世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

ビジネス

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』山口 周

更新日:

内容

まず「論理と直感」という対比軸については、「論理」が、文字通り論理的に物事を積み上げて考え、結論に至るという思考の仕方である一方で、「直感」は、最初から論理を飛躍して結論に至るという思考として対比されます。

次に「理性と感性」については、「理性」が「正しさ」や「合理性」を軸足に意志決定するのに対して、「感性」は「美しさ」や「楽しさ」が意志決定の基準となります。

 

「他の人と戦略が同じ」という場合、勝つためには何が必要になるでしょうか?

答えは二つしかありません。

「スピード」と「コスト」です。

実は「論理と理性」に軸足をおいた多くの日本企業が、長い間追求してきたのがまさにこの二つでした。

 

経営

経営というものは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」の混ざり合ったものになります。

「アート」は、組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出します。

「サイエンス」は、体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与えます。

そして「クラフト」は、地に足のついた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出していきます。

 

「アート型」だけでは、盲目的なナルシストに陥り、アートのためのアートを追求する、つまり本物のアーティストになってしまいます。

「クラフト型」だけでは、経験に根ざしたことだけを認め、新しいことにはチャレンジしないため、イノベーションは停滞するでしょう。

そして「サイエンス型」だけでは、数値で証明できない取り組みは全て却下されてしまうため、ビジネスから人間味が失われ、ワクワクするようなビジョンは生まれないでしょう。

つまりこの三つの要素は、バランスよく、かつ機能的に組み合わせられていなければならない、ということです。

 

トップに「アート」を据え、左右の両翼を「サイエンス」と「クラフト」で固めて、パワーバランスを均衡させるということです。

よく企業の経営をPDCAサイクルと言いますが、言い換えればPlanをアート型人材が描き、Doをクラフト型人材が行い、Checkをサイエンス型人材が行うというのが、一つのモデルになると思います。

 

また、この枠組みをポジションに当てはめれば、次のように考えることもできます。

つまりPDCAサイクルを、Plan=CEOの役割、Do=COOの役割、Check=CFOの役割と考えてみれば、アート型のCEOが大きなビジョンや夢を描き、クラフト型のCOOがそれを実行計画に落とし込み、サイエンス型のCFOが、その実行のリスクや成果を定量化し、チェックするという構造が見えてきます。

 

絵を描くことはリーダーに求められる様々な認識能力を高めることが分かっており、実際に自ら芸術的な趣味を実践しているという人ほど、知的パフォーマンスが高いという統計結果もある。

 

組織の意思決定の品質というのはリーダーの力量だけによって決まるわけではなく、一種のシステムとして機能します。

有効な人材を有効なサブシステムとして配置できれば、そのシステムは高品質の意志決定を行うわけですが、一方でそれは、リーダーの力量が変わらなくても、システムとしてのバランスが崩れれば、意思決定の品質もまた毀損してしまうのだということを示してくれているようにも思います。

 

デザインと経営の共通点

共通する「本質」とは何か?

一言で言えば「エッセンスをすくいとって、後は切り捨てる」ということです。

そのエッセンスを視覚的に表現すればデザインになり、そのエッセンスを文章で表現すればコピーになり、そのエッセンスを経営の文脈で表現すればビジョンや戦略ということになります。

 

コンサルティング会社

コンサルティング会社、なかでもマッキンゼーに代表される戦略系コンサルティング会社が、創業以来ずっと提供してきた付加価値を一言でまとめるならば、「経営にサイエンスを持ち込む」ということになります。

マッキンゼー中興の祖であるマービン・バウアーは、戦略コンサルティング業界そのものを構想した人ですが、彼のビジョンの凄さは、それまで「クラフト」に偏重していた企業組織の意志決定に、事実と論理に基づく意思決定、つまり「サイエンス」を導入したことです。

 

ストーリー

イノベーティブなアイデアがあり、それをもとに製品・サービスをつくったとしても、機能、デザイン、ストーリーの3つを認知させなければ、世の中に受け入れられないのである。

時代とともに、技術やデザインの差異から生まれる競争優位は、コピーという攻撃を受けた際にポジションを守ることが困難になっているが、ストーリー性だけは、コピーされてもオリジナル価値が揺るがない最後の価値である。

 

ストーリーや世界観はコピーできません。

ストーリーや世界観というのは、その企業の美意識がもろに反映するわけですから、これはサイエンスではどうしようもない。

世界観とストーリーの形成には高い水準の美意識が求められることになります。

 

社会性動機

  1. 達成動機=設定したゴールを達成したいという動機
  2. 親和動機=人と仲良くしたいという動機
  3. パワー動機=多くの人に影響を与えたい、羨望を受けたいという動機

の三つに分類し、動機のプロファイルによって適する職業やポジションが変わることを発見しました。

 

マインドフルネス

マサチューセッツ大学医学大学院のジョン・カバット・ジン博士による定義では「評価や判断をすることなく、意図的に、いまこの瞬間に、注意を払うことで、浮かんでくる意識」ということになっています。

何やらよくわかったようなわからないような定義ですが、平たく言えば「過去や未来に意識を奪われることなく、いまの、ただあるがままの状態、例えば自分の身体にどんな反応が起きているか、どのような感情が湧き上がっているかなどの、この瞬間に自分の内部で起きていることに、深く注意を払うこと」ということになるかと思います。

 

哲学

現代を生きるビジネスパーソンにとって、「哲学から得られる学び」には、大きく3種類あります。

それらは、

  1. コンテンツからの学び
  2. プロセスからの学び
  3. モードからの学び

ということになります。

 

コンテンツというのは、その哲学者が主張した内容そのものを意味します。

次のプロセスというのは、そのコンテンツを生み出すに至った気づきと思考の過程ということです。

そして最後のモードとは、その哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢ということです。

 

メタファー

リーダーの仕事が人々を動機付け、一つの方向に向けて束ねることであるとするならば、リーダーがやれる仕事というのは徹頭徹尾「コミュニケーション」でしかない、ということになります。

となれば、少ない情報量で豊かなイメージを伝達するためのレトリックの根幹をなす「メタファーの技術」を学ぶのは、とても有効だということになり、「優れたメタファー」の宝庫である「詩」を学ぶことは、とても有効なリーダーシップのトレーニングになる、ということです。

 

面白かったポイント

論理と直感、理性と感性はよく扱われるテーマですが、よく言語化できていてよかった。

経営チーム構築の話は、とても重要だと思う。

リーダーがやれる仕事はコミュニケーションというのも完全同意です。

 

そして、美意識を高めるために、絵を描く、哲学を学ぶ、詩を読むというのは有効だ。

この中で、哲学は日本では学んでいる人は少ないと思う。

 

日本は、どちらかといえば美意識よりも論理が足りない印象です。

論理はちゃんと実行すれば結果が付いてきます。

まずはここから。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

名門美術学校の意外な上顧客/「論理」と「理性」では勝てない時代に
「直感」はいいが「非論理的」はダメ/哲学を鍛えられていた欧州エリート
クックパッド紛争は「アート」と「サイエンス」の戦いだった
アカウンタビリティは「無責任の無限連鎖」
千利休は最初のチーフクリエイティブオフィサー
経営者はなぜデザイナーに相談するのか?/エキスパートは「美意識」に頼る
全てのビジネスはファッションビジネス化する
なぜマッキンゼーはデザイン会社を買収したのか?
システムの変化にルールが追いつかない世界
エリートを犯罪から守るための「美意識」/マインドフルネスと美意識
「偏差値は高いが美意識は低い」という人たち

-ビジネス

Copyright© まさたい , 2024 All Rights Reserved.