ジョブ理論

ビジネス

『ジョブ理論』クレイトン・M・クリステンセン

更新日:

内容

ジョブ

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。

この「進歩」のことを、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方をしている。

 

片づけるべきジョブを理解すればするほど、よりよいものを生み出せる。

新しい技術の採用がジョブの解決方法を向上させることは多いが、ジョブそのものの理解を深めることが大切であり、解決策のほうに夢中になるべきではない。

 

自社製品を雇用して顧客が片づけようとしている本当のジョブを理解していない企業は、「ひとつですべてを満足させる」万能の解決策に惹かれがちで、結局誰も満足させることができない。

 

すでに物件を購入した顧客に対し、どのようなジョブを片づけるためにこの物件を「雇用」したのかを尋ねたのだ。

「購入に至るまでの経緯を、時系列で記してもらった」

多数のインタビューから行動パターンを読み取り、まず、購入する可能性の高い顧客の特定にはつながらない要素を除いた。

「新しい家を建てて売るビジネスだと思っていたが、実際には顧客の人生を移動させるビジネスなのだとわかった」

 

偉大な科学的進歩の多くは、優れた知性の集団が同じことを同じ道具を使って何年も考え続けた後に、誰かが持ち込んだ新しい視点によって一気に達成された。

 

ジョブの発見にも当てはまる。

問題は道具にあるのではなく、何を探し、観察した結果をどうつなぎ合わせるかのほうにある。

ジョブを分析するにあたって、すでに集めたデータや調査結果を放棄する必要はない。

ペルソナ分析も、フォーカスグループ調査、パネル調査、競合分析なども、すべて重要な知見を見い出すための有効な出発点になる。

 

ビッグ・ハイアとリトル・ハイア

顧客がプロダクト/サービスを雇用するときに下す決定にはふたつの重要な瞬間があるが、ほとんどのデータが追跡するのはそのうちのひとつだけだ。

だいたいは、われわれが「ビッグ・ハイア(大きな雇用)」と呼ぶ、人がプロダクトを初めて買う瞬間のみを追跡する。

 

しかし、同じくらい重要なもうひとつの瞬間は、実際にそのプロダクトを消費するときだ。

消費者が商品を購入して自宅あるいは職場にもちこんだ状態にあっても、その商品はまだ消費されてはいない。

その商品が再雇用され、実際に消費されることをわれわれは「リトル・ハイア(小さな雇用)」と呼ぶ。

 

ある商品がジョブをうまく解決すれば、消費される瞬間は何度も訪れる。

つまり、繰り返し雇用されるわけだ。

しかし、企業が集めるデータは、ビッグ・ハイアしか反映しておらず、実際にその品が顧客の片づけるべきジョブを解決したかどうかは表れない。

 

顧客のストーリー

ジョブには、人の行動を変えさせるだけの重要性がなければならない──「ぼくは悪戦苦闘していて、いまある解決策よりもっといいものが必要だ」。

さらに、新しい解決策に惹かれる力は、古いものへの惰性と新しいものへの不安を足し合わせた力よりはるかに大きくなければならない。

ある商品から別の商品へ乗り換えるときには摩擦が生じるものだが、自社製品がすばらしいと信じこんでいるイノベーターはそうした懸念に無頓着なことが多い。

だが、機能しか提供できない解決策はたやすく解雇される。

 

一方で感情的および社会的側面が深くかかわる解決策は、解雇されにくい。

現状にいくら不満があり、新しい商品がいくら魅力的でも、何かの雇用へと引っぱる力が、ためらわせる力よりも大きくならないかぎり、人は新しいものの雇用を考えようとしないのだ。

 

人の生活に起こる、悪戦苦闘の瞬間や、もっといいものと取り換えたくていらいらする瞬間、不満足な体験、ストレスのなかに、「何を」探すかのヒントがある。

顧客が進歩を求めていながら、利用できる解決策に制限があって何度も我慢を強いられている状態や、驚き、意外な振る舞い、代替行動の習慣、プロダクトの想定外の使われ方なども、探す場所として有望だ。

それをどんなふうに解決するかにあたり、標本の数は少なくてもその物語を膨らませることで、考察の足がかりにすることができる。

新しいプロダクトを成功に導く知見は奥深く込みいっていて、統計データよりむしろストーリーに近い形で現れる。

 

顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えても実は偏っていることが多い。

データは特に、ビッグ・ハイアだけを重視し、リトル・ハイアを無視している。

ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

 

模倣が難しいのは、イケアが顧客に提供する体験と、顧客の障害物を予測し乗り越える手助けをするそのやり方だ。

 

