内容
PLM
一般的に、PLMパッケージは、部品表データ(BOM)や図面/モデルデータ(CAD)の適切な管理や、部門連携を実現する仕組みで語られることが多いが、筆者は違う。
PLMを経営管理の仕組みと位置づけるために、「PLMはプロダクト損益の仕組みである」と言い切っている。
最終的には経営管理の仕組みであり、経営者の課題解決のためのツールとすべきなのである。
設計・開発段階で、部品や形状などを決める。
選定する部品により購入品の価格が決まるし、選ぶ形状によりつくりやすさや加工工数が決まってしまう。
コストの80%を決めてしまっているということは、将来の利益のポテンシャルを決めているのと同じである。
それはコストだけでなく、品質も同じことが言える。
選定する部品や形状により、顧客要求を満たしているかの品質も決めてしまっている。
設計・開発段階で、将来の顧客評価/市場評価も決めるし、将来の利益のポテンシャルも決めてしまう。
設計・開発におけるコスト/品質のコントロールが極めて重要となるのである。
設計・開発段階でのコストコントロールが重要である。
これは30年も40年も前から言われ続けているが実現していない。
それはそうだ。
中心となる設計者はまず“原価が大嫌い”だからだ。
なぜなら、「原価を下げろ」としか言われない。
そんなことで、「よい製品がつくれるのか」「コンペで勝てるのか」と言いたくなるのが技術者としての感覚である。
それはそれで正しい。
一方で、原価のプロである経理や原価管理部は、設計に来ない。
工場の実際原価は一所懸命計算するし、経営者へ報告する綺麗なグラフは残業をいとわず作成する。
しかし設計に対して、部品の原価トレンドを整理し、コストファクターを明確にして、協議しながらコスト設計を推進している企業は見たことがない。
設計は原価が大嫌いで、原価は設計に来ない。
こんなバラバラ状態であれば、「設計・開発段階でコストの80%が決まる」というキーワードが実現できないのは当たり前である。
よく、設計と製造は連携がうまくいかないとか、時には仲が悪いなどと表現する。
筆者からすると、設計と原価はケンカすらしない疎遠状態である。
陰口でもいいので、不満を言い合っているほうがまだ健全である。
疎遠状態で無関心が一番の問題だ。
こんな状態でコストコントロールができると思っているのだろうか。
属人的なバラバラ設計をやめ、絵と文字から脱却し、設計を情報化し、設計諸元ごとの設計思想の標準化を推進していく必要がある。
そうすることで、設計を組織的に見える化できるし、設計者同士の工夫や苦労を共有できるナレッジプラットフォームとなるのだ。
第三者から見えるようになると、理解も深まるし、「技術部門は、マニアックで何をやっているかよくわからん」といった指摘は受けにくくなるはずである。
製品情報が分断していたらプロダクト損益が見えないのは当たり前である。
しかし、この繫がっているという当たり前が多くの企業でできていない。
その分断を解決する方法として、E-BOM/M-BOM連携や、BOPがある。
そして、足元の情報がしっかり繫がって土台になることで、2つめのレイヤーとして、原価見積や原価管理ができるようになる。
さらにその上のレイヤーで、的確な意思決定やプロダクト損益の見える化ができるのである。
製品情報はライフサイクルを通して一気通貫に管理されていなければならず、そのうえで、原価や品質の実績(=実力)が設計へフィードバックされる状態をつくり上げることである。
1 絵と文字から脱却し、テクノロジーによる改革をする
2 管理強化から脱却し、設計ナレッジに着目した改革をする
3 個人商店化した属人的バラバラ設計から脱却し、全員力の改革をする
設計思考
まずは、「①要求仕様」である。
設計は必ず要求仕様がないと始まらない。
各種設計のゴールとなるからだ。
顧客要求を漏れなく認識・定義することが重要となる。
次に「②設計」である。
ここでいう設計とは、設計パラメータを決める行為となる。
設計論には色々あると思うが、筆者は設計の本質は設計パラメータ(設計諸元)の決定であると思っている。
競争力の源泉は、要求に適した最適な設計諸元を選定できるかで決まる。
この設計諸元の決定方法が、設計ナレッジそのものである。
設計は“図面”への意識が強いが、製品のQCDは全て設計諸元が支配している。
要求に対して、樹脂部品の肉厚を0.5mm間違えるだけでトラブルになるし、架構の板厚を安心安全を考えて2mm厚くしてしまったらコストが高くなる。
0.5mmとか2mmとか数ミリの世界で、トラブルに繫がったり、価格が高くなって買ってもらえなくなる。
そんな厳しい世界の中で最適な性能値や寸法値を選定できるかが競争力の源泉となっている。
次に、「③図面」である。
イメージとしては、②設計で選定した設計諸元値があって、それらを絵にする行為(作図)が図面化となる。
なので、図面は設計諸元の集合体でしかないため、あくまでも設計結果なのである。
これは、出図前の仕掛段階であったとしても、思考過程においては結果でしかないのだ。
では、「④設計部品表」は、なぜ必要なのか。
結論から言うと、設計とその後工程とのコミュニケーション改善(手続き改善)のために必要である。
設計の後工程である調達/製造は、「量」で仕事をする。
どの部品を何個買うのか。
どの部品を何個つくるのか。
原則、品番と量で仕事が成り立っている。
しかし、図面は質(スペック)の表現体系なので、図面のままだと後工程は仕事がしにくい。
だから、設計の結果を、量で表現し直すことで、後工程とのコミュニケーションを円滑に進めることができるのである。
これは、言い換えれば、設計のスループットを向上させる効果も期待できる。
また、「⑤原価表」も同様だ。
設計諸元と部品表が決まれば本来は自動的に決まるべき内容である。
どの設計諸元がコストに影響しているか(コストファクター)の見える化が原価の自動算出に繫がる。
スペックマネジメントである①要求仕様、②設計、③図面だけを行えば、ボリュームマネジメントの世界の④設計部品表、⑤原価表の自動化を実現できるのだ。
もっと欲を言えば、設計の本質は①要求仕様、②設計なので、①、②だけを行えば、③図面も自動で作成され、④、⑤も続いて自動化することも狙えるのだ。
設計情報は、論理構成・E-BOM・図面・設計諸元と階層的な情報となる。
そのうち設計諸元の選定がナレッジとなるため、その部分の思考を論理的に言語化し、数値化し、情報として管理できれば、テクノロジーの活用ができるようになる。
1つめに、そもそも設計として決めるべき「①諸元項目」を知っていること。
例えば架台の天板を考える際に、板厚・幅・角R……と決めるべき項目を理解していること。
流用設計を続けていると、普段変更しない形状に注意がいかない。
端部についている段差がなんのために存在するのか。
設計要件で存在しているのか。
はたまた製造要件で存在しているのか。
流用設計だと、これらを知らなくても設計が完了できてしまう。
しかし、これでは設計を理解したことにならない。
自分の図面は、いくら流用元から変更していなくても、設計として決めるべき項目に対しては責任が発生する。
なので、そもそも設計として責任を持って確定している諸元項目がなんなのか、それに的確に名前をつけ、その形状が存在する意味・目的を知っていることが、ナレッジの始まりとなる。
2つめとして、「②諸元値」である。
その諸元値の過去実績(特に、Min-Max)を知っていることが重要となる。
Min-Maxを超える寸法を採用する場合は、注意が必要となるからだ。
実績値を知っているだけでも、非常に大きなナレッジである。
先程の例で言うと、天板の板厚を検討する際に、過去実績として「6mm、9mm、12mm。XXの場合は特殊だが15mmも使ったことがある」などを知っていることである。
3つめとして、「③ルール」である。
これは前述した、条件と判断基準に分解される。
天板の板厚なら、6mm-15mmの実績をどのような基準で選定するかである。
