内容
ビジネス雑談
海外の一流のビジネスマンは、まず最初に相手の様子を観察して、少しでも違和感を感じたら、次のような話を切り出します。
「貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。本日は詳しい資料やスライドを準備しておりますが、すぐにプレゼンを始めてもよろしいでしょうか?何か新しい課題があるとか、違う方向性が見えたということであれば、先にお聞かせください」
雑談には、次のような目的があります。
①「つながる」 相手との距離を縮めて信用を作る
②「調べる」 最新の動向や現状に関する情報を収集する
③「伝える」 自社の意向や進捗状況などを報告する
④「共有する」 最新の情報を相互に認識する
ビジネスの場における雑談では、どんな話をする場合でも、次の4つのポイントを常に意識することが大切です。
①相手を驚かせないレベルの「自己開示」をして、自分という人間を知ってもらう
②好奇心を持って、相手の「人間性」や「人となり」を知ろうとする
③「信頼関係」の構築が目的であることを忘れない
④相手と「ラポール」を作れているか、客観的な目で観察しながら話す
自己開示
自己開示とは、プライベートな情報を含めて、自分の「思い」や「考え方」などを相手に素直に伝えることです。
自己開示をすると、相手に「自分がどんな人物なのか?」を知ってもらえますから、警戒心を解きやすくなり、お互いの心理的な距離を縮めることができます。
自然と相手も自己開示しやすい雰囲気ができるため、一歩踏み込んだ関係性を生み出すことにつながります。
コミュニケーションにおける自己開示は、信頼関係を築くために欠かせない大事なポイントと考える必要があります。
多種多様な価値観を持つ人たちと良好な人間関係を構築し、お互いに信頼感を深めていくためには、雑談を通して自己開示していくことが大事だと思います。
自己認識
「きちんと自分自身と向き合う」と言い換えてもいいかもしれません。
大切なのは、次の3つについて、改めて見つめ直してみることです。
①「価値観」 何を大切にしているのか?
②「信念」 何が正しいと思っているのか?
③「希望・期待」 何を求めているのか?
この3つのポイントを自分に問い続けて、それを明確に自分の中に持っていれば、相手が雑談で求めているような自己開示が可能になります。
もっとシンプルに考えるならば、自分が「何が好き」で、「何が嫌い」なのか、自分に問いかけてみるのでもいいかもしれません。
大切なのは、次のようなプロセスを認識しておくことです。
・「自己認識」する ↓
・「自己開示」する ↓
・「自己表現」する ↓
・「自己実現」する
外国人としてだけでなく、人材育成のコンサルタントの立場から見ても、日本のビジネスマンには「自己認識」と「自己開示」が圧倒的に足りていないと思います。
準備
欧米の一流のビジネスマンは、しっかりと事前準備をして雑談に臨んでいます。
IRレポートなどを読み込んで相手先の会社の経営状態や業績の実績、今後の見通しを知っておくことは当然ですが、SNSで近況を検索したり、同僚や友人、知人を通じて、「相手はどんな人なのか?」という情報を徹底的に調べた上で対峙しています。
事前に「武器」を準備して、雑談のストーリーを描いているのです。
世界のビジネスマンは、会議のアジェンダに関する資料だけでなく、参加者個々のデータを収集して会議に臨んでいます。
・会議の参加者はどんなメンバーなのか?
・それぞれがどんな意見を持ち、どんな見方をしているのか?
・この会議でどんなことを聞きたいのか?
・何を肯定材料と考え、何が否定材料になるのか?
ラポールを作る
彼らが雑談を通して「手に入れたい」と考えているのは、次の3つのことです。
①お互いに「信頼」できる関係を築く
②お互いが「信用」できることを確認する
③お互いを「尊敬」できる関係を作る
雑談を通して、「信頼」と「信用」、「尊敬」のある関係を築いて、心理学でいう「ラポール」を作ることを目指しています。
無条件の肯定的関心とは、相手の話を良し悪しや好き嫌いで判断せず、「なぜそのように考えているのか?」を肯定的に知ろうとすることです。
予断や偏見、思い込みを捨て、あるがままに相手の話に耳を傾ければ、相手は安心して話をすることができますから、会話のキャッチボールが成り立ちます。
ここで大切なのは、無条件の肯定的関心だけでなく、「empathy」(エンパシー)を持って会話をすることです。
エンパシーは「共感」と訳されていますが、厳密には、自分と異なる考え方や価値観を持つ相手に対して、「相手が何を考えているのか?」とか、「どう感じているのか?」を想像する能力を指します。
ただ相手の考えや気持ちを理解したり、想像するだけで終わるのではなく、「相手の感情に合わせる」ことや、「相手の隠れた意図を汲み取る」ことまでを含みます。
相手と信頼関係を築くには、雑談を通じてラポールを作ることが大切です。
ラポールを作るための「3原則」は次のようになります。
①相手が「何を大切にしているか?」を知る
②相手が「何を正しいと思っているか?」を知る
③相手が「何を求めているか?」を知る
この3原則を知るための方法として、僕は「7つの質問」を用意しています。
これは僕が主催しているビジネスマンやマネジャー向けのワークショップでも使っているものですが、何回かに分けながら、自然な雑談の流れで相手に質問をしていけば、相手のビジネスに対する本質に触れることができますから、ラポールを作りやすくなります。
質問 ①あなたは仕事を通じて何を得たいですか?
