内容
SaaSやサブスクリプションにおいて、あらゆる力がベンダーから顧客へと移ってきたように、企業における組織の力も新規顧客の獲得からカスタマーサクセスへと刻々と移りつつある。
カスタマーサクセス
CS(カスタマーサクセス)=CO(顧客の成果)+CX(顧客の経験)
カスタマーサクセスとは、心理ロイヤルティを生み出すための手段なのである。
「従来のビジネスでは、顧客との関係の終着点は購入でした。サブスクリプションビジネスでは、購入は顧客との関係の始まりなのです」。
サブスクリプション・エコノミーにおいて企業の生死を決めるのは、カスタマーサクセスなのだ。
カスタマーサクセスという文言は、ロイヤルティの創出、特に心理ロイヤルティの創出という言葉の言い換えにすぎないということだ。
実際にカスタマーサクセス部門がある会社の場合、その部署の存在意義はロイヤルティを高めてリテンションと収益増につなげることだ。
ロイヤルカスタマーは離れないし、より多くのモノを買う。
いずれも、あらゆる会社が顧客に求めていることだ。
重要なのは、カスタマーサクセスに投資しても、それは企業の他の部分における根本的な欠陥の穴埋めにはならないということだ。
製品自体が十分にいいものでない、進め方が顧客の要求を満たしていない、営業部門の設定する目算がいつまでも的外れということがあれば、いかに質の高いカスタマーサクセスであろうと、取り組みは失敗に終わるだろう。
SaaSとサブスク
ACとBCとを比較すると、企業向けソフトウェアの購入者にとって大きく変わったことが2つある。
❶ソフトウェアを購入する方法
❷顧客生涯価値(LTV:lifetime value)を満たす方法
SaaSは提供モデルの一形態である。
簡単に言えばアプリケーションをウェブブラウザ上で動かせるようなモデルのことで、顧客が出荷されたCDやデジタル配信を受け取って自分のパソコン上で動かすという従来の形式とは反対のモデルだ。
一方、サブスクリプションは単なる支払方法だ。
この2つの概念は深く関連し合っているので、今ではSaaSについて言及された文書はそのほとんどが販売と支払方法という両方の要素に触れている。
SaaSが提供方法となり、サブスクリプションが支払方法となる。
サブスクリプション
この方式の持つ力は本当に大きい。
どの会社も大好きで切望しているものが2つも得られるからだ──予測可能な収益とロイヤルティである。
ジョンはあなたの製品を気に入っている。
A社からB社に転職しても、そこで再びあなたの製品を購入する。
ジョンはあなたの製品を気に入って、そのことを友達3人に話す。
話を聞いた友達の一部もあなたの製品を購入する。
カスタマーエクスペリエンス
CXとは通常、顧客になってから顧客をやめるまでの期間における評価と管理のことだ。
ここには、販売、オンボーディング、請求書の発行、カスタマーサポート、更新などあらゆる接点で顧客が何を経験したかに関する把握と管理が含まれており、一般的にはアンケートなどの調査で測定する。
カスタマーサポート
カスタマーサポートの担当者はその製品の専門家であることが求められるが、それはカスタマーサクセスマネージャーも同じである。
どちらの役割にも高い接客スキル(人柄、忍耐力、助けたいという心からの気持ち、打たれ強さなど)が必要だ。
問題解決力も、どちらにも役立つ能力である。
カスタマーサポートの主な目的は、殺到する顧客の問題に対応することであり、指標は結局「効率」(完了件数/日/担当者)だ。
それに対して、カスタマーサクセスは、データで予測することで先回りして顧客の困難を回避するものであり、一般的にはリテンション率で測定する。
カスタマーサポートは、「break / fix(壊れたら直す)」組織だ。
この組織に属する人の業務は、製品のどこかが壊れたと感じている顧客からの電話やEメールに対応することである。
この時、顧客はその問題の深刻度に応じた適切な対応レベルを期待している。
成功している顧客
「成功している顧客」という言葉の定義は幅広く、さまざまな要素によって変わる。
顧客の成功とは、製品の定着率、エンゲージメント、利用率から直接つながった結果だと考える会社がほとんどだろう。
だがそれ以外に、顧客があなたの会社をベンダーとして選んだときに目指していた利益を確実に得られるようにすることも重要だ。
