内容
PLM
PLMが管理する技術情報は、ライフサイクルに沿って成長する。
商品企画時点では商品/製品しかないが、設計の詳細化に伴い、製品からアセンブリや部品に分解され、BOM(部品表)が作成される。
並行して設計関連のドキュメントが作成され、BOMに関連付けられる。
工程設計では、工程設計や調達に関する情報、製造が開始されると品質記録などの製造関連情報が追加される。
保守段階になると、保守用パーツリスト、部品交換や修理記録がBOMに関連付けて管理されることがある。
BOM
M-BOMは、E-BOMをベースとして作成されるが、購買部門や生産技術部門が定義する構成である。
購買部門は主に、部品の手配に関する情報(調達LTや発注先、取引価格など)を定義する。
生産技術部門は生産工程に関する情報(生産工程、製造LT、標準工数など)を定義する。
生産設備のように、オーダごとに構成が異なる製品では、製番BOMで装置構成を管理することが多い。
完全特注の装置であれば、最初から製番BOM(オーダ別に作成したBOM)を作成することになるが、多くの生産設備では標準BOMがあって、客先仕様に合わせて、オプションや特注部品を追加し、納入する装置構成(製番BOM)を完成する。
重要な概念として、リビジョンやバージョンがある。
リビジョンは通常、正式リリースされるごとにカウントアップされる。
バージョンは、それには限らず、チェックアウト(1つ前のバージョンを保持したまま、新しいバージョンを作成する処理)するごとに作成される。
部品の属性はこのような情報を管理する。
設計変更管理
PLMでは、この帳票の代わりにECO(エンジニアリング・チェンジ・オーダ)と呼ばれる管理アイテムを使って、設計変更を管理する。
ECR(エンジニアリング・チェンジ・リクエスト)は、設計変更“要求”に関する背景情報や検討情報をまとめて管理するPLMの管理アイテムである。
設計変更プロセスフローにおいては、企業内のどこかの部門が変更要求を起案することから出発する。
そこで作成されるのがECRである。
そして、設計部門を中心としてECRの承認審議が行われる。
設計変更要求を実施する意義や実施時期に関する審議である。
承認されたら、図面やBOMの改訂作業を行い、ECOと変更対象の図面やBOMを関連付ける。
そして、ECOが承認されると、関係部門に通知が行くという流れだ。
M-BOM
在庫を低い水準で運用するためには、調達リードタイムが安定していること、引き付け発注(部品を組立工程に対してジャストインタイムで供給できるように、逆算して発注すること)できることがポイントだ。
調達リードタイムが不安定だと、引き付け発注ではなく、余裕をもった発注、いわゆるプッシュ型発注と近い形となり、在庫増の要因となるので、要注意である。
M-BOMのもう1つの役割は生産計画の立案である。
M-BOMには基準情報が格納されているので、その情報を用いて、部品手配計画や製造・組立計画案を立てることができる。
その計画案を用いて、生産のキャパが足りているのか、もし不足しているのであれば、社内工程の平準化や、外部委託の活用を検討し、調整後、計画立案を完了する。
生産計画は、いつまでに何個の完成品をつくらないといけないかが示された情報である。
生産計画は、通常、販売計画や需要予測から作成され、営業や生産管理部門の合意で決定される。
左下にあるのが、M-BOMである。
Xという完成品に対して、員数が設定された3種類の部品で構成されるシンプルなモデルとした。
在庫はここでは説明をシンプルにするためにゼロとしているが、部品の必要数量に対して在庫数を差し引き、不足分を発注することになる。
これら3つの情報をインプットとして、部品調達計画を立案する。
製品の完成日からM-BOM中のASSYの製造(組立)と部品の調達リードタイムを逆算し、部品の発注日を計算した結果が図の右側の部品調達計画(案)である。
これは、いわゆるMRP(資材所要量計画)の基本になる考え方である。
製造変更管理
製造変更管理とは、4M変化点管理の中の 1つの取組みである。
4Mとは、Man(人)、Machine(機械)、Method(方法)、Material(材料)のことだ。
