値上げのためのマーケティング戦略

ビジネス

『値上げのためのマーケティング戦略』菅野 誠二

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内容

値引き

変動費が1個あたり60円で売値100円の商品を10万個売り上げていた企業は400万円の限界利益を得、そこから固定費が30%で300万円を引いた場合に、100万円を利益として得る。

もし価格を25%値引くと、同じ額の利益を確保するためにはなんと販売量を2.7倍にしないと損をする。

逆に25%値上げができれば販売数量は約40%落としても良いことになる。

 

価格決定の利害関係者

価格決定に対する利害関係者には3つのレイヤーがあって、主原料の相場でほぼ決まるガソリン価格や政府の意向が強く反映される電気料金などのように、私企業の管理を越えたマクロレベルでほぼ決定されるものがある。

2つ目には自社、競合、チャネル、顧客の力関係というマーケティング・レイヤーで決まるものがある。

そして最後に、営業と買い手の交渉によって決まるレイヤーが存在する。

 

ポジショニングの軸

一般人には4次元空間は想像できないのだから、競合との相対距離や位置も知覚できないのだ。

決してポジショニングで4軸以上を考えてはいけない。

 

日本の事例では、牛丼の吉野家のポジショニング(彼らの定義ではブランド・コンセプト)の変化が興味深い。

▼「うまい、早い」……東京都中央区日本橋にあった魚市場が築地に移転した創業時のもの

▼「早い、うまい、安い」……1970年代チェーン化した際に変更。ファーストフードであることが重要な差別化ポイントだったわけである。

▼「うまい、早い、安い」……出店過剰と「味が落ちた」という問題から経営不振となり1980年に会社更生法を適用。復活する際、本来のコアコンセプトに原点回帰するため、味の追求を前面に出した。

▼「うまい、安い、早い」……2000年以降にデフレ圧力と競合の低価格競争に対抗するため変更。コアとしての「うまい」を軸にして他2つのポジションを交代させた。

 

未来を決める構造変化

①▼個人の力の拡大

・貧困層は5割(5億人)減る

・台頭する新・中間所得層

・購買力が衰えて行く米国と日本

・なくならない男女格差

・人類はより健康に

 

②▼権力の拡散

・中国の覇権は短命

・抜かれる先進国

・前例無き「覇権国家ゼロ」時代へ

 

③▼人口構成の変化

・進む高齢化

・縮む若者社会

・移民は諸刃の剣

・都市化する世界

 

④▼食料・水・エネルギー問題の連鎖

・食料、水、そして気候変動

・エネルギー不足懸念は後退

・米国はエネルギー独立国へ

・再生可能エネルギーは不発

 

コマツ

コマツはモノ売りからアフターサービスを複合化した戦略の一環として「コムトラックス:KOMTRAX」サービスで顧客を囲い込み、かつ新規サービスで付加価値を得ている。

コムトラックスはもともと盗難防止のために始めた付加サービスであるが、建機にGPSのほかに様々なセンサーを埋め込み、通信モジュールも組み込んだ。

2001年より標準装備化を進め、本体価格に組み込まれた。

機械の摩耗度合い、エンジンの使用具合、燃料の使用量なども遠隔から把握できるので、広域で建機を動かしている企業は管理が容易になり、故障する前に修理することが可能になった。

 

今では進化したコムトラックスのおかげでITベースの新しい管理も進んでいる。

途上国の顧客の多くは個人企業への割賦販売が主流なので、信用力の低い企業には与信リスク管理上売りにくい。

しかし、コマツは建機の稼動状況を把握できるので販売できる。

建機が稼働しているのに支払いが滞った顧客には遠隔でエンジンを止めることで支払いを促し、仕事がなく動いていない建機は差し押さえをする。

 

また、コマツはこの建機の稼働情報を分析し建機の需要動向が正確に把握できるので、スムーズな生産調整が可能になり、ムダな在庫と修理部品の削減にもつながった。

建機の稼働状況から、例えば中国の経済動向を洞察することすら可能だという。

 