どんな場合に6mmを選定するか、9mmを選定するかである。
強度計算書などのツールを用いて、運転条件ごとの安全係数を用いてどのように諸元値を確定させるかである。
イメージとしては、この条件と判断基準が、Excelの関数に置き換わり、諸元値選定を自動化し、設計を効率化させるのである。
最後の4つめとして、「④経緯・根拠」である。
この「経緯・根拠」が最も重要な要素なのである。
図面には、検討結果の寸法値だけが記録されている。
その寸法値も大切だが、その寸法値にした経緯と根拠のほうがもっと大切なのだ。
流用元図のクリアランスは350mmだったが、そこから300 mmに変更したきっかけはなんなのか。
設計要件で変えたのか?製造要件で変えたのか?どのような検討をして300mmに決まったのか?本来は280mmが理想だったが、納期の関係上妥協して300mmにしたのかもしれない。
これらの経緯を知っていることが、設計のナレッジを最も知っている状態と言えるのである。
このようにナレッジを4つに要素分解ができると、今までスローガン化していたナレッジ化・技術伝承の取り組みが、具体的な活動に落とし込みが可能となるのだ。
阻害要因の1つめとしては、「原価計算は精度が大切」という考え方である。
実際原価に代表されるように、「原価=精度をよくしなければならない」「原価=間違ってはならない」など、正確で精度よくという、固定概念や先入観を持っている。
確かに、実際原価は実力を示すため、正しい実力を測るには計算精度を追求していく必要がある。
しかし、今必要になっている見積原価に限っては、その逆である。
見積原価は、計算精度を求めると必ず失敗する。
実際原価は、実際に起きている事象を原価として表現しているだけなので、理論上100点の精度を追求することはできる。
しかし、設計段階での原価(=見積原価)は、これから設計・製造するものに対して原価を想定(コストシミュレーション)するため、理論上も100点の精度は絶対にありえないのだ。
見積原価は実際原価とは違い、精度の良い原価とならない。
この「精度が悪い原価」というのが見積原価の導入を阻んでいるのである。
この頑張ったら損をするという「頑張ったもの負けの文化」が最悪なのだ。
原価意識を持てと言うなら、精度の良いコストテーブルを提供してくれ!と言いたくなる。
問題点を浮き彫りにするために、話を誇張して表現したが、要はコストテーブルの精度は良くないので、その誤差は誰が対処するか?という問題にぶつかる。
その誤差対応を設計者に求めたり、予算超過の対象としたりすると、設計者は前向きになれない。
結果、設計はどんどん原価から離れていくことになるのだ。
この見積原価を導入しようと思うなら、「いい加減な原価」「適当な原価」という価値観を受け入れる必要がある。
ここで我々は適当という概念と、どう向き合うかについて考えなければならない。
いい加減な原価を認めるとする。
その場合、どの精度になったら運用開始してもよいのか。
誤差に対して誰が責任を持つのか。
どこまでの精度になれば参考価格から予算管理の活用に格上げできるのか。
こういった様々な問題が見えてくる。
別の阻害要因としては、「原価は、設計が終わってからチェックするもの」という考え方である。
未だ多くの企業が、設計の原価チェックは出図後にするという発想が強い。
これは、前述の見積原価に精度を求めすぎた結果ということでもある。
設計では、類似部品からの勘見積を行って、あとは調達が正式な見積を取得する。
これでは、原価チェックが後手後手になっている。
見積原価計算基準をつくることができれば、原価のPDCAを回すことができるのである。
基準を持つことで、「見積原価」→「標準原価」→「実際原価」という原価の流れをつくることができる。
また、振り返りの際も大きく3つの視点で原価分析を行うことができる。
1 仕様差……顧客仕様差・技術仕様差など
2 構成差……部品差・システム構成差・製品構成の差など
3 原価差……単価差・コストファクター差・コストテーブル基準差・見積前提差など
これらを、ライフサイクルの上流から下流までを一気通貫に差分管理していくことができる。
特に重要になるのが、設計の上流である。
企画量産型であれば、DR0とかDR1などの基本構想の設計段階。
個別受注企業であれば、見積設計段階である。
設計段階における原価というと、多くの人が詳細設計の出図段階を思い浮かべる。
無論、その段階で原価意識を持つことも重要であるが、もっと重要なことは基本構想設計や見積設計段階である。
基本構想設計や見積設計段階で、全体の性能目標・基本構造・方式・キーパーツの仕様など、コストレベルが決まる重要な諸元が決まってしまうからだ。
原価のPDCAを実現しようと思うと、ライフサイクルの上流段階から管理し、各フェーズで差分管理をしていき、原価差分に関してはどこか1部署に責任を負わすのではなく、共同責任にしながら、体系的なデータマネジメントが必要となる。
最後にもう1つ、見積原価の導入の阻害要因を述べておく。
「一物一価」という考え方だ。
一物一価とは、品目マスタに対して、原価登録は1つにするという考え方だ。
これは、財務や経理がこだわることが多いが、標準原価計算を行ううえで必要な考え方だ。
言い換えれば、期間損益のシステムにおいては、一物一価は当たり前ということになる。
そこで、設計に原価チェックさせるには、会計システムの品目マスタの原価情報を開示すればいいという考えもある。
会計システムのデータがあれば、原価確認できるはずだが、そんな簡単な話ではない。
前述の一物一価の考え方があるため、品目マスタの原価情報を見ても、1つの原価情報(=標準原価)しか登録されていない。
しかし、モノの価格はサプライヤによっても異なるし、発注ロットによっても異なる。
モノの仕様は同じでも検査要求レベルが異なれば価格も変わってくる。
それらの価格決定要素(これをコストファクターと呼ぶ)によって変動するようなデータの持ち方でなければならない。
見積原価を検討する際には、言い換えれば、プロダクト損益の会計システムの検討の際には、一物一価という概念はまず捨てるべきである。
今の調達システムは、あくまでも支払のためのデータ入力でしかない。
価格差の原因が、ロット差なのか、物流要件の差なのかは、全てメーカーからの見積書に記載されている。
しかし、見積書はPDFで受領し、PDFの状態で保管されているだけである。
見積書には、モノの仕様、ロットなどの購入仕様、物流仕様も詳細に記載されているが、調達システムには一切登録されない。
見積書には、部品費・加工費・出精値引き額など明細が書かれていることがあるが、調達システムには、それら明細を登録せず交渉結果の価格を一式で登録する。
繰り返しだが、今の調達システムは支払用システムになっているからだ。
よって、この見積書をデータ化できれば見積原価の実現に大きく近づくのだ。
メーカー見積書に記載されている見積仕様と価格のデータ化である。
これは調達が手で登録していくしかない。
しかし、それは設計のためのデータ化ではなく、調達として査定力向上のために、必要な取り組みと思うべきだ。
次に触れる統計コストテーブルの構築にも大きく貢献するので、ぜひ設計と調達の共同活動として推進してもらいたい。
この見積書のデータ化は、忘れ去られるテーマとなりがちだ。
設計システムの導入時は、見積書管理は調達関連業務として検討対象外になる。
また、調達システムやERPの導入時は、原価計算や支払いなどの財務データを中心に検討されるため、見積書の管理や内容のデータ管理はほとんど扱われない。
技術と会計の分断、PLMとERPの分断が、見積書管理をおざなりにする原因となってしまっているのだ。
技術と会計の融合や、原価のPDCAには、この見積書のデータ管理が実現の要といっても過言ではない。
コスト構造
コスト構造を分解し、コストの原単位を分解していく方法をとる。
<構造的コストテーブル>
・部材費…………重量当たり単価と購入品重量から算出
