへと変える重要なポイントを見極め、習慣にするために、プロダクトのあらゆる機能とプログラムをつくる。
メインの弾み車が回り出すまでは、第二のチャンネルを試してはいけない。
成功した会社のほとんどは、あるチャンネルを圧倒している。
海賊船の船長から海軍の規律で艦隊を指揮する司令長官になるには
たとえば、国際的なビジネスを構築するなら
- それぞれの国際市場で、責任と強い執行力をもつマネージャーを揃える
- 市場の違いを理解し、それぞれを成長させる計画を立てる
- 国際業務を調整したり、各国で事業を指揮するマネージャーを管理したりする統一経営チームをつくる
誰もが自分の会社を小さく感じられるようにしたいと思っている。
それがいつまでも革新的で素早く動ける方法だ。
経営チームを雇う目的は、組織の問題をもっとスケーラブルな方法で解決するためだ。
車輪にたとえるなら、CEOはハブになるべきだし、経営チームはタイヤが地面に触れるところで働く社員や前線のマネージャーとCEOとをつなぐスポークになるべきだ。
海賊船の艦隊と随行船が増えるにつれ、それを規律ある海軍へとまとめ上げる必要が生じる。
艦隊には強力な艦長と、組織内の起業家のような活力で、調整できる中央のスタッフという双方が必要だ。
起業家は常にプランA、プランB、そしてプランZをもつべきであるというものだ。
プランAは現在の最高のプラン、プランBはプランAがうまくいかないときやもっと良いチャンスがあると分かったときにピボットできる「近隣領域の可能性」に基づく代替プラン、そしてプランZは最悪のシナリオを生き延びるための非常用プランだ。
ABZプランニングは、過ちや挫折から立ち直るチャンスを与えてくれる。
マズローの火事段階説
- ディストリビューション
- プロダクト
- 収益モデル
- 運用
- 競合
ほとんどの個人向けインターネット・スタートアップにとって、最重要の火事はユーザーにプロダクトを届けるまでのディストリビューションだ。
採用
単純な2つのルール
採用候補者は自分たちの人的ネットワークで探し、その際「ブランド」のある人材にこだわる。
候補者のスキルについて面談するのをやめ、その時間を会社のミッションと一致するかどうかを見るための面談にあてる。
ファミリーステージでは、ゼネラリストだけを採用すべきだ。
村ステージでは、幹部としても、スペシャリストを採用するのが賢明だ。
部族ステージでは、会社と一緒にピボットできるくらい柔軟な専門知識を備えた社員がほしい。
数百人の社員がいる場合は、会社の事業と行く末について確固たる理論をもつ人物を採用すべきだ。
都市/国家ステージで雇う幹部はほぼ全員がスペシャリストになる。
採用候補者を評価する際に見るべきなのは、その人物がどのステージが好きだと自覚しているかだ。
幹部
会社が成長すると、重要な幹部を交代させなければならないこともある。
ほとんどの人のスキルや経験は特定のステージに最適化されているので、誰もが会社の成長に合わせて成長できるわけではないからだ。
あなたの会社の幹部がスケーリングできなければ、あなたの会社もスケーリングできない。
理想的には、初期の社員たちにはキャリアを積ませて新しい役割を与えたい。
しかし、大切な社員を失うか、向かない仕事でもがき苦しませるかを選ばなくてはならないときもある。
組織を動かすための専門知識は、初期の社員がすぐに身に着けられるものではない。
組織をうまく動かすリーダー職は外部の人間へと移っていき、初期社員の不満は募っていく。
初期からの社員の中には、役割が限定されることにいら立つ者もいるかもしれない。
ゼネラリストの誰もがスペシャリストになれるわけではなく、なりたいとさえ思わないかもしれない。
多くの人はいら立ち、貴重な人間関係や会社のミッションやカルチャーなど明文化されていない知識を抱えたまま会社を辞めていく。
ゼネラリストは組織の「幹細胞」と考えるとよい。
人の体には、必要に応じてさまざまなタイプの細胞に変化する能力をもつ幹細胞が少数存在する。
大きな組織では、必要に応じてさまざまな機能を果たせる人が必要になる。
新しい製品や技術を検討したり、解決方法が確立されていない問題に取り組んだりするときなどだ。
マネジャーは前線のリーダーとして日々の戦術で気をもんでいる。
詳細に計画を立て、具体化し、実行し、組織が新しいことを始めたり、効率よく動けるようにしたりするための戦術だ。
それに対して幹部の役割は、マネジャーを指揮することだ。
通常幹部は、担当者を直接管理しない。
代わりに、彼らはビジョンと戦略に集中する。
それでも幹部は前線の社員たちとつながっている。
幹部は組織の「闘志」の責任者でもあるからだ。
避けられない困難に立ち向かう人たちを支えるロールモデルにならなくてはならない。
会社が村ステージに到達すると、幹部が必要になる。
社員が数百人になると、複数のマネージャーを管理・指揮する幹部なしに会社をまとめることは不可能だ。
組織のストレスが限界に達するまで創業者が採用を遅らせてしまうと、状況は悪化する。
