確率思考の戦略論

ビジネス

『確率思考の戦略論』森岡 毅

更新日:

内容

戦略

単純な話、勝てる戦いを探しているだけなのです。

「ビジネス戦略の成否は『確率』で決まっている。そしてその確率はある程度まで操作することができる」

戦略の確率を事前に知り、コントロールしやすい領域とコントロールできない領域を見分け、経営資源をコントロールできる領域へと集中させることで、成功確率を劇的に高めることができるようになります。

現象の幾重もの層の奥底に座っている「本質」は、ほとんどの場合は非常にシンプルな顔をしています。

 

資本主義

資本主義とは「人間の欲望」をドライバーにして形づくられている社会のことではないかと。

人間の「欲」をエネルギーとして使い、人間同士を競争させることで様々な発展と成長を生み出していく。

市場構造とは、ある商品カテゴリー(例えばシャンプーやスタイリング剤などのヘアケア市場)における、人々の意思と利害と行動が積み上がった全体としての業界の仕組みのことです。

 

プレファレンス

プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度(簡単に言えば「好み」)のことで、主にブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定されています。

 

市場構造を決定づけているDNAは、消費者のプレファレンスである。

1)消費者一人一人が独自に購買決定をしている。

2)購入行動はランダムに発生している。

3)それぞれのカテゴリーに対してほぼ一定のプレファレンスを持っている。

4)プレファレンスの高いものはより高頻度で購買される(ガンマ分布)。

 

日常で最も重視したデータは「シェア」でした。

P&Gは全てのカテゴリーにおいて、シェアを最も重要なビジネス指標としてずっと重視してきました。

それはすなわち、マーケットの本質である「消費者のプレファレンス」をずっとモニターしていたことになるのです。

 

我々が奪い合っているのは消費者のプレファレンスそのもの。

 

市場構造にはコントロールすべきものと、コントロールしにくい(あるいはできない)ものがあるのです。

マーケティング戦略に限らず、戦略が失敗する時は、知らず知らずのうちに自分達でコントロールできないことに多くの経営資源を投入してしまっているパターンが非常に多く見られます。

 

戦略、つまり経営資源の配分先は、結局のところPreference(好意度)、Awareness(認知)、Distribution(配荷)の3つに集約されるのです。

その中でも無限の可能性を持っているのはプレファレンスのみですから、戦略の究極的な焦点は消費者プレファレンスを高めることです。

繰り返しになりますが、プレファレンスは、主にブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定されます。

 

プレファレンスを上げることで成長させる前者を「ブランドの質的な成長」と呼び、認知や配荷を上げることで成長させる後者を「ブランドの量的な成長」と呼びます。

 

認知率

認知率の伸びに対してビジネスはあるレベルまでは直線的な関係で伸長していきます。

もし自社ブランドの認知率が、まだまだ競合などに比べても伸び代があるのであればラッキーです。

それは「勝てる戦」の可能性が高い。

 

一般的な指標としての認知率は、Aided Awareness(エイディッド・アウェアネス:ブランド名で誘導されて計測された認知)とUnaided Awareness(アンエイディッド・アウェアネス:ブランド名で誘導されないで計測された認知)の2つが代表的です。

 

最初に消費者に名前を挙げられる名誉な割合を、「第1ブランド想起率(Top Of Mind Brand Awareness)」と言います。

第1ブランド想起率や第2ブランド想起率は、消費者のエボークト・セットとの相関性が高いので私は特に重視しています。

これら認知の指標を定期的に測定し、その増減のトレンドや競合各社との差をモニターすることは、マーケティングの基本中の基本です。

 

配荷率

配荷率(Distribution)とは、市場にいる何%の消費者がその商品を買おうと思えば物理的に買える状態にあるかという指標

小売店の棚の売上を最大化するための核心は、その店を訪れる買い物客のプレファレンスに合わせて棚を作る。

 