パーパスブランドは、その名を聞いただけで、片づけたいジョブに対しての完全かつ具体的な体験が思い浮かぶ。

商品を買うという行為を人に起こさせるメカニズムと結びついているのだ。

さらに、それを雇用してジョブを解決するようにと人を促す力がある。

 

ジョブ解決

コールセンターで実際の顧客の声を1時間聞くように指示した。

チームメンバーははじめ、本来とは別の仕事をさせられることに不満だったが、顧客の声を実際に聞いたことですべてが変わった。

メンバーは、コールセンターの係員が置かれているプレッシャーの強さと、解決を迫られる問題の多さに衝撃を受けた。

 

「一度で完璧に成功したなどと余裕を感じるひまはない。リスクがあちこちにあることが、進むうちに分かってくる。でも、ここにうちの強みがある。学んだことをベースに、プロセスをどんどん改良していくんだ。それも、顧客が解決しようとしているジョブに即したかたちで」

 

顧客体験に組み込まれた異なる機能(プロダクトそのもの、マーケティング、営業、アフターサービス)のすべてが、体系化された方法で、ジョブの解決を支援しているか。

 

受動的データ

ジョブを解決するために必要な情報は、顧客が苦労している文脈のなかにある。

そのような情報は声をあげず、はっきりした構造もなく、推進者もおらず、行動計画もないことから、われわれは「受動的データ」を呼ぶ。

片づけるべきジョブはさほど変化しないため、受動的データを見ても、周囲の状況の変化を読み取ることはできない。

受動的データはつねに存在しているが、目立たない。

 

能動的データ

プロダクトの販売は、「プロダクトに関するデータ」を生み出す。

どれを何個、利益はいくら、など。

 

購入という行為は「顧客に関するデータ」を生み出す。

法人か個人か、規模の大小、裕福かそれほどでもないか、直販か社外の販売チャネル経由か、地元か遠隔地か、など。

 

人材、設備、テクノロジーへの投資は、それらの「生産性や利益や価値に関するデータ」を生み出す。

 

競争相手が現れると、投資家やマネージャーはベンチマークに熱中し、「比較データ」のもとになるベンチマークを考え出す。

 

誤謬

企業が顧客との関係を強化するための大規模な投資をおこなうと、既存顧客にプロダクトをもっと多く売ろうという気持ちが自然に芽生えてくる。

既存顧客にプロダクトを売るための限界コスト[生産量を一単位増加させたときの総費用の増加分]はきわめて小さい。

しかも大きな利益が見込める。

 

われわれはこれを「見かけ上の成長」と呼ぶ。

市場に出まわる他社製品を見て、模倣したり買収したりするのだ。

だがそれによって、対象顧客を広げ、プロダクトの種類を増やしてしまいがちだ。

 

そして、最初の成功をもたらしたジョブへのフォーカスを失う。

さらにまずいことに、多くの顧客向けに多くのジョブを片づけようとすれば、顧客は混乱し、本来、ジョブを片づけるのに適さないプロダクトを雇用し、のちに苛立ってそのプロダクトを解雇することになる。

こうなると企業は、ひとつのジョブにフォーカスする破壊者たちの攻撃にさらされてしまう。

 

あなたの会社の営業、マーケティング、研究開発チームが事業本部の一室に集い、どこにイノベーション資源を集中させるべきか話し合っている。

営業チームは、いま何が必要かについて顧客としじゅう話をしているから、顧客の要望は把握していると胸を張る。

マーケティングチームは、新しいバージョン、新しい味、新しい色、特別価格などを用意して、既存ブランドのてこ入れができないかと考えている。

研究開発チームは、最先端のテクノロジーとアプリケーションを利用した開発中の新機能と利点に心を躍らせている。

事業部長は、損益計算書の見栄えをよくするものを年度末までに市場に出すことばかりを考えている。

 

規模を拡大中の企業は、ジョブの奥深い複雑さを特色づけるデータ(受動的データ)を重要視しつづける代わりに、業務に関係したデータ(能動的データ)を生成しはじめ、その見せかけ上の客観性と精密さに誘惑されやすい。

これにより、企業は片づけるべきジョブより、プロダクトや顧客特性を中心にした組織に変貌してしまう。

 

ロバート・ケネディのスピーチ

私たちの国民総生産は現在、8000億ドルを超えました。

ですが、GNPには子供の健康も、教育の質も、遊ぶ喜びも入っていません。

詩の美しさも、夫婦の絆の強さも、公に討論する知性も、公務員の誠実さも入っていません。

私たちの才覚や勇気も、知恵や学んだことも、慈悲心も国家への献身も測定されません。

つまり、GNPはなんでも測れるようでいて、人生の価値を高めるものは含まれていないのです。

 