成功した顧客
成功した顧客が行うことは次の2つだ。
(1)顧客を続ける(契約更新する、または解約しない)、
(2)あなたからもっとモノを買う。
カスタマーサクセスの職務は、顧客が製品によって成功できるようにすることだから、これは収益を生み出す組織である。
つまり、直接の営業経験はないとしても、少なくとも営業に明るい人材が必要ということだ。
正しい顧客
チャーン自体は氷山の一角だ。
成功に導くことができない顧客を契約させれば、甚大なコストにつながってしまう。
まず挙げられるのは、オンボーディングにかかる顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)だ。
だが、それ以上に大きいのは、間違った顧客に人材をつぎ込んだ結果失われる機会コストであり、しかもこのような顧客に苦労したところで、リスクの大きい賭けになるのは避けられない。
同じ人材を、もっと高いLTVをもたらす可能性の高い別の顧客を助けるためにつぎ込めたかもしれないのである。
成長中のSaaS企業ならどこでも、製品開発とPMF強化のためには営業部門とカスタマーサクセス部門からのフィードバックが極めて重要だ。
特にフィードバックが欠かせないのは、理想的な顧客以外、またはコア市場の外側の顧客層にまで視野を広げることを選んだ場合である。
チャーンの原因の大部分は間違った顧客への販売ということだ。
ハイタッチ
- 定義されたオンボーディングプロセス
- ベンダー内の部署間引き継ぎ
- 現状確認の打ち合わせ(毎月)
- 幹部のビジネスレビュー(EBR)(半年または四半期ごと)
- 現場視察(頻度が非常に多い場合も、年に1回の場合もある)
- 定期ヘルスチェック
- 更新日前の連絡(サブスクリプション型の場合)
高額なリソースを使うハイタッチモデルでは普通、リテンション目標は100パーセントと明快だ。
それよりわずかでも少なければ、間違いなく大失敗となる。
一方で、ハイタッチサービスを受ける顧客はたいてい、増額する可能性も非常に高い。
ロータッチ
定義されたパッケージ化されたオンボーディングプロセスベンダー内の部署間営業部門からオンボーディング部門への引き継ぎのみ現状確認の打ち合わせ(毎月)- 幹部のビジネスレビュー(EBR)(
半年または四半期ごと1年に1回) 現場視察(頻度が非常に多い場合も、年に1回の場合もある)- 自動化した定期ヘルスチェック
- 自動更新
日前の連絡(サブスクリプション型の場合)
この階層とタッチモデルがしっかり定義されていて、人員数の決定に使われている。
ハイタッチモデルの話に戻ると、このモデルではCSMが各タスクの準備と実行にかかる時間や不定期タスクの発生する頻度をごく容易に見積もることができる。
社内ミーティングや接客以外の業務に充てられる時間も組み込めば、年・月・週ごとに顧客1人当たりに必要なCSMの時間を算出できるし、逆に1人のCSMが管理できる顧客数も定義できる。
これで会社の人員モデルは完成だ。
テックタッチ
価値の低い顧客のロングテールだ。
この種の顧客の1人1人の価値は戦略的にも金銭的にも大きいものではないが、全体としてベンダーの収益に大きな役割を果たすことが多い。
ロングテールに対して求められるのは、テックタッチのカスタマーサクセスだ。
一対多に役立つチャネルには、他にも次のようなものがある。
- ウェビナー
- ポッドキャスト
- コミュニティ(他の顧客とアイデアを共有したり、バーチャルで会話をしたりできるポータルサイト)
- ユーザーグループ
- カスタマーサミット
Eメールのターゲットマーケティングという概念の核にあるものは、ごく単純である。
潜在顧客に対して、顧客層の情報と行動の情報に基づいて高機能のEメールキャンペーンを作り、潜在顧客を購入への流れに乗せることだ。
Eメール
Eメールは自由に使える優秀なツールだが、使いすぎる恐れも当然ある。
テックタッチ客とのやり取りにおける最高の手段でもあるので、ついやりすぎと思われるまで送ってしまうのだ。
しかし、その危険性を抑えることのできる心強い方法がある。
顧客に送るあらゆる自動メールを、担当するカスタマーサクセス部門や顧客専属のいわゆるサクセス担当秘書から届いているように見せればいいのだ。