戦略の本質とは、市場全体の中で自社ブランドへの1人当たりの投票数をどう増やすかを考えること

プレファレンスの垂直拡大よりも、水平拡大の方が成功する場合が多い気がします。

どちらがもっとMが増えるのかを計算すると、水平方向が簡単である場合が多いのです。

主な理由の1つは、既存のユーザーを深掘りするよりも、その外を耕す方がマーケットがずっと大きい場合が多いからです。

 

戦況分析でどれだけ客観的な情報を集めたとしても、その状況をどう読むのかという判断は確かにアートです。

目的設定や戦略決定のギリギリの瞬間も、「意志」が必ず入り込むアートであると言えるでしょう。

 

年間購入者の全世帯に対する割合

=(認知率)×(配荷率)×(過去購入率)×(エボークト・セット率)×(年間購入率)

= 75% × 80% × 60% × 60% × 60%

= 13%この洗剤の年間の売上

=(総世帯数)×(1年間に買う人)×(平均購入回数)×(平均購入金額)

= 49,973(千) × 13% × 1.3回 × 420円

= 35億円

 

プライシング

消費者を継続的に喜ばすために必要な原資を獲得するためには、プレミアム・プライシングでないと難しいということです。

製品パフォーマンスの継続的な改良、ブランド・エクイティーの継続的な強化、それらには投資が必要なのです。

新たな投資を継続することで、市場の需要を喚起し続け、消費者の生活をより良くする我々の使命が継続できるのだと。

彼は「消費者と企業は、プレミアム・プライシングや値上げによる果実を共有している」と教えてくれたのです。

 

マーケター

我々マーケターの仕事は、ブランディングによってエクイティーを強化し、ブランド価値を大幅に高めて、その結果として中長期に投資可能な水準の価格を消費者からいただくことを可能にすることです。

一流マーケターの仕事は、値上げしながらも「M」を増やすことだと思っています。

 

価格は最終的には消費者が決めるものですから、先にブランド価値を高めることで初めて値上げは実行可能になります。

 

戦略立案

戦略は必ず達成したい目的付近の地景を明確にしてから逆算で組んでいく。

まず目的を設定した後に、目的達成時と現在のギャップを定量化しながら徹底的に想像します。

 

そうやってベストだと思える目的から逆算したシナリオ(戦略)を導き出すとき、私が必ずやることにしていることがあります。

同じ目的を、そのベストシナリオとはできるだけ違う道筋で達成する戦略をもう1つ考えてみるのです。

一番良いと思えるプランAに対して必ずプランBを考えてみる、この習慣は多くの局面で私の危機を未然に防いでくれました。

プランBを考える過程で、プランAを相対化することができるのです。

それによって前提とした想定の脆弱さや盲点に事前に気がつくことができる。

場合によってはプランBの方が成功確率が高くなることもあります。

 

どれだけ壁が高くても、階段さえ作れば必ず登れる。

まずはそれを信じることです。

 

壁の上から景色を見下ろせば、どこに足場や階段を組めばいいのか、とてもよく見えるのです。

ゴールの具体的な景色が見える、そこへの実現性ある道筋を見つけられる人が、「戦略をつくれる」人だと私は考えています。

 

いろいろな低予算のアイデアを導入して、そこから稼いだキャッシュをユニバーサル・ワンダーランドに1点集中して、さらにそこから稼いだキャッシュでもっと多くの「M」を増やす仕掛けに投資して、もっと大きなキャッシュを稼いで、最後は全てをハリー・ポッターに交換する……。

言ってみれば「わらしべ長者の戦略」です。

 

サイコパス

サイコパス性とは、感情的葛藤や人間関係のしがらみなどに迷うことなく、目的に対して純粋に正しい行動を取れる性質のこと。

感情が意志決定の邪魔にならない性質

辛いけれども正しい意志決定(タフコール)を行わなければならないとき、感情は多くの場合において邪魔にしかなりません。

 

現実問題として、船全体を沈ませないためには、「正しくて厳しい道」を選んで進まなくてはいけないのです。

誰かが、全体のためにやらねばならないのです。

その痛い仕事を、誰かがやらねばならない。

 

戦略家は、

1)自分自身の時間をどこに集中して使えば戦果が最大化するか、

2)自分以外の人々をどこにどう集中させて使えば戦果が最大化するか、

この2つを冷静に考える

 

