ファシリテーションの教科書

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『ファシリテーションの教科書』グロービス

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内容

考える組織

トップから現場最前線のメンバーまで、組織の 1人ひとりがそれぞれの持ち場で何を解決すべきか、なぜそうなっているのか、どうすべきかを自ら考え行動すること。

さらに 1人ひとりが自らの考えを積極的に発言し、知恵を出し合い、組織として最適な結論を素早く導く。

立場や利害の違いを超えて相互理解を図り、合意を形成し、納得のうえで一気呵成に動く。

このように強い個が掛け算のように力を増幅させながら協働する組織が「考える組織」です。

そうなってこそ、環境の変化を素早く察知して、俊敏に適応し、新たな価値を継続的に生み出すことができます。

 

腹落ち

乗り越えてでも「やろう!」と思えるためには、これができるとこんなに嬉しいという「ワクワク感」と、自分こそがやるべきだという「当事者意識」を持つことが必要です。

 

「腹落ち」させるためには、大きな方針や目的をメンバー自らがブレイクダウンし、自分の業務のレベルに落とし込み、自分の問題とさせる。

そして実際の業務に照らして、何をどの程度どうするべきか、具体的な判断軸を自ら考えさせる。

こうしたプロセスを踏むことで、メンバーが自分で自分を納得させることが必要です。

 

仕込み

いろいろ議論した結果、何らかのアクションをとることが意思決定され、その意思決定に沿って誰かが行動するためです。

そして、その行動が価値を生み出すのです。

つまりビジネスにおける議論の最終目的は、こうした「行動の決定」です。

 

わざわざ議論をするのには、それに見合った効果が期待されます。

ではその期待効果とは何でしょうか?

1つは、現実的に1人の人間がすべての情報を処理し、正しい意思決定ができるとは限らないため、多くの人が各自の専門性に基づいた知恵や情報を持ち寄り、さまざまな考え方をぶつけることで優れたアイディアを生み出し、「より良い結論を導く」ことが期待されます。

「決定内容の合理性を高める」ことです。

 

もう1つは、たとえ同じ結論に到達するのであっても、関係するメンバーが議論に参加し、決定に関与することにより、決定事項に対する納得感を高めること。

つまり、「決定プロセスの納得性を高める」ことが期待されます。

 

人は自分が十分に理解・納得・検討する時間を与えられずに判断を求められることに強いストレスを感じるためです。

自分がその立場になるとよくわかるのですが、逆の立場だと、つい人に強制してしまうのです。

 

参加者を深く知る

話されるテーマ、議題から考えていく方法です。

そこで押さえるべきポイントは、議論に参加する相手が「何を知っていて何を知らないのか?」(テーマに対する認識レベル)と、「その議題に対してどのような考え・意見を持っているのか?」(テーマに対する意見・態度)の2つです。

そのうえで、「参加者の思考・行動の特徴」に目を配るようにするとよいでしょう。

 

議論の前提に関する認識

・その議論のテーマがそもそもどういうことなのか?【テーマ、議題の意味】

・その議論は何のためにするのか?【議論の目的】

・なぜその議論をする必要が生じているのか?【議論の背景】

・そのテーマを議論することは、どれくらい大事なことなのか?【議論の重要性】

 

議論の中身に関する認識

・議論されていることを理解するベースとなる一般的【知識・経験】

・その話を具体的に理解するための【情報・状況イメージ】

 

・その議論の場自体がどういった場であり、一般的にどのように振る舞うことが求められているのか?【場(のスタイル)】

・その議論がどこまで進んでいるのか?【議論のプロセス】

・その議論が自分とどう関係するのか?【テーマと自分との関係の強さ】

・その議論の中で、自分がどういった役割を期待されているのか?【役割期待】

 

参加者の「意見・態度」を予測する

・どこに賛成・反対しているのか?【賛否の対象】

・どういった理由で賛成・反対なのか?【賛否の理由】

・なぜ参加者がそのように考えるに至ったのか?【賛否の背景】

 