さらに、中古建機の販売領域に参入した。

新興国に中古を流して部品ビジネスを軌道に乗せ、部品販売金額に占める消耗品の割合は4割程度にまで高まっている。

これによって先進国ユーザーから高値で中古機器を買い上げて新規受注をも促す。

 

エトス・ロゴス・パトス

①▼ブランド(エトス)

ストーリーは顧客の信頼を勝ち得るものである。

企業の成り立ちや歴史、歴代のヒット商品、経営者の想いなどが企業ブランドの要となる。

和菓子で有名な「とらや」は1520年代、京都で創業したという歴史と、京都御所出入りの御用商人の御用開始時期を記した文書「御出入商人中所附」(1754年)が残っているという記述がブランドを語っている。

 

②▼プロダクト(ロゴス)

商品の差別化要素。

時には販売促進のための「新製品」「増量」などの売り文句、今買うべき理由などである。

消費者の脳は「これまでと違う何か」に鋭く反応するものだ。

開発秘話、素材の卓越、用いた匠の技または最新技術、科学的効果効用の証明などもストーリーの題材になり得る。

 

③▼顧客ターゲット(パトス)

商品が自分に向けたものであることを理解できるようなシンボル、色、デザインなどだ。

値段の高い上澄み価格の商品はターゲット顧客にとって品格を感じさせるものでないと選択されない。

 

コンジョイント分析

コンジョイント分析とは、最適な提供物(Offerings)の要素を決定するための多変量解析を用いた分析方法である。

個別の属性を評価するのではなく、商品全体の評価(全体効用値)をすることで、個々の要素の購買に影響する度合い(部分効用値)を算出する。

顧客のセグメンテーションや商品企画、マーケティングミックスのバランスを決定するためなど、マーケティング上の調査、分析に幅広く使われている。

 

常に消費

スポーツクラブなどの事業でも、まとめて年会費を支払う顧客より、毎月支払うことを選択した顧客のほうが、継続率が高くなるそうである。

これは「支払った」金銭を意識し続けさせられると「使わないと勿体ない」と感じ、実際に消費が進むからである。

各種の調査結果からも使用頻度によって次回の購入確率が異なることが証明されている。

 

顧客を一定期間つなぎ止めておく効果や、前払い金が目前のキャッシュフローを潤沢にする効果などに誘惑を感じて、長期間の契約を安値で受注する企業が多い。

すると、結局利益を損ない、皮肉なことに顧客の使用意識が低くなるために、却って顧客との持続的な関係を壊すことになる。

 

新製品導入時のプライシング戦略

顧客価値をつかむ上澄み価格設定

企業が新製品を開発した場合には、ターゲットは少数になるが新製品の受容度と支払い性向の高いイノベーターや初期採用者を狙って初期価格を高く設定し、収益を「すくい取る」上澄み価格を設定することがある。

インテルは敢えて短い新製品サイクルで新製品に上澄み価格戦略を採用して一定期間に大きな収益を上げつつ、旧製品は急速に陳腐化させながら浸透価格に誘導していく。

競合が容易に同等の商品が上市できない場合にブランドが確立できて、顧客満足を得られれば利益率の高い商品になる。

 

浸透価格設定

市場シェアの素早い獲得を目指してマス顧客へ「市場浸透」する低価格戦略である。

市場での差別化が困難な場合に、シェアの拡大による規模の経済や学習効果を見込んで採択する場合が多い。

 

成功する要件としては、

①市場が価格に敏感で、低価格で市場拡大が望めること。

②単位商品あたりの生産、流通、マーケティングコストなどが販売量の増加によって大きく低下すること。

この戦略で勝利する企業は圧倒的な地位を占められる、限定された数社である。

 

ブリッジ・ベター価格設定

中間層の多様なターゲットセグメンテーションのニーズに合わせて、単品でなく製品ミックスの組み合わせで狙う価格設定もあり得る。

競争環境に大きな影響を受ける。

 

妥協効果を使う

アンカリング効果と極端の回避性を組み合わせると、意図した価格帯を妥協して選択してくれるという、妥協効果を生む。

人は極端な選択を避ける傾向があるので、初めて経験する商品に対しては失敗を恐れて無難な中庸の選択をしがちである。

実際には3パターンの価格を設定した商品を出す場合を想定してみる。

商品群の価格幅がA、Bの2つだけであるとBの低価格製品が選択される確率が増加する。

 

