ベンチャー・キャピタリスト

ビジネス

『ベンチャー・キャピタリスト 世界を動かす最強の「キングメーカー」たち』後藤直義

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内容

必要な人材

私は通常、スタートアップに必要な人材を二つのタイプに分けて考えています。

一つは「スーパービルダー」です。

スーパービルダーは、文字通り何でもつくれてしまう人で、1〜2週間もあればプロダクトをつくってしまう。

 

そしてもう一つは「スーパーシンカー」です。

彼らは市場のこと、競合他社について熟知していて、何がうまくいったか、いかなかったのか、深い洞察をもって思考します。

私は、この二つのタイプの人材の組み合わせを見ています。

ジョンとローガンはまさにこの組み合わせでした。

 

矛盾した性質です。

例えばグローバルな知識をもっていながら、そうしたビジネスをローカルで実現できること。

ものごとを幅広く見渡せるジェネラリストでありながら、特定のエリアについては深い知識を持つエキスパートであること。

こうした、二つの相反する性質を、兼ね備えているということです。

 

会社をつくるためのプロセス

4つの段階によって設計されたそのプロセスは、大まかに次のようなものだ。

1探索(Exploration)

1年間で80〜100回ほど、「もしも、これが実現したならば……」という新しい仮説を提案するためのプロセス。

社内のサイエンティストが持ち寄ったこの仮説を、さまざまな一流の研究者たちにダメ出ししてもらったり、アイデアを膨らませたりしながら、その実現可能性や課題を検証してゆく。

 

2プロトタイプカンパニー(ProtoCos)

実験に挑む価値があるとみなされた仮説から、1年間で8〜10社ほどプロトタイプのスタートアップとして誕生する。

ビジネスとして難しいと判断したら、感情に引っ張られずにプロジェクトを中止するため、会社名はフラッグシップラボ(FL)に番号だけ加えた「FL1」「FL2」「FL3」と名付けられる。

 

3ニューカンパニー(NewCos)

ラボにおける実験によって、新しいブレイクスルーから、何かインパクトのあるプロダクトが生み出せるという段階になって、いよいよ名前のあるスタートアップとして組織化される。

フラッグシップは巣立っていくための創業資金を注ぎ込み、ふさわしいCEOなどを採用してゆく。

1年間で約6〜8社がここまで到達する。

 

4グロースカンパニー(GrowthCos)

フラッグシップから孵化して、独立したスタートアップとして成長し、ついには巨大な企業価値を持つスタートアップになる。

2013年以降、すでに20社以上がこのようなプロセスで株式上場を果たしており、時価総額にして7兆円をほこるモデルナはその筆頭になっている。

 

2006年のアマゾン・ウェブ・サービス( AWS)の登場です。

もはや、人々はサーバーというハードウェアを持つ必要がなくなったのです。

 

ベンチャーキャピタルが出資したお金の40〜50%は、グーグルとフェイスブックのオンライン広告に使われていると指摘しています。

 

創業者支援

しかしファースト・ラウンド・キャピタルは、いち早く創業者支援に注力してきたベンチャーキャピタルでもある。

例えば「ピッチアシスト」と呼ばれる4〜 6週間のプログラムは、初めての創業者たちに、今後の資金調達のノウハウを叩き込んでくれるブートキャンプだ。

また「ディスカバリー・アシスト」というプログラムでは、まだ初期のプロダクトしかないスタートアップに対して、最初の顧客になってくれそうな15〜20社を、彼らのネットワークから素早く見つけてくれる。

そして 15年以上にわたる投資によって、これまでに支援してきたスタートアップのコミュニティも運営している。

そこでは、あるスタートアップのCTOが、別のスタートアップのCTOに悩み相談もできるような前線基地になっている。

 

創業期のスタートアップが、気軽に相談できて、わずか1〜2時間で誰かのサポートがもらえるネットワークの大切さです。

 

エージェント方式

アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が採用したのが、まるで起業家たちをアーティストのように育てるエージェント方式だ。

240人以上の社員を抱え、大手芸能事務所のように、「マーケティング」「広報PR」「人材採用」「IPO業務」といった専門のチームで、起業家たちをプロモートする巨大なVCになっている。

例えば、あるスタートアップが大企業であるコカ・コーラ社と提携をしたければ、社内のデータベースシステムに登録されているリストを使って、コカ・コーラ社で最も筋の良さそうな担当者たちにつなげてくれるといった具合だ。

 

エコシステム

人材、市場規模、資本の三つが揃ったところに、こうした強力なスタートアップのエコシステムが生まれて、2世代目、3世代目のマフィアたちが生まれてくるからです。

そして第1世代が10年かけてつくったユニコーンを、第2世代は5年、第3世代では2年でつくれるほど、そのスピードは加速しているのです。

 

良い決断を下すためのグループは、少人数であるべきだ。

 

優位性

シリコンバレーで成功するためには、あなたの優位性が問われます。

エマージェンスの優位性は、SaaSという特定のセクターを投資対象に選んだことでした。

もしかしたらそれは、対象となる国や地域かもしれませんし、投資先スタートアップのフェーズによるものかもしれません。

ただ一つ、ベンチャー投資は戦略こそが重要です。

自分の価値観に沿う戦略を選んで、時間をかけて、ビジネスで圧倒的な優位性をつくるようにすべきです。

なぜなら、世の中はあまりにも多くの資本と、アタマの良い人たちであふれているからです。

 