①そのアクションの提案が解決しようとしている問題自体がそもそも取り組むべきものなのかどうか?【問題意識】

②どこが最も解決すべき部分なのか?【問題箇所の特定】(上の例は、このあたりの違い)

③その問題がなぜ起きるのか?【原因の特定】

④原因を解決するためにどういったオプションがあり、そこから何を選ぶのか?【打ち手】

 

立場の違いが価値判断の違いを生むわけです。

 

ここにこそファシリテーターが存在価値を発揮できるポイントがあります。

特に立場の違いから複数の価値判断の軸が存在しうることを認め、参加者それぞれの判断軸を相対化して示すこと。

そのうえで、立場の違いを超えて合意できるポイントは何かに参加者の思考を導く働きかけを行うことが有効です(実は、実際には価値判断の軸の違い自体がそのままあったとしても、自分の立場から生じる価値判断の軸に理解を示してもらえたという安心感を与えるだけでも、参加者の多くは合意に向けて努力しようとしてくれることが多いものです)。

 

・議論の場の参加者の状況を理解することは、会議を成功に導くうえできわめて重要である。

・参加者の状況を理解する際には、話されるテーマに対して参加者が「何を知っていて何を知らないのか(認識レベル)」「どのような考え・意見を持っているのか(意見・態度)」から押さえていく。

・「認識レベル」とは、参加者が「議論の前提」(議題自体の意味、議論の目的、背景、重要性)、「議論の中身」(知識・経験・情報・状況イメージなど)、そして「議論の場自体」について、何をどれくらい理解しているかということ。

・「意見・態度」は、「賛否の対象」(参加者はどこに賛成・反対しているのか?)、「賛否の理由」(どういった理由で賛成・反対なのか?)、そして、「賛否の背景」(参加者がそのように考えるに至ったのはなぜか?)を具体的にイメージしながら考えていく。

・「参加者の特徴と相互関係」を押さえることも重要。その際、「議論に貢献すべき人とノイズになる人は誰か」「参加者相互の関係はどうなっているか」「参加者と自分(ファシリテーター)はどのような関係を持っているか」の3点に注意するとよい。

 

論点を具体的に把握する

ファシリテーターが参加者の納得を得ながら、集団として正しい意思決定を行い、効率的に合意形成に至るためには、「意見」以上に「論点」を強く意識し、メンバーが重要な論点について考え、意見を述べ、結論に向かって進めるように議論の状態を適切に保ち、適切な方向に参加者の思考を誘導することが必要です。

具体的には、

・参加者に対して、何について、どのような意見を出してほしいのかをわかりやすく示し、発言を促す

・正しい意思決定・合意形成をするために本来議論すべき論点が議論の中で漏れていれば補う

・意見の対立が必要以上に激化したり、論点がずれて錯綜・混乱しているのであれば、論点を整理し、参加者から「話を見えやすく」「考えやすく」する

・本来そこで議論する必要のない発言・議論が続くのであれば、それを止めて本来議論すべき論点に戻す

といった役割を果たすことです。

 

「論点」とは、意見や主張そのものではなく、「その意見や主張は、どういった問いに答えているのか?」もしくは「その意見や主張が、どのようなポイントについて考えた結果、導かれているのか?」ということです。

言い換えれば、議論の参加者が出すさまざまな意見が「何について語っているのか?」ということ。

つまり、意見が答えになるような「問い」です。

 

「論点の地図」を描き、頭に入れておくと、議論の場でさまざまなことができるようになります。

まず、さまざまに出てくる意見を容易に「位置づける」ことができます。

このため、今行われている議論が、「議論すべき論点」のどのあたりにあり、これからどこに行くべきか把握でき、ファシリテーター自身が「迷子になる」ことを避けることができます。

 

次に、仕込みにおいて考えたさまざまな詳細な論点を、この「論点の地図」をインデックスとして、記憶の倉庫から引き出せるようになります。

事前に一度、広く、深く、具体的に論点を考えていれば、すべて記憶していなくても、「論点の地図」をきっかけに、詳細な論点を想起しやすくなります。

 

