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『キャズム Ver.2』ジェフリー・ムーア

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内容

キャズム

中心テーマは、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティーのあいだを分かつ深く大きな溝、すなわちキャズムである。

これはテクノロジー・ライフサイクルにおいて、超えるのがもっとも難しい溝である。

 

アーリー・アダプターが購入しようとするのは、変革のための手段である。

アーリー・アダプターは、同業他社に先んじて自社に変革をもたらし、ライバルに大きく水をあけることを狙っている。

 

アーリー・マジョリティーは、現行オペレーションの生産性を改善する手段を購入しようとする。

そして彼らは、古いやり方と新しいやり方のあいだの不連続性をできるかぎり小さくしようとする。

彼らが求めているのは進化であって、変革などではない。

必要なのは、現行テクノロジーの強化であり、テクノロジーの世代交代ではない。

 

メインストリーム市場への進出

これからメインストリーム市場に進出しようとする企業が目指すのは、何よりもまず、メインストリーム市場での橋頭堡を確保することである。

つまり、先行事例となる実利主義者の顧客を獲得し、そこを起点としてメインストリーム市場の他の顧客を攻略するのだ。

 

この先行事例を打ち立てるためには、メインストリーム市場における最初の顧客の購入目的──発注書をもらうために、ベンダーが顧客に約束したこと──が完全に実現されるように、ベンダーは万全の体制で臨まなければならない。

そのためには、ベンダーは単に自社が販売している製品だけでなく、ホールプロダクトを顧客に提示しなければならない。

あとで詳しく見ていくが、ホールプロダクトとは、顧客の目的を達成するために必要とされる一連の製品やサービスのことである。

 

キャズムを超える

キャズムを超えようとするときには、一つのマーケット・セグメントに絞り込むことにより、ホールプロダクトによる梃子の原理、口コミの効果、そしてマーケットにおけるリーダーシップを最大限に活用することが肝要だ。

加えて、メインストリーム市場に到達するために、キャズムを超えるという強い意志が必要なのは言うまでもない。

 

キャズムを超えるときの大原則は、特定のニッチ市場を攻略地点として設定し、持てる勢力を総動員してそのニッチ市場をできるかぎり早く支配することである。

実は、これは市場に新規参入する時の昔からあるセオリーそのものであり、それに対する解答はすでに用意されている。

 

まず、想定されるマーケット全体をいくつかのマーケット・セグメントに分割する。

 

次に、各セグメントの将来性について調べてみる。

こうして、ターゲットとするマーケット・セグメントがいくつかの「最終候補」に絞られたら、各候補について、市場規模、可能な販売チャネル、そしてライバル企業に対する差別化要因などを推定してみる。

 

最後に、この中から一つ選んで、そのセグメントに全精力を傾ける。

それだけだ。

何か難しいことでもあるだろうか?

 

早くマーケット・リーダーになりたいのであれば、もちろん、なりたいに決まっている、唯一の戦略は、「小さな池で大きな魚になる」というアプローチである。

 

口コミ効果がないと、製品を売り込むのに苦労することになり、その結果、販売コストが上がり、売上が不安定になる。

 

情報に基づく直観

キャズムを超える上で、もはや一刻の猶予もならないため、予測値とはまったく別の観点で判断材料を探すことが必要となる。

つまり、決断を下すに当たってわたしたちがいま必要としているのは、数値の分析ではなく、情報に基づく直観なのである。

 

偉大な運動選手しかり、芸術家しかり、カリスマ的指導者しかり、偉大な意思決定者しかりである。

このような人たちの行動パターンには共通するものがある。

それは、パフォーマンスの準備段階と本番のおさらいをするときには理詰めでものごとを考えていくが、本番の「その瞬間」には直観で決断するということだ。

 

エンドユーザーが抱えている問題

現状認識

  • エンドユーザーが抱えている問題をしっかりと把握する。
  • いま、何が起きているのか?
  • それに対して、エンドユーザーはどうしようとしているのか?

 

望まれる結果

  • エンドユーザーが手に入れたいものは何か?
  • なぜそれが必要なのか?

 

試みたこと

  • 新しいテクノロジーがまだ世に出ていないとき、エンドユーザーはどのように問題を解決しようとしたか?

 

阻害要因

  • そのときに何がうまくいかなかったのか?
  • そしてうまくいかなかった理由は?

 

経済的影響

  • 結果はどうだったか?
  • うまく問題解決を図れなかったために、どのような影響が出ているか?