・加工組立費……切断/組立などの工程を整理し、想定される標準作業時間と賃金レートを掛けて算出
・物流費…………輸送形態と距離のマトリクス表から算出
・その他経費……全体の5%や10%などの一定比率から算出
<設計費の場合>
・設計区分………メカ設計/エレキ設計、全体システム設計/部品設計、見積設計/受注設計、など
・新規区分………新規大、新規小、流用など
・作業区分………作図、審査会対応、購入品対応など
→これらの区分を原単位とした設計工数表があり、それに設計費のチャージレートを使って計算設計外注を使っている場合は、社内と外注でテーブルを分けている場合もある(チャージレートが異なるため)
自社から依頼した内容(=発注仕様書)と、その結果として回答のあった金額(=見積価格/発注金額)を扱う。
その事実として存在する「発注仕様書の項目」と「見積価格/発注金額」の相関を統計的に紐解こうというものだ。
【構造的】
○論理性/説明性が高い。
○計算精度がよい。
×原単位の整理に時間がかかる(調査など多くの労力を要する)。
×実力より理想が強くなる。
【統計的】
○事実情報だけを扱うため迅速に整備可能。
○論理性より実力を反映した内容となる。
×計算精度に限界がある。
×コストファクターの説明性が弱い。
図面でコストが決まると思っている人も多いが、図面はあくまでも諸元値の集合体でしかない。
そのため、設計としてはこの諸元値の選び方が最も重要となり、また設計者が頭の中で諸元値を選定している際に、品質と原価のバランスを考えながら最適な諸元値を選定してもらわなければならない。
ベテランはこの諸元値の選び方が絶妙にうまく、無駄なくギリギリまで諸元を削ることができるのだ。
図4にあるように、諸元値のうち、「性能」と「方式」によって、大きなコストレベルが決まってしまう。
また、「方式」と「寸法」でコストファクターが決まってしまうのだ。
それらの要素を通じて、図面としてコストが確定することになる。
そうすると、「設計諸元」と「原価」を紐解くことができれば、設計者が使えるコストテーブルの整備が進むのだ。
発注仕様書のテンプレートにコストテーブルを埋め込めば、発注仕様を確定しながら、原価を確認することができる。
また、3DCADとコストテーブルを連動させることで、モデルを作成しながら、原価を確認できる。
論理構成のBOMに対してコストテーブルを埋め込むことで、E-BOMにて原価を算出し、原価積上が可能となる。
原価のPDCAを回すためには、経験と勘に頼った見積から脱却し、上流の設計段階からコストテーブルや基準に基づいた原価算出が必要となる。
そのためにも、設計諸元と原価を統計的なアプローチで紐解き、コストテーブルを構築するのが有効である。
技術と会計の融合をデータとして実現する1つの方法となる。
統計のデータ分析を行うためには、設計や原価のデータが必要になる。
第2章でも述べたが、設計を絵と文字から脱却し情報化できれば、原価との分析も可能となる。
なので、発注仕様書Excelから仕様項目は自動抽出し、CADから形状の寸法を自動抽出し、技術計算書Excelから技術仕様・計算結果も自動抽出し、設計諸元DBを管理できるインフラを整える必要がある。
あくまでも自動抽出が前提である。
次に、購入品であればメーカーの見積書のデータ化も避けて通れない。
メーカー提示仕様・見積前提・見積金額・金額明細などもデータ化しないと分析ができない。
ただ、見方を変えれば、データ化は単純作業のため外部の力を借りることもできる。
データ化さえできれば、統計処理も可能だし、その先には機械学習などのAI化も待っている。
原価に関しても人間と機械の共存の世界をつくり上げることができるのだ。
特に設計における納期管理は、バッファマネジメントと、作業の着手管理が本質的になってくる。
設計のように思考性を伴うタスクにおいては、最初の20%部分の作業をいかに早く着手させるかが重要となる。
20%分だけでも着手すれば、難しさや情報の不足、他部門調整事項が見えたりするものだ。
残差率
残差率とは、統計誤差の比率(コストテーブルから算出された予測値と実績との統計誤差の率。残差率 =(実績値-統計予測値)/実績値の式で示せる)である。
要は、コストテーブルで算出される原価の誤差が1万円といっても、1万円の買い物をする際に1万円誤差が出たら使い物にならない。
だが、100万円の買い物の際に1万円の誤差なら使い物になる。
なので、実際原価の何割の誤差が出るかで精度を測るしかない。
残差率は活用目的とか現在のデータ精度にもよるので、目安の数値も言いにくいのだが、残差率(平均)が±20%以内になれば業務上多くのシーンで活用ができると判断している。
購入価格は、モノのスペック(設計諸元)によって決まる。
高いスペック(高強度の材質・厚い板厚・厳しい寸法公差など)を選ぶと購入価格も高くなる関係性だ。
その「スペックと購入価格の関係性」の精度が悪いということは、スペックに基づいて適切に査定・値決めができていないということがわかる。
スペックに応じて論理的に合理的に値決めをしていれば、自ずと統計の精度が上がるからだ。
統計の精度が悪い場合(バラツキが多い場合)は、スペックに応じた査定・値決めを徹底していく。
そして、半年・1年と統計精度が上がっているか(バラツキが減っているか)、傾向を管理していくのだ。
1年・2年とデータ分析しても、統計の精度がいい(=スペックと購入価格の傾向がある)ことが続いていることは、購入の価格レベルが変わっていないということになる。
過去の延長線上で購入しており、ある種惰性で購入しているといってもいい。
本来は、積極的なVEを行い、コスト構造を根本的に見直さなければならないのだ。
そうすると、精度が悪くても使えるし、精度が良くてもそのままではダメだ。
常に改善サイクルを回しながら、コストテーブルの運用をしていかなければならない。
1.統計精度が悪い(バラツキ多。スペックによる値決めになってない)
2.スペックに応じた値決めを意識
3.統計精度が良くなる(バラツキ少。様々に活用できる)
4.統計精度良いコストテーブルを使い効果を出す
5. VEなど価格レベルを下げる(購入価格の不連続を起こす)
6.バラツキが出始め、統計精度が悪くなる(バラツキ増える)
7.下げた価格レベルに合わせて値決め意識(バラツキ減らす)
固定費マネジメント
この固定費と変動費、どちらが儲けを左右するのだろうか。
結論から言うと、変動費は儲からず、儲けているのは固定費となる。
なぜなら、部品などの購入品に代表される変動費は、顧客から頂いたお金をサプライヤや外注に渡すので基本的に手元に残らない。
無論、変動費のロス分の改善や仕入値の値下げは利益に繫がるので変動費のコストマネジメントは重要だ。
しかし、企業全体から見た際の儲け力は弱い。
しかし、リスクも少ない。
売れないと思えば、買わなければいい。
売れる分だけつくり、つくる分だけ買う。
そうすることで無駄なキャッシュアウトを減らすことができるからだ。
なので、量産企業になればなるほど、サプライチェーンマネジメント(SCM)・ジャストインタイム(JIT)などが重要となるのだ。
SCMもJITもロス改善である。
ロスを改善し利益に繫がっているので、儲け力を高める取り組みと思ってしまうが、本質的にはロスをゼロにする取り組みと言える。
固定費マネジメントは何をするか。
固定費は、原則、減らすことができない。
設備・金型・治具など、すでに買ってしまっているため使わなかったとしてもお金が戻ってくるわけではない。
設備などは占有率を減らして、自分の製品に対する負担を減らすことはできるが、会社全体で見たらキャッシュアウトが減っているわけではない。
減らすことができなければどうするか。
「増やさないようにする」ということである。
設計が新しいことをすると、原則的にはそれに伴って新しい固定費(治具・工具・作業など)が発生する。
そうやって固定費を増やしていくと儲からない。