スタートアップ投資を成功させるには、勇気を持ってリスクを取ると同時に、自分が置かれている状況に正直であることが大切です。

 

ブロックチェーン

VCの投資家として成功するには、こうしたルールをつねに脳裏に刻まないといけません。

そうしたメガベンチャーは、地殻変動のような変化、つまり技術インフラに変化があるカテゴリーから生まれてきます。

いまその最有力候補を、私はブロックチェーンと暗号資産だとみています。

ビットコインをスタートアップの一種と見なせば、10年足らずで100兆円企業に成長した「投資先」と見なせます。

 

フィンテック

お金を借りる人たちの「信用スコア」の巨大プラットフォームであるクレジット・カルマ(Credit Karma)、高額な利息が発生する学生ローンの救世主になったソーファイ(SoFi)、または移民の人たちが母国に格安でお金を送ることができるレミットリー(Remitly)まで、フィンテック業界のスター企業たちがきら星のごとく並んでいる。

 

当たり前だと思っている毎月1回、毎月2回という給料日が決まっているのは、実はとても不自然なキャッシュフローなんです。

本当は毎分ごとに、労働者が働いているときに賃金は発生しています。

それならば勤怠管理や給料支払いなどのシステムを、リアルタイムなデータと結びつけてあげれば、発生したときから給料が受け取れるわけです。

ウェイジストリームは、こうしたサービスを導入して、多くの人を雇いたい企業側に提供しているのです。

この給料への早期アクセスというのは、グローバルに共通する隠れたお金のボトルネックになっているのです。

これが機能すると、とても高額な利息を求められるキャッシングなどのサービスによって、貧しい人がさらに貧しくなるサイクルも変えられます。

 

一つ目は、暗号資産の世界においてはビットコインなどの「原資産」を持つことが賢明であるということ。

そしてビットコインというのは、価値の保存手段として有用であるから買うのだと。

二つ目は、暗号資産というもの全体が機能をするためには、これまでの貨幣の世界と、暗号資産の世界をきちんとつなぐインターフェイスが必要になるという点です。

リビットはこれを「レギュレーテッド・ブリッジ(規制との架け橋)」と呼んでいますが、こうした存在があって、初めてビットコインなどを安定的に売買したり、保有したり、利用できるようになります。

 

ビットコインが大事なのは、旧来の貨幣だと政府が担保していた「価値を保存する機能」がブロックチェーンのアルゴリズムに埋め込まれているからです。

とりわけ安定した通貨にアクセスすることができない人々にとって、これは大きな意味を持っており、ビットコインはブロックチェーンの最初のアプリケーションになりました。

イーサリアムが大事なのは、ブロックチェーンを使った汎用のコンピューティング・プラットフォームだからです。

これは特定の管理者がいなくても、あらゆる契約を結ぶことができる、スマートコントラクトを実行できるインフラになっています。

 

そして最近、NFT(Non-Fungible Token)が話題になっていますが、これも新しいアプリケーションですね。

これはもともと冗談のように始まったプロジェクトですが、デジタルの世界において希少価値があるものについて、自分のものであるという証明ができるものです。

これは本当にパワフルなアイデアで、これまで中央集権的なシステムに苦しめられてきたクリエイターやメディア関係者たちが、みずからの知的財産を新しい方法で所有して、その売り買いなどをブロックチェーン上で行うためにエコシステムに参加しています。

 

データ

いまシリコンバレーのベンチャーキャピタル業界では、「あなたは誰を知っているか?」という世界から、「あなたは何を知っているのか?」という世界へのシフトが起きています。

トライブ・キャピタルの投資家たちは、未来を感じるセンスがあると思います。

しかし最も重要視をしているのは、実はデータなのです。

とりわけあるサービスやプロダクトの、初期ユーザーたちがどのように製品を使っているかというデータを深く分析しているのです。

 

フェイスブックが26億人を抱えるSNSをつくることができた理由の一つに、経営においてデータを徹底して重視していた点があります。

だから、フェイスブックでは古くから、次のような合言葉が社内では飛び交っていました。

「神様、私たちはあなたを信じています。そこにデータがあるのならば」です。

そのプロダクトは、本当にユーザーに愛されているのか。

そのプロダクトは市場に適合しているのか。

それをどのように計測して、どのように評価すればいいのか。

そこがポイントなのです。

 

東南アジア

2029年までに東南アジアから、時価総額が1100億円以上になるユニコーンや、それ以上のデカコーンが20社以上は誕生するとみています。

これは当てずっぽうではなく、ちゃんとした根拠があります。

一つは、東南アジアの可処分所得が中国の10年前のレベルに来ていること。

つまり、これから中国がたどったような、中間層が大きく成長する黄金時代に入るのです。

その中で、中国で盛り上がっていて、まだ東南アジアにない「空白地帯」を見てみると、デジタルヘルス、フィンテック、イーコマースの物流といった分野が見えてきます。

 