そこでAの高価格製品を売りたければA、Bに加え、おとり商品として超高額の商品Sを出しアンカリングする。

3つのうち、比較してSとAの価格は違うが、それぞれの効用値は大きく隔たりがないとわかるように設計する。

ただし、Sのアンカリング価格は高すぎてはいけない。

高額になりすぎると競合商品に目がいくことになったり、または低価格品Bの品質に疑いを持ったりする。

 

初めて入った著名なレストランで、最高額のセットメニューは選択しかねるものの、最低価格も「失敗したくない」と感じて結局中間の高級料理を選択した経験はないだろうか?

コンサルティングなどの、品質が標準化しにくく競合との質を比較しにくい業種ではアンカリングが働きやすく妥協効果が得やすい。

 

PSM分析(Price Sensitivity Measurement:価格感度測定)

顧客に対して新商品を提示して特長を説明した上で、4つの質問をすることで、どれくらいの価格であれば受け入れられて購入するかを明らかにする調査・分析の手法である。

4つの質問は、以下に示す実にシンプルなものである。

問1商品が高いと感じ始める価格は?

問2商品が安いと感じ始める価格は?

問3商品が高すぎて買えないと感じ始める価格は?

問4商品が安すぎて品質に不安を感じ始める価格は?

 

▼「高すぎて買えないと感じ始める価格」と「安いと感じ始める価格」の交点は「上澄み」価格で、これ以上高くなると顧客が購入しなくなる価格上限である。

▼「高いと感じ始める価格」と「安いと感じ始める価格」の交点は両極端の意見があり、このくらいの価格なら仕方ないと感じてもらえる妥協点である。トップシェアのブランドがここまでの価格設定でその旨味を享受することが多い。

▼「高すぎて買えないと感じ始める価格」と「安すぎて品質に不安を感じ始める価格」の交点は顧客が望む理想的な価格である。この価格であれば販売数量と販売額が良い形でバランスが取れる。しかしながら、この価格で利益を捻出できるかどうかはチャレンジになる。

▼「高いと感じ始める価格」と「安すぎて品質に不安を感じ始める価格」の交点はこれ以上安くすると顧客が「品質が悪いのではないか」と疑い始める最低品質保証価格である。浸透価格戦略を採択する場合でもこれを下回ってはならない。

 

価格弾力性

この値が1より大きいと「弾力的:価格弾力性が大きい」といい、小さいと「非弾力的:価格弾力性が小さい」と判断される。

ちょうど1であれば単位弾力的といい、需要が変わらない。

収入=価格×需要量なので収入にも変化がない。

 

弾力性が大きい場合はわずかな価格の変化で需要が変わるので、価格を引き上げると大幅に購入客数が下がり収入を損なうが、下げると需要が増え収入が上がる。

非弾力の場合は、価格を上げても需要は変わらないので収入が増え、下げてもそれに見合っただけの需要促進は期待できない。

 

通常、パンや塩、ティッシュなどの生活必需品の弾力性は価格が上がっても買い控えがしにくいので小さいが、高級ブランド品、宝飾品などの贅沢品は価格弾力性が大きいといわれる。

非弾力の米の値段をいたずらに下げても、収入は増えないのだ。

反対に高級ブランド品は価格を下げると収入が増えることになるが、中長期的に安売りを続けるといつかはブランド価値を損なってしまい、弾力性が下がって収入は減るだろう。

 

面白かったポイント

内容はほぼマーケティングです。

価格について抽象化して1冊の本にするのは難しいことがわかる。

 

基本的にはマーケティング戦略に合わせて売上もしくは利益が最大化する価格をテストするしかない。

価格設定はマーケティング戦略ありき。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆

 

目次

PART1 マーケティングはお客様へ提供する価値を創造すること
PART2 現状を知りマーケティング上の課題を見つけなさい
PART3 顧客価値創造プライシングを最適化しなさい
PART4 顧客価値創造プライシングを組織化する

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