急成長を導くマネージャーの型

ビジネス

『急成長を導くマネージャーの型』長村 禎庸

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内容

マネジメント

事業基盤が弱い「ベンチャーにおけるマネジメント」

 

創業者が掲げるN年後の壮大なビジョンを、3年程度のスパンでの具体的な目標・方針に落とし込み、KPIを定め、KPIを達成するために組織構成を変え、キーマンを採用し、有効な会議体やツールを設計し、会社を勢いづけるよう些細な成果も社内にプレゼンし、「これは」と思う人物は経験や年齢に関わらず大胆に評価して、大きな責任を任せる。

 

マネージャーの4つの役割

・「経営」からオーダーされた成果を残す

・人的資産を維持・活用する

・人を育てる

・会社の中でチームを機能させる

 

ベンチャーでは「マネージャー同士で」チーム間の連携ルールはクイックに決めてしまいます。

中央集権的な部門が主導するのではなく、現場主導でおこないます。

よって、マネージャーの役割に「会社の中でチームを機能させる」調整業務が入るのです。

 

激しく状況が変わるため、4つの役割の内容や比重もコロコロ変わります。

マネジメント専業者がいない環境で、状況もコロコロ変わる中で「あなたの役割はこれですよ」なんて決めて教えてくれる人などいません。

すべては自分で考えるのです。

 

ベンチャーを取り巻く環境の変化は非常に激しく、それに応じて事業内容、目標、組織、メンバーなどあらゆるものがコロコロ変わり続けます。

そのような環境下で成果の出せるマネージャーの条件とはどのようなのものでしょうか。

それは、「素早く、正しく、現状把握をおこなえること」です。

 

決める人

時には会社に大きな影響を及ぼす意思決定を自分でおこなうことが必要なこともあります。

「決める」というのは、合理的に検討しただけではできないこともあります。

また、検討に使える時間が多くあるわけでもありません。

合理的には判断がつかないことも、自分で仮説を立て、ある一定のタイミングで決めることが必要です。

 

決めなければ、何もアクションは生まれず、成果も生まれません。

かつ、弱いベンチャーには、アクションをせずに立ち止まっている時間はありません。

会社に影響のある重大なことを、早く「決める」という、難しい業務を担う必要があるのです。

思考力はもちろん、勇気も必要ですし、「出した答えを絶対に正解にしてやる」という気概も必要です。

ベンチャーのマネージャーは、会社に影響度が大きいことも、合理的に考えるだけではなく気概をもって「決める」人なのです。

 

目標

目標とは何でしょうか?

目標と予測を混同し、「正確な」「予測値としての」目標設定を時間をかけておこなう方が非常に多いですが、目標は「予測」ではありません。

予測とは、何らかの根拠を元に推測されたものですが、目標とは「その達成を目指すことでチーム・個人の能力を最大限引き出すもの」です。

目標は、チームの力を引き出すエンジンなのです。

 

目標と予測は異なることに加え、新規性の高いことにチャレンジしているベンチャーでは、どのあたりの目標が妥当なのか、目標設定のための分析・検討を長くしたところで、答えが見つかるものでもありません。

妥当なラインを分析・検討により発見しようとして、長い時間そのことに時間を割く人が多くいますが、その長い時間は「目標が決まっていない期間」ということになります。

仕事におけるアクションというのは、目標と現状のGAPを埋めるためにおこなうものなので、目標が決まっていないということは、何もアクションがおこなわれていないということです。

どれだけ目標として妥当なものを考えようが、その設定のための時間が長ければ長いほど、チームのアクションは減ります。

 

さらに、ベンチャーであれば、妥当なラインなど検討を続けても、どこかでその検討による意味がなくなるラインがあります。

考えても、わからないものはわからないのです。

目標設定のための分析・検討はほどほどにし、野心を根拠に設定します。

「このラインが妥当だ」ではなく、「ここを目指したい」という意思をもって目標を決めます。

そのようにして早く目標を決め、早く動いて早く失敗して早く学んで、その目標を到達できる方法を探すのです。

野心をもとに早く決めて早くチャレンジしたほうが、最終的な成果にはつながります。

 