社内の緊張と不透明性が最大になっているときに、新しいリーダーがやって来ることになるからだ。
これを乗り切るカギは開かれた心だ。
インサイダーは幹部を外部から登用することについてオープンであるべきだし、アウトサイダーは入社前に起きたことを学習しようとオープンになるべきだ。
より大規模あるいは伝統的な企業で幹部を経験し、ブリッツスケーリングに成功したスタートアップで働いた経験がある人物を採用することだ。
内部で幹部候補を育てるには何年もかかる。
自分たちが強くない分野、たとえば財務や人事には規律が必要なので外から専門家を採用する。
クラウドソーシングのような得意分野では、内部で人を育てる。
なじませるステップ
- チームメンバーの少なくともひとりが知っている人物を採用する。
- 新しい幹部にはまず低い役職を与え、自分自身で能力を示させる。
- 幹部がチームの信頼と信用を得たら、昇進を考える。
自分自身をスケーリング
多くの起業家は、自分の知らないことに対して大きな不安を抱えて起業していると思う。
必要なのは、不安に押しつぶされず、不安をエネルギーに変えて自分を磨くことだ。
創業者自身の学習曲線は、常に会社の成長曲線の先を行かなくてはならない。
自分自身をスケーリングする方法は3つしかない。
権限移譲、拡大、自分を磨くことだ。
権限委譲で創業者にとって最も困難なのが、幹部を採用し、機能的なリーダーシップを譲ることだ。
伝統的な秘書やテクニカルアシスタントとも異なり、ビジネスの影響力を高めるのがチーフ・オブ・スタッフだ。
ビジネスパーソンとして一定の決断ができるだけでなく、経営者自身がすべき重要な決断の優先順位も決められる。
チーフ・オブ・スタッフは、あなたに会ったり話したりしたい人に対して、事前に必ず「ブリーフィング」を行い、時間をできる限り効率よく効果的に使えるようにする。
ひとたび拡大の威力を理解すれば、自分をスケーリングする方法をいくつも見つけられる。
たとえば、必要な仕事のひとつに、自分の会社や業界、世界全体に関する情報処理がある。
私のチームにはブレット・ボルコウィというフリーランスの調査員がいる。
彼は私が新しいことを学んだり重要な質問に答えたりするために、どんな話題についても最高の情報を見つけだして私を助けてくれる。
チームの中心メンバーであるイアン・アラスは、私が本を書くためにつくるビジュアルサマリーなどのクリエイティブなプロジェクトを手伝ってくれる。
信頼できる社員、フリーランサー、あるいは外部コンサルタントのチームも、増幅器になる。
創業者はブリッツスケーリングのあらゆるステージで新しい課題に直面するので、自分を学習マシンにする必要がある。
賢い人たちと話をすれば、彼らの成功と失敗から学べるという意味だ。
誰かの失敗から学ぶ方が簡単で痛みも少ない。
私は新しい物事について学ぶとき、もちろんそのテーマの本を読み漁るが、その分野で有数の専門家を見つけて話をして補っている。
最高の人物に会えなかったとしても、最高の人物について書かれたものを読むことはできる。
ほかの起業家と話すこと。
有名な起業家だけでなく、自分より1年、2年、5年先を行く人たちと話す。
そういう人たちからは、ほかとは大きく異なる重要な物事を学べる。
長期的視点に立つ感覚は非常に大事だ。
フェーズが変わるごとに、状況は静かに変わっていくからだ。
起業家には、私的な「アドバイザー会」を結成することをお勧めする。
それは足りない知識について助言を与えてくれる「取締役会」のようなものだ。
資金調達
大きな調達ラウンドにはプラス効果がある。
この会社は市場のリーダーになると世界中に納得させる効果、投資家にわれわれのライバルを支援する気持ちをなくさせる効果だ。
IT系スタートアップの場合、調達すべき金額は主に2つの要因で決まる。
人件費と企業から顧客に営業をかけるアウトバウンドの顧客獲得コストだ。
シリコンバレーの古くからの経験則には、18~24カ月間運用できるだけの現金を調達するというものがある。
ベンチャーキャピタルの新しい投資ラウンドを実行するには通常約6か月が必要なので、18か月分の「助走賃金」がないと、ベンチャーキャピタルを説得する時間が1年以下になってしまうからだ。
投資家というものは自分の金を必要としていない相手にこそ金を与えたがる。
企業は公開市場が嫌いがちなブリッツスケーリングへの投資を続けるために情報を遅らせる傾向がある。
公開市場の投資家は、IPO後のブリッツスケーリングからは大きな利益を見込めないので、非上場企業への投資に期待を寄せるようになり、その結果ますます多くの資金がブリッツスケーリングへの投資に向けられる。
カルチャー
- あなたの会社は何をしようとしているか?
- どうやってその目標を達成しようとしているか?
- 目標をもっと早く達成するために、どれだけのリスクを負えるか?
- 価値観を天秤にかけなくてはならないとき、何を優先させるか?
- どんな行動に基づいて人を雇い、昇進させ、クビにするのか?