なので、固定費マネジメントとは、設計が新しいことをどんどん行うが、新しい固定費を抑制できるマネジメントのことである。
その実現には、設計者に工程フロー・コストファクター・リードタイムファクターを理解させるという当たり前の話に帰着する。
昔から言われているつくりやすい設計、フロントローディング、コンカレント・エンジニアリングを再考することになるのである。
設計は「顧客要求の実現」と「社内のつくりやすさの実現」という二律背反の中から、最適解を見つけていくのがあるべき姿である。
コストマネジメント
1 コストプラン(目標値・あるべき原価の算出)
目標原価や予算の決定部分。
これが全ての始まりである。
これは、売価から利益先取りで、製品全体の目標原価が決まる。
そこから、部品・費目に予算を分配していく。
原価企画的に表現すると、目標原価の割付という行為となる。
2 コストシミュレーション(見積・実力の算出)
本章で解説したコストテーブルの部分である。
設計者が自ら原価を確認し、設計諸元を確定できる仕組みが必要となる。
類似部品の原価を参考にしながら、経験・勘見積を行っているだけでは、振り返りもできず仕事のレベルを上げていくことができない。
コストテーブルは実績を元にしているため、実力を反映していることになる。
3 コストダウン・レビュー(原低アイテム管理・原低評価)
目標と見積が算出できれば、そこにギャップが生まれる。
そのギャップは改善しなければ利益が出ない。
そのためのコストダウンのアイテム管理が必要となる。
これは、設計の見直しだけでなく、調達の買い方改善、製造のつくり方改善、運び方改善など様々な視点でコストダウンアイテムを洗い出して検討していく。
そして、どこまで検討・調整ができたか、コストダウンアイテムの評価をしていく。
個別受注型は受注後は出図納期に追われ、コストダウンアイテムを出して、調整する時間的余裕がない。
なので、原価企画活動が根づいていないのだ。
しかし、個別受注型企業でも繰り返し設計の要素がある。
それは、見積設計だ。
見積設計は1回だけということは少ない。
最初に顧客から予算取りレベルでの問い合わせがあり見積設計を実施し、その後、顧客の要求仕様も少し明確になり2回目の見積設計を実施し、最終的なコンペで見積設計を実施する。
見積設計のプロセスで見ると、繰り返し設計だ。
しかし、このように繰り返し設計を管理できている企業が少なく、引き合いと見積回答が短いため、ドタバタ対応している企業が多いのだ。
引き合い案件は多すぎて全てをきっちり管理して仕事を回すことができないが、重要案件は受注を取るために、繰り返し設計の中で、コストダウンアイテムを出して計画的に活動をする必要がある。
コストの未然防止
ロスの可視化
設計ロス:発注ミスなどで手戻りが起きた外注設計費など顧客立会による追加要望(費用請求できない分)の設計費など
試作ロス:計画回数から増えた分。設計変更で無駄になった試作部品費など
材料ロス:払出重量と生産品の理論材料重量との差など(端材などの正常発生するマテリアルロス管理)
金型ロス:本金型発注後の追加工や変更費用など
加工ロス:手戻り作業費など(このロスの可視化は難易度が高い)
物流ロス:調達物流・社内拠点間・顧客への特急輸送(混載の場合は製品に直課が難しいが直課できる場合もある)
保守ロス:納品後のトラブル対応費(人件費・部品費など)
ロスの原因分析
顧客の新規性:新規の顧客。安全基準や運用要件などで追加修正が発生
技術の新規性:新技術や新方式の採用により試験や加工で手戻りが発生
設備の新規性:新設備採用時に、計画歩留まりが出ない。部品特性に合わず設備改修など
地域や法規制の新規性:新しい国や未経験の法規制への対応による手戻り。申請書などの手続きのやり直しなど
サプライヤの新規性:新規サプライヤ(特に海外)により検査レベルや提出書類の認識違いで追加発注など
予算管理においては、E-BOMは使用できない。
なぜなら、E-BOMのPN(部品)に対して予算額を入力できないからだ。
部品点数が数十点の場合ならE-BOMのPNに予算入力は可能だろうが、数百点や数千点の部品点数になると、その1つ1つに対して入力ができない。
では、ユニットなど大きなくくりで予算を入力すればいいじゃないかと思うかもしれないが、そういうわけでもない。
E-BOMはあくまでも設計という視点の論理構成を元にしている。
予算には予算の切り口がある。
主要な部品は、1品1品に対して原価入力ができるが、ものによっては「製缶品」「計器類」とか「加工外注」そして「予備費」など予算独自の切り口が必要となるのだ。
それぞれの仕事の切り口・粒度に合わせて、BOMの形態・表現方法は変わってくる。
以下にいくつか代表的なBOMの視点を記載しておく(第2章図14にBOMの関連を記載)。
設計BOM:製品の「集合」を示し、物理構成を表現(実物・実態)
製造BOM:製品の「フロー」を示し、工程を中心にしたInput-Process-Outputを表現(実物・実態)
開発BOM:製品の「性能保証」を示し、論理構成を表現
サービスBOM:製品の「機能交換」を示し、交換単位やサービス構成を表現
購買BOM:製品の「調達分類」を示し、購入単位を表現
原価BOM:製品の「コスト構造」を示し、予算管理区分を表現
様々なBOMが存在する中で、必ず共通して言えることがある。
企業を大きな器と考えたときに、企業に入ってくるもの(購入品)と企業から出ていくもの(製品)というのは、どのBOMでも変わらないのだ。
BOMの末端のPNは必ず「購入品」になるし、BOMの最上位のPNは「製品」となるのだ。
あとは、企業内(大きな器の中)において、購入品(PN)→製品(PN)に変化する間をどのように表現するかが異なるだけだ。
システム的に表現すると、末端の購入品(PN)と最上位の製品(PN)を繫ぐ、くくり方(PS)が違うという表現ができる。
それは、業務によって最適な視点・切り口・粒度があり、業務に適した製品構成で業務を遂行することになる。
なので各種BOMは論理的には統合することは不可能であり、目的に応じた各BOMが必要となる。
原価企画:
・目標原価、実行予算を管理する
・開発プロジェクト、製品開発テーマ、シリーズ別など、予算管理単位と連動する
・製品構成×費目別でコストマトリクスの原価管理を行う
・開発のマイルストーンと連動しながら、コストレビュー会などを実施する
利益企画:
・固定費回収ポイント(利益創出ポイント)を管理する
・固定費回収の単位として、複数の開発プロジェクトやテーマをくくった事業として管理する(1つの開発プロジェクトを分解、再集計する場合あり)
・プロダクト損益データを用いて、利益管理を行う
・毎月の経営会議などと連動しながら、固定費回収管理を行う
固定費回収をマネジメントする際に、データの視点で特に注意すべき点に触れておく。
売上:プロダクト損益のデータにおける売上数量は営業の売上目標数字を使わないこと。営業は必ずストレッチの売上目標を立てるため、固定費回収においては、営業目標値のXX%(過去の目標達成率など)の数字を使用するべきである。
投資:減価償却を行わず意思決定時に、全額(もしくはその案件負担分)を一括計上する。少し話はそれるが、内部的には償却年の考え方を捨てることで、投資の回収管理ができれば有税償却という手法も取ることができる。この有税償却を積極的に活用している企業は少なく、会計のプロである経理や財務部が嫌がるからだ。事業の変革スピードを高めるためにも有税償却は有効な手段になる。
遊休:設備の遊休率を管理し、新設備の積極的利用を促す。設備を一部でも使用すると全額が原価算入されてしまうという基準により行動が歪んでいるケースがある。そのためにも、ライフサイクルを通して遊休時間の累積管理が必要となる。単年ではなく累積が重要である。
配賦:プロダクト損益には原則、製品別の配賦処理は不要だ。財務会計は、棚卸資産計算のために1個当たりの原価が必要となる。プロダクト損益は1個当たりの原価を見るのではなく、事業としてトータルとして利益が出ているかの管理を行うものだ。そのため、複雑な配賦計算なども不要となり、プロダクト損益システムは非常に安価に構築ができるのだ。