顧客の個人情報に特化していて、タイミングも内容も自分にぴったりのEメールであれば、顧客からスパムメールだと思われることも、やりすぎと受け取られることも絶対にない。
変化
変化は敵だ。
何も変わらなければ、顧客とベンダーは常にぴったりとくっついていられる。
しかし、変わらないためには、変わり続けなければならない。
どちらの会社でも人は変化する。
ビジネスモデルは変化する。
製品は変化する。
トップも方向性も変化する。
そのようにして時間は過ぎていくのだ。
常に変化し続ける中で起きる自然な流れに打ち勝つには、一方または両方の会社が意図を持って積極的に連携するしかない。
そこで、カスタマーサクセスの部門が生まれたのである。
カスタマーサクセス部門の業務とは、顧客とベンダーの関係に介入して、両方の背中を押すことだ。
片方のボートに乗って、オールをこぎ始めるのである。
危険信号
危険信号──契約後に利用率が下がるか、まったく利用されなくなる。
危険信号──顧客からの反応がなくなった。プロジェクトオーナー〔プロジェクトへの出資を決定する人。通常は経営幹部〕やプロジェクトスポンサーと連絡が取れない。
危険信号──顧客があなたの製品をまったく使っていない、または使用率が低下している。
否定的な意見を無視してはいけない。
自分から顧客に連絡を取り、自部署の社員に関する情報や意見を得るのだ。
関係修復が可能なのか、担当者を変更すべきかの決断を迅速に行わなければならない。
人を替えてほしいという要望への対応の遅れは、長期的な悪影響につながり得る。
顧客とのやりとりを維持する方法
- CSMや幹部が積極的に支援する
- 適切な内容のEメールをタイミングよく送る
- 製品の使い道を広げる手法をテーマとした、質の高い顧客向けウェビナーを実施する
- 活気ある顧客コミュニティから最新情報を入手したり、コミュニティに介入したりする
- ユーザーグループ会議を定期的に開催する
- 顧客による諮問機関を構築する
- ユーザーカンファレンスを開催する
顧客はあなたのソリューションを、その特徴や機能を使うために買うわけではない。
顧客があなたのソリューションを買うのは(そして金を払ってあなたとの関係を始めるのは)事業目標を達成したいからだ。
顧客が大成功するのを支援するには、まず何が顧客にとっての成功なのかを理解しなければならない
❶顧客はどうやって成功を測っているのか。具体的には、顧客が成功の計測に使っている主な指標、すなわち「通貨単位」と、顧客があなたのソリューションに価値があったと納得するには何単位の追加/節約/除去/削減が必要か、ということだ。
❷その指標から判断すると、顧客は成功しているか。
❸成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか。
あなたの会社が持つべき最善の視点は、顧客のレンズを通したものだ。
顧客が物事をどう捉えているかや何を考えているかをどれだけ必死に想像しようとしたところで、顧客が言葉にするまでは絶対にわからない。
顧客との率直なやり取りは、会社にとって情報の宝庫になるし、時には神の啓示にさえなり得る。
困難な時期は、関係を固める機会でもある。
「一番硬い鉄を作るのに必要なのは地獄の炎」という言葉もある。
厳しい状況に顧客と立ち向かう中でパートナーとして本音を伝えれば、または自分の責任を認めて、短期目標を決め(そしてその目標を達成し)、信頼を回復し、顧客を成功に導くことができれば、いつかこの言葉が実感できる日が来るだろう。
顧客が期待しているのは、(おおむね正当な期待ではあるのだが)必要なときに自分を助けてくれる人がいることである。
この時に顧客が見落としやすいのは、人材は無限ではないということだ。
そう、私たちは限られたリソース(この場合は人材)でやりくりせざるを得ない。
すると、まったく資源がない場合よりも期待値の設定や維持はずっと大変なものになる。
たとえば、以下の2種類の顧客に異なるメッセージを送る場合のことを考えてみてほしい。相手にはどう伝わるだろうか。
ロータッチ──「当社がお客様を成功へと導くプロセスには、さまざまなテクノロジー中心のリソースがございます。お客様は、当社のナレッジベース、成功事例ライブラリー、オンデマンドトレーニング動画のすべてに無制限でアクセスいただけます。さらに、限定的ではありますが、カスタマーサクセスマネージャー/部門によるサポートもご利用いただけます」