What:問題意識の明確化

「問題とは何か」もさまざまな定義が考えられますが、ここではシンプルに「あるべき姿と現状にギャップがある状態」とします。

そうすると問題意識が異なるのは、各人が考える「あるべき姿」が違っているか、「現状に対する認識」が異なっているかのどちらかです。

 

議論の仕込みにおいて、「議論の参加者は、問題意識をどれだけ共有できているか?」をよく考えるとともに、問題意識を具体的に共有するための論点を広く押さえておくことが肝要です。

具体的には、

①あるべき姿を具体化するための論点を押さえる

・何が(あるべき姿が満たすべき要件を幅広く洗い出す)

・どの程度(それぞれのレベル感を明らかにする)

・いつ(それを達成する時点はいつなのかを押さえる)

②そのあるべき姿から見て現状はどうなのか、現状を正しく把握するための情報は十分に揃っているか、を確認する

③あるべき姿と現状を比較して、どこにどれぐらいのギャップがあるのかを把握する

などの論点を押さえるようにするとよいでしょう。

 

Where:問題個所の特定

質問によって参加者の思考を導くためには、ファシリテーター自身が議論される問題について当事者として考え、具体的な論点や切り口の仮説を用意しておくことが不可欠です。

といっても、答えをすべて用意する必要は全くありません。

答えは議論の中でメンバーに出してもらえばよいのです。

ファシリテーターが押さえるべきなのは、「あるべき問題解決の思考のプロセス」のイメージです。

そして、仮説的に「この問題であれば、たとえばどういった流れで、何を考え、どのように問題を広げて →絞っていくべきなのか?」を考えておきます。

事前にその問題についてよく考え、切り口や仮説を準備するようにするとよいでしょう。

 

Why:真因の追求

ある結果に対する原因を考えるためには、その分野での専門的な知識がある程度必要になってきます。

たとえば、ある製品の製造において不良が発生している場合、材料や設備、製造の方法などを全く知らない状態では原因を想像することすら難しいでしょう。

また、どんなに優れた専門知識を持っている人でも、結果が生じている状況、環境を観察しなければ、原因を特定することはできません。

逆にいえば、優れた知識を持った人であれば、現場を見ることで、問題の原因をある程度正確に推定することができます。

 

このように、「原因の把握」には、幅広い知識と具体的な情報が不可欠であり、そのためには多くの人の持つ知識や情報を集めて考える、つまり「衆知を集める」ことが最も必要かつ効果的なのです。

しかし、人は自身の専門の立場からの視点のみにとらわれたり、たまたま目についた状況の影響を強く受けたりして、原因を「決め打ち」しがちでもあります。

人事を担当している人は、さまざまな問題の原因を人に求めがちですし、技術者はものの特性や設備などといった点に着目しがちです。

こうした個々人の視点の偏りや決め打ちを乗り越え、衆知を集めて考えるためにこそ、ファシリテーターの存在意義があるといえます。

 

ファシリテーターに求められるのは、「これが原因だ」という「答え」を持っていることではなく、さまざまな専門家や関係者の持つ知識や情報を十二分に引き出すこと。

そして、特定の視点に偏った判断をしたり、安易な結論に飛びつかないように考えうる可能性を広げる手助けをすることです。

そのためには、思考の方向性がはっきりと伝わる論点として質問を投げかけることが重要です。

それぞれのステップでの典型的な問いを見ていきましょう。

 

議論の出発点では、まずは「広げる問い」を中心にします。

「○○が原因だという意見ですが、他の原因は考えられないでしょうか?」

「○○が原因ということですが、○○であればいつもこうなるわけではないですね。他に何が影響しているのでしょうか?」

「○○の他にも、△△のようなことは影響していないでしょうか?」

「まずは影響がありそうな要因を洗い出してみましょう」

など、粘り強く可能性を洗い出していきます。

 

ある程度まで考えうる原因が洗い出せたら、「絞り込み」に質問のモードを移していきます。

「この中で特に影響が大きい原因はどれでしょうか?」

「問題があるときとないときで、一番違っているものはどれですか?」

「あえて原因を1つに絞り込むとすればどれでしょう?」

などの質問が有効です。

 

