内容
CASE
CASE(ケース)という言葉が、自動車産業のデジタル革命を表すものとして完全に定着した。
CASEとは「C=コネクテッド」「A=オートノマス(自動運転)」「S=シェア&サービス」「E=エレクトリック(電化)」の自動車産業の4つのトレンドの頭文字を取ったものだ。
2016年、ダイムラー(現メルセデスベンツグループ)が作り出した造語である。
包括的に、それぞれのトレンドをシームレスなパッケージとして組み合わせた時、ヒト・モノ・コトの移動を広く再定義する次世代の産業革命、いわゆる「CASE革命」が起こる。
デジタル化(=ソフトウェア)、知能化(=人工知能)、電化(=電気自動車)という3つの技術革新がこのデジタル革命を引き起こすトリガーである。
トヨタ
トヨタは新しい時代のミッション(果たすべき使命)とは「幸せの量産」にあり、クルマメーカーからどんなものを作る会社になっても、「幸せを量産する」会社であり続ける。
モビリティカンパニー
モビリティカンパニーとは何を目指す会社なのか。
トヨタは「幸せを量産する会社」を掲げているが、それでは具体的な姿は分かりにくい。
モビリティカンパニーを少し分かりやすく説明すれば、クルマを通信でつながるコネクテッドカーに転換して、そこから得たデータを解析し、バリューチェーン(企業活動の価値を連携させること)へのつながりを拡大していく会社といえるだろう。
モビリティカンパニーとは何を目指す会社なのかといえば、「クルマをコネクテッドカーに転換して、そこからつながるバリューチェーンを拡大していくことである」
バリューチェーン
現在の伝統的な自動車事業のバリューチェーンとは、新車のローンやリースという販売金融事業(主にトヨタファイナンスが担当)、ディーラーで購入する部品やアクセサリー販売(主にトヨタモビリティパーツが担当)、修理やメンテナンス、保険代理店収益が中心である。
トヨタには、MaaS車両の製造・販売、メンテナンスの収益に加えて、サービサーと呼ばれるサービスを提供する事業者に対して、アプリストアからのアプリ販売や月ぎめで支払うサブスク収益などが期待できる。
人流と物流のデータとサービスや物品販売のデータをかけ合わせれば、データ駆動型の新たなサービス開発、需要予測や行動分散に関するアルゴリズム(手順や計算方法)開発でも先行できる。
米国ゲットアラウンド社向けのスマートキー、東南アジアではグラブ向け「トヨタ・トータルケア」、中国の滴滴出行向けの車両メンテナンスやドライバー安全運転指導などがある。
いずれもMSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)を基盤としたコネクテッドサービスとして提供され、車両販売→保険・金融販売→車両管理→メンテナンス→中古車販売のバリューチェーンで稼ぐ仕組みを作っている。
モビリティカンパニー宣言を発した2018年からの5年間の仕込みが開花するため、2025年までにバリューチェーンビジネスの営業利益は2兆円近くへ拡大する可能性がある。
金融事業は6500億円、補修部品・用品が9500億円、コネクテッドサービス/中古車で3000億円の収益を生み出すだろう。
これがバリューチェーン収益拡大の第1波となる。
第1波のバリューチェーン収益が、トヨタの損益分岐点生産台数を現在の640万台から500万台まで引き下げ、この稼ぐ力がマルチパスウェイ(全方位)戦略を遂行する効率の悪化を吸収し、さらにはEV投資を推進する原資となる。
その先には、SDV領域でのOTA(通信を用いたソフトウェアのアップデート)やアプリ販売、エネルギーマネジメント、スマートシティのOSとつながる新事業が生まれ、第2波のバリューチェーン収益の飛躍を目指そうとしているのである。
テスラ
第1に、テスラは伝統的自動車メーカーが抱える3つのレガシィを持っていない。
まずは、「エンジンレガシィ」がないことだ。
フランチャイジーとしてクルマの販売の独占権を持っている「ディーラーレガシィ(昔ながらの販売網)」を持っていない。
テスラはオンライン直販で、メンテナンスは契約業者に委託している。
この結果、販売効率は高く、流通コストを大幅に削減できる。
最後に、ボッシュやデンソーといった開発を水平分業的に依存している「ティア1レガシィ」もないことだ。
ティア1とその配下にあるティア2、ティア3のサプライチェーンの存在は、変革へのスピードを遅らせる足かせとなる。
第2は、テスラは次世代車に不可欠な技術を垂直統合し、それを独自開発する能力を有している。
車両に必要な車載電池、半導体、統合されたシステムを組み込んだSoC(システム・オン・チップ)、ソフトウェア、電子プラットフォーム(=E/Eアーキテクチャ、クルマを制御する電気と電子の理論的なデジタル構造)すべてを自前で開発している。
第3は、データを自動運転ソフトやエネルギーマネジメントなど、OTA(通信を用いたアップデート)を通じてマネタイズできる基盤づくりで圧倒的に先行していることだ。