強いカルチャーのある組織では、社員は同じ答えを返し、それにふさわしい行動をとる。
リンクトインでは、勤勉で、家族を大切にする人たちを雇いたかった。
創業メンバーは家族もちだったので、社員は家に帰って家族と夕食をとる(その後在宅で仕事をする)という規範をつくりたかった。
組織の中心的なカルチャーは、会社にとって最も重要な業務に由来するものが多い。
どんなカルチャーでも成功できるが、組織の成功にとって最重要な分野に焦点を合わせる必要がある。
ここで選ばれたカルチャーは会社のバリューに重大な役割を果たすだけでなく、カルチャーの基となった部門の担当幹部は、CEOの後継者になる可能性が高い。
本来カルチャーとは官僚主義や規則に取って代わるものだ。
カルチャーが強くなればなるほど、厳格な命令で人々の行動を縛る必要はなくなる。
計画的にカルチャーを伝えるカギは、コミュニケーションと人事管理の2つだ。
コミュニケーションが重要なのは、創業者が全社員と直接つながれるからだ。
これには正式な対面での三―ディングやオンラインでのやりとりから、オフィスのレイアウトやデザインといった目立たないことまで、さまざまなやり方がある。
物事は繰り返さなくてはいけない。
カルチャーで大切なのは、会社にとって本当に大切なことを何度でも繰り返すことだ。
企業カルチャーに最も影響するのは、誰を採用し、昇進させ、クビにするかだ。
安定した低成長の会社は10年以上存続し、社員は徐々に入れ替わっていくが、規模は変わらず強い継続感を維持している。
言い換えると、船の「木材」は10年たっても実質的に変わっていない。
採用プロセスにカルチャーを組み込むと、意図的に人を排除するので、行き過ぎて組織が同じような人ばかりにならないよう注意する必要がある。
成功するには、適合性と多様性の組み合わせが必要だ。
正しい方向の同一性(賢さ、熱心さ、知的さ、勤勉さ、使命感など)は会社の強みを引き出すし、ペイパルがまさにそうだった。
しかし、過剰な同一性は集団思考や偏見、停滞を招きかねない。
企業はファミリーステージであっても多様性について明確な立場をとり、性別、性的関心、宗教、家系、あるいは年齢に関して広く門戸を開いていることを書面で発信すべきだ。
社員の人口動態を調べ、その情報を社内にも社外にも隠さず公開する。
NFLチームは球団運営の上級職を採用する際、少なくともひとりのマイノリティ候補を面接することが義務付けられている。
そして、幹部報酬の少なくとも一部を、多様性に関する会社目標の達成度と連動させる。
様々な分野のブリッツスケーリング
スピードを追求したために生じる非効率と引き換えに、ザラはほとんどのアパレル企業の利益率を圧迫する最大要因である売れ残ったデザインの過剰在庫を回避できるからだ。
在庫を抱えて売れるよう祈っているだけではいけない。
人々が欲しいものを知り、それをつくるのだ。
ソフトウェア主導のハイテク企業のビジネスモデルが自分の業界に完全にあてはまらなくても、成長要因と成長阻害要因を注意深く分析することで、どこにブリッツスケーリングのチャンスがあるかを知り、それに伴う恩恵を受けられるかもしれない。
既存企業が直面する最大の課題は、積極的なブリッツスケーリングよりも慎重に拡大するほうを選びたくなる成果報酬システムだ。
成功を収めた会社は自分たちがすでに価値あるものを手にしていると思っているので、リスクを取ることがマイナス評価になりがちだ。
やってみて失敗すれば価値あるものを壊してしまう。
いつも1日目でいるためには、忍耐強く実験し、失敗を受け止め、タネをまき、苗木を守り、顧客を喜ばせるチャンスがあれば全力を注がなければならない。
新たなプロジェクトを会社の中にある会社のように扱うことだ。
未来に備えるための方法
新しい技術は急速に発展し、あらゆるものを「再び」変えることを約束する。
その新しい技術によって新しいビジネスモデルが生まれ、そこから新しい産業が現れる。
まず、スピードと不確実が安定にとって代わる。
急速に変化する世界で生き残るには、不確実性を不可避のものとして受け入れるしかない。
常に学び続けることだ。
ライバルに比べて学習曲線を登るのがわずかに速いというだけで、巨大な価値を築くチャンスが生まれる。
変化こそが唯一の不変のものという世界にあっては「常に学ぶ」ことこそ適応への最良の道だ。
常に最初に反応する者となる必要がある。
不確実さをものともせず行動する者、しかも素早く行動する者がわずかの時間さとは不釣り合いなほど巨大なチャンスを得るのだ。
面白かったポイント
ベンチャーを経験した者にとっては、とても共感できる内容です。
ここまで、急成長する会社の大変さを明文化しているのは素晴らしいと思います。
ハイライトだらけです。
とくに、会社の成長フェーズ別に注意しておくべきマネジメントや人事については、本当にその通りと言ってしまう内容です。
やはり事業作りは人にかかっています。
経験しないと腹落ちしないところが多いと思うので、何度も読み返す必要があります。
ベンチャー経営者だけでなく、ベンチャーの経営チーム、幹部、マネージャーは必読の書です。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
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