また、ここで十分な根拠を持って絞り込めない場合は、いったん議論を打ち切って

「では、○○の影響について次回までに調べてみてください」

など、「調査すべき事項を明確化する」ことも重要です。

 

原因が絞り込まれてきたら、「深める」質問を投げかけ、「本質的な原因=真因」を見出すことにチャレンジしたいものです。

忙しいビジネスの現場ではあまり意識されないことも多いですが、「なぜ」を繰り返し、さまざまな事象が繰り返し起こる構造的な原因を明らかにすることができれば、組織として大きな財産を手に入れることができます。

すなわち、「そこに手を打つことで、以後同様の問題の発生を継続的に防げる原因」(問題の再発防止)、「そこを仕組み化することで、同様の成果をいつでも、誰でもできるようにする」(成功の再現性向上=標準化)につなげるのです。

 

こうした一般的な問いの投げかけ方を知り、実践することで、ある程度思考の方向性を示すことができます。

適切な方向性を示せれば、具体的内容はメンバーの知識や情報を活用することができます。

 

因果関係の存在には、相関関係の存在、時間的前後関係、第三因子の不存在の3つの条件が成立していることが必要と言われています。

 

アクションの選択と合意

ある課題を解決するための方法は1つとは限らず、具体的な施策は複数考えることができます。

ここで着目したいのが、集団でさまざまな対策案のアイディアを出し合うことで、より良い案を選択できる可能性が高まるという点です。

また、こうしたプロセスを踏むことは、実行するメンバーや関係者の対策案に対する納得性を高めることにもつながります。

 

人はある対策を示されると、「他のやり方は考えなかったのか?なぜこうしないのか?」と疑問を持つものです。

あらかじめ考えうる案を洗い出し、そこから選択するステップを踏むことで、決定に関与するメンバー(多くは主要な実行メンバーでしょう)にとって「自分たちが決めた施策」になり、実行に対して高い当事者意識、コミットメントを持てるようになります。

さらに、決定に関与していないメンバーに対しても、「こうした対策を考えたうえで選んだ」という説明が可能になることで、施策に対するさまざまな疑問や懸念に答えることができます。

 

実行プラン・コミットの確認・共有

●実行プランをどうするか?

・いつまでに(納期・スケジュール)

・何を(作業項目)

・どの程度(各作業のアウトプットイメージ)

・どのように(作業の方法や、そのために必要な資源の調達方法など)

●各自の役割は何か?誰が責任を持って推進するのか?

●実行時に生じる判断や意思決定をどのように行っていくのか?

 

実行プランをつくるためには、

①対策を実施するためにやるべきこと(作業項目)を洗い出す、

②作業項目間の関係を整理する、

③作業を分担する関係者を把握する、

④作業項目ごとの時間(工数)を見積り、必要な資源を把握・調達する、

⑤作業項目をスケジュールに落とし込む、

⑥作成したスケジュールを関係者に共有し合意を得る

というステップになりますが、これらをうまく考えるうえで重要なのは、「成果から逆算する」という発想です。

 

いきなり目についた作業項目から考えるのではなく、

「最終的な成果を生み出すためには、その前に何が行われ、どういう状態になっていなければならないのか?」

「その作業を始めるには、何が決まっていないといけないのか?」

「それを決めるためには、誰の承認を得ておく必要があるのか?」

などと問いかけながら、最終成果から中間成果物へとさかのぼりながら詳細を詰めていくとよいでしょう。

特に実行の初動段階で、「まず、何が決まっていないといけないのか?」には一層の注意が必要です。

 

さばき

ファシリテーターは何もしないのかというと、そうではありません。

議論が活性化し、必要な論点に議論がフォーカスされ、適切に合意形成のステップが進むように、一歩引いた状態から議論全体の状況を俯瞰し、見守ること。

そして必要なときには、適切なタイミングで、適切なやり方で議論に介入し、議論の状態を適切に保つ役割を果たします。

演劇にたとえると、「主役」ではなく、「演出家・ディレクター」といった役回りです。

こう考えるとイメージがわきやすいかと思います。

 

発言を引き出す

参加者が発言しないのにはどういった理由があるのでしょうか?

