経営中毒

ビジネス

『経営中毒』徳谷 智史

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内容

資金繰り

苦しくなってきてから対策を考えるようでは、「時すでに遅し」なのです。

資金繰りが悪循環に入れば入るほど、頭の中のシェアをとられます。

 

成長戦略を考えて必要な投資をするといった、大事な使命が頭からすっぽり抜け落ちてしまう。

創業時に掲げた崇高なビジョンも「明日のご飯」に困ってくると、どこかに行ってしまうのです。

 

こうした事態を防ぐためには、当たり前すぎて身もふたもないように聞こえるかもしれませんが、事業を進捗させつつ、不要なコストを極限まで抑えるしかありません。

そして資金計画と調達のサイクルをとにかく前倒していく。

社長が100人いれば100人全員が深くうなずくと思いますが、それに尽きます。

 

未来を見据えたスタートアップは、将来的な成長を前提にお金を調達して、事業を前進させます。

言い換えれば、限られた「今」の原資をもとに経営を成り立たせながら、「中長期的な」売上成長を実現していかないといけないのです。

 

会社の規模や事業特性(日銭商売なのか、中長期的な投資からリターンを得る商売なのかなど、ビジネスの内容)によってまったく変わりますが、まず、共通して見ないといけないのは、「キャッシュフローの見込み」です。

資金繰り表をつくる会社は多いですが、創業初期だとしても、今、お金がどれくらいあり、これから会社に入るお金と出ていくお金がそれぞれどれくらいあって、キャッシュが回り出すのはいつぐらいになる見通しなのか。

ある程度具体的な「未来」を把握しておくことは大切です。

そして、その前提となるのが、P/L上の利益です。

 

資金調達の手段には、大きく分けて「エクイティ(Equity)」と「デット(Debt)」の二つがあります。

エクイティとは、株主資本のことです。

創業初期は、株式の100%を創業者や創業メンバーが持っています。

その一部を、「エンジェル」と呼ばれる個人投資家やベンチャーキャピタルにお金と交換(=出資)してもらい、資金を調達するのです。

株式の値段は、単純に言うと「今の企業価値はこれくらい」という値段をはじき出し(=バリュエーション)、それを元に決めます。

たとえば企業価値が100億円になると仮定したら、全株式の10%と引き換えに10億円を出資してもらう、といった具合です。

 

一方、デットは負債のことです。

金融機関からの借り入れが主な調達手段で、社債やコマーシャルペーパー(CP)などの方法もあります。

 

エクイティは資金を返済する必要がありませんが、デットは必ず借りた相手に返済しなければなりません。

創業初期に最も資金を調達しやすい方法は、少額のデット、すなわち公庫や地元の信用金庫等から創業関連融資を受けることです。

エクイティのメリットは、事業が立ち上がっていない、成果がまだ出ていない状況でも、将来の期待価値を前提にして資金調達ができることです。

最大のリターンはなんといっても、「上場」です。

 

そこで行ないたいのが、信頼できる投資家を人づてで探すことです。

有能なエンジェル投資家やベンチャーキャピタルに出会えると、起業家の視座を上げてくれます。

 

投資家が、SEED(シード)と呼ばれる創業初期のスタートアップを評価する基準は、ビジネスモデルよりも、圧倒的に「起業家」本人です。

初期段階の組織ほど、「経営陣の質の高さ」もまた有効な評価指標になります。

本質的には、箔だけでなく、持続的に成長し続けられるような経営チームを組成して、事業を拡大させる構造をつくり投資家にその魅力を伝えることも大切なのは言うまでもありません。

 

社長にとって資金が集まるというのは、エクイティであれば自分ないし自社の未来を信じて投資してくれる投資家の方々の存在、デットであれば自社の与信を認めて貸してくださる金融機関さんの存在あってこそです。

いずれにしても本当にありがたいことです。

売上が立つのもお客様がいてくれるからであり、本来はコストであっても、給与や外注費もかかわってくれる他者や会社がいるからこそ生じるわけです。

 