SDV
提供価値には、「安心・安全」があり、ユーザーの「便利・快適」への広がりという顧客体験の拡張が主眼にあった。
コンサルティング企業のSBD社が公表している定義で説明をする。
レベル1・0(機能的):固有の機能を指向したE/Eアーキテクチャをベースに、複雑に分散したECUを持つ構造。
低速で携帯連携など介したコネクティビティ(接続性)を有する。
レベル2・0(デジタル):広範囲なE/Eアーキテクチャをベースに、更新可能なインフォテインメントのドメインを有する。
車載に組み込まれたテレマティクスコントロールユニット(TCU)を介したコネクティビティを有する。
レベル3・0(アップデート可能):ドメイン型のE/Eアーキテクチャをベースに、高度運転支援とインフォテインメント領域でアプリケーションのアップデート機能を実現している。
高速通信の車載組み込みを介したコネクティビティを有する。
レベル4・ 0(サービス指向):サービス指向アーキテクチャ(SOA)を確立し、継続的なアプリの統合、車両ファームウェアへのOTA実現。
車載組み込みの5G/CV2X(クルマとインフラをつなぐ高速通信)コネクティビティを有する。
ビークルOS
ビークルOSとは、厳密にいえばスマートフォンのようなOSではない。
その役割は大きく3点ある。
第1に、外部に対しクルマのインカーにあるデータを隠蔽(クローズド)し、クルマの外部と内部をやり取りする標準APIを提供するソフトウェアプラットフォームであり、これは外部とつながるサービスプラットフォーム的な役割である。
第2に、リアルタイムOSやミドルウェア(OSとアプリケーションの橋渡し的な役割を担うソフトウェア)とハードウェアの司令塔となるハイパーバイザーの橋渡しをする存在として、自動運転や車体制御の「アプリケーション群の調停作業」をビークルOSは司る。
これが個性のある走行性能や、走りの味、パーソナライズなどの新しいクルマとしての価値を作りあげていく。
第3に、非車載領域において、外部でのアプリ開発に向けた「SDK(ソフトウェアデベロップメントキット)」、テスト・実装を効率的に行う「ツールキット」を提供するクラウド上のソフトウェアプラットフォームである。
アンドロイドOSのように第三者によるソフトウェア開発を可能にする。
ビークルOSを搭載した車両であればサードベンダーが開発するアプリケーションが動作することが保証され、エコシステムを作り出すことが可能となる。
アリーンOSはデータ駆動型のソフトウェアビジネスを拡大実現させ、トヨタの未来のバリューチェーンの成長をけん引する基盤となりえるのである。
アリーンOSが提供する機能を3つに分け、①ユーザーインタラクション(UI)、②SDK(サードパーティ向けソフトウェアデベロップメントキット)、③ツール(トヨタとティア1の開発/評価ツール)と整理している。
EV専用プラットフォーム
次世代EV専用プラットフォーム構想を加藤は以下のように説明した。
第1に、プラットフォームは3分割の新モジュール構造を採用する。
これはTNGAのフロントとリアを流用したe‐TNGAと似ているようで、実は全く新しいアプローチだ。
フロント、リア共にEVに向けて専用設計し、「ギガキャスト(大規模なアルミダイキャスト)」を採用して部品統合を進め、簡素化とデジタル化に対応し、ゴールには全く新しいクルマの組み立て工程を実現することを目指す。
第2に、電池専用構造とするセンターモジュールは電池の進化を柔軟に受け止めることが狙いだ。
そのため、トヨタは5つの新開発電池を導入する考えだ。
センターモジュールはバッテリーを一体化した車体の構造体となる。
第7章に出てきたテスラのバッテリー構造は「ストラクチャーバッテリー」と呼ばれ、非常に高い統合度を実現した。
トヨタの構造にはそこまでの統合度はなさそうであるが、フルラインで攻めるトヨタには一定の柔軟性を残す必要がある。
EV市場
2022年の世界のEV市場は758万台に達し、全体新車需要に占める構成比は10%に達している。
その内6割強は中国が占め、その規模は487万台に達している。
ここに、プラグインハイブリッド車を足した数値では、市場は1000万台に達し、全体新車需要に占める構成比は14%に達している。
面白かったポイント
トヨタ、自動車業界、EV市場を一気に頭にいれるのに最適な本でした。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
目次
第1章:トヨタつまずきの本質論
第2章:CASE2.0と国内自動車産業の六重苦
第3章:世界のEV市場の現在地と未来図
第4章:トヨタのマルチパスウェイ戦略
第5章:10年に一度のサイクルで訪れるトヨタの危機
第6章:2020年に再来したトヨタ最大の危機
第7章:テスラの野望
第8章:次世代車SDVへの進化
第9章:トヨタ新体制の戦略
第10章:トヨタに求められる変革
最終章:国内自動車産業の未来