内容
ベンチャー企業
「今までとまったく違った(イノベーティブな)ビジネスのやり方を志向する企業」
ベンチャー企業を取り巻く社会というのは、特定の資源や取引先を囲い込むクローズドな社会ではなく、さまざまな主体が関与するオープンな生態系です。
起業が盛んな社会というのは、他の会社の中でも活用できるオープンな能力を持つ人やオープンな企業が多いほどうまくいくわけです。
VC市場
ベンチャーキャピタルが日本で投資をしている残高は2009年3月末時点で約9,500億円、1年間に投資される金額は1,366億円となっています。
これに対して、2009年のアメリカで、未上場のベンチャー企業に出資された資金は、17,782百万ドル(1ドル90円で換算して1.6兆円)です。
日本の投資金額(残高)は、個人金融資産の合計額約1,400兆円と比べても1,000分の1未満のわずかな量です。
企業が仮に100社あったとしても、たった数百億円の資金があれば足りてしまうわけです。
実際には「これは上場確実」「これは世界で通用する!」といったイケてる企業なんて、そうたくさんあるわけではありません。
イケてる企業から見れば、投資してもらえるお金は非常にありあまっているわけです。
投資する資金を増やしても、イケてる企業が増えないと意味がないわけです。
ハンズオン
「口出し」をきれいな言い方で言うと「ハンズオン(Hands-On)」ということになりますが、たとえばいいCTO(最高技術責任者)を紹介してくれたり、いい提携先を紹介してくれたり、戦略を一緒に考えてくれたりすることもあります。
上場することによって、人・モノ・カネ・情報といった経営資源の調達力を一気に高められる可能性があります。
起業家
起業段階の経営者としては、「この事業がいかに面白いか」「このサービスは世界を変えると思う」といった、「事業の面白さ」をトウトウと語るようなタイプが向いている。
商売の中でも、特に創業時の商売というのはそういう「人のつながりを通じて何かを成し遂げる」要素が大きいのではないかと思います。
上場など目指さず、外部から資金調達もせずに、安定したニッチで収益性の高い事業を営み、非上場で末永く幸せに会社を経営するという選択肢もあります。
資本金
資本金というのは、本来「債権者が資金を回収しやすくするためのバッファ」です。
ベンチャー企業においては「なるべく資本金を減らせないか」と考えましょう。
事業計画
事業計画を作ることによって、起業家自身の考えが深まったり、実現可能性が推し量れたりする可能性があります。
いろいろ頭の中であれこれシミュレーションする時に、事業計画はそのたたき台になると思います。
事業計画を作ることを通じて考えがまとまっていれば、説得力のある話をできる可能性が高まる。
事業の要点を押さえているのか?
事業計画は、役職員や投資家など、事業に関連する関係者達を、
「これならいける!」
とやる気にさせられる「パワーの源」になるわけです。
計画を作ることで、トップと従業員が企業の目的をよく理解し合って事業リスクに立ち向かっていけることが必要です。
役員や従業員はもちろん、投資家に対しても「これならいける!」と思ってもらえる「ワクワク感」のようなものがベンチャーの事業計画には必要だと思います。
「会社の概要」には、
- 会社の資本金などの基本事項
- マネジメントチーム(経営陣)の概要(略歴、職歴、この事業に使えるノウハウなど)
- 組織(図)
- 現在の事業内容の概要
- 顧客
などが入るかと思います。
「外部環境」としては、
- マーケットの概要
- 市場の規模
- 市場の構造(競争環境の現況と競争の要素、KFS[KeyFactorforSuccess:成功の鍵])
などを入れるといいかもしれません。
「数値計画」には、
- 事業の基本的な戦略
- 販売計画
- 人員計画
などをもとに、それを損益に落とし込んだ、
- 損益計画
がついてくるはずです。
キャッシュフローや貸借対照表も合わせて考えてあると、数値のツジツマが合っているかどうかがチェックしやすいのですが、設備投資その他の資産・負債が重要でなく、「フロー」中心のベンチャー企業なら、そこまでできていなくても文句を言われることはあまりない。
数値計画には、
- 市場規模や顧客数、シェア、単価などの前提条件
- 売上
- 売上原価(コストや販売数量などから計算)
- 広告費・販売促進費(どういったプロモーションや営業活動を行うか)
- 人件費(どれくらいの給料の人を何人雇うか)
- 福利厚生費等
- 賃料(どんなオフィスや施設を借りるか、規模とともにどう借り増すか)
- 減価償却費(固定資産の投資から計算)
- その他経費
- 営業外費用や法人税等(借入れや法人税率等から計算)
- 貸借対照表項目(資産、負債、資本)
- キャッシュフロー(投資など)
販管費(販売費及び一般管理費)
- 人件費←(その単価で雇えるか?×その人数で足りるか?)