技術と会計の融合という二律背反の関係性を解くことが新しい世界に導いてくれるきかっけとなる。
そのためには、設計諸元と原価情報を統計的に分析し、コストテーブルを構築することで、設計者が品質とコストのバランスを考えながら最適な設計を遂行できるようになる。
また、固定費となる資産情報を設計にフィードバックすることで、真のフロントローディングが実現でき固定費を増やさないマネジメントを遂行できるようになる。
E-BOMとCost-BOMを用いることで、予算・見積・原価低減を促進させることができる。
これらも、技術と会計の融合である。
そして最終的にプロダクト損益を見える化し、固定費回収をマネジメントできるようになるのだ。
技術の世界では変動費中心に議論されてきた。
そこに、おざなりになっていた固定費に着目することで、利益管理に大きな変革をもたらすことになる。
それは利益をデザインしていくことになり、設計・開発における「自由度と統制」のバランスをどのように考えるかという究極の命題を議論することにもなる。
技術と会計という二律背反の関係性に対して、融合という矛盾した結論を探し求めることが重要なのだ。
BOPをブリッジとしたPLMとERPの高度連携の起点となる業務が、原価企画である。
そして原価企画を足掛かりに、製品ライフサイクル全般にわたる利益コントロールシナリオを遂行するためのデジタルプロセスチェーンが構築される。
PLM
PLMの主な役割は、BOMを中心に関連する設計情報を集約して、設計部門内での情報共有はもとより、他部門に製品情報として展開していくことである。
とりわけ設計変更情報を抜け漏れなくかつ迅速に伝達することは基本要件となっている。
PLMが支援するこの一連のプロセスは「エンジニアリングチェーン」とも言われる。
BtoBであれば引き合い、BtoCであれば製品企画からスタートし、設計~製造~保守へと至る製品情報のフローであり、モノの流れを表現するサプライチェーンとは対になる位置づけである。
ここで期待される効果は、リードタイム短縮に代表される生産性の向上である。
市販されている多くのPLMは、設計変更管理や設計付帯業務の効率化で、このポイントを訴求することで発展してきている。
一方、PLMが果たすべきもう1つの大きな役割として、コストダウンへの貢献がある。
どのようにして設計フェーズからのコストダウンを進めていくべきなのか?
その答えは全員設計である。
設計者だけにコストダウンの責任を押しつけても絶対にうまくいかない。
設計段階から製造・調達・品証といったモノづくりにかかわる全部門の知見を結集して、設計のコストダウンをサポートするのである。
具体的には、設計上流から仕掛かり段階の設計データ(図面に落とす前のCADデータ)を関連部門と共有する。
いわゆるコンカレントエンジニアリングによるフロントローディングの実現である。
言うまでもなく、この実現にはITが不可欠である。
設計に3DCADを導入する際、このフロントローディングを目標の1つに設定した企業は多いだろう。
しかしコンカレントエンジニアリング(他部門との情報共有)の仕組みを十分に整備しなかったために、掛け声だけで実現できていない企業がほとんどである。
それだけならまだしも、インフラを整えずに設計者の負担だけが増加して、フロントローディングならぬフロントヘビーになってしまったという悲鳴に近い声も聞こえる。
狭義のBOMは調達・製造といったサプライチェーンの基礎情報として、設計の最終段階で手配用に作成されてきた資材明細表である。
しかし原価企画は、設計初期段階から連続的に実施されるものであり、BOMの活用シーンをより上流に求めている。
この開発支援ITとしてのBOMを広義のBOMと位置づける。
そして本項では出図構成として確定したE-BOMと差別化して、その生成過程にある生煮えのBOMをD(Design)-BOMと呼称する。
設計フェーズからの部材費コストダウン実現に向けた取り組みのポイントを挙げよう。
大きくは2つである。
①原価見積の高度化
②部品標準化の推進
以下、それぞれについて解説を進める。
まず「原価見積の高度化」であるが、どの企業においても少なからず課題を感じている業務ではないだろうか。
複数パターンを立案し、価格以外の条件も勘案してベストの方式に絞り込む。
とりわけBtoB企業においては、引き合い段階におけるこの見積のスピードと精度が、受注に直結する。
この一点だけを取っても、BtoB企業が見積業務をIT武装化しなければならない十分な理由になる。
構成部品は使用実績がある登録済部品と新規部品に二分できる。
またそれぞれにおいて、自社オリジナルの専用部品なのか、電子部品やネジ等の規格購入品なのかで、さらに二分されて4つに分類できる。
まず登録済部品については、専用品・規格購入品ともに個々の標準原価を見積単価に採用することが一般的だ。
このコスト情報はERP側で管理されており、原価見積をPLMで実施する場合には、システム間連携によって情報をコピーしてくることになる。
ここでよく耳にする問題がある。
見積に使用する標準原価が一度設定されたきり全く更新されず、実際原価との乖離を放置している企業があるのだ。
つまり「今つくれば」「今買えば」いくらになるのか、正確な情報で原価見積ができないことになる。
これでは現場の地道な改善努力が、受注競争力の強化に繫がらない。
まずは標準原価を定期的継続的にリフレッシュして、見積精度を向上することが、高度化への一歩めとなる。
次に新規部品だが、この取り扱いが原価見積を難しくしている。
規格購入品に関してはサプライヤから見積を取得して、ひとまずその金額を見積単価として採用する。
そして専用部品については類似している登録済部品の実際原価を参考にして見積単価を算出していることが一般的だ。
新規なので当然であるが、予測の見積単価となる。
予測ということは人によってバラつきが生じてしまう。
まずはこのバラつきの排除がスタートになる。
見積単価の算出基準を規定し、自社部品のコストテーブルを構築するのだ。
中小企業の中には、見積業務を特定のベテランエンジニアに専任させている例も少なくない。
これは当然のことながらリスクが高い。
中小の場合はBtoBの企業が多いので、受注活動の根幹となる引き合い見積業務を一点集中させていることになる。
このエンジニアが突発的に離脱することになれば、営業活動において致命的なダメージをこうむってしまう。
即刻、そのノウハウをコストテーブル化して展開し、属人性を排除すべきである。
この取り組みには経営的な効果も大きい。
引き合い見積の対応数を増やせるので、受注案件増加すなわち売上増加にも繫がる。
この新規部品の原価が最も不透明で、かつコスト上昇要因としての影響が大きい。
コストテーブルの設定によって見積精度のレベルを平準化したとして、さて、コストダウンにはどのように取り組めばよいだろうか。
その答えがもう1つのポイントとして提起した「部品標準化の推進」である。
部品標準化とは、種別及びレンジごとに標準的に使用する部品を規定し、複数製品を横断した部品の共通利用を促す取り組みである。
この活動は結果として、無駄な新規部品発生を抑制することに繫がる。
新規部品の使用比率を下げることは、様々な恩恵をもたらす。
・登録済部品で見積もることによる精度向上とスピードアップ
・規格購入品であれば集中購買促進により部品購入額を低減
・専用部品であれば、量産効果によるコストダウンと品質向上
・評価費用や保管費用、保守パーツ在庫など新規部品採用に付随してかかるコストの抑制
・新規部品採用により誘発しうるトラブル対処コストの抑制
部品やユニットの標準化・共通化を推進していくことの重要性は今さら言及するまでもなく、普遍的に認識されている。
コストや信頼性においてチャンピオンと評価された設計資産を全社的に共通利用し、その比率を高めることで新規設計を競合差別化ポイントのみに限定する。