PLMでは、Materialの変更の多くは、設計変更管理で行われるだろう。
また、人(製造担当者)の変更はPLMでは管理しにくいので、4M変化点管理のデータベースで管理されるが、機械(製造設備)や方法(工程)の変更については、PLMで製造変更管理として実施されることが多い。
PLMの中で製造変更を管理するアイテムは、MCO(Manufacturing Change Order)と呼ばれる。
MCOの振舞いはECOと同じで、変更要求が起案され、承認後、製造変更されたアイテム(部品、工程、設備)に関連付けて管理を行う。
改革コンセプト
改革コンセプトは、設計開始時点からE-BOMを作成し、それに3Dモデルや図面を関連付けし、チーム間や部門間で技術情報を共有しながら、開発を進めるスタイルを提案したものである。
改革的である理由は、次のとおりであった。
● BOMを設計初期段階から作成する。
● BOMに対して、3Dモデルや図面、CAEの解析結果、仕様書、コスト情報を関係づける。
● PLMとBOMを用いて、コンカレント・エンジニアリングを実践する。
開発期間短縮のポイント
開発期間短縮のポイントは3点あることがわかる。
1.既知の問題の知識移転。ナレッジマネジメントが短縮に貢献する。
2.未知の問題の早期発見力。FMEAなどリスク分析、コンカレント・エンジニアリングによる複数部門による設計検証がこれに該当する。
3.問題の早期解決力。試作よりCAE力強化が理想だ。
コンカレントエンジニアリング
プロセスをオーバーラップさせたコンカレント開発のプロセスを表現している。
設計の出図の前に生産準備作業を開始し、出図前に共同検討して問題を抽出し、事前に解決する。
このような複数部門による同時並行作業のことをコンカレント・エンジニアリングと呼ぶ。
設計部門と金型・設備設計を担当する生産技術部門のコンカレント・エンジニアリングの実践的なフローを示す。
①設計部門は3D設計し、CADデータ管理システム上で「公開」にする。
②生産技術部門は3Dモデルを入手し、製造性をCAE検証して、設計部門にフィードバックする。
③設計部門は生産技術部門からのフィードバックに対応して、設計修正し、再度「公開」する。②と③を2回繰り返し、設計完成度を高める。
④生産技術部門は上記プロセスと並行して、3Dモデルの確度を見ながら、金型・設備の設計を開始する。
⑤設計部門はフィードバック対応後、3Dモデルと図面を出図する。
⑥生産技術部門は正式出図された結果を確認して、金型・設備の設計を最終化する。
このコンカレント・エンジニアリングの例では、以下の効果があることを確認できる。
1.設計部門は、製造性が検証された3Dモデルを出図できる。
2.生産技術部門は、出図前から金型・設備の検討ができるので、それらの出図を早期化できる。
設計者CAE推進
設計者CAE推進プロジェクトの進め方を示す。
1.設計者CAE推進計画、目標の立案
設計者CAE推進プロジェクトリーダとメンバーは、図表73のCAE活用のロードマップに従って、いつまでに、どのレベルのCAEを、何人ができるようにするのかについて具体的な目標設定を行う。
2.スキル育成計画と現状診断
設計者の個人別の現状CAEスキルを診断し、社内のCAEスキルマップ(設計者氏名とスキルレベルが記載されたもの)を作成する。
その結果に対して、上記目標を反映したスキルマップを作成し、ギャップを埋めるためのトレーニング計画を立案する。
3. CAE手順書の作成
社内CAEの専門家、またはCAEベンダーに依頼して、自社製品を例とした実践的かつトレーニングに使用可能なCAEの手順書を作成する。
4.トレーニング
育成計画に沿って、CAE手順書を用いたトレーニングを実施する。
5.テスト・認定
本プロジェクトの推進メンバーは、トレーニングの結果を評価し、事前に設定した水準に到達しているかを判定する。
合格すれば、該当するCAE領域に関する修了認定を行う。
6.スキルマップの更新
テスト・認定結果を踏まえ、スキルマップを更新する。
計画に対する進捗を把握して、必要に応じ対策を検討・実施する。
コントロールプラン
IATF16949は、コントロールプランの作成と実施を要求している。