テックタッチ──「当社がお客様を成功へと導くプロセスには、さまざまなテクノロジー中心のリソースがございます。お客様は、当社のナレッジベース、成功事例ライブラリー、オンデマンドトレーニング動画のすべてに無制限でアクセスいただけます」
自社と顧客の関係強化
- 自社の事業に合った指標で顧客をセグメント化する
- セグメントごとに顧客カバレッジモデルを決める
- 対象モデルごとに顧客とのやり取りの指針を作る
- 顧客とやり取りする頻度を決める
- 強固なロイヤルコミュニティを構築して顧客同士を結び付ける
- 顧客のフィードバックループを作る
高いARR(たとえば50万ドル以上)を見込める複雑なソリューションを提供している顧客なら、ハイタッチ客になるだろう。
ここで重視すべきなのは、最も価値の高い顧客から現在得られている収益(そして今後見込まれる増加分)を守るためにどれだけ投資するかということだ。
ハイタッチ
- 四半期中に複数回、顧客と直接打ち合わせをする(回数は顧客によって変わる)
- 四半期ビジネスレビュー(QBR)を実施する
- サクセスプランの青写真を作成する
- 個別に幹部ミーティングを行う(1回または複数回)
ロータッチ
- 四半期中に1回(または必要に応じて)、顧客と直接打ち合わせをする
- 月に1回以上のウェブ会議またはビデオ会議に力を入れる
- 個別に幹部ミーティングを行う(1回)
テックタッチ
- 製品導入に関するウェビナー型の一対多会議を行う
- 毎月または年4回ニュースレターを発行する
- データを活用したEメールのキャンペーンを行う
- オンデマンドトレーニングやガイダンスを行う
- コミュニティポータルサイトを活用する
定期収益ビジネスの時代に顧客との関係を強化してロイヤルティを生み出すには、次の3つの原則を守ったやり取りが必要だ。
(1)連絡を取る頻度を増やす。
(2)明確な見通しを決める。
(3)できるだけ透明性を保つ。
1年目の顧客に対して行われる取り組み
- サポート案件が解決するたびに、自動アンケートを送信。
- 90日ごとにEBRのスライド資料を自動送信。
- 更新90日前にNPS調査を送信。
- 更新日が近づいていることを知らせる自動通知に更新見積書も添付。
- 新たなリスクや機会が見つかった際に自動メールを送信。
- 不定期にメアリーから個別連絡、または初めて90日目を迎える場合は、別のCSMも同席。どのような場合に個別対応が必要かについては、リスクや機会の性質によって決まる。
- 年1回、ウイングチップの幹部レベルの担当者からフィナンシャリティに働きかけ。
- 更新処理が完了した際には別のプレゼントを自動送付。
カスタマーヘルス
カスタマーサクセス部門がカスタマーヘルスを理解することは、営業部門のトップ(または会社の幹部)が自社のパイプラインを理解することと非常によく似ている。
❶将来の行動が予測できる
❷将来の行動が起きる時期が予測できる
❸部門をうまく管理できるようになる
カスタマーヘルスを最も雄弁に語るのは、顧客が製品を使っているかどうかやその使い方だ。
カスタマーサポート──顧客が電話をかけてくる頻度はどのくらいか。問い合わせへの対応期間は何日間か(優先順位1の件数と優先順位2や3以降の件数を比べるとどうか)。
そう、健全な顧客は、ある程度定期的に電話をかけたりサポート体制を利用したりするものだ。
これも、カスタマーヘルスを測る良い指標である。
事業規模の変化
事業の規模が変わるのは、顧客の規模が変わったときだけだ。
ほとんどの会社にとって、それはつまり価値の低い顧客のロングテールのことである。
全体としての価値は極めて高いものの、個々は上質なサービスに値するほど大規模でもないし戦略が必要な存在でもない。
顧客層のピラミッドでいうと、ロータッチやテックタッチに入る顧客のことだ。
CSM
規模を拡大して顧客の目標や期待を満たしたいと思っている会社なら、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)にはホストの役割が求められる。
社内と社外の両方でカスタマージャーニーを完遂する責任を持つ、どこまでも信頼できるアドバイザーだ。
