内容
①外に向かって売上を増やして利益を生みだす内容なのか
②内部的にコストダウン(原価低減)につながる内容なのか
のいずれかであり、「利益を生みだす(付加価値)」ものかどうかが「仕事の基準」なのです。
原価企画
販売サイドから「こんなクルマを出してほしい」という提案が「商品企画」だと述べましたが、トヨタではそれを実現するために総括責任者として「チーフエンジニア(主査)」が選ばれ、最初に「製品企画」と「原価企画」を練り上げます。
①製品企画……新しいモデルの性能、品質を技術面・設計面から検討する
②原価企画……その新モデルでどのようにして利益を出すのか、それを原価面から検討する
②の「原価企画」はトヨタ特有の言葉のため、ほとんど聞いたことがないかもしれません。
多くの会社でも、企画書を提出するときには総原価、原価率などを計算して添付していると思いますが、ほとんどは①の「製品企画(性能、品質)」に目が行きがちで、②の原価は添え物に近いのではないでしょうか。
しかし、トヨタでは違います。
「原価企画会議」という副社長も出席する会議が毎月1回、量産段階の直前まで定期的に開催され、予定した原価に落とし込むための対策が打ち続けられるのです。
つまり、「①製品企画」と「②原価企画」はペアになって提出され、「製品企画」を常に原価面からチェックし続けているのが「原価企画(会議)」であり、それがトヨタのクルマづくりの最大の特徴なのです。
4M+1M
不良が出るということは、一つひとつの工程の中で、
①材料が悪いのか…… Material(材料)
②機械に不具合があるのか…… Machine(機械)
③やり方(方法)が悪いのか…… Method(方法)
④作業員の技能に問題があるのか…… Man(作業者)
のどれかに問題があると考えられます。
そこで私たちはこれを「4M」とし、さらに加工が終わった段階で検査もすることにしました。
チーフエンジニア
トヨタでは、販売サイドから提出される新型モデルの「商品企画」が経営サイドで決裁されると、その総括責任者として「チーフエンジニア」が選出されます。
ひとつのモデル開発だけで2〜3年をかけ、1000億円以上を費やしますので、会社としても優秀な人材を選抜し、権限を与えなければいけません。
「チーフエンジニア」は、タテ型の「社長→取締役→部長……」という階層型組織ではなく、商品別(プロジェクト別)に決まるヨコ型組織のトップで、いわば「商品の社長」といえる存在です。
そのモデル(製品)に関する全権を委譲されますから、性能・品質・原価の把握はもちろん、進捗管理、車両改善などのために、直属の部下以外にも必要に応じて、タテ型の各部長・各室長とも協議のうえ、それらの人員を自由に動かすことが許されています。
また、チーフエンジニアが主宰する「原価企画会議」は最高クラスの会議(「会議体」と呼ばれる)に位置づけられ、副社長以下、取締役も勢揃いし、ここで意思決定が行われます。
チーフエンジニアは経営トップと直結した、「新型モデル開発の最終責任者」です。
かつては「主査」(豊田英二氏が1952年に導入)とも呼ばれ、「性能・品質・原価」のバランスを取りながらプロジェクトを進めていきました。
原価計画
・原価企画
「商品企画」の決裁後から部署別、設計室別、部品別(アッシー/ユニット)に総原価を割り当てるところまでです。
「商品の狙い、原価の配分」など、どのようなクルマにするのかのイメージや大枠が決まる最も大切な段階のことです。
・原価計画
「原価企画」で割り当てられた個別原価ごとに、それぞれの部署、設計、部品がきちんとその原価内に収まって仕事を進行しているかどうかのチェックを行う期間。
性能、品質、原価をすべて満たす設計を行います。
この「原価計画」の段階で具体的なモノの形が決まっていくので、それをつくるための材料、設備、工程なども同様に順番に決まります。
「原価計画」がスタートしておよそ1年半後、量産段階に入ります。
・製品企画……新しい製品を性能・品質・設計・技術の面から検討する
・原価企画……「製品企画」をもとに、新しい製品でいかに利益を出すかを「原価」の面から見直す
QFD
QFDで機能とコストのバランスを取る
設計といっても、ゼロから図面を引いていくわけではありません。
多くの場合、過去のモデルの図面がありますからそれらを利用します。
ただし、もちろんその図面をそのままコピー&ペーストするわけではありません。
なぜ前設計者はそのような図面を引いたのか、今回のモデルではどう見直すべきかを考えながら設計していきます。
そのときに必要となるのが、「QFD(Quality Function Deployment:品質機能展開)」です。
QFDとは、その部品に求められている機能・性能とはどのようなものなのか、どこまでの品質が求められているのかなど、それらを故障発生の可能性などを分析しつつ、原価とのバランスを取りながら設計していく方法です。