コントロールプランは、製品や部品、製造工程までの品質管理計画を定めている。
従来からあるQC工程表をご存じの人も多いだろうが、コントロールプランと同等の概念である。
いずれも、部品の製造工程ごとの設備や治工具、仕様値、測定方法、頻度、参照文書(図面や手順書など)などが管理項目として規定されている。
知識移転
①市場不具合については、即時対策を検討し、緊急対策を打つ必要がある。この結果は設計変更として最優先で対応される。
②並行して、企業のナレッジに変換する。設計、購買、製造、品質保証横断チームを組織化する必要があるが、横断チームは、その不具合の真因を究明して再発防止策を定義する。同じ問題を引き起こさないように、不具合と再発防止策を関係づけして、知識移転データベースに登録する。
③社内で発生した改善提案や設計変更依頼、製造不具合についても同様に、再発防止策策定後、知識移転データベースに登録する。
④製品開発プロジェクトにおいては、プロジェクトマネージャーが再発防止策からDRで利用するチェックリストを作成し、レビュー計画を立案する。
⑤製品開発プロジェクトの DRでは、チェックリストを用いたレビューを実施し、その結果を知識移転データベースに登録し、プロジェクトのレビューの計画と進捗の可視化ができるようにする。
⑥知識移転データベースに登録した再発防止策を、企業の設計標準やQMS(品質マネジメントシステム)に格上げする。②と③の再発防止策登録は即効策、設計標準への格上げは中期施策として実施する。
このような循環フローで、既知の問題に対する知識移転を実現していくのである。
モジュラー設計
モジュラー設計の目的は、仕様の多様化と品目数最小化の両立である。
仕様の多様化とは、製品バリエーションの増加と同意である。
通常、製品バリエーションを増加させると設計量が増え、品目数が増加する。
品目数が増加すると、図面枚数、工程、在庫などが増加する。
製品バリエーションの増加によって売上は増えるかもしれないが、それに対応するコストも増加し、利益が増加しないどころか、減少することもありうる。
モジュラー設計とは、この問題を解決するための設計手法、コンセプトである。
デカップリングポイント
1.見込み生産(MTS:Make To Stock):組立完了まで見込み生産してから在庫化し、受注や販売計画に対応して出荷する方式である。大量生産品はこれに分類される。
2.受注組立生産(ATO:Assemble To Order):部品の加工または調達まで完了し、受注に対応して、組立・出荷する方式である。
3.受注仕様生産(CTO:Configuration To OrderまたはBTO:Built To Order):受注仕様に対応してユニットやモジュールの組合わせで組立を行い、出荷する方式である。PCや自動車がこの生産方式の代表製品である。モジュラー設計はこの方式を目指している。
4.繰返し受注生産(MTO:Make To Order):受注後、材料や部品を調達し、組立後、出荷する生産方式である。生産設備のリピートオーダ品などは、この方式で対応される。
5.個別受注生産(ETO:Engineering To Order):受注仕様に対して設計し、部品調達/加工、組立、出荷する生産方式である。生産設備などいわゆる一品モノと呼ばれる製品がこれに分類される。モジュラー設計により大幅な改善が期待できる方式だ。
リードタイム短縮
リードタイム短縮の市場要求電気設備メーカC社は、個別受注生産型の製造業である。
海外市場への参入のためには、受注から出荷までのリードタイムの大幅短縮が経営課題であった。
C社の経営幹部は、プロセス改革プロジェクトを結成し、プロジェクトリーダにリードタイム短縮の問題分析と対策の実施を指示した。
各プロセスの問題と対策
営業、設計、調達、製造の各プロセスにおける問題、原因、対策を検討した結果だ。
営業プロセスでは仕様決定、見積作成、設計プロセスでは受注後の仕様確認やカスタム設計対応工数の発生、調達プロセスではフォーキャスト手配の精度、製造は組立リードタイムが問題として取り上げられた。