 

ハイテク・マーケティング

ハイテク分野に限って言えば、マーケットの定義は次のようになる。

  • 実存する製品やサービスに対して、
  • ニーズや欲求を抱えていて、
  • 購買を決定する際に、たがいに連絡を取り合う、
  • 既存の、あるいは将来的に見込まれる顧客

 

ハイテク・マーケティングの世界には、テクノロジー、製品、市場、企業の四つの価値領域が存在する。

そして、すべての製品に対して言えることだが、テクノロジー・ライフサイクルが進展するにつれて、顧客が価値を見出す対象がしだいに変化してくる。

 

初期市場では、製品の購入を決定するのはテクノロジー・マニアとビジョナリーであり、このとき彼らが価値を見出す対象は「テクノロジー」と「製品」である。

一方、メインストリーム市場では、実利主義者と保守派によって購入の決定がなされ、このときに彼らが価値を見出すのは「市場」と「企業」である。

 

つまり、キャズムを超えるというのは、「製品」を中心とする価値観から「市場」を中心とする価値観に移行することなのだ。

 

実利主義者は複数の製品を比較するまでは購入の決定を下さない。

したがって、この段階では、競争相手の存在がベンダーにとって必須の条件となる。

 

これからは、客の目の前で製造するのだ!

在庫ゼロ、マス・カスタマイズの時代だ!

 

ポジショニング

ポジショニングは、企業あるいは製品に対して顧客が抱いている観念に根ざすものであり、決して、ベンダーが随意に選んだ言葉で表されるものではない。

よって、正しいポジショニングをしたいと願うならば、宣伝のキャッチコピーをそのまま使うのではなく、製品に対して人々が感じていることをフレームワークとすべきである。

 

ポジショニングの究極の目的は、ターゲット・カスタマーの頭の中に、「この状況ではこの製品を購入するのがベスト」という観念を植え付け、それが未来永劫消えないようにすることである。

顧客の頭の中に競合製品のかけらもなくなって初めて顧客にとって製品が「買いやすく」なったと言えるのである。

 

ポジションステートメント

『①』で問題を抱えている

『②』向けの、

『③』の製品であり、

『④』することができる。

そして、『⑤』とは違って、

この製品には、『⑥』が備わっている。

 

そして、この六つのブランクには、それぞれ、

  1. 現在、市場に流通している「代替手段」
  2. 橋頭堡となるターゲット・カスタマー
  3. この製品のカテゴリー
  4. この製品が解決できること
  5. 対抗製品
  6. ホールプロダクトの主だった機能

 

販売チャネルと価格設定

販売チャネルと価格設定について検討する。

キャズムを超えて対岸へと向かうとき、販売チャネルは言ってみれば兵員や軍需品を輸送する艦船であり、製品に対する価格設定はその艦船を前進させるための燃料である。

この二つは、メインストリーム市場の顧客に直接影響を与えるものであり、マーケティング戦略を決定する上で重要な要素となる。

 

とりわけ販売チャネルは、判断を誤ったらやり直す時間は残されていないと考えるべきである。

キャズムを超えようとしているベンダーにとって最大の目標は、メインストリーム市場の実利主義者が安心して付き合える販売チャネルを確保することである。

 

販売チャネル

トランザクション型販売モデルは、極力、人手の介入を排除するように設計されている。

その目的は、ベンダーの経費を削減し、利用者の満足度を向上させるためだ。

 

このとき、ウェブサイトにFAQ(よくある質問)が用意されることもある。

万が一のために、ベンダーへの連絡用メールアドレスが記載されていることもある。

さらに、チャットサービスが用意されていて、ベンダーのサポート担当者が、同時に複数の顧客の質問に答えられるようになっていることもある。

特に優れたサービスは、コミュニティによるテクニカルサポートだ。

リチウム・テクノロジーズ社やジャイブソフトウェア社などによるサービスがその例であり、豊富な知識を持ったユーザーが初心者のユーザーを助けるようになっている。

 

彼らは、誰かに手助けしてほしいと思っており、そして予算がかぎられているため、いつも安価に解決できる方法を探している。

そこで、彼らが頼りとするのは地元の付加価値再販業者(VAR)である。

 

このVARは、自身が個人事業主であることが多く、できるかぎり人手をかけないようにするかたわら、新たな顧客の開拓にいつも腐心している。

このようなVARは、彼ら自身がテクノロジー・マニアであることが多く、自分たちの専門知識を他人のために役立てることに喜びを感じる人たちである。

そのうえ、それが収入につながれば言うことはない。

 

一方、そのようなVARが不得手とするのがマーケティングと販売であり、ここはベンダーが自ら対応すべき領域だ。

こうして、中小企業を顧客とするベンダーはマーケティングと販売については責任を持つが、販売後のサポートを行なうことはまれだ。

そして、この領域を任されるのがVARなのである。

 