7つのムダ
次の「7つのムダ」と呼ばれているものです。
①つくりすぎのムダ
材料が安かった、設備を遊ばせたくなかったなど理由はさまざまですが、つくりすぎは必ず「在庫」となり、保管料など二重三重のムダとなって跳ね返ってきます。
②手待ちのムダ
仕事量がアンバランスな場合、「手待ち」の状態が起こります。
それを防ぐには、作業の再配分を検討する必要があります。
③運搬のムダ
運搬は価値を生みません。
いかに運搬をゼロにするかを考えることが大切です。
たとえば次の工程に、コロコンやシューター(後述)を使うのも「運搬のムダ」への対策のひとつです。
④加工そのもののムダ
まだ前処理段階にすぎないのに、必要以上に細部処理をして時間をかけてしまうなど、真の加工に寄与しないムダのことです。
これは、スタッフ部門でも多く見られます。
内部会議に使うだけの資料なのに、必要以上に資料のデザイン、色合いなどを気にしてその作成に時間をかけることなどです。
⑤在庫のムダ
さまざまな要因で「在庫のムダ」が生じますが、在庫があるとその在庫額の3割のコストが別途発生するといわれています。
⑥動作のムダ
付加価値を生まない動作のことです。
動線が悪く、移動時間がかかるといったムダがこれにあたります。
⑦不良品・手直し発生のムダ
不良品をつくれば手直しのムダが同時に生じ、時間、コスト、信用の3つを同時に失います。
それが原因で事故などが起これば、さらに莫大な損失となります。
赤字を生まない仕組みづくり
①「営業設計部門」を見直す
まず、営業設計部門では「材料費の低減」「購入部品費の低減」「設計費・試作費の低減」をあげていますが、基本的な改善の視点は、
・同じ材料、同じ使用量で、より安いものに変更できないか
・より費用対効果の高い材料はないか
・より長く使える部品はないか
②「生産技術部門」を見直す
原価には当然、「人件費」も含まれます。
つまり、「作業員が、決められた時間内でいかに多くの仕事をこなせるか(手待ちがないか)」も、原価に直結するのです。
そこで次ページの図表29のように設備、稼働、工数などを軸に、「決められた時間内で最大限の成果を発揮する」ための仕組みづくりを、この生産技術部門ではめざしました。
③「品質管理部門」を見直す
不良品が多く出るとムダが重なり、コストも嵩みますし、不良品が市場に出回ると会社としても大きな打撃を受けます。
ここでは2つのポイント「不良品の低減」「不良による材料費の低減」に加え、「品質管理費の低減」に絞りましたが、とくに「不良品の低減」については「トヨタ生産方式(TPS)」にもとづく10個の取り組み(次ページの図表30参照)でカイゼンを促しています。
④「購買部門」を見直す
購入する部品単価の低減や、仕入先との原価低減協力をするために、ここでは次ページの図表31のように「購入品単価の低減」「仕入先との協力・連携」「仕入先の指導」などを柱に、仕入先そのものを見直したり、より安いものに変更できないかなどを検討しています。
⑤「製造部門」を見直す
「工数」「時間」を低減するため、ここでは次ページの図表32のように「加工工数費の低減」「生産ライン費の低減」「段取り費の低減」「リードタイム(在庫)の低減」などの見直しをしました。
やる気
人は感情で動くものです。
好きか嫌いか、敵か味方か、快いか否かを直感的に判断して行動します。
理屈だけではなかなか動いてくれません。
アタマではやせたほうがいいとはわかっていても、やる気が起こらなければダイエットが続かないのと同じです。
したがって、メリット・デメリットだけで人を動かそうとするのではなく、「その行動が快い!」という状況をつくっていくことが大切なのです。
快い状況をつくれば、脳の中にドーパミンが出て幸福感を感じ、それを何回か続けていると「習慣」になり、それを行うのが当たり前と思うようになります。
大部屋方式
人間の脳というものは個室で作業をしているだけだと、脳の活性度合いは低くなります。
人とのやり取りにしても、メールよりも対話のほうが即座に相手の反応が返ってくるので、活性化の点では優れているとされています。
相手の表情や声から微妙なニュアンスを読み取ろうとするからです。
つまり、「大部屋方式」は、多数の人との議論で個々の脳の活性化を促して、総力をあげて難題を次々と解決していけるという利点があるのです。
面白かったポイント
原価企画、原価計画は理屈としては分かるが、実行するのは難しいだろうな。
基本をしっかり徹底できる企業は強い。ここをやり切れるかどうか。
大部屋方式は納得。AI時代とはいえやはり対面コミュニケーションが脳が活性化されるのだろうな。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
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