人の問題

経営メンバーは何が原因で揉めるのか。

一番の原因は、会社の舵の取り方、つまり意思決定をめぐるケンカです。

 

また、創業メンバーに数%だけ株を渡したり、ストックオプションの権利を与えたりしたところで、ウェイトが小さければ、必ずしも強くコミットする動機になるとは限りません。

 

起業は、何をやるかも大事ですが、それ以上に誰とやるかが大事。

さらにそれ以上に、何のためにやるかが大事なのです。

 

会社の規模が大きくなり始めたら、「どのようなスキルセットを持ったメンバーで会社を構成するか」計画を立てることをおすすめします。

その計画に沿って、今いるメンバーとは異なるスキルセットを持った人を意識的に採用していきましょう。

マインドセットは共通、スキルセットは異質がポイントです。

採用の受け皿を広くして、異なる強みやスキルを活かせる組織に変えていくのです。

働き方についても、フェーズに応じて、フルタイムでコミットできる人だけでなく、小さな子どもを育てていて限られた時間しか働けない女性や、遠方に住んでいて基本的にリモートワークでの対応になる人など、さまざまな人が活躍できる環境にしていくと、多様なタイプの優秀な人を発掘でき、強い組織になります。

 

長期的な発展を考えたら、短期的には厳しくなることを覚悟のうえで、エースを「次の柱」を創るための部署に配置換えをすることが大切です。

 

下位2割の人に辞めていただくのは得策ではありません。

 

人の問題に関しては、「あっちを立てればこっちが立たない」という場面の連続です。

ただ、もとをたどれば、社長である自分に責任がある、ということは少なくありません。

採用した人がカルチャーに合わなければ、その人を探してきたのも自分だし、採用の意思決定をしたのも、どの役割に配置するかを決めたのも自分。

誰かが決めたとしてもその人に任せたのも自分です。

その意味では、何か「人」のトラブルが起きたときに不満を言いたくなる気持ちもわかりますが、その行為は「天に唾を吐いているようなもの」と考えてもよいのではないでしょうか。

 

組織の崩壊

組織の崩壊を防ぐために必要なことは大きく二つあります。

一つ目は、経営陣の誰かが本気になって、組織運営にリソースを割くこと。

伸びていく企業には、経営陣に組織や人のマネジメントに長けているキーマンがいるものです。

そういう人に組織運営を思い切って任せればいいのです。

 

組織の崩壊を防ぐためにもう一つ重要なのは、組織運営の構造を整えることです。

具体的に言えば、

「会社のミッションやビジョンを言語化する」

「それらを価値基準やバリューに落とし込んで浸透させる」

「感覚的なマネジメントではなく最低限の仕組みと制度を入れる」

「組織として良い状態にすることを、ちゃんと目標の指標に置く」

といったことです。

その一例として、会社が一定の規模になってきたら、「給料のものさし」をつくることが大切です。

 

成果の出ないHR責任者に見られがちな行動が、「仕事している感」を出そうとすることです。

「HRに関するツールや調査を入れたがる」のは、まさにその典型です。

ツールの導入を否定しているわけではなく、ツールを導入して終わってしまうことが問題なのです。

たとえば「組織の状態を可視化しよう」と言って、ヒアリングやサーベイを入れても、可視化だけに終わってしまう。

本来なら、明らかになった事象がどういう構造で起こっているかを見極め、何からどう手を打つかという具体的な対策まで講じる必要がありますが、そこまではしない。

ツールや調査を入れることが目的化してしまい、「そこから先は、現場が頑張ってください」と言って、本質的な課題に向き合わないのでは、問題は一向に解決しないのです。

 

一方、優秀なHR責任者は、まずは社長を含む経営陣の間でどんな組織が理想なのかを合意形成することから始めます。

そのうえで「なぜ組織がこのような状態になっているのか」、現状の把握と原因の究明に努めます。

どのチームがどんな目標に向かって動いていて、うまくいっているのかいないのか。

うまくいっていないなら原因はどこにあるのか。

どんなメンバーがいて、どんな特徴があり、どのくらい成果を上げているのか。

こうしたことについて、顔を突き合わせて細かく検証するのです。

 