CSMが取り組む優先課題
- 製品の定着率を高めて価値を引き出す
- 顧客のライフサイクルやサポート機能に関する問題への対処などによって、不満の真因を取り除く
- 自社製品が同分野で最高の製品であるようにする
フィードバックが確実に製品部門や他の営業部門、サービス部門、カスタマーサポート部門などの部署まで行き渡るようにする一番いい方法は、顧客の意見を取り回す明確なフィードバックループを決めることだ。
あらゆる機能に対して絶えず改善を繰り返して、カスタマーエクスペリエンスを高めて、それを製品設計に直接反映できるシステムとして有用なのが、前述した事業プロセスの機能面に対するPACとCOPだ。
あなたが一番求めているのは、顧客からの製品への要望や不満がすぐPM部門に伝わるような仕組みだろう。
これを広い規模で実現するために使えるのが、コミュニティ、フォーラム、各種調査、ユーザーグループなどだ。
タイムトゥバリュー
購入後にできるだけ早く顧客が価値を感じられるようにする秘訣
- 顧客と協力して、具体的な成功の指標を固める。
- 早い段階での価値達成に向けて何度も取り組む。最初は一番成果が見えやすい指標を達成して、その後残りに取り組む。
- 調整はすぐに行う。期待値が危機にさらされていることに気付いた瞬間に、すぐ行動に移す。
成熟度
レベル②反復できる段階に進むと、必要なプロセスの原理原則が定められて初期段階の成功を繰り返せるようになる。
ここから成熟度レベル③定義された段階へと進むと、プロセスが文書にまとめられて標準化され、組織の標準プロセスとして一元化される。
この段階で反復が可能なプロセス手法の根幹が決まるので、あとは計測(レベル④管理された段階)と改善の継続(レベル⑤最適化された段階)に進めばいい。
科学的かつ体系的な方向
組織を事前対応型かつデータ重視型の部署へと変革したことが、顧客による活用と定着につながり、顧客の成功を生み出した。
科学的かつ体系的な方向に進む道を選ぶ方が、理に適っている。
ただ、自動化への適切な動機付けという目的でいえば、まずは手作業で取り組んで苦労してみるのも役に立つ。
自動化する前に自力で問題に取り組みながら、最初は体系だっていないプロセスを作るのもためになるはずだ。
プロセス自体が適切に仕上がっていなければ、自動化だけしても何の意味もない。
失敗が早まるだけだ。
増え続ける顧客基盤を管理する方法は2つしかないからだ。
❶増員
❷テクノロジー
仮に私がハイタッチのCSMであり、優れたCSMソリューションを活用できる状態なら、質を落とさずに管理できる顧客数を25件から30件、場合によっては35件まで増やせるようにしなければならない。
一方、私がテックタッチのCSMで1000件の顧客を管理しているなら、適切なテクノロジーがあれば顧客数を文字どおり倍増(またはそれ以上)できるはずだ。
成功に関する指標
成功に関する指標は、会社に売上(受注または収益)という金銭的な利益をもたらす。
新しい事業の売上は、明らかに成功に関する指標だ。
カスタマーサクセスの世界における重要な指標は、主に更新率、アップセル率、顧客基盤全体の成長率だ。
効率に関する指標は、そうではない。
この種の指標が着目しているのは、収益増加とは逆のコスト削減である。
1日当たりの新車組立にかかる時間を削減するというのは、効率に関する指標だ。
たくさんの車を作るのが仕事であれば、会社にとって非常に価値がある指標だが、それがたくさんの車を販売するという結果に直接結び付くわけではない。
効率性の向上に長けている人が、収益や受注数の増加を成し遂げる人と同じとは限らないのだ。
顧客の指標
あなたの会社が抱えている中で最も満足していて健全度の高い顧客がどんな属性を持っているかについて、社内で定義づけを行い、合意を取る。
一方で、チャーン間近の顧客の属性も定義する。
この属性に入るのは、利用パターン、サポート件数、NPS、利用期間、契約額の増加率、主要な窓口や担当者の離脱などだ。
このようなカスタマーヘルス情報を把握・管理する手段としては、CRMソリューションやエクセルも可能ではあるが、カスタマーサクセス管理アプリケーションを用途に特化して実装した方がはるかに効率はいいし、先んじた対応もできるようになる。
- 契約規模を拡大した顧客の割合は?