リードタイム短縮実現のために、ETOからCTOへのシフト(第11章-83参照)、受注コンフィグレータの活用、標準仕様への誘導営業、設計プロセスにおけるカスタム設計の効率化、フォーキャスト手配の精度を向上するための受注確度の共有、FC-BOMによる先行手配を検討することになった。
モジュラー設計のコンセプト
ETOからCTOに変革するエンジンとなるモジュラー設計のコンセプトである。
一番左にあるのが、モジュラー設計の標準マスターである標準BOMだ。
左から二番目の業務の営業設計・見積で仕様が決定され、それに対応する標準BOMが引き当てられる。
オーダ設計では、それらの組合せに特注設計部が追加されて、製番E-BOMが作成される。
製番E-BOMが最終化された後、ERPに転送され、製番M-BOMが完成する。
受注コンフィグレータの構成
受注コンフィグレータは、仕様情報をインプットとし、見積BOM(見積に必要なモジュールレベルのBOM、価格情報が付与されている)とFC-BOM(先行手配用のフォーキャストBOM、末端部品まで展開されている)をアウトプットする。
受注コンフィグレータは、仕様マスター(図表84-2参照)、仕様⇒部品番号変換マスター(図表86-1参照)、モジュール品番とコストを管理するモジュールマスター、仕様間の禁則ルールを定義するルールマスターから構成される。
意思決定プロセスを実行する会議体
意思決定プロセスは、階層別に会議を設定して行う。
PLMプロジェクトで設定された定例会議の例である。
3階層になっており、ステアリング・コミッティは経営レベルの意思決定、PMO会議はプロジェクトにおける部門横断課題に対する意思決定、WGセッションは部門課題に対する意思決定を行う場として設定されている。
プロセス標準化ロジック
1.差異の特定:この例では、開発内部の変更の承認方式が異なっていて、電子承認と紙承認となっていた。
2.差異原因の確認:上記原因は情報システム部によると、紙承認になっているのは、単にシステム刷新が遅れているからであった。
3.事業特性や製品特性に起因:差異原因はとくにこれらに関係がないので、起因していない(NO)と結論付けることができる。
4.標準化/個別化の判定:標準化すべきと判断する。
1.出図プロセスを6段階のサブプロセスに分解した。
2.サブプロセス単位の工数情報を、ヒアリングや工数データベースを使って収集した。
3.工数を比率計算し、A列に現状の工数比率としてまとめた。
4.工数削減施策からサブプロセスの工数削減効果を推定し、B列に改善後の工数比率を記入した。
B列の数値を合計すると45%であった。
つまり、出図にかかる現状工数のうちの55%削減できる可能性があることが判明したのだ。
論点攻防図
論点攻防図と呼ばれるチャートである。
このチャートは、左側に賛成意見や効果、中央部に消極意見や懸念事項を記入し、右側に懸念事項に対する課題や対策、意思決定すべき事項を抽出することを目的とする。
つまり、効果と副作用を同時に把握して、施策が程よくバランスするポイントの発見や、可能ならば副作用だけを低減することをねらっている。
対策を実直に進めることが、抵抗勢力を味方に付けることにつながる。
面白かったポイント
PLMとBOMについてよくまとまっている本で勉強になった。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
目次
第1章 DXと従来のITプロジェクトの違い
第2章 ドキュメント管理
コラム2:合宿のスケジュール
第3章 BOMのグランドデザイン
コラム3:合宿の体制と役割責任
第4章 設計におけるBOM
コラム4:改革コンセプトの例(技術情報管理)
第5章 購買・製造におけるBOM
コラム5:改革コンセプトの例(改革的である理由)
第6章 3Dモデル・図面管理
コラム6:改革コンセプトの例(開発期間の短縮)
第7章 部品番号と図面番号
コラム7:改革コンセプト例(原価企画)
第8章 製品開発プロジェクト管理
コラム8:改革コンセプトの評価
第9章 コンプライアンス対応
コラム9:よく使う分析ツール(問題構造図)
第10章 開発プロセス・マネジメント
コラム10:よく使う分析ツール(定量分析)
第11章 モジュラー設計
コラム11:よく使う分析ツール(マトリクス分析)
第12章 IT導入プロセスの改善