内容
需要予測
これからの需要予測では、市場、顧客に関するデータを主体的に収集し、その背景を解釈しようとするデータのオーナーシップを持ち、ステークホルダーに予測の根拠をわかりやすく伝える説明責任を負って、経営層を含めて信頼されることを目指すべきなのです。
そしてこの需要予測のスキルは、SCMのプロフェッショナルだけが身につければ良いわけではありません。
✓商品開発やマーケティングプロモーション立案を担い、投資対効果を高めることを目指すマーケター
✓担当エリアやアカウントの顧客ニーズを捉え、売上や利益の拡大を目指す営業担当者
✓利益見通しを踏まえてコスト配分や投資の最適化を目指す経営管理担当者
✓営業、マーケティング、SCMのバランスを調整し、企業の成長を舵取りする事業運営担当者
✓それら各領域の意思決定を担うマネジメント層
VRINフレーム
バーニーは企業の競争力を社内のリソースで説明し、VRINというフレームを提唱しました。
これは企業の持つリソースが、
▼価値がある(Valuable)
▼希少性がある(Rarity)
▼模倣がむずかしい(Inimitable)
▼代替がむずかしい(No substitutable)
といった特徴を持つと高い競争力を生む、というものです。
時系列モデル
時系列モデルは需要予測において
①水準(規模)、
②トレンド(水準変化の方向性)、
③季節性(くり返されるパターン)
を可視化します。
予測の認知バイアスを防ぐ思考法
このSTeMは次の3つのキーワードの頭文字です。
①Statistics:統計学
②Team:チーム
③Model:フレームとなる考え方
AI予測
AI予測を一つのシナリオとして捉えることで、需要変動も想定したレンジ・フォーキャストを立案することができます。
予測AIでビジネス価値を生み出すには、
1.仮説ドリブンのデータマネジメント(前述)
2.リバース・フォーキャスティングによる予測結果の解釈(前述)
3.AI予測も踏まえたビジネスリスクのヘッジアクションの提案(前述)
需要予測を高度化する要素
1.データ
需要予測に使うデータの整備度合い。
出荷や在庫、社外のマクロデータはもちろん、社内の非構造的なマーケティングデータや、社外のSNSデータなども、先進的な企業では需要予測に活用できるように加工、蓄積し始めています。
2.ロジック
需要予測のロジックが属人的ではなく、統一のものを採用できているか。
これが社内で決められていないと知見が蓄積できず、精度は上がりません。
約60年の歴史がある時系列モデルだけでなく、人の判断を高度化するデルファイ法やベイジアンコンセンサス、機械学習モデルなど、様々な種類が知られています。
しかし、必ずしも複雑なロジックの精度が高いわけではないという研究知見も発表されています。
3.システム
需要予測システムの導入有無や、その機能の高度さ。
グローバルパッケージはどの企業でも導入できるので、それだけでは需要予測の優位性は獲得できません。
4.パフォーマンスマネジメント
予測精度を評価する指標の定義や、それに基づく改善アクションのしくみの整備度合いなど。
予測精度をKPIとしてモニタリングできている企業は意外なほど少ないです。
5.組織
予算や目標と独立した需要予測組織やKPIの有無など。
需要予測の重要さは感じつつ、組織へ投資できている企業は少ないです。
6.人材
需要予測を専門的に担うデマンドプランナーのスキルやその育成、継承のしくみ。
需要予測システムを使いこなし、マネジメントを効果的に推進するためには、プロフェッショナル人材の育成が必須です。
予測モデル
代表的なMAPEだけでなく、Tracking SignalやMASEなどは知っておかないと需要予測のマネジメントはできません。
まずはグローバルで提案されている様々な指標を知り、そのうえで各社のビジネスモデルや戦略を踏まえた予測精度指標の選択ができるようにすべきと言えます。
需要予測のアジリティ
需要予測のアジリティとは、
①市場環境の変化の早期察知と、
②それを踏まえた素早いデータ分析に基づく柔軟な需要予測の更新です。
先述の6つの要素を高めることで、需要予測のアジリティを向上させることができます。
データとマネジメントのしくみの高度化によって、市場変化を早期に察知できるようになりますし、ロジックやシステムを使いこなすことによって、需要データの分析スピードは上がります。
これらをリードするのは需要予測スキルを備えたプロフェッショナル人材であり、それは組織として育成するものなのです。
予測の誤差
機械学習の分野でも行動経済学の分野でも、予測の誤差は主に2つの要素に分解できると述べられています。
一つはバイアスと呼ばれるもので、すでに本書でも何度か登場しましたが、考え方やロジックの偏りのことです。
例えば営業部門は予算達成を優先し、需要予測を高めにしたり、商品開発部門は機能的な向上を根拠に、同様に予測を高めにしたりするかもしれません。
しかし実際の需要は顧客や消費者がどう思うかで決まります。
こうした考え方の偏りがバイアスの一例です。
つまりバイアスは正解があることにおいて、それとのずれを表すものです。
もう一つはヴァライアンスやノイズと呼ばれる、考え方のばらつきのことです(以下ではノイズに統一して表記)。
さきほどの例で言えば、売りやすさによって需要を高めに予測する営業担当者であっても、もともとの性格やそれまでの営業経験の内容などによって、その程度が異なります。
世界の様々な業界の需要予測の誤差率は、商品別、数ヵ月先で30%程度です。
これに対し、新商品は50~80%と言われます。
環境の不確実性が高い場合には、精緻なデータ分析に時間をかけ過ぎるのではなく、まずはアクションしてみることが有効だという研究結果が示されています。
これはセンスメイキング理論と呼ばれますが、不確実な環境でも納得感のあるストーリーによって一致団結し、とにかく動き出すことが競争優位を生み出すというものです。
超予測者
超予測者はもちろん数字に強いのですが、最も際立っていた特徴は予測を更新する意識だったそうです。
人は自分の考え(予測)を支持する根拠に意識が向きがちになり、反証には目を向けないという確証バイアスが知られています。
しかし超予測者はこうしたバイアスも学んでいて、常に新しい情報を探し、それを分析することで自分の予測をリバイスし続ける傾向があるのです。
需要予測で言えば、常に市場の変化をセンシングし、素早く分析することで仮説を変え、予測値を更新するということです。
これからの需要予測に必要なのは、予測に必要なデータのセンシングから提案し、複数のシナリオにおけるレンジ・フォーキャストを素早く更新して、新しい需要の創造をドライブするという意識なのです。
面白かったポイント
SCMや需要予測は本が少なく、学者が書いたものが多いですが、これは実務者が書いた実践的な内容です。
この分野は、扱う商品や規模などパラメータが多いので、どうしても抽象的な内容になるのですが、ギリギリまで具体的に書いた感じ。
説明は分かりやすいと思います。
SCMや需要予測の精度を上げるには総合力が必要なので会社の実力を測るいい指標です。
この分野で実力を持つ人は大企業の中でもごく一部です。
ビジネスの総合力が身に付くので、せっかくの知識をまとめた教科書を作りたいが、需要がなさ過ぎて躊躇する。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