1つは発言する意欲が低い場合です。

そこで議論する内容に興味がない、自分には関係ないと思っていることもありますし、言いたいことがあっても、その場で自分が発言することに躊躇する何らかの理由があることもあります。

 

ある意見に対して、別の意見・反対意見を求める場合には、それをはっきり示すと効果的です。

たとえば、

「Aが重要な検討課題だ、という意見でしたが、他に検討すべき点はないですか?」

「ここまでは賛成という意見が多かったですが、逆に反対だという意見はありますか?」

「効果的だという点から賛成だという意見が多いようですが、実行できるかという点から懸念はありませんか?」

「賛成という意見が多いようですが、決める前に懸念を洗い出し確認したいので、あえて反対という意見をぜひ出してみてください」

といった感じです。

特にその場の空気が「賛成」に傾いている場合は反対意見が言いづらくなっているので、言いやすくする一言を加えると効果的です。

 

話す内容や説明の仕方、意見を出すレベルを具体的に提示するやり方もあります。

たとえば、「A、Bどちらの案が良いかの結論と、その案を推す理由を述べてください」

「実際に何が起きているのか、状況をできるだけ具体的に教えてください」

「まずは考えられる原因をできるだけたくさん洗い出してみよう」

などです。

 

さらに、より具体的な状況を示し、イメージを刺激することで発言を促すことも効果的です。たとえば

「あなたがこの件をお客様に説明するとしたら、質問されそうなことは何でしょうか?」

「仕事を依頼する場面をイメージしてみて、もっとこうして欲しいと感じることはないですか?」

などです。

 

一歩進んで、仮定によって制約を外して意見を言いやすくするという手法もあります。

「仮に予算の制約がないとして、効果的だと思う案はないでしょうか?」

「今進んでいる検討項目はいったん忘れて、そもそも何を検討することが必要か?と考えてみるとどうでしょう?」

といった感じです。

 

発言を理解する

話を聴く際に意識すべきなのは、「何のためにその発言をしているのか」。つまり、発言の「目的」です。

発言の目的にはいろいろなものがあります。

前の発言に対して反対、賛成の態度を表明する、

前の意見と同じ意見だが別の根拠、理由を述べる、

まだ話されていない別の論点を提示する、

前に話されている論点に戻す、

さまざまな意見を整理する、

意見をまとめ、議論の結論を出そうとする、

などです。

 

上記のような論理的な面での目的だけでなく、発言には心理的、感情的な面での目的もあります。たとえば

自分の存在をアピールしたい、

自分の喜びや怒り・悲しみなどを理解してもらいたい、

他の参加者やファシリテーターに対する不満を表現したい、

などです。

 

発言を深く理解する

人はなかなかうまく話せないものです。

頭の中に言いたいことがあっても、うまくまとめられない、思っていることを適切に表現できない、人それぞれの立場や専門性、経験の違いから生じる情報量、知識、前提の差を越えられないなど、コミュニケーションにまつわる悩みは尽きません。

ましてや議論の場など、その場の流れに応じて意見を述べる必要があるときには、その難易度は格段に高まります。

こうした状況の中で、自分の話をとてもよく理解してくれる、自分が言いたかったことをより的確につかみ、よりわかりやすく表現し直してくれるような人がいたらどうでしょうか。

おそらくその人に対して共感と深い信頼を寄せるのではないでしょうか。

ファシリテーターの役割、技能の中で、「話を聴き、理解する力」がきわめて重要である理由はここにあります。

 

ファシリテーターがめざすべき「聴く力」は、話し手が実際に話していること以上のことを読み取り、深く理解する力です。

それがあるからこそ、それぞれの参加者の頭の中にあるものを議論の場で十二分に活かす手助けができるのです。

 

広げる

「広げる」とは、ある発言に対し、別な論点や意見など、他に考えうるもの・考えるべきものを洗い出し、可能性を広げていく方向性です。

もう少し詳しく言うと、広げる対象には、「論点」「意見」「根拠」「情報」の 4つがあります。

 