この新規設計比率の減少により、設計期間のみならずTime to marketも短縮でき、エンジニアリングチェーン全般での生産性が向上する。
とりわけ、多品種化が爆発的に進行している企業にとっては必須の取り組みといってよい。
モジュラーデザイン
モジュラーデザインとは、諸元ごとに選択される部品群をあらかじめ認定しておき、組み合わせ設計でバリエーション展開していく手法のことである。
ITの視点でモジュラーデザインを支援するツールと言えば、それはコンフィグレータという機能である。
コンフィグレータは、要求仕様に対応する諸元を選択すると該当するモジュール(部品群)が引き当てられ、その組み合わせにより製品構成すなわちBOMを生成する。
PLMでは品目DBが連携しているため、コスト・納期・在庫などの生産情報や関連ドキュメントも即座に参照できる。
設計変更履歴をたどれば、設計の意図や根拠を確認できるし、逆展開すれば、どの製品で使用されているのかが把握できる。
つまりPLMシステム内にあることで、検索結果から関連する情報をワンストップで確認することができるのだ。
いかに形状的にマッチした部品が見つかったとしても、設計者はそれだけでは「使おう」とは思わない。
その部品のできや実績をオーディットしてから判断するわけで、その調査がスピーディに行えることは非常に重要な要件だ。
BOP
固定費マネジメントを実践するうえで最大のポイントは、製造工程の把握である。
設計するうえで、新たな設備の増加を抑制するとともに、工場全体での稼働率やスループットの向上を意思として反映しなければならない。
自社が保有する設備や工程を制約条件として意識しながら、固定費増加を招かないよう設計を進めることが肝要である。
BOPはこの思考を支援する重要な役割を担う。
ERP側が必要とするインプット情報を全てPLM上でつくり込めるようにするため、これまでPLMで持つことがなかった生産マスタ情報を管理するようになった。
原材料や副資材、梱包資材といった従来PLMでは対象外であった生産管理品目。工場における区画や棚番号といった製造場所情報。設備、治工具、金型などのリソース情報など、設計からは見えなかった製造工程とその生産能力が、BOPによって把握できるようになったのである。
BOPは原価企画業務にも適用されることで、大きな経営効果を生み出す。
原価をつくり込むうえで、固定費マネジメントの要素が入ってくれば、製品の価格競争力のみならず、企業の儲ける力すなわち事業力を強化することにも繫がる。
具体的なアクションとしては、設計段階からつくり方の違いによるコスト差異をシミュレーションして、最適な構成と工程フローを見極めていく。
固定費マネジメントの中核である設備稼働率の向上が、設計段階から実践されることになる。
設計がその作業段階において後工程の状況や見込みをリアルタイムに把握しつつ配慮した設計を行うと同時に、製造や調達が設計仕掛かり段階のデータを共有して設計上流フェーズからVE提案を行えているような環境のことである。
実施すべきは、個別に最適化されたシステムを有機的に連携させ、全てのプロセスにおいて、そのフェーズに応じた有益なデータを過不足なく活用できる環境をつくり上げることだ。
BOPはPLMとERPを有機的かつ高度に連携し、真のコンカレントエンジニアリングを実現できる、とてもバリューの高い機能モジュールである。
BOP登場以前は、出図までをPLM、それ以降をERPの領域というように、両者を分断したうえで連携することが一般的な解釈であった。
BOPの役割は、全てのプロセスにおいてPLMとERPの連携を促し、その両輪でモノづくりをサポートする経営管理システムを成立させることである。
生産でクロスするような位置関係だったPLMとERPが、全プロセスを通じて相互にシナジーしながら、スパイラルアップしていく関係が理想的だ。
現状業務の効率化ではなく、ワンランク上のレベルを目指すためにPLM導入を検討されるのであれば、BOPの完成度や発展性で製品評価することは有効な判断軸になると考える。
PLMとERPの高度連携によるコンカレントエンジニアリングを実施していくに当たって、起点となる業務が原価企画である。
設計上流の原価企画において、ERPからリアルタイムなコスト情報を取得してシミュレーションを実行するということも、両者の連携が密になれば可能だ。
時々刻々と変わる状況の中で、現場は足元の対処のため受動的に判断せざるをえない面もあるが、経営者は常に大局的に捉えて先を見据えた戦略を練らなければならない。
この際のポイントはリアルタイム性、すなわちスピードである。
このリアルタイム性を獲得するためには、製品にまつわる全ての情報を“データ”化して、システムや機械、装置の可読性が担保されたデジタルプロセスチェーンを構築することが前提となる。
第4次産業革命
製造業における第4次産業革命の動きには大きく分けて2つの方向性がある。
1つはスマートファクトリーなどをはじめとするIoT(Internet of Things)を活用した社内の効率化や製造方式の改善と拡張である。
「マスカスタマイゼーション(顧客個別ニーズへの効率的な対応)」の実現や「自律した工場の実現」などがその1つの姿として挙げられる。
もう1つが「製造業のサービス化」である。
これは自社の製品がIoT製品になることで生まれる変革である。
製品にセンサや通信の仕組みを組み込み、販売した製品との間でも情報のやりとりを行い、従来の「モノ」だけで価値を提供するビジネスモデルではなく、製品からのデータを通じたサービスによる「コト」を組み合わせて新たなビジネスモデルを構築する進化である。
壊れる前に故障を予知する予知保全や、製品データをベースとしたコンサルティングサービスなど、新たなデータビジネスが挙げられる。
自律する工場を実現することを想定した場合、受注が入った段階で、設計現場では設計変更の指令が、製造現場には製造変更の指令などが飛び、部品の発注が行われるとともに、これらがシステム的にも物理的にも同期して、最適な生産を行っていくことが理想である。
これをシステムで考えた場合、PLM(製品ライフサイクルマネジメント)、ERP(基幹系情報)システムやSCM(サプライチェーンマネジメント)システム、MES(製造実行システム)など多くのシステムがシームレスに相互連携できなければならない。
一方で、製品から生み出されたデータを活用したビジネスなどを考えると、製品から上がってくるデータを設計部門や製造部門、サービス部門がPLMシステムなどで共有して、得られたデータとそれぞれのCADやMESシステムなどのデータと紐づけして、分析し、知見を導き出すというようなことが必要になる。
この部門間、システム間の壁を越えて連携することは、次世代のモノづくりを実現し、競争力を維持していくための必須事項となりつつある。
また、システム間の連携を実現することは手段であって目的ではない。
部門間のコミュニケーションを活発化するということが最大の価値を生むのである。
製造業の変革を阻むコミュニケーションの壁を取り払うためには、何が必要か。
1つはデジタル化、もう 1つは見える化である。
設計部門は特にデジタル化が遅れている。
設計部門はCADやCAE(第4章参照)の導入が先行しており、一見デジタル化が進んでいるように見えるが、実際にその中身を見てみると設計図面も、構造計算書も、仕様書も、全てが「絵と文字」である。
データというデジタル情報になっていない「絵と文字」は、結局のところ人間が目で見ないと仕事が進まないという根本的な問題がある。
設計情報がデータとして他の部門では、ほとんど活用されていないということがよく聞かれる。
デジタル化の効果がある。
先に述べたIoTやAI(人工知能)活用である。
設計情報がデジタル化されていることにより、製造や販売後の製品データをフィードバックしたときに、設計値と実績値、すなわち計画と実績の比較が可能になる。
比較ができると、反省ができる。