- 最もチャーンレートが高い業界は?
- 製品ごとのリテンションと成長率は?
- 初回更新における割引率の平均引き下げ幅は?
- 3年以上継続している顧客の、当初の契約規模に対する平均契約規模は?
人生では、成功よりも失敗から学ぶことの方が多い。
指標
ユーザー基準の指標の例には、たとえば次のようなものがある。
- NPS
- ログイン数とログアウト数
- 特定の製品機能/プラットフォーム(オンライン、モバイル、API)の利用状況
CSM活動の指標の例には、次のようなものがある。
- 顧客とのやり取りにおける種類ごとの頻度(QBR、Eメールによる更新情報、電話)
- CSMが対応したサポートチケットの数(サポート部門が対応した数ではない)
- リスク識別の瞬時性
- リスク低減活動の有効性
あらゆる原理原則に言えることだが、積極的な管理が可能になるのは明確な管理指標がある場合だけだ。
それがあれば、結果を管理するだけでなくプロセスを率いることもできる。
カスタマーサクセスの原則が定着するには、チームや人員を効果的にマネジメントする能力が不可欠であり、それは事業価値にひもづいた具体的かつ計測可能な指標に基づいていなければならない。
純リテンション
個々のCSMや部署全体の質を判定する一番の指標は純リテンションだと考えている。
リテンションとアップセルの両方を考慮した指標だからだ。
前にも何度か述べたが、成功した顧客が取る行動は次の2つである。
(1)顧客を続ける(サブスクリプションであれば、契約を更新する)、
(2)あなたからもっとモノを買う。
カスタマーサクセスの職務が顧客を成功させることで、しかも成功した顧客がこの2つの行動を取るのであれば、純リテンションこそが重要な指標ということになる。
カスタマーサクセス部門が行うことはすべて、ロイヤルティを生み出すためのものでなければならない。
そのロイヤルティを長期的に計測する指標が純リテンションであり、短期的な指標がヘルススコアということだ。
会社が把握している情報
- 初回契約日
- 顧客になってからの期間
- 業種
- 所在地
- 契約内容
- 契約金額
- 契約金の増加率
- サポート電話の着電数
- サポート案件ごとの重大度
- 各サポート案件の継続日数
- 請求書の件数
- 支払完了数
- 支払遅れ件数
- 平均支払期間
- 顧客満足スコアとその傾向
- カスタマーヘルススコアとその傾向
- サブスクリプションのSaaS企業の場合
- 更新日
- 製品に対する全クリック数
適切なテクノロジーを使って、担当者は全顧客のうちまだ新たな機能を使ったことがないパワーユーザーや管理者を見つけることができた。
そして、次のようなEメールを送るのである。
膨大な顧客情報
- 顧客層に関する情報──業界、所在地、企業の規模など
- 自社の顧客になってからの期間
- 購入した製品とその時期
- 購入した製品ごとの支払額
- 送付済みの請求書全件──時期、内容、金額、期間
- 受領済みの支払い全件──時期、金額
- サービス電話/サポート電話の全件──時期、理由、重大度、応対時間、解決までの期間
- 送付したEメールの全件に対する結果──開封率、不達率、配信停止率、クリック率
- 参加または登録したイベント/ウェビナーの全件
- 送付したダイレクトメール全て
- ウェブサイトへの訪問数と流入経路
- サポートポータルへの訪問数とポータル内での行動内容
- 開催したトレーニング講座の全件──セミナー形式またはオンデマンド形式
- 調査全件に対する、送付数、受領数、顧客の反応
- 製品の利用方法(聞き取りまたはオンライン経由)
また、サブスクリプション型や従量課金の会社なら、次についても把握しているはずだ。
- 当初の契約金額
- 現在の契約金額
- 契約の増加率
- 更新完了数またはオプトアウトされなかった件数
さらに、SaaS企業なら次の項目も加わる。
- 製品内で顧客が取ったあらゆる行動(ページ閲覧数、クリック数、レポート確認数など)
製品利用データ
もし活用できるデータが1種類しかなければ、誰もがこのデータを選ぶだろう。