インフルエンサー

人気ラッパーであった50セントという歌手が、飲料メーカーへの株式投資によって、100億円以上のリターンを一夜にして手にしたというものだった。

このラッパーは賢かった。

人気のドリンク「ヴァイタミンウォーター」の開発企業と仕事をする際に、いわゆる現金のギャラではなくて、その会社の株に投資させてほしいと交渉したからだ。

こうしてエナジーブランド社の株式を受け取ると、ラッパーとしての知名度をフル活用してコラボレーションドリンクを開発。

さらにはテレビコマーシャルにも出演することで、このブランドを一気にスターダムに押し上げていったのだ。

もちろん、現金はもらっていない。

 

不安

思い返せば2007年、アクセルの投資家になってから、半年間は多幸感に包まれていました。

ベンチャー投資家は、めちゃめちゃ自由なのです。

興味のあるビジネスを学んだり、いろいろな会社を訪問して、多くの人とランチに行ったり、バーに飲みに行けば良いんです。

ところが半年もすると、ヤフー時代の職場が、恋しくなった。

ヤフーでは毎朝、午前7時半にソフトウェアの進捗報告をして、オフィスの同僚に「いま、何が問題なんだ。なんとか解決しよう」という仕事に追い回されていました。

そうしたVCとして働く自由さが、むしろ不安になってきました。

自分はいま何を達成しているのか。

周囲から、意味のある仕事だと認められているのか。

効率的に働けているのか。

そんな、不安に駆られたのです。

 

面白かったポイント

かなり面白かった。

 

記事でVCの表面的な紹介はよくあるけれど、このようなインタビュー記事は貴重です。

しかも、勝ち組のVCをまとめて知ることができます。

 

起業家と一緒に社会問題を解決し、相当のリターンを得るという仕事は華やかだけど、相当シビアな世界だということがよく分かる。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

●はじめに
イノベーションの「最後尾」に私たちはいるのか
勝者は決してしゃべらない
新時代は発明家と資本家(キャピタリスト)が動かしている

●1章 ベンチャーキャピタルが世界を喰っている
モデルナワクチンを生み出したベンチャーキャピタルの舞台裏
ユニコーン1000社時代、ベンチャー投資が加速する3つの理由
アップルはなぜ銀行から創業資金を借りれなかったのか
急成長するスタートアップの投資ステージごとのリスク
日本人が陥る、VCにまつわる2つの大誤解

●2章 進化し続けるVCの秘密
三菱商事を飛び出した男が、三菱商事より稼いだ日
100倍のリターンを生んだ、コインベース投資の「種明かし」
トップ1%が圧倒的な実力で寡占するVCの産業構造
リスクマネーを巡るVC産業のキープレイヤー
膨大なリサーチを伴うハードな投資プロセス
VC投資は究極のホームラン競争である理由
巨万の富を手にするベンチャーキャピタリストの動機

●3章 シリコンバレーのキングメーカーたち
ピーター・ティールが語る未来の創り方
シリコンバレーのカリスマ、少数精鋭トップVCの秘密
ズームを掘り出した、SaaS投資の王様
燃え尽きた天才に、スラックを作らせた男
金融を知り尽くした、ファイナンスのプロ集団
お金の世界を塗り替える、異端VCの正体
知財を操る、ディープテック投資の巨人
ヘルスケア投資のゴッドハンド
超名門VCの再建を託された男

●4章 異能のディスラプターたち
世界を震撼させた、孫正義「10兆円ファンド」の正体
モデルナを生んだ、ライフサイエンスの「創業集団」
「ダイヤの原石」を磨く、気鋭のアクセラレーター
シリコンバレーで最もパワフルな女性投資家
成功のシグナルを見抜く、データ投資のマジシャン
VCをディスラプトする、新しいVCの誕生
投資モデルを再発明する、VC業界のレジェンド

●5章 世界各地の覇者たち
スポティファイを生んだ、北欧のゲームチェンジャー
欧州を覚醒させた、起業家コミュニティの「グランドゼロ」
中国のユニコーン軍団をとらえた巨人
インドの「カンブリア爆発」を手にした野望
東南アジアのブルーオーシャンを制する賢者
インドネシアを圧倒する、創業投資のカリスマ
巨大な経済圏を作った、南米最大の投資集団
最後のフロンティア、アフリカ投資の破壊力
NPO発、世界の起業家ネットワークへの「マイクロ投資」

●6章 新産業をつくる革新者たち
E・マスクが惚れた「儲かる環境投資」の実践者
ビル・ゲイツが進める、気候変動投資の秘密
科学者をCEOに進化させるバイオラボ
女性から黒人まで、マイノリティに光を当てる新鋭VC
異文化に眠る、ビジネスを掘り出す情熱

●7章 ベンチャーキャピタルの「不都合な真実」
天才投資家たちの失敗の告白
VCへの出資は本当に「おいしい」のか
失敗ファンドと成功ファンドの唯一の違い
ファンドの7割が「3号」までに淘汰される意味
VCに必ず聞くべき5つのクエスチョン
ゼロイチに賭ける投資家に敬意を

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