内容
バークシャー・ハサウェイの株券は投資の証拠というより、目標が形になったものであり、信仰を表すものでもある。
それは、信じる対象なのだ。
消費者は製品を気にかける。
ファンは製品が意味することを気にかける。
ファンと消費者では、欲しいものも必要なものもまったく違う。
ファンダムとは「人」を表す言葉ではない。
ファンの「行動」を表す言葉だ。
熱狂的な人たちが参加する、カネ儲けにならない一連の活動が、ファンダムだ。
人は本能的に、共通点を持つ人たちとコミュニティを作る。
共通項は住む場所かもしれないし、宗教、性別、社会階層かもしれない。
起業のため、自己改善のため、またはただ楽しむだけのため、人はなにかの理由をつけて集まりたがる。
そんな共通項になるのが、いわゆる「ファンオブジェクト」だ。
たとえば有名人、ブランド、組織、娯楽。映画、本、音楽といった、感情と活動の架け橋になるメディア。
それが、人々を引き寄せ、結びつける引力の中心になる。
人はみな自己表現をしたがるし、自分を見せびらかしたがるものだけど、見せる仲間がいなければつまらない。
だから、ファンダムはおのずとソーシャルなものになる。
観客がいなければパフォーマンスの甲斐がない。
ファンダムは極めて個人的なものに見えて、ファン活動のほとんどは、集団的な行動だ。
外の影響も交流もない隠れファンがこそこそ活動しているイメージは、ただの思い込みにほかならない。
隠れファンでも仲間と付き合い、一緒に活動している。
ただし、主流グループとの関わりがないだけだ。
ひとりぼっちのファン活動は長続きしない。
ただの消費者をファンに変えるには、活動に参加させるのが一番いい。
できれば、消費から切り離された活動で、大きなグループの一員と感じられる経験がいい。
そんなファン活動が、ファンダムの支柱になる。
ワールドカップは現地のスタンドで見るより、ハイビジョンの方がよく見えることは間違いないのに、世界中の人がこのイベントを観にわざわざ遠くからやってくる。
どんなファンダムも、かならず人と関わる方向に向かう。
コンベンションに参加したり、著者サイン会に並んだり、コンサートに行ったり、古い醸造所を見つけたり、有名人の生家を訪れたり。
それは、自分たちの気にかけているものが、少なくともある意味で、現実に存在することを確認したいからなのだ。
月一の読書会。
大きな試合の前のテールゲートパーティ。
勝ったチームのビールかけ。
週一のカルト映画の上映会。
目的はみな同じだ。
そうした慣習が帰属意識を与えてくれ、好きなものを生活の一部として近くに感じさせてくれる。
一度なにかが習慣になると、それを続けやすくなる。
コレクション
消費者にとってのモノの価値は、それが果たす機能にある。
ファンにとって、おもちゃ、ポスター、半券やサイン、その他の「参加証」を集めることは、象徴としての価値がある。
限定版のタイドのボトルを完全に収集しても、空になったら価値はない。
遠くのファンオブジェクトを思い出させてくれるものを持つことで、ファンは憧れのスターや映画、本、ブランドを近くに感じ、所有意識を持てる。
ファンコレクションに莫大なお金と時間を注ぎ込む人もいる。
完全性、ユニークさ、レア度といった要素で、コレクションの価値は決まる。
ファンは、コレクションをきちんと手入れし、価値をあげ、記録し、見せ方を工夫することで、ファンオブジェクトをより近くに感じる。
それがコレクションのしきたりというものだ。
コレクションはファン人生の最高の思い出を反芻させてくれる。
コンサートチケットの半券はただの紙切れだが、スクラップブックに大事に保管された半券を見るたびに、ずっと後になってもファンはその時のことを思い出す。
クリエイター支援
クリエイターは、パトレオンを通してサポーターにスキルアップの機会を提供することもできる。
サポーターはただ芸術を支援しているわけではない。
好きな作品がもっと生まれることを支援しているのだ。
彼らが憧れ支持する人を通して、もうひとつの人生を生きるチャンスを探している。
人として成長したいという参加者もいる。
この経験を通して、哲学や憧れのライフスタイルを身近に感じ、自分を磨きたいと思っている。
社会的地位を求めて来る人もいる。
地元の友達や同僚にこの経験を自慢したいのだ。
成功しているファンダム = クリティカル・マス + 思い入れ + プラットフォーム
セレブ
わたしたちが買い物をしなくても、文脈によって商品は意味を持つようになる。
たとえファンが有り金を全部ポラロイド商品につぎ込んだとしても、金額には限りがある。
だが、うまく文脈を作れば、その価値は計り知れない。
セレブは「人」なのか?