質問 ②それはなぜ必要ですか?
質問 ③何をもっていい仕事をしたと言えますか?
質問 ④なぜ今の仕事を選んだのですか?
質問 ⑤去年と今年の仕事はどのようにつながっていますか?
質問 ⑥あなたの一番の強みは何ですか?
質問 ⑦あなたは今どんなサポートが必要ですか?
ビジネスの相手に対して、「あなたは仕事を通じて何を得たいですか?」などとストレートに聞けば、怪訝な顔をされることは確実ですから、表現を工夫しながら、さり気なく聞き出すことが大切です。
質問①と②は相手の「価値観」や「信念」、質問③と④は「仕事の基準」や「モチベーション」、質問⑤は「自分の成長」、質問⑥と⑦は「仕事の進め方」や「協力体制」を知ることができます。
ビジネスの相手と「対等」な関係を作るためのアプローチ
海外のビジネスマンが雑談を通して実践している3つのアプローチ法を紹介します。
①お互いの共通の「趣味」を見つける
②お互いに共通する「体験」や「考え方」を共有する
相手の挫折体験まで話が及べば、お互いにリラックスした雑談ができます。
③相手にとって「必要不可欠」な存在になる
自分が知らない情報を持ってきてくれるとか、この人と仕事をすると結果が出るなど、相手にとって必要不可欠な存在になれば、平等なビジネスパートナーとして信頼関係を結ぶことが容易になります。
相手から相談されるような関係になれば、その信頼感はさらに深まります。
エグゼクティブ
僕がビジネスでエグゼクティブに会いに行く場合には、相手を「質問攻め」にすることにしています。
主な質問内容は、次のようになります。
質問 ①ビジネスを始めた(現在の仕事を選んだ)きっかけをお聞かせください
質問 ②過去の挫折体験を教えてください
質問 ③ブレイクスルー体験は、いつどんな時でしたか?
質問 ④現在のミッションは何ですか?
質問 ⑤ビジネスに関して、どんな価値観をお持ちですか?
質問 ⑥ビジネスに向き合う際の信念を教えてください
根堀り葉掘りというか、相手を丸裸にするくらいのつもりで、徹底的に深い話を聞きまくります。
ファシリテーション
次のような手順をイメージしながら複数の相手との雑談を進めています。
①参加メンバー全員に発言の機会を作る
②多様な意見を集めて瞬時に理解・整理する
③重要と思われるポイントを深掘りする
④話題を広げて、できる限り相手の情報を聞き出す
⑤集めた情報を合意形成のための材料として活用する
雑談を通じて、上司から得ておきたい情報
◆上司の立ち位置の確認
①どんな考えを持って、仕事と向き合っているのか?
②何を求めて仕事をしているのか?(出世、給料、自分の時間)
③自分自身の仕事内容をどのように評価しているのか?
④自分の上司と、どんな関係にあるのか?
⑤自分の上司から何を求められているのか?
◆部下に対する評価の基準
①どんな基準で、部下を評価しているのか?
②それぞれの部下を、どう評価しているのか?
③その評価を、自分の上司にどう説明するのか?
④部下がどんな成果を上げることを期待しているのか?
⑤どういう状態を理想としているのか?
⑥部下にどんな働き方を求めているのか?
◆リスク管理に関する視点
①どんなことに困っているのか?
②何をリスクと考えているのか?
③長期的にどうしていきたいのか?
上司の社内政治的な立ち位置から、仕事に関する考え方、評価の基準、リスク管理まで、幅広い情報を意図的に聞き出す必要があります。
面白かったポイント
雑談で何を話しているか紹介する本ではなく、初対面から信頼関係を構築していくための心構えを解説した本。
満足感を五段階評価
☆☆☆
目次
はじめに 日本人は「雑談」を世間話や無駄話と考えている
第1章 「世界」の雑談と「日本」の雑談
第2章 強いチームをつくる「社内雑談力」の極意
第3章 武器としてのビジネスの雑談
第4章 こんな雑談は危ない! 6つのNGポイント
おわりに リモートワークの増加が雑談の重要性を浮き彫りにした