「論点」を広げるとは、今話されている論点とは別の論点について議論するように参加者に働きかけることです。

たとえば、ある部品を購入すべきかを議論しているとしましょう。

議論が「品質」にのみ集中し、他にも考えなければならない点、たとえば「価格」や「納期」といった論点が議論されていない場合、そこに参加者の注意を向け、論点を広げます。

 

ある論点についての「意見」も広げる対象です。

「A社から部品を購入すべき」という意見に対して「A社から購入すべきではない」という反対の意見を引き出す。

もしくは、「B社から購入すべき」「外部からの購入ではなく、自社で生産すべき」といった別の意見を引き出すことをイメージするとわかりやすいでしょう。

 

3番目の広げる対象は「根拠」の幅です。

同じ意見であっても、異なる理由づけが考えられ、最終的な判断においては、いくつかの理由を合わせて判断すべき場合も多いものです。

そうした理由、根拠を十分に洗い出すことで、議論を豊かにすることができます。

たとえば、「A社から購入すべきだ。なぜなら価格が最も安いから」という意見・根拠に対して、「同じくA社から購入すべきだ。なぜなら自社の要望に対し、最も柔軟に対応してくれるから」という同じ意見・異なる根拠を引き出すなどです。

 

広げる対象の最後は、「情報」の幅です。

先の「根拠」と若干近い場合もありますが、さまざまな立場の参加者が持つ情報を広く議論の場に出してもらい、検討の材料を豊かにしたいときに有効です。

たとえば、「X製品を製造するうえで、A社の部品がどれくらい適合するかに関する情報」に対して、「Y製品を製造するうえで、A社の部品がどれくらい適合するかに関する情報」などを加えていくことをイメージするとよいでしょう。

ここでは、人の違い(ある施策に対するマネージャ層の反応と一般社員層の反応)、場所の違い(東日本の売上と西日本の売上)、時間軸の違い(昨年の顧客数の増加と一昨年の増加数)、モノの違い(A製品に対する顧客の評価とB製品に対する評価)などの軸を意識すると、情報の幅を広げやすくなります。

 

広げるワーディング

●論点

論点を明示したうえで、他の論点があるか?尋ねる、論点を提示する

・今の話は□□という論点だと思いますが、他に考えなければいけないことはないですか?

・他に△△という論点もあると思いますが、それについては?

・全く違う論点の方はいませんか?

・逆に○○といった点を重視すると反対の意見もあると思いますが

 

●意見

論点を示したうえで、反対の主張・別の主張を求める

・○○だから賛成という意見ですね。逆に反対という意見はありますか?

・もし○○という制約がないとすればどうでしょうか?

・○○だから反対、という考え方も当然ありえると思いますが

・○○さんの立場からすると、違ったご意見になるかと思いますが、いかがですか?

・発想を広げるために、あえて反対の立場に立ちますが

 

●根拠

論点と結論を示したうえで、別の理由づけを求める

・○○だから賛成という意見ですね。賛成の理由は他に考えられませんか?

・○○だから□□だ、ということですが、たとえば△△だから□□だ、ということは言えませんか?

・○○の立場に立ってみると別の理由も考えられませんか?

 

●情報

前の情報を位置づけたうえで、5W1Hなどの軸を使って具体的情報を引き出す

・A支店では○○だということでしたが、B支店ではどうでしょうか?

・前はそうだったということですが、最近ではどうですか?これからはどうですか?

・たとえば○○といった状況はないですか?

 

深める

演繹的な論理展開では、ある事象を、ある前提に基づいて判断することで結論を導きますので、シンプルに言うと次の2つを行うことになります。

・結論の根拠となっている「前提となる考え方」が何かを確認する。そしてその前提が、今、この場面で用いることが適切かを議論していく

・結論の根拠となっている「事象に関する認識や情報」が正しいか、適切なものかどうかをチェックする

 

一方、帰納法の場合は、いくつかの事象から共通点を見つけ、一般化して結論を出す思考法ですので、

・挙げられている事象は一般化するのに十分か、偏りはないか?

