スタートアップのための人事制度の作り方

ビジネス

『スタートアップのための人事制度の作り方』金田 宏之

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内容

人事制度

スタートアップにおける人事制度の本質的な目的は、人材の採用と育成、そしてリテンションを強化し、組織のパフォーマンスを最大化することにあります。

「納得感」に本気で向き合わなければ、社員は辞めていってしまいます。

 

人事制度が「期待の指針を示す」「振り返りを仕組み化する」「フェアに報酬を決める」という3つの役割を果たします。

 

人事制度を導入するということは、言葉とルールで「組織を動かす」ということです。

そのために強力な仕掛けがいくつもあり、そのゴールに報酬制度があります。

報酬は、強力な動機付けになります。

人事制度で意図したように組織や個人が動くようになると理解することが人事制度導入の第一歩です。

 

推奨案は、10名前後で人事制度の設計を開始し、設計期間を経て20名前後になるタイミングで人事制度をトライアル運用するスケジュールです。

 

HR領域

「組織は戦略に従う」という考え方に基づき、Strategy(戦略)を上位概念に置きました。

そして、組織の土台にあるのがCulture(文化)です。

Cultureは容易にCompliance(法令順守)を揺るがすほどの威力をもっているという意味を込めて、Complianceよりも下のベースに位置付けました。

 

この上下の関係に、Recruiting(採用)からOutflow(代謝)という左から右へ流れる「人材フロー」の考え方を当てはめました。

RecruitingとOutflowの間には、多種多様な組織・人事の領域としてSystem(制度)、Development(人材開発)、Wellness(健康)、Partner(支援)、Operation(運用)を位置付けています。

 

等級

等級要件とは、メンバーやマネージャーに期待することを言語化した公式の基準です。

等級間の違いを直感的に理解しやすく、キャリアアップの可能性と成長実感を得られるのは8段階と導き出しました。

等級判定を実施するタイミングは、6カ月ごとがおすすめです。

 

まずは「能力」です。

スタートアップで活躍が期待できる人材は「自ら考え、行動できる人材」であり、「自律性」がキーワードとなります。

いわれたことを、いわれた後に、いわれた通りに実行する人材ではありません。

自らの専門領域に経験があり、知識と技術で勝負できる人材で、ある意味、他のスタートアップでも汎用的に使えるポータブルなスキルをもっています。

 

会社が成長し評価者であるマネージャーの数が増えていく過程で、等級要件に対する正しい理解が損なわれていくことは往々にして起こり得ます。

そのため、等級を判定するマネージャーが複数名の組織体制の段階で、全職種共通の等級要件を職種別等級要件にアップデートする、という早めの対応で備えておきましょう。

職種別等級要件は、既存の全職種等級要件を基にして作成します。

比較的抽象度の高い等級要件を、特定の職種にあてはめて翻訳するイメージです。

この職種別等級要件の設計が遅れると、等級制度の理解や活用が遅れてしまうリスクがあるため、なるべく早いタイミングで設計してください。

 

等級判定に関わる「卒業要件」と「入学要件」の考え方について説明します。

例えば、3等級の方が4等級に昇格するには、「3等級の等級要件を満たしたら昇格する」と「4等級の等級要件を満たしたら昇格する」のどちらにすべきか、という話です。

前者を「卒業要件」、後者を「入学要件」と呼びます。

 

等級判定や人事評価、報酬決定に対する納得感を高めるには、被評価者とメイン評価者の信頼関係が必要です。

社会心理学者の山岸敏夫氏の著書『信頼の構造 こころと社会の進化ゲーム』(東京大学出版会)によると、信頼関係をつくるには「能力」への信頼と「人間性」への信頼の 2つの側面があります。

「能力」への信頼形成には「専門性」が欠かせません。

 

期待と対価

「Will・Can・Must」です。

本人のやりたいこと(Will)、できること(Can)、やらなければならないこと(Must)を言語化し、 3つが重なる領域とそれぞれのGAPの可視化に役立てます。

 

目標設定型の評価を導入している多くのケースで、SMART(スマート)の法則を目標設定のガイドラインとして使用していることが想定されます。

「等級要件に基づいて目標設定する」という原理原則です。

この等級要件にこそ会社の「期待」が言語化されており、目標設定の基準となります。

そのため、「等級要件に基づいて目標設定する」ことを優先し、その後に「設定された目標をSMARTの観点で振り返る」ことが適切な流れです。

 

スタートアップでは、会社の状況や事業環境が刻一刻と変わるため、個人の期待も変わりやすいという特徴があります。

例えば、期初の1月に期待を定めても3月の初旬には軌道修正をした方が良いというケースはざらにあります。

期待を期初に定めても、会社や市場の状況に応じて柔軟に変えていく必要があるため、期中の1on1をうまく活用することが求められます。

 

行動を振り返る理由は、主に2つです。

1つ目は、行動の良し悪しを確かめて今後も継続すべき行動ができていれば、それを評価・フィードバックすることで成果創出への再現性を高めたいという理由です。

同時に、悪い行動があれば同じことを繰り返さないように改善してもらいます。

これは人材育成ともいえます。

 

2つ目は、外部環境や外的要因といった本人の実力以外の要素が成果に強く影響を及ぼす場合への対応という理由です。

本人にとってアンコントローラブルな要素で評価が不当に下がってしまう場合には、成果は出なかったがやっていることは間違っていないというメッセージをフィードバックします。

振り返りの肝は、何といっても納得感です。

 

「絶対評価」を推奨します。

評価制度の枠組みの中で「期待する基準」をつくり、その基準に照らして被評価者を評価することで評価結果を決めます。

相対評価で分布させる前の評価は、絶対評価でやっている点です。

相対評価の目的は「報酬」における人件費のコントロールになります。

 

ドキュメンテーション

「ドキュメンテーションは組織の能力の1つである」という認識の下、ドキュメント作成の文化醸成にも取り組んでいきましょう。

 

実践知の循環

私はこれまでの経験を実践知として循環させたいという強い思いがあります。

なぜなら、社会をより良くしようと日々奮闘しているスタートアップを純粋に応援したいからです。

もっともっと暮らしも仕事も楽しくなれば、それに越したことはないという気持ちでスタートアップを応援しています。

 

面白かったポイント

人事制度のたたき台を作るための参考になる本。

スタートアップに特化しているだけあって、実態に対応できる考え方になっている。

人事制度は組織を動かすための重要な仕掛けであることは間違いない。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

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