内容
戦略とは、重大な課題に取り組むための分析や構想や行動指針の集合体と考えればよい。
戦略のカーネルは、診断、基本策定、行動の三つの要素で構成される。
平穏無事なときには戦略策定の手腕はあまり目立たない。
安定期には、後発企業が先行企業に追い付くのも、ライバルを圧してリードを奪うのも難しい。
だか変化のうねりがやってくるときには、戦略がモノを言う。
戦略策定を目標設定と取り違えていると、問題解決に注意が向けられないので、悪い戦略を立てることになりやすい。
旧来の慣行が染みついている人や変化に抵抗する人には退場してもらわなければならない。
それと並行して、新しい流れに沿って組織を再編することが必要になる。
集中
良い戦略は必ずと言っていいほど、単純かつ明快である。
必要なのは目前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素、すなわち、こちらの打つ手の効果が一気に高まるようなポイントを見極め、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる。
戦略策定の肝は、つねに同じである。
直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。
そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒト、モノ、カネそして行動を集中させる方法を考えることである。
戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするなら、最も効果の上がりそうなところに最強の武器を投じることである。
良い戦略は、第一に、狙いを定めて一貫性のある行動を組織し、すでにある強みを活かすだけでなく、新たな強みを生み出す。
組織が複雑になるほど、あちこちの利害に配慮して、リソースを集中投下せずにまんべんなく配分する傾向がある。
自社の強みと弱みを見極め、状況のチャンスとリスクを評価し、自社の強みを最大限に活かす。
何か飛躍のきっかけになるようなもの、テコの支店となるようなものがあるのか、言い換えれば、この安定した小さな会社が急激に売上を伸ばせると考える理由があるのか。
外部環境の変化、たとえば技術、顧客の嗜好、法規制、資源価格、競争相手の動向などを見極めてそれをうまく活かすことかもしれない。
どの道を選ぶのが最も実りが多いかを判断し、自社の知識、資源、エネルギーをそこに集中的に投入する方法を設計することが、リーダーの仕事である。
良い戦略は、一つか二つの決定的な目標にエネルギーとリソースを集中投下し、それを達成することによって次々と新しい展開へとつなげていく。
これに対して悪い戦略では、いろいろなことを詰め込み過ぎてごった煮状態の目標が掲げられていることが多い。
良い戦略は、重要な課題にフォーカスする。
となれば当然、たくさんある課題の中から選び取る作業が必要になる。
どれかを選んで残りは捨てなければならない。
この困難な作業をやらずに済ませようとすると、ごった煮ができあがってしまう。
戦略の極意は、本当に重要な問題を見極め、そこにリソースや行動を集中することにある。
これは、非常に厳しい。
何かに集中すれば、それ以外を捨てることになるからだ。
広告には閾値効果があると考えられる。
すなわち、ほんの少しだけ広告を出してもほとんど効果はなく、閾値を超えて初めて反応が現れるのがふつうである。
あることにだけ集中する、すなわち最重要だ課題に優先的に取り組むためには、他の重要なことがクリアできていなければならない。
問題が鎖のようにつながっている場合、全部を解決するまでほとんど効果は現れないが、マルコは一回に一つの問題に集中し他の問題をシャットアウトすることで、この問題をクリアしたのである。
戦略立案
短期的には、手持ちのリソースを活かして問題に対処するとか、競争相手に対抗するといった戦略がとられることが多いだろう。
そして長期的には、計画的なリソース配分や能力開発によって将来の問題や競争に備える戦略が重要になる。
リーダーが戦略実行に使える強力な手段の一つは、近い目標を定めることである。
近い目標とは、手の届く距離にあって十分に実現可能な目標を意味する。
近い目標は、高い目標であってよいが、達成不可能ではいけない。
優位性
優位性が持続可能であるためには、競争相手に容易にまねされないことが条件になる。