野心を根拠に設定する目標は、どのラインで設定するのが妥当なのでしょうか。

それは、「手が届くギリギリのライン」で設定することです。

イメージとしては、「70%程度は達成方法の想像はつくが、30%は達成イメージがつかない」程度、非現実的とまでは言えませんが、現実的だとも言い切れないラインです。

 

目標のレベルには、コンフォートゾーン、チャレンジゾーン、パニックゾーンの3つがあります。

 

コンフォートゾーンは、本人が特にストレッチしなくても楽に目標達成ができるゾーンです。

このゾーンで目標を設定し、達成したところで、本人は特に得るものはありません。

 

パニックゾーンは、目標達成の方法が到底わからないゾーンです。

このゾーンでは、メンバーは「自分の無力さを痛感して残念な気持ち」「マネージャーや周囲に申し訳ないという気持ち」「周囲から責められているような気持ち」など、自尊心を傷つけるような心理状態に陥ります。

そうすると、心身ともに不調を来します。

 

目標は、チャレンジゾーンで設定します。

これは、手が届くギリギリのラインでの目標です。

「達成がまったく想像できないわけではないが、確実に想像できるわけでもない」というラインです。

このラインで目標設定をすることで、人はエネルギーレベル高く業務に臨めます。

 

目標に意義をつける

意義には3種類あります。

❶社会軸

自分たちの貢献対象(ユーザー、顧客、その先の社会)に貢献したい、という種類の意義です。

【例】○○な社会を実現する

❷市場軸

競争相手や関連事業社ともに所属しているその市場において、自分たちがどういう存在になるか、という種類の意義です。

【例】〇〇市場でNO.1になる

❸自社軸

日々の業務を通じて、自分たちがどのような存在になるか、という種類の意義です。

【例】〇〇ができるようなチームになる

 

アクション

1つのKPIに対して、アクションは1~3個程度に絞るといいでしょう。

ベンチャー企業のリソースは有限です。

あれもこれもと手を出すのではなく、大事なものだけにフォーカスします。

1つのKPIに対し、アクションアイデアを出したら、またそれを工数・インパクトの観点で整理して絞ります。

できるだけ、工数小・インパクト大に近いものを選ぶようにします。

 

メンバーのタイプ

縦軸

・自立:自分で自分の強み・弱みを客観的に把握できる

・他人評価依存:他人からの評価・フィードバックを得て自分の強み・弱みを把握する

横軸

・チーム目的:チームの成功が自分の喜びだと思えるマインド

・自分目的:チームの成功とは関係なく、自分自身の目的の達成に喜ぶマインド

 

モチベーションが低い理由

全体像を見渡すと、モチベーションが低い理由として考えられることがいくつか思い浮かびます。

①チームの役割・目標・意義が定まっていないので、やりがいがなく、モチベーションが低い

②チームの方針・アクションが定まっておらず、何もすることがなく暇なので、モチベーションが低い

③アサインメントが自分の能力や意思を活かせるものになっていないので、モチベーションが低い

④チームにモメンタム(勢い)がないので、雰囲気が暗く、モチベーションが低い

⑤評価プロセスにおいて、評価に納得できず、モチベーションが低い

⑥マネージャーが自分の仕事を見てくれていないので、モチベーションが低い

⑦マネージャーが適切なコミュニケーション支援(ティーチング、コーチング、フィードバック)をしてくれないので、モチベーションが低い

⑧マネージャーの人間性に共感できないので、モチベーションが低い

 

個の時代

・会社員として本業がありながら、空き時間や休みの時間に手伝ってくれる「副業スタッフ」

・フリーランスとして、一定の時間をコミットして業務を担ってくれる「業務委託スタッフ」

・自分たちでは得られない知見や人脈をアドバイザーとして提供してくれる「顧問」

 