- 福利厚生費←人件費×一定率(14%程度が普通です)
- 地代家賃←人員数、1人当たりオフィススペース、座席など
- 減価償却費←償却資産から
- その他業種固有の経費←サーバ代、水道光熱費、その他
- その他諸経費←見積もる必要あり
「利益+減価償却費ー設備投資」がキャッシュフロー(フリーキャッシュフロー)です。
事業価値・企業価値・株主価値
「事業価値」とは、事業用資産の価値から、その事業で発生した買掛金や未払金などの負債を差し引いたものです。
事業価値に、事業に使っていない資産も加えたものが「企業価値」です。
この企業価値から、債権者から借り入れている有利子負債を引いたものが「株主価値」ということになります。
類似企業比準法
『類似の企業』があるベンチャー企業ってどうよ?
数値に比例するのか?
ストックオプション
将来、ある一定の条件で(安く)株式を購入できる権利
ストックオプションというのは、「役員や従業員にがんばってもらいたい」というインセンテイブのために付与されるものです。
通常は、ストックオプションを受け取ってから2年程度は行使することができません。
(この行使できない期間、または行使の開始時期のことを、シリコンバレーなどでは、「崖」になぞらえて「クリフ(Cliff)」と呼んでいます。)
行使できるようになってからも、すぐに100%が行使できるのではなく、何年かに分けて行使できるようになっています。
(これは「ベステイング(Vesting)」と呼ばれます。)
概ね発行されるストックオプションが上場までの「累計」で、発行済株式数の10%以内に収まるように考えておけば無難ではないかと思います。
ストックオプションは、社長の独断と偏見で決めるというよりは、基本的には、
- 付与のタイミング(その時に入社していたかどうか)
- その人の役職・職責
などから、一定のルールを作成し、基本的にそのテーブル(表)に基づいて「誰人に何株分付与する」ということを決定すべきです。
①事業計画を構築
②資本政策を構築して、付与できるストックオプションの量を仮定
③役職等別の付与のルール・テーブルを決める
④誰がどのくらいのインセンテイブになるかのシミュレーションを行う(将来の時価総額の予想、その時のキャピタルゲインの額など)
課税
「株式が取得できる権利」の課税は、「もらった時」ではなく、「権利を行使した時」の時価で考えた所得に対して課税されることになっています。
「税制適格ストックオプション」
特定の要件を満たすストックオプションについては、付与した時も行使した時も非課税で、売却した時に初めて課税されることになります。
資本政策
資本政策は、理屈としては、それ単体だけを作れるものではありません。
まずは「事業計画」を立てる必要があります。
そこから将来のキャッシュフローの計画が立ち、「企業価値」が算定できるようになります。
将来の一定時点での企業価値が仮定できれば、「ある時点で何株発行すればいくら調達できるか?」が決まってくるわけです。
企業価値(株主資本価値)を株式数で割ったものが、株価でしたよね。
この結果、事業計画で必要になる金額を調達できたとしたら、どの株主がどの程度株式を持つか、という「資本政策」を作成することができる。
創業者も投資家も関係者全員がハッピーになっている未来(たとえば上場してさらに発展している未来の自社の姿)を想像してみましよう。
その時、時価総額はどのくらいになっているでしょうか?
また、社長や安定株主は何%くらい持株比率があるべきでしょうか?
- 現在、J-SOXや監査コストなど、上場維持コストも上がっていますので、それらを支払っても上場してメリットがあるかどうか
- 機関投資家に株式を買ってもらえるかどうか
などを考え合わせると、(もちろん、数十億円といった企業価値でも上場ができないというわけではありませんが)上場時の時価総額はできれば300億円から500億円程度はほしいところです。
時価総額が300億円から500億円ということは、PER(株価収益率)が平均より高い「20倍」だとしても、年間の純利益が15億円から25億円必要ということになります。
面白かったポイント
起業というかベンチャーを志す起業家は必読です。
不確定な状況でお金のことをあれこれ考えるのは後回しにしがちですが、最低限の知識は身につけておかないと後で取り返しのつかないことになります。
満足感を五段階評価
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