・導かれた結論に対して、反証例はないか、あるとすれば、ある結論が成立する範囲や条件はどこまでか?

などを問うていくことになります。

 

議論を止める

会議は多数の人が時間的に拘束される、コストが高いものであることを考えると、こうした状態を放置することは、組織の生産性を大きく下げることになります。

 

議論を効率的に進め、参加者の集中力を維持するには、その場において本来議論すべきである論点に集中し、関係が薄い論点の議論に時間を使わない、もしくは、合意を形成するうえで大事な論点であったとしても、会議に参加しているメンバーが持っている情報だけでは十分な検討ができない、参加者以外の人に相談や確認をしないと意思決定できないなど、その場でそれ以上議論しても結論が出そうにない議論については早目に切り上げ、本来議論すべき論点に戻すことが重要です。

 

・発言そのものを受け止め、理解していることをしっかり示す(A)

・本来議論すべき論点に意識を向けてもらう(B)

・(必要なら)その論点で議論を続ける必要性に対する疑念を示し、その理由を問う(C)

・止める発言や論点が活きる機会・場面が別にあることを示す(D)

 

まとめる

①合意できた論点と結論を確認する

②合意できていない論点を確認する

③合意できていない論点について、さらに論点を細分化し、どの部分は合意できていて、どこが合意できていないかを確認、共有する

④合意できていない論点について合意するためには、どういった条件が揃えばよいのかを考え、確認する

⑤合意に必要な条件を満たすための検討(上位や特定の部門に対する方針などの確認や詳細検討の実施、制約条件や懸念点への対応可否の検討、追加の情報収集など調査の実行など)を依頼し、次回、もしくは条件が明らかになった時点で報告してもらうよう依頼する

 

意見の対立に対処する

アクションを選択するまでのプロセスを考えてみましょう。

①情報に接する

②情報を解釈する

③何らかの判断基準に当てはめて問題・課題を認識する

④その問題に対する解決策を思いつく(1つか、複数)

⑤何らかの判断基準に基づき、ある解決策を選択する

 

対立の原因

1つは「基本となる認識の相違」、つまり、①情報に接する、②情報を解釈する、の部分の違いです。

見えているもの、見ているものが異なれば、当然判断も変わるわけです。

実は多くの対立の原因がここにあることが多いのですが、これを「考え方の違いだ」と解釈してしまうことが多いのです。

「認識の相違」を乗り越えるためには、情報の格差をなくし、認識を揃えるとともに、それぞれが見ているものと「異なる見方が存在するという事実」を理解できるようにし、多様な情報、多くの人の認識から自身の判断を見直すように促すことが重要です。

 

ファシリテーターが意見の対立に直面した際、いきなり、この対立をどう解決するか、どちらの意見にするか、どうやって間をとって双方痛み分けにするか、そして反対意見をどう封じ込めるか、などを考えてしまいがちですが、まずは一息置いて「この対立はどこから生じているのか?」に目を向けるようにしましょう。

そして、その原因を取り除くべく、情報の共有を促す、オプションを洗い出し、それぞれの良い点と悪い点を洗い出してみるように促す、そして目的やあるべき姿を問いかけて握れるポイントを探る、などの働きかけをチャレンジしていくとよいでしょう。

 

面白かったポイント

すばらしい本。タイトル通りファシリテーションのやり方が言語化されている。

結局、行動がすべてなので、ベストな意思決定をするために会議ドリブンの経営は必要だと思う。

この本を実践すると会議の生産性は間違いなく上がる。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

part I 仕込み: あるべき議論の姿を設計する
chapter 02 議論の大きな骨格をつかむ
chapter 03 参加者の状況を把握する
chapter 04 「論点」を広く洗い出し、絞り、深める
chapter 05 合意形成・問題解決のステップでファシリテーションを実践する

part II さばき: 議論を活性化し、思考を導く
chapter 06 発言を引き出し、理解する
chapter 07 発言を深く理解する
chapter 08 議論を方向づけ、結論づける
chapter 09 対立をマネジメントする
chapter 10 感情に働きかける
chapter 11 ファシリテーションは「合気道」

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