会社に入る理由

人がその会社に入る理由は、大きく分けて3つしかありません。

❶ヘルプ

助けてほしいと相手から求められることが動機だと感じる人に有効です。

「当社は●●で困っているので、あなたのXXという力が必要なんだ、助けてくれ」というようなトークを展開します。

❷ビジョン

その会社や、その会社のサービスが描くビジョンに魅力を感じる人に有効です。

「●●という社会を、このサービスで実現したい」というようなトークを展開します。

❸メリット

その会社に入ることで得られる報酬、スキル、キャリアなど、自分のメリットになることに魅力を感じる人に有効です。

「●●という業務を通じて、あなたにXXのような能力が身につきます」というようなトークを展開します。

 

チームを推進する仕組み

チームを推進するための、5つの仕組みがあります。

①進捗の可視化(チームの主要な活動がどのように進んでいるのか、常に見えるようにする)

②情報共有(チームメンバーの業務効率や意思決定の質を引き上げる情報を共有する)

③報告(知るべき人に知るべきことが、適切なタイミングで伝えられるようにする)

④議論(1人では生めない解を、複数人の議論により生めるようにする)

⑤意思決定(決めるべきことが決められるようにする)

 

報告とは、「相手が知りたいことを、相手が求める形式で」伝えるものです。

進捗の可視化や情報共有と異なるのはこの点です。

進捗の可視化や情報共有は、相手が求めるか否かを強くは意識せず、自チームの状況や知見を開示するという意味で、発信者主体の編集でおこなわれるものです。

一方、報告は「受信者が求めることを、受信者が求める形で」おこないます。

 

ミーティング設計

①目的(その会議は何のためにおこなうのか)

②目標(その会議が終わった時の状態はどのようなものなのか)

③アジェンダ(どんなアジェンダにすべきか)

④参加者(必要な参加者はだれか)

⑤頻度(必要な頻度はどのくらいか)

⑥時間(必要な時間はどのくらいか)

 

事実に基づくフィードバック

メンバーの能力評価・バリュー評価に関する「事実」を毎日ストックします。

これが数か月分溜まれば、非常に有効なフィードバックができます。

 

信用される方法

全身全霊、全人格を以て相手の話を聞く

まず前提として、「相手の考えていることをすべて理解するなど到底無理」ということを肝に命じてください。

人は自分で考えていることのごく一部を「言葉」にして表現します。

言葉にできることなど、その人が考えていること=「その人の宇宙」のごく一部にすぎません。

その言葉ですら真剣に聞けないのであれば、相手の考えていることなど何も理解できません。

「相手の考えていることをすべて理解するなど到底無理」という謙虚さを持ち合わせ、「それゆえに、せめて言葉に現れているごく一部のことくらいは必死で理解しよう」と努めるのです。

 

惜しみなく与える

自分が相手に与えられることがあれば、見返りなんて求めず、すべて与えてください。

知識、経験、人脈、フィードバック……相手に与えられるものはたくさんあります。

 

見返りを求めず、ただただ善意で、メンバーのためになることなら何でも与えます。

そういう、見返りを求めない「ギブ」をする人を、人は信用します。

 

関与

マネージャーとメンバーに大きな能力差がある場合は、直接関与をやめ、間接関与にしましょう。

理由は、「能力差のあるマネージャーと直接業務をするだけで、メンバーはパニックゾーンに陥る」からです。

 

ティーチング、コーチング、フィードバック

・ティーチング

知らないことや、足りないことを相手に教える

・コーチング

相手に質問をし、相手に気づきを与え、相手を導く

・フィードバック

相手が気づいていない客観的な事実を伝える

 

ティーチング

①やって見せる(相手に教えたい業務を目の前でやって見せる)

②事例を使う(ある事例を元に、教えたいことを教える)

③たとえ話を使う(身近なわかりやすい事例を元に教える)

④ナレッジを伝える(自分が持っている知見を、相手が使える形にして伝える)

⑤経験を話す(相手が置かれている状況に似た、自分の経験を話す)

⑥コンテンツを読んでもらう(教えたいことを記載している書籍や記事を読んでもらう)

 