「人」の場合もあるが、歴史家のダニエル・J・ブーアスティンに言わせると、多くのセレブは「キャラでありイベント」で、人生の大部分をパフォーマンスとして見せている。
メディアの注目を浴びて再生されることが彼らの目的だ。
セレブの本当の力の源泉は、歌唱力でも運動神経でもモデリングのスキルでもない。
セレブのそうしたスキルは、大勢のプロの中ではそれほど珍しくない。
セレブたちの力はその文脈にある。
ほとんどのセレブは、噂、ファッション、社会や政治に対する考え方、そしてライセンス商品が複雑に組み合わさった存在だ。
ライセンス
ライセンスとは、ファンダムの商業化そのものだ。
ブランド、セレブ、メディアにとって、一番価値のある資産は商品ではない。
ファンたちだ。
ファンの数が一定規模を超えると、メーカーや他のブランド所有者にとっては、それが大金に値するようになる。
ライセンスを買った会社は、新しい目的にそれを利用できる。
ファン活動
チームを気にかけ、自分と同じようなファン仲間に出会える人たちは、より幸福を感じ、人としてのバランスもとれていた。
チームの調子がいいときはなおさらそうだった。
地元チームを追いかけることからうまれる所属感や仲間意識が幸福の源泉だとされる。
ファングループ
自立的に維持可能な組織にするには、継続的なコンテンツ作りとメンバーへの呼びかけが欠かせない。
ファングループが最初に直面する課題は、一定数のメンバーを集めて自立的に維持できるまでにすることだ。
ファン活動は人との触れ合いそのものだ。
仲間がいなければ続かない。
賢いファンのコミュニティは、自立的に活動が維持できるようになるには時間がかかることを理解した上で、小規模でもメンバーが満足できる方法を探し出す。
初期の活動は、敷居が低く、少人数でも楽しめるものでなければならない。
グループ活動の原動力になってくれる初期のメンバーを励ますことが、コミュニティ構築の上で一番大切になる。
そこで、ブランドのオーナーは初期のメンバーに「愛情を降り注ぐ」。
ファン度の強さを測る一番の物差しは、時間だ。
ほとんどの場合、グループの中の地位は、活動にどれだけ時間を使ったかによって決まる。
グループの中の序列という点では、努力がお金に勝る。
おカネで序列を買おうとするメンバーは、「ニセモノ」だとバカにされる。
承認と賞賛は、メンバーを活動させ続ける二つの原動力だ。
メンバーにとっての最高の励ましは、何かを達成した自分への注目と認知であり、グループからの感謝と承認だ。
同好会のためにワッペンを作るメンバーは、ほかのメンバーから自分の芸術的な能力を褒められ、注目され、賞賛される。
しかし、自分だけでなくグループのみんなに役立ったことに感謝もされる。
賢いグループリーダーは、クリエイターにきちんと地位で報いる。
たとえば、ホワイトラビットなら、クイーンやジャックに格上げされる。
これは「愛情を浴びせる」こととは違う。
それは尊敬するリーダーからの励ましであり、原動力になるものだ。
レビュー
大半の人は商品を買う前にオンラインのレビューを見るが、レビューを残す人は圧倒的に少ない。
レビューを書き込む人たちはだいたい、いいにしろ悪いにしろ強い思い入れを持っていて、それをだれかと共有したがっている。
こうした議論に参加する人はそもそも偏りがあると思っていい。
経済合理性
近現代の経済理論は、長らく経済主体である「消費者」というものを「自身の効用を最大化すべく合理的な行動をするもの」と考え、「企業」というものも「自身の利潤を最大化すべく合理的な行動をするもの」と考え、それぞれの行動がクロスするところに「モノの価格」が決定するとしてきたが、その仮説から見た時、「ファン」という存在は、いかにも非合理で、謎めいたものとして立ち現れてくる。
ファンのモチベーションは、費用対効果で測ることができない。
むしろ、ファンは、そこにそうした「経済合理性」を持ち込まれることすら嫌うだろう。
「タダでもやる人がいるんだから、インセンティブを与えればもっとやるだろう」という観点から行われるマーケティングは、ファン心理を決定的に見誤っている。
ファンビジネスは、容易に、組織化され、可視化されるようになった。
面白かったポイント
よくマーケティングで「ファンにしよう」というキーワードを見かけるが、そんな単純なものではないということが分かる本。
まず、消費者とファンの定義が明確になる。
そして、本の中で紹介されている数々の事例からファンの心理をつかむことが大切だ。
ただし、ファンを作るほどのシンボルを創り出すのも難易度が高いし、それを維持するのはもっと大変だ。
自分自身、何かの強烈なファンになった経験がないので、完全に理解をすることは難しいが、俳優、アイドル、芸人などの芸能人、野球やサッカーなどのスポーツチームや選手、企業ブランドなどにのめり込んでいる人を見るとある種うらやましく感じる。
絶対、人生は楽しいはずだ。
満足感を五段階評価
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