通常、ベンダーによるマーケティングはウェブを通じて行なわれ、顧客の獲得状況をVARと共有することも少なくない。

中小企業のオーナーは技術に疎いケースが多く、セールス2・0の手法で彼らに対応することはできない。

そこで中小企業のオーナーは、技術の世界への橋渡し役を必要とし、VARに期待を寄せるようになる。

 

一方、VARの主要な収入源はポストセールスの段階にあるのだが、彼らは、このプリセールスの段階で顧客の期待に応えて信頼を勝ち取ろうとする傾向がある。

 

価格設定

まずビジョナリーだが、初期市場を代表する顧客層であるビジョナリーは、どちらかといえば価格にこだわらないほうである。

プロジェクトの目標が達成されれば桁違いのROI(投資収益率)がもたらされるため、目先の価格は問題外というのが彼らの認識である。

このような価格は価値に基づく価格というべきものであり、得られる成果に高い価が認められるため、そこで使われる製品の価値、すなわち価格も高く設定できるようになる。

 

ビジョナリーの対極に位置するのが保守派である。

彼らが価格に求めるものはただ一つ、低価格であることだ。

彼らは、ホールプロダクトが市場に浸透し、製品価格がコストをほんの少し上回る程度になるまで、いつまでも気長に待ち続ける。

これはコストに基づく価格設定であり、メインストリーム市場でよく見られるものである。

 

マーケット・リーダーから購入する場合には、製品価格が競合他社に比べて最大で30%ほど高いことも実利主義者は知っている。

つまり、これは競争力に基づく価格設定なのである。

 

価格設定によって、潜在顧客を受注客に絞り込んでいくセールスファネルの管理方法が変わってくるのだ。

販売数量が多いほど、販売プロセスはトランザクション型に近づき、ファネルの上部に多くの見込み顧客を満たしておかねばならない。

逆に、設定価格が高いほど、販売プロセスは見込み顧客との関係性を重視するものとなり、ファネルの底の部分に注力することが必要となる。

 

キャズムを超えた後

キャズムを超えた後にまずすべきは、キャズムを超える前に行った約束と現状との不整合を解決することなのだ。

その結果、社内の不良資産の見直し、肩書きに見合った働きをしていない社員の再配置、自社製品やテクノロジーの将来に対する決定権限の大幅な変更などを迫られることも少なくない。

このような措置は、往々にして社員のあいだいに失望と怨嗟を生むことになるが、避けては通れない道である。

 

要するに、キャズムを超えた直後というのは、経営者及び一部の社員が深い心痛を味わう時期なのだ。

 

無事にキャズムを越えるためには、会社自身が変革しなければならない。

これまでの家族色の強い雰囲気を抑え、個人の成果のみを重視することをやめ、チーム全体で会社を前進させていく体制を確立しなければならない。

 

イノベーションをやめよとか、創造性を犠牲にせよとか言っているわけではない。

大切なのは、会社全体のエネルギーを、実利主義者の要求を満たす方向に振り向けることなのだ。

 

ここで、社員のあいだの信頼関係を損ね、権威主義的な経営体制を作れと言っているわけでもない(実際のところ、キャズムの前後で経営方針が変わってはならない)。

初期市場で成功を収める原動力となってくれた社員の資質や能力を再評価し、それをメインストリームで成功するための力に変化させていくことが重要なのだ。

 

その結果、これまでの社内の信頼関係が本物であったかどうかを試されるのも事実である。

財務、組織開発、製品開発などの各部門が果たすべき役割はキャズムの前と後で大きく異なり、その変化についていけない社員がいるかもしれない。

そのようなときに企業がなすべきことは、キャズムを越えたあとの行動規範を社員に説いて回ることではなく、むしろ彼らが状況をしっかりと認識し、この先、自分が活躍できる分野について理解を深めるための支援をすることである。

それを正しく行なえば、あとは自分で最適な道を探すであろう。

 

初期市場では、テクノロジーやサービスや各種のアイデアが一体となった製品を作り出し、その製品に対する需要が現実に存在することを証明するのが第一の目標であった。

このとき、売上はその需要の大きさを測るための手段としては有効だが、そこから得られる利益に大きな期待が寄せられているわけではない。

要するに、初期市場においてベンダーが主目標とすべきは利益ではないのだ。

 

面白かったポイント

キャズムは、読まなくても書いていることはなんとなく想像できると思っていたけど、面白かった。

 

キャズムを超えるときの会社の中のカオスな状態をもっと記述されていたら面白かったと思う。

全体的にキレイにまとめた感じで、これでキャズムを超えるときに役立つかというと疑問です。

 

しかし、マーケッターなら読むべき本でしょうね。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

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