壁打ち

相手に問いを立て、相手の答えを受け止めつつ、自分の答えも提示して、それを交換しながら答えを生み出す。

「相手に考えてもらいつつ、自分の答えも提示したい」という場合は、この2つの方法のどちらかを使います。

 

コーチング

人は、自分で話しながら、自分で解決できる力があります。

 

慢性的に退職が起こり続ける理由

役割

【例】チームの役割が曖昧なので、自分の仕事が会社にとって必要かわからない

目標

【例】野心的な目標がないので、毎日同じことの繰り返しで成長実感がない

意義

【例】意義がないので、メンバーは何のために苦しい業務に向き合っているのかが不明で、人が慢性的に辞める

方針・KPI・重要アクション

【例】方針がないので、何をすればいいのかわからず、毎日が暇

体制パターン

【例】体制構造に不備があり、過度な文鎮型組織でマネージャーとまともに話せない、構造を飛び越えたダブルマネジメントを受けるなど、メンバーが疲弊している

アサインメント

【例】アサインメントに不備があり、自分の力を業務で活かしきれない感覚に陥る

権限設計

【例】権限設計に不備があり、決めるべき時になかなか決まらなかったり、決めたことがひっくり返されたりを繰り返して、正しい仕事ができない

相互理解

【例】相互理解レベルが低く、メンバー間の対立が絶えない

ルール

【例】ルールが形骸化していて、お互い約束を守れないチームになっており、仕事がやり辛い

推進システム

【例】推進システムに不備があり、意味のない会議や情報不足感など、働く環境として非常にストレスフルである

初期の成果・モメンタム

【例】モメンタムが不在で、雰囲気も暗く、停滞感を感じる

個人目標設定と評価

【例】評価プロセスが雑に進められ、評価に納得感を持つことができない

 

面白かったポイント

ベンチャーの経営企画をやっているので、共感する点が多かった。

言いたいことを的確に言語化されているので、メモするところがいろいろあった。

 

大企業と違いベンチャーで求められるのは、変化対応力ですね。

マネジャーに求められる役割の配分もステージに合わせて変えていかないといけない。

これは経験しないと対応するのがなかなか難しいところ。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

序章 マネジメントは経験でもセンスでもない、「型」を身につけ実行するのみ

1章 マネージャーの役割を認識する

マネージャーの4つの役割

組織のステージごとにマネージャーの役割は変わる

2章 正確で素早い現状把握でロケットスタート

変化の激しい環境では現状把握力が求められる

現状把握の具体的手法

3章 チームの役割、目標、意義を設定する

チームの役割とその先にある意義を「自分で」決める

役割に基づき野心的な目標を掲げる

無機質な目標に意義をつける

4章 チームの戦略3点セット[方針・KPI・重要アクション]

人もお金も少ないベンチャーで立てるべき戦略とは

方針に実現度を測る計器をつける

KPIを達成するための重要なアクションだけを実行する

方針・KPI・重要アクションはフレキシブルに変更する

5章 強いチームをつくる

体制パターン

アサインメント

権限設計

リクルーティング

相互理解とルールでチームを強くする

6章 戦略と組織を動かす「推進システム」を作る

チームを推進する5つの仕組み

ミーティングマネジメント

7章 初期の成果とモメンタムをつくりだす

初期の成果を早めにあげる

モメンタムを生む

8章 改善で継続的に成果を出し続ける

答えのないベンチャーでは、変化し続けるチームが勝つ

良い答えを生むための方法

9章 個人目標設定で成長のきっかけを与え、評価で努力に報いる

個人目標設定と評価こそがメンバーのエネルギーの源泉

評価活動のプロセス

コメントは「事実に基づいて」おこなう

10章 ピープルマネジメントでメンバーを動かす

人は感情の生き物

見る

指示する

関与する

11章 3つのコミュニケーション技術を使いこなす

コミュニケーションの3つの技術

ティーチング

コーチング

フィードバック

12章 マネージャーの立ち位置と心得

立ち位置

心得

慢性的に退職が起こり続ける理由

終章 マネージャーにとって一番大事なこと

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