数多くの社長を見ていて、言えることがあります。

それは、しつこく「口に出すこと」です。

実現が困難な高い目標や打ち手について、社長が「将来的には必ずこの目標を達成する」「その先にこんなビジョンや世界を実現する」と何度も言い続けるのです。

 

会社は社長や経営陣が目指している目標以上に成長することはありません。

非連続な成長を遂げていくようなスタートアップの社長は必ず、「無理ゲーでしょう」と言われるほど高い目標を掲げることから始めています。

 

組織づくりには、社長自身の思想や本気度が色濃く表れます。

放っておいたらいつか理想の組織が完成するなんてことはありえません。

社長が自分の好きなメンバーで周りを固め、自分がやりやすい組織設計をして、自分の思うがままコントロールしているようでは、組織の強化は望めません。

組織の在り方を変えるには、社長自身が過去のコンフォートゾーンを脱さないといけない。

自分の目先の好き嫌いではなく、中長期のゴールに向けて全体最適で決断できるか──その覚悟が問われます。

それは時につらくて孤独なことです。

けれどやらなくてはいけないのです。

 

プロダクト

「課題」「提供価値」「価格」の三つの要素のいずれか一つでも欠けると、売れるプロダクトやサービスにはなりません。

 

ペルソナは開発段階だけでなく、プロダクトやサービスが固まったあとに効率的な営業活動をするうえでも役立ちます。

 

悩ましいのは「どのペルソナの意見」に寄せるか、です。

判断軸はいくつかありますが、ここでは代表的な五つを紹介しましょう。

まずは「ニーズや課題の深さ」です。

ユーザーにはどんな課題があり、それがどれくらい本質的な悩みや課題なのか、その度合いで決めるのです。

先ほどのマネジメントスキル向上研修の例で言えば、受講環境の課題がすごく深刻なもので、それが解消されればめちゃくちゃ大ファンになりえるようなポジティブなものなのか、それとも「あったらいいよね」程度の浅いものなのか。

 

二つ目の判断軸は、「人数のボリューム」です。

 

三つ目の判断軸は、「課題の解決可能性」です。

非常に深く、ボリュームがある課題に対して、自社のアセットや強みを活かすとどれだけ解決可能性を見いだせるかを判断します。

 

四つ目の「どちらが競争優位性をつくりやすいか」も重要な判断軸です。

 

最後の判断軸は、「収益の観点」。

顧客の数だけではなくて、単価や粗利率、購買頻度などを考慮して、どちらのサービスがより粗利が高く、また継続してもらいやすいかという観点で判断します。

 

結局のところ、泥臭いことを粘り強くやることが絶対に必要なのです。

大きく成長した企業の多くは、そういう先の見えないフェーズでも、「こういう課題を解決するんだ、いやそれまでやり続けるんだ」という信念を持って、粘り強く取り組み抜いた経験を必ず持っています。

手に取ってもらえるプロダクトとは、いろいろなリソースやコストの犠牲を払ってまで使いたいユーザーの存在があって初めて成り立つものです。

その視点を強く持ちつつ、ミッション・ビジョンも大事にしながら、粘り強く改善し続ける。

これはどの業界・業種でも共通する大原則なのではないでしょうか。

 

ピボット

前段の事業を考えるフェーズでは、大前提となる「顧客」、そしてプロダクトやサービスに不可欠な三つの要素「課題」「提供価値」「価格」を論じました。

価格はいったん置いておいて、ピボットのポイントは、顧客、課題、提供価値のうち一つだけを変えることです。

確実に当てるためには、「顧客」「課題」「提供価値」のうちどの要素を変えれば良いのか、論理的に仮説を立てるのです。

 

「ミッションはブレていない」と考えているなら、何回ピボットしても構わない。

一度や二度の失敗でめげることなく、「顧客」「課題」「提供価値」のいずれかを変えたプロダクトを、何度もユーザーに問い、仮説検証をすることです。

 