未来の予測

未来の予測は、目的とする事業に関しできるだけ広く、歴史、文化人類学、心理学、社会学のフレームワークやモデルを動員して質的データを読み解き、いくつかのシナリオを考えることです。

予測と現実の差を自己・自社の現実的な努力で修正できる範囲に抑えるということです。

 

大事なことは、予測は1つのビンゴの数字(例えば100億円)ではなく、70億円から130億円のように幅を持たせて大きく外さないこと、そして上ぶれした時、下ぶれした時に備えておくことです。

大きく外れていなければ、認知率、配荷率、店頭プロモーションなどの強化や調整により、途中から目標を達成することは十分可能です。

 

トライアル率

トライアル率は、コンセプトの強さ(好意度)、配荷率、認知と販売プロモーションによる。

コンセプトの強さ、配荷率の影響は、それぞれの平均に対して直線的であろう。

認知と販売プロモーションは、お金に換算できるし、資本主義の体制ではお金をより多く使えば、より多くのトライアルが取れる。

予測しようとするプロジェクトにできるだけ似た状況の例を探し、最大と最小の幅を、ロジック、数学的知識、市場・商品カテゴリーの知識など総動員して考えます。

 

現実と認識のギャップ

「現実」と「認識」の間には必ずギャップがある。

 

我々は「認識」と「現実」の間に、データや数字や言語といった「記号」を媒介させて、現実の世界をできるだけ正しく知るしか方法がないのです。

そのためには、間に必ずズレが生じていることを知った上で、

1)あらゆる「データ(記号)」の性格をよく理解し、できる限り現実に符合させながら読み解いていくこと。

2)できるだけ多角的な「データ(記号)」を用いて整合性のある現実の認識を構成していくこと。

 

「現実」と「データなどの記号」には、1対1の関係にあるものと、そうでないものがあるのです。

売上、預金残高、在庫などのデータは、現実と1対1の対応があるデータです。

 

未来に対する質問においては、消費者データの絶対値は怪しいですが、相対での順位は比較的正しい。

どの調査もその調査の文脈のバイアスがかかっていることを予め承知した上で、そのデータを使う目的と、調査の文脈を理解して使う。

予測と実際を紐づけるデータの数が増えれば、予測の精度は上がって行きます。

物差しの目盛りが増えるようなものです。

 

Wisdom of Crowds(群衆の知恵)

少なくとも予測が正解に近くなる条件は、予測の多様性と独立性を加味していること。

 

実行力

共通する悩みやフラストレーションは、「せっかく立てた策がなかなか実行できない」

個人や部門の利害は、自然状態では一致するはずがないと我々は思っています。

だからこそ、部門間や個人間の利害やしがらみをぶった切ってでも消費者価値としてのベストを押し通す、強力な意志決定の仕組みを人為的に作る必要があります。

 

「つくったものを売る会社」から「売れるものをつくる会社」

数学、歴史、生物、文化人類学、工学、哲学、心理学などが、市場構造や消費者理解には非常に役に立ちます。

「結局、現行戦力で勝つしかない」という諦めでもあり、悟りでもあり、極めてどうしようもない現実を受け入れることにした時に起こった変化でした。

基本的な能力を備えたマーケティング組織は、3~5年もあれば十分に構築可能だと私は考えています。

 

面白かったポイント

マーケターの本ではあるが、経営に近いマーケターの本です。

数字の扱い方の本質が書かれている。

その数字を使って、勝てる戦いを探し続ける。

 

シンプルだが、愚直に続けるのが難しいのかもしれない。

人は事実を見るよりも、自分の意見を尊重しがち。

それは思考のスキップに過ぎない。

 

戦略、経営資源の配分は

  1. 好意度(プレファレンス)
  2. 認知
  3. 配荷

プレファレンスは

  1. ブランド・エクイティ
  2. 価格
  3. 製品パフォーマンス

で決定される。

結局、分解して落ち着いた結論はありきたりなシンプルなことということか。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

-ビジネス

Copyright© まさたい , 2024 All Rights Reserved.