反省はPDCAサイクルにおける改善の基本であるし、またその活動によって新たな改善や変革、ビジネスアイディアが生まれてくる。
大部屋活動とは、設計や製造などの部門の壁をなくし、同じ空間で一体となって製品を生み出す取り組みのことだ。
設計工程などでは「フロントローディング」の価値が叫ばれており、開発の早い段階で品質・コスト・納期(QCD)の検討や評価の工程を前倒しして行い、市場のニーズに合った製品を素早く市場に投入するという取り組みが進んでいる。
在庫が増えると、製造リードタイムは長くなるのである。
本書の趣旨からははずれるので、説明は割愛するが、在庫が少なくなることで、製造リードタイムが短くなり、より工場としてのスループットが上がるのである。
このような付随的な効果が期待できるのも見える化の効用だ。
見える化は正しい行動を促す取り組みである、という事例を2点取り上げたが、企業における様々な活動、例えば標準化や効率化、改善、改革などの全ての取り組みの起点として、まず見える化が基本である。
改善や改革の対象や状況、特にその対象や状況を構成している要素内容がわからなければ、正しい手を打つことはできない。
標準を定める場合にも、必要な情報が見える化されていなければ、何を標準とすべきか判断できない。
一方で標準化とは、それ自体が見える化の活動とも言える。
業務プロセスの標準化とは、誰がやっても同じ最高の結果が得られるような手順でありプロセスである。
また標準値とは、標準化の結果、他の人たちも同じ手順やプロセスで実現できるようになった最善の値と言える。
すなわち標準とは、先人たちが決められた手順やプロセスに従えば誰でも到達することができるようにした基準である。
この標準が見える化されることにより、その標準を基準として様々な企業活動が効率よく進められる。
なお、最初に述べた通り、標準を定めるためには、関連する活動やその計画及び実績の見える化による判断が必要となる。
見える化によって標準を定めることができ、標準によって見える化が促進される。
標準化と見える化は表裏一体の関係である。
高度化は標準を改善して改定していく取り組みである。
先人たちの到達した記録を、更新していく活動と言える。
本書では、高度化は従来よりも多くのことができるようになり、その結果として質、量ともに製品及び業務プロセスが向上するという意味で使用している。
競争力を確保して事業を継続し続けるためには、必須の取り組みである。
また標準があるから、この高度化を効率的に進めることができる。
先人が成し遂げたことが標準となり、標準を活用して高度化を図り、そしてその結果がまた標準となるのである。
このサイクルで、モノづくりはより着実に効率的に進化していくことができる。
また、標準化による効率化で生まれるリソースを使って、さらなる高度化を行うことが事業の発展に効果的である。
改善や改革などの推進においても、高度化の取り組みを積極的に活用すると効果を上げやすい。
一般に、改善や改革の取り組みでは、下げる、減らすといったことばかりが目標になる。
しかし、原価低減や効率化に代表される下げる、減らすといった活動は、事業を大きくする方向にはなりにくく、なによりも活動自体が地味でつまらないし、聞き飽きたという人も多いと思う。
そこで、高度化に代表される高める、増やすということを、ぜひとも目標に取り入れてほしい。
原価企画の視点では、「Plan:原価の企画」→「Do:企画原価実現の活動=標準化」→「Check:企画原価維持を確認=標準」→「Action:企画原価のさらなる改善=高度化(標準の改善)」→「Plan:原価の企画」のPDCAサイクルが実現できていると言える。
トヨタの内外製判断のための原価計算
この仕組みは、「1.長続きしないものを外注に出すな。2.量の安定したものを外注し変動するものは内製で吸収せよ。3.一度外注に仕事を出したら引き上げることはできない。4.下請けから仕事を取るのは良くない。5.少量部品や中途半端な工程は内製で対応すること。」という、大野耐一氏の唱えた調達理念とも整合している。
原価企画の見える化
原価企画は、開発段階から原価のつくり込みを行うための取り組みであるが、開発段階の設計者は機能・品質のつくり込みばかりに追われていることがほとんどである。
市場からの要求は増え、製品バリエーションは多岐にわたり、求められる品質についても高くなる一方である。
そのうえに、設計者に原価のつくり込みまで同時に求めるのは酷である。
そもそも開発設計段階で、設計中の製品の原価を評価しようにも、設計者には原価が簡単にはわからない事情もある。
それにもかかわらず、製品原価の80%は開発設計段階で決定してしまう。
設計者は開発中に機能や品質のつくり込みを行うための様々な試行錯誤、すなわち機能・品質のPDCAサイクルを回して、製品に必要な機能や品質を設計していくが、このとき同時に原価のPDCAサイクルも回して原価のつくり込みを行うことが必須である。
機能・品質と原価のPDCAを両輪で回していくことが肝要である。
そのためには、設計者が現状の業務に加えて、開発段階から原価のつくり込み、製品原価についてのPDCAサイクルも回せるような支援が必要になる。
原価企画支援のための主な3つの施策として「1.コストダウンの知恵を出すための仕組み」「2.開発者のコスト理解とコスト意識向上」「3.コスト設計の目標設定と管理」が挙げられる。
よくありがちな原価企画活動としては、3つめの「コスト設計の目標設定と管理」だけ、それも目標を達成していないと指摘するだけの管理をしているケースがある。
設計者は原価目標が未達であると言われても、どうやったら原価を下げることができるのかわからなければ、手の打ちようがない。
また、設計段階では原価目標を達成していても、市場投入のタイミングで原価目標をオーバーしているようなことも散見される。
まずは、市場投入時の原価を設計段階で精度よく評価できるようになることが第一で、その次に設計者がコストダウンを検討するうえで、必要な支援が得られるようにしなくてはいけない。
それが1つめと2つめの施策である「コストダウンの知恵を出すための仕組み」であり、「開発者のコスト理解とコスト意識向上」などの目標達成のための支援である。
特に、後者の「開発者のコスト理解とコスト意識向上」は、その基本となる重要なポイントである。
営業・販売企画部門においては、「製品機種数が多く販売見込精度が悪いと問題視されているが、お客様の機種に対する要望は無視できないので多品種は当然である。販売見込が狂って製品コストの悪化が起こるのは、むしろ開発遅延や原価高騰に対応できない開発と製造の体制が主原因だ」と考えていた。
開発部門では、「購買数量による仕入価格の変化を見越すことなく見積を実施することや、開発後半に発生する品質問題解決のためのコスト増が課題である。開発時の価格調査は行っているため、原価は購買部門がやりくりすべきで、品質評価後の設計変更はやむを得ない」という意識だった。
また、購買部門は「開発都合で部品を決め、品質評価後に設計変更もするためコストの詰めはあとになり、しわ寄せは全て購買部門になる。販売計画もいい加減で、目標原価に収めるのは無理だ」と、被害者意識を持ち、受け身の風土になっていた。
部門間の協調がうまくできずに、目標原価と市場投入時の原価の乖離は広がるばかりであった。
問題の本質は部門間のコミュニケーション不足にあることがわかり、担当マネージャは改革すべきポイントを「コミュニケーションと共同作業」と定義して解決策の模索を進めた。
同時に進めていた製品の標準化と共通化の取り組みの中で、原価企画における原価見積計算の業務プロセスが課題となっていることもあり、その解消も狙った「ものづくりコミュニケーションプラットフォーム」システムを企画して導入を行った。
改革すべきポイントとして抽出した部門間のコミュニケーションと共同作業の実現を行うために、関連部門が一緒に共同で原価企画を行う重要性についての認識を持つことが必要と考え、システム導入には各部門よりメンバーを選出して実施したのである。