より正確に言えば、優位性を生み出すリソースをまねされないことが重要だ。
価値を高めるために重要なのは、コモディティ化しないようにすることだ。
知識
知識というものは、次々に応用してもすり減るどころか一層豊かに強化される。
基礎的な知識やいわゆる常識も大切だが、それらは誰にでも手に入るので、決定的な要因にはなりにくい。
最も価値のある知識は、企業にとって独自の知識、自ら発見あるいは開発した知識である。
企業は、これから進出する分野や強化する分野を積極的に開拓して独自の知識を収集する。
良い戦略は、他社には入手できないような独自の知識を存分に活かす機会を提示する。
新しい戦略は、科学の言葉で言えば、仮説である。
そして仮説の実行は、実験に相当する。
実験結果が判明したら、有能な経営者は何がうまくいき何がうまくいかないかを学習し、戦略を軌道修正する。
良い科学者は、すでにわかっている知識を限界まで獲得すると、そこから先へ進むために推論を行う。
未知の領域で何が起きるか、仮説を立てるわけだ。
科学者が知識の限界を超えようとせず、手持ちの知識の範囲内にとどまるなら、何の不安も苦労もないだろう。
だが、発見の喜びも栄誉もない。
知識の限界でうろうろしているとき、確実にうまくいく戦略を要求するのは、科学者に確実に真実である仮説を要求するのと同じことだ。
科学的知識の多くは共有されているが、経営に関して蓄積された知恵は業界や企業固有のものだという点だけだ。
どんな事業でも最も価値のあるリソースは、その企業にしか入手できない情報である。
毎日の事業運営の中で得られる情報である。
自社の顧客、製品、製造技術などについて最もよく知っているのは、当の企業の経営者であり社員だ。
リスト
あなたにできる重要なことを10項目列挙したリストを作ることをおすすめします。
リストができあがったら、1番目の項目から実行してください。
重要であって、かつ実行可能なことのリストを作る。
リストを作ることは、認識能力の限界を乗り越える手段と言える。
リストがあれば忘れてしまうことを防げるし、リストを作る過程で、抱えている問題の相対的な緊急度や重要度を天秤にかけることができる。
そして「いまやるべきこと」が明確になれば、問題解決に向けた行動を起こせるはずだ。
目先の思いつき
問題は、いったん藁に飛びついてしまうと、藁よりももっと良いものがすぐそこにあるかもしれないのに、もはや気づかないことだ。
人間は何かを思いつくと、それを疑いの目で見て粗探しをするのではなく、何とか正当化することにエネルギーを使うようになる。
目先のことや最初の思いつきに迷わされずに自分の考えを導いていくためには、三つの習慣をつけるとよい。
第一は、近視眼的な見方を断ち切り、広い視野を持つための手段を持つこと。
たとえば、リストは良い方法である。
第二は、自分の判断に疑義を提出する習慣をつけること。
自分からの攻撃にすら耐えられないような論拠は、現実の競争に直面したらあっさり崩壊してしまうだろう。
第三は、重要な判断を下したら記録に残す習慣をつけることである。
そうすれば、事後評価をして反省材料として活用できる。
バーチャル賢人会議は、私が師匠と仰ぐ人たちの集まりである。
自分のアイデアを批判してもらいたいとき、あるいは新しいアイデアの刺激を与えてもらいたいときに、私は賢人を呼び出してバーチャル対話をする。
面白かったポイント
事例も豊富で面白く読める本です。
まとめると、シンプル、集中、強みを活かせ、というありきたりな結論にはなりますが、そこが重要なのだと改めて気づきを得られる本です。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆
目次
序 章 手強い敵
第1部 良い戦略、悪い戦略
第1章 良い戦略は驚きである
第2章 強みを発見する
第3章 悪い戦略の4つの特徴
第4章 悪い戦略がはびこるのはなぜか
第5章 良い戦略の基本構造
第2部 良い戦略に活かされる強みの源泉
第6章 テコ入れ効果
第7章 近い目標
第8章 鎖構造
第9章 設計
第10章 フォーカス
第11章 成長路線の罠と健全な成長
第12章 優位性
第13章 ダイナミクス
第14章 慣性とエントロピー
第15章 すべての強みをまとめる
第3部 ストラテジストの思考法
第16章 戦略と科学的仮説
第17章 戦略思考のテクニック
第18章 自らの判断を貫く