最高のカスタマーヘルスの指標も将来的な購買行動の手掛かりも、間違いなく個々の顧客が製品をどう使っているかにかかってくる。
だが、このデータを手に入れるのは難しいし、そこから傾向を分析するのはさらに困難だ。
顧客とのその他のやり取り
顧客とのやり取りには、サポート電話や、請求金額の支払い(または未払い)、調査への回答(または未回答)、こちらから発するマーケティングメッセージへの関与などがある。
それぞれのやり取りはたいてい、別々のシステムに入っている。
完璧なアカウントマネージャーは、他の複数のシステムに入ってそこからデータを解読してから、働きかけの手段に優先順位を付けてそれぞれの価値を高めなければならない。
データに基づく顧客に取るべき行動のアドバイス
話すだけでなく、データを使おう。
次のような伝え方に近づける必要がある。
「今回と業種、割引率、使用事例、価格帯が同じお客様との取引は、過去に31件あります。うち14件で最初の更新時にチャーンが起き、2回目の更新時にも4件のチャーンがありました。8件はまだ更新時期が来ていません。残りの5件は更新しましたが、契約金額は平均で14パーセント下がりました。さらに、残っている13社に対して実施したNPS調査の平均点は5・ 2で、平均ヘルススコアは38・ 7です」
過去6カ月間で主要機能の使用率が20パーセント以上低下しているうえに、直近の調査に回答がなかったか低い点数を付けた顧客は17社あります。
この全件に連絡を取りましょう。
まずはこの四半期に更新が予定されている顧客と、まだ1年目という顧客の合計4社から取り掛かります。
また、アクメ社は今後9カ月間で契約金額を50パーセント引き上げる予定ですので、最重要顧客です。
今週優先して対応すべき顧客は、P1またはP2レベルのサポート案件が10日以上継続しているうえに、直近の支払期日を30日以上過ぎている7社です。
上層部の担当者が異動になったか、最後のマーケティングメールの後で最重要ユーザーが配信停止処理をしたという顧客が5社あります。
すぐこの5社と話し合いましょう。
最近リリースした新たなコラボレーション機能をまだ試していない顧客が3万人以上います。
このような顧客にEメールを送って、オンデマンドトレーニング動画の視聴や来週開催するこのテーマについてのウェビナーへの参加を促しましょう。
CSMの行動指標
- 電話の件数
- 会合の実施数
- 対応策のきっかけとなる行動の数
- 対応策の実施件数(カテゴリーごと)
- 四半期ビジネスレビューの実施数
- その他の指標達成数
- 更新/アップセルの結果
- カスタマーヘルススコア
- 顧客満足度
- Eメールの送信数/開封数/クリック数
- 顧客への計画作成数/更新数
どこから始めるべきか
- 成功を定義する
- 成功に関して足並みを揃える
- カスタマーサクセス部門の話に耳を傾ける
- カスタマーサクセスを優先する
- カスタマーサクセス部門に権限を与える
- カスタマーサクセスを計測する
- カスタマーサクセスを報告する
- カスタマーサクセスに報酬を与える
- 会社を後押しする
- 成功を祝う
CEOへの質問
❶パイプラインに平均販売価格を上回る取引があった場合、顧客が本当に成功できる可能性が低すぎるという理由で拒絶することをいとわないか。
❷今ある顧客の課題を優先する結果、重要な製品のリリースが遅れることを受け入れられるか。
❸カスタマーサクセス部門のトップは、CEOの信頼の輪の中にいるか。
❹ロードマップには、既存顧客の要望に対応することだけが目的で販売増につながらない項目も入っているか。
❺緊急性の高い顧客の状況にはCEO自らが介入しており、それは重要な販売取引への介入と同じくらいの頻度になっているか。
面白かったポイント
カスタマーサクセスについて体系的にまとまっている良書です。
これからさらに重要性を増すカスタマーサクセスの組織・活動を理解しておく、構築できるレベルになることで市場価値がかなり高まるでしょう。
何度も読み直したい本です。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