同社の導入した「ものづくりコミュニケーションプラットフォーム」は、自社開発のBOM-DB(E-BOM)ならびに既存の生産管理/原価管理システムと連携させて既存部品や新規設計部品の原価情報を取得して、容易にコストシミュレーションができるようにした。
それによって、設計情報や見積情報も、原価情報と紐づく形で開発部門と購買部門など、関係するメンバーがいつでも容易に最新データにアクセスができ、QCD向上策を部門の壁を越えて検討できるようになったのである。
それによって、開発部門と購買部門、営業・販売企画部門から、様々な改善施策のアイディアが出せるようになった。
特に、購買部門からは、製品を横断したコストダウンアイディアが数多く出された。
また、同システムによって、そのアイディアをすぐに検証評価できるようになった効果も大きい。
製品の標準化と共通化、コスト改革としての原価企画の仕組み導入においては、開発部門、購買部門、営業・販売企画部門が参画したプロジェクト体制とし、開発部門と購買部門、営業・販売企画部門が一緒に原価をつくり込む業務プロセスをつくっていった。
具体的には、構想設計段階からプロダクトマネージャが製品開発の設計指針を宣言して意識を共有するルールを設け、同じシステムのうえで目標を共有し、噓をつかない数値データを共通言語としたのである。
活動を通じて、目標が関係者全員の共通で目指すべき納得感のある数字に変わった。
これにより原価企画に対する参画意識が上がり、改善のアイディア出しも活発になった。
開発ステップの中の主なレビュー関門において、開発部門、購買部門、営業・販売企画部門がそれぞれの数値目標に向かって一体となって活動することで、短期に目標原価を達成できるようになったのである。
部門間のコミュニケーションは改善し、開発工数はもちろん、管理工数の大幅な削減にもつながっている。
コントロールレベル
・商品企画: △ 市場に受け入れられる必要あるが、つくるものを決定可能
・開発設計: ○ 品質コストの制約はあるが、製品仕様決定の自由度は高い
・調達業務: × 調達価格を自社独自には決定できず、市場の影響も受ける
・製造業務: ◎ 設備投資制約はあるが、付加価値部分を自社独自に決定
・販売業務: × 売価決定は市場競争にさらされ、顧客に受け入れられる必要も有
ITシステム
企業のITシステムの構造を見ると、会計システムとも連携する生産計画や在庫管理を扱うSCMシステム(またはERP基幹システム)があり、製造現場には各設備機械を制御するPLC(設備制御システム)が存在する。
その間を、生産ラインを制御するMES(製造実行システム)が繫いでいる。
このように3層になっていることが一般的で、もちろんPLCでは設備の実稼働時間を細やかに取得できる。
ところが、この3つのシステムは、それぞれ主管部門が異なることが多い。
SCM/ERPは管理部門、MESは製造部門、PLCは生産技術部門といった具合である。
システムが分かれていれば、部門も分かれているのである。
気配り生産
気配り生産の考え方は次の通りである。
前工程(=供給側)が後工程(=需要側)の計画をのぞけば自工程の成果物を後工程がいつ使おうとしているかを的確に把握できるので、後工程に迷惑をかけないように自律的に調整して必要なものを必要なときに納入する。
一方、後工程は前工程に必要な計画・進度を見せるとともに、前工程の計画順序を確認する。
逆に、前工程がボトルネックであれば、後工程が前工程の計画と進捗を参照すれば、後工程で必要とするものがいつ供給されるかを知ることができ、その納入にあわせて生産を始めることができる。
この自律的な同期生産方式である「気配り生産」の考え方の前工程を設計部門、後工程を製造部門と捉えると、前工程のCAD/PLMと後工程のSCMとの計画・進度情報をお互いにうまく見えるようにすることで、設計から製造へのスピードアップが期待できる。
新製品の立ち上げ時だけでなく、特に受注後に設計があるような受注生産形態ではその効果は顕著である。
設計検討段階の品番が未採番の状態であっても、その製品構成をBOMとして管理できるPLMシステムも存在している。
そのBOM情報を、品目未採番のものも実際には手配できない仮構成として、SCMシステムに連携すると、製造部門においてはSCMシステムでおおよその計画を立案することができる。
設計部門でその生産計画の情報を参照すると、手配に間に合わせるためには各構成パートをおおよそいつまでに設計して完成する必要があるかを判断して調整できる。
また、設計部門の進度が生産計画に影響するような場合には、システムからアラートを出すこともできる。
BOP(Bill of Process)情報の一元管理、システム化である。
BOP情報とは、先に述べた工程フロー情報に、QC工程表や標準作業手順、検査手順などの製造現場で必要な情報を全て一元的に集約したものになる。
このとき、E-BOMをはじめとする各種設計成果物とM-BOMならびにBOP情報を結びつけて管理することが肝要である。
また、製造情報からフィードバックされる製造実績情報や実際原価の情報も集約して管理できることが望ましい。
この情報を活用して、設計部門に対しては製造制約やコストファクター情報、製造現場に対してはQC工程表や作業手順書を出力して最新情報を間違いなくすみやかに誰でも提供できようになる。
設計変更の場面でも、従来は別々の場所にある変更対象をそれぞれ探して内容を確認して改訂要否を判断する必要があったが、E-BOMの変更をそのままM-BOMに反映できることだけでなく、関連する製造情報への影響範囲をトレースして、製造帳票などの改訂も漏れなくすみやかに行うことができる。
すなわち、設計製造連携の本質は、モノづくりに必要な各種情報を一元管理して、モノづくりに関わる全ての部門でその情報を活用できるようにすることである。
中でも重要なのが、資産情報である。
設備や治具や工具などの情報をリスト化し、加工条件の上限下限制約などをデータ化して、いつでも参照できるようにしておく必要がある。
設計への製造制約やコスト情報、コストファクターの見える化は、この情報に基づいて行われる。
資産情報がリスト化されたBOP情報とE-BOMならびにM-BOMの情報が連携し、SCM/ERPシステムやMES、IoT情報とも連携して一元管理されることで、モノづくりの各部門において図18に挙げる様々な活用効果を得ることができる。
上流からの改革
事業力強化、製品力強化においては、上流である開発・設計段階から改革をすることが重要だ。
特に、企画量産型であれば、企画段階や構想設計段階からの改革となり、個別受注企業であれば、見積設計段階からの改革が必要である。
上流から綺麗なデータが流れれば、製造などの後工程は自然と仕事がやりやすくなる。
製造の抱えている問題も、設計側の情報提示のあり方に問題があるのか、製造そのものに問題があるのか、明確に切り分けできない。
だから、上流からの改革が必要となるのだ。
要件定義と開発
スパイラルアップ的に要件定義と開発を進める際に、大きく3つのステージに分けて検討を進める。
ステージⅠ:データモデルの定義。システムの幹となるデータ保有単位・仕事の単位・リレーションなどを決める。画面や操作性を無視しどのようなデータを管理すべきかを決める。
ステージⅡ:仕事の流れの定義。データモデルが決まれば、それに基づいて大きな仕事の流れを決める。納期管理や原価管理などの視点から管理単位なども決める。
ステージⅢ:運用の定義。最後に操作性・画面の見やすさ・帳票の定義・管理属性などを決める。データ移行や既存システムとの関連を踏まえて運用を決める。
面白かったポイント
めちゃくちゃ面白い。
これまでの知識が統合され整理された感じ。
ひさしぶりにハイライトを引きまくった本。
このノウハウでこの価格は安すぎる。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