社会的な意義を提供できる規模に成長したスタートアップの多くは、「ミッションやビジョンに対する社長の想いが本気である」「世の中のニーズや課題に合ったビジネスを手がけている」、この二つの条件が揃っています。

 

上場

事業規模は会社のフェーズによっても変わりますし、業態や成長性にもよりますが、年商で少なくとも数十億円はないと上場は難しいでしょう。

株主から高収益を求めるプレッシャーがかかると、短期的には収益性の低い事業にチャレンジしにくくなります。

これも、上場後の経営を難しくさせる要因の一つです。

 

引退してもらう

場合によっては、先代を支えてきた番頭さんを切る、柔らかく言えば引退していただいたほうがいいケースもあります。

そうした人たちは先代が立ち上げた事業や仕事の進め方が好きなので、新しいことをしようとすると否定的な意見を言うことが少なくありません。

 

「自分と合わない」「なにか気に食わない」「とにかく先代の体制を刷新したい」といった、論理的ではない理由で引退してもらうのは最悪です。

それは従業員にも伝わりますから、間違いなく、引退してもらった後の会社の雰囲気が悪くなります。

 

「この会社は先代がやってきた事業を続けてきたけれども、これからは、こういうビジョンやミッションに沿って事業を進めていく。そのためには、過去からいた人だけを重用するのではなく、ビジョンやミッションを実現するうえで、このように体制を変えていきたい」

このように、経営方針を論理的に説明しておけば、会社の雰囲気も悪くならず、番頭さんにも納得してもらいやすいと思います。

感情ではなく、ゼロベースで考えて必要と判断したら、功労者でも身を引いていただく。

会社を成長させるためには、避けては通れない意思決定と言えるでしょう。

 

壁打ち

そもそも社長というのは、本音で誰かに相談することが構造的に難しいのです。

「社長」である以上、社員たちに心配な顔を見せるわけにはいきません。

投資家や銀行に対しても、どれだけ不安を抱えていても、自信があるように装う必要があります。

「じつは、悩んでいまして」とは、口が裂けても言えないのです。

しかも、毎日のように数えきれない数の意思決定にさらされていると(しかもそれが楽しい案件ばかりではない)、社長自身も、何を基準にして意思決定をしていたかわからなくなるときがあります。

すると気づかないうちに、自身でしっかり考えていた社長でさえも、波風が立ちにくいような意思決定に流されてしまうこともありえます。

 

社長に限らずですが、自分のことは客観的に見れないものです。

そんなとき、意思決定の拠り所を取り戻すうえでも、フラットな目を持つ第三者と話すことには大きな意味があります。

ややこしい問題に関しては自分一人では整理しきれないこともあるでしょうし、企業経営は放っておけば独りよがりになりがちです。

そんなとき、誰かと対話をすれば、「あ、こういうことが大事だったな」「原点はこれだった」と客観的な視点を取り戻せたり、心の奥底で思っていたことに気づけたりもします。

経営陣のなかで互いに対話をしながら壁打ちするのが理想ですが、社外に信用できる方がいるのなら、その方に「壁打ち役」をしてもらえば良いでしょう。

 

鈍感

それでも多くの社長は、困難の壁を乗り越えていきます。

生物が自然界で生き抜くために環境に適応していくように、社長も、さまざまな苦難に立ち向かっていくと、だんだんその状態に適応していきます。

言葉を選ばずに言えば、「鈍感」になっていくのです。

周りの人を気遣えないとかビジネスの感覚が鈍いという意味ではありません。

一つひとつの事象にうろたえなくなっていく、という意味です。

なぜかといえば、苦難に立ち向かうなかで、社長は「うろたえたところで、何も物事は良くならない」ことに気づくからです。

 

面白かったポイント

めちゃくちゃ面白い。

自分の会社のことだと思うくらい社長が直面することを描き出している。

ヒトモノカネの問題は、会社が大きい、小さい関係なく、どの会社でも問題は尽きない。

個人的には各章で1冊の本ができるくらいエピソードがある。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

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