ジョブを中心とした組織

顧客の片づけるべきジョブに集中すると、単発的な改善のアイデアにとどまらず、持続可能でぶれないイノベーションの「北極星」がもたらされる。

イノベーションの成功を期待する上層部の思いと、するべきことを直観的に知っている一般社員とのあいだに広がるギャップの橋渡しにも役立つ。

社員の意欲を高め、自身を与えてもくれる。

 

誰もが理解できる明確なジョブスペックは、ローマの統治の例と同じ役割を果たす。

毎回するべきことを具体的に指示されなくても、社員は正しい決断を下すことができ、新しい取り組みにつきもののトレードオフのバランスもとれる。

 

最も重要なことは何か。

妥協できないものは何か。

最終的なゴールは何か。

その最終ゴールに到達するための自分の役割は何か。

 

ジョブ理論のレンズを通すことで、日々の選択が顧客のジョブと正しく関連づけられるようになる。

ジョブ理論が共通言語となって、マーケティング、エンジニア、営業、顧客サービス担当の社員が互いに意思疎通を図れるようになる。

共通言語の欠如でコミュニケーションに困ることはもうない。

 

ジョブ理論が力を発揮すると、業務が引き締まる。

無駄や間接費が体系的に減り、使う時間やエネルギーや資源が最小化されるからだ。

 

こう言うことで物事は単純化できる。

「片づけるジョブに戻ってみよう。顧客は何を片づけたくてわれわれを雇ったんだ?」

 

ジョブを明確に定義し、そこにフォーカスできる組織には、4つの恩恵がある。

意思決定の分散化ーすべての社員がジョブに沿った的確な意思決定を、自律的かつ発想力豊かに下せるようになる。

資源の最適化ー何がジョブにとって重要かに合わせて資源を配分でき、バランスをとることができる。

意欲の向上ー顧客のジョブを解決することには本質的に、社員を鼓舞する力がある。自分の仕事によって、実際に誰かの人生を進歩させられることがわかるからである。

適切な測定能力ー顧客のジョブを中心とした測定基準を求め、それによって評価しようとする気運が自然に生まれる。

 

面白かったポイント

ジョブという言葉を聞くと、何か新しい概念かと思いましたが、読んでみるとマーケティングでよく言われている話だった。

カスタマージャーニー、NPSなどを違う表現で解説している感じ。

個人的には目新しさは特にありませんでしたが、マーケティング未経験者にはいい本だと思う。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆

 

目次

[第1部 ジョブ理論の概要]
第1章 ミルクシェイクのジレンマ
朝のミルクシェイク/マーガリンのレジュメ/ジョブ理論とイノベーション

第2章 プロダクトではなく、プログレス
「何を」ではなく、「どう」考えるか/ジョブの定義/機能面、社会面、感情面の複雑さ/ジョブとは何か/ジョブでないもの/ジョブを見きわめるには/競争の勢力図の変化/ジョブ理論の限界/コペルニクス的転回

第3章 埋もれているジョブ
無と競争する/ジョブの適用範囲は深くて広い/B2Bにおけるジョブ/価格2倍で機能半分/顧客の人生に寄り添う

[第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性]
第4章 ジョブ・ハンティング
ジョブはどこにある?/1生活に身近なジョブを探す/2無消費と競争する/3間に合わせの対処策/4できれば避けたいこと/5意外な使われ方/感情面の配慮/魔法は必要ない

第5章 顧客が言わないことを聞き取る
顧客のストーリーをつくる/マットレス購入までの道程/衝動買いの裏に/アドビルかレッドブルか、新しいマットレスか/ジョブとインサイト

第6章 レジュメを書く
ジョブを解読する/体験とプレミアム価格/障害物を取り除く/ウーバーの体験/ジョブに適していることをどう伝えるか/パーパスブランド

[第3部「片づけるべきジョブ」の組織]
第7章 ジョブ中心の統合
秘伝のソース/ジョブ中心に組織をつくる/測れることは実行できる/オンスターのジョブ

第8章 ジョブから目を離さない
イノベーションのデータの3つの誤謬/1能動的データと受動的データの誤謬/2見かけ上の成長の誤謬/3確証データの誤謬/データの出所が問題をつくり出す/受動的なデータを能動的に捕まえる

第9章 ジョブを中心とした組織
直観的な作戦ノート/両面コンパス/だいじなことを測定する/ジョブがすべてを変えた/文脈を見失わない

第10章 ジョブ理論のこれから
本当に理論と呼べるのか/理論が〝誤って〟いるとき/理論の限界/ジョブ理論の適用範囲の深さと広さ/個人的なジョブ/公教育/医療/人生のジョブ/ジョブ理論とともに

-ビジネス

Copyright© まさたい , 2024 All Rights Reserved.