戦略読書日記

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『戦略読書日記』楠木 建

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内容

センス

自らセンスを磨くにはどうしたらよいのか。

もっとも有効なのは、実際に経営者として戦略をつくって動かすという経験をすること。

要は場数を踏むことだ。

 

優れた経営者はあらゆる文脈に対応した因果のロジックの引き出しを持っている。

しかもいつ、どの引き出しを開けて、どのロジックを使うかという判断が的確、これもまたセンスである。

経験の量と質、幅と深さが「引き出し能力」を形成する。

 

論理を獲得するための深みとか奥行きは「文脈」(の豊かさ)にかかっている。

経営の論理は文脈のなかでしか理解できない。

情報の断片を前後左右に広がる文脈のなかに置いて、初めて因果のロジックが見えてくる。

紙に印刷されたものでも電子書籍でもよい。

あるテーマについてのまとまった記述がしてあるものを「本」と呼ぶならば、読書の強みは文脈の豊かさにある。

空間的、時間的文脈を広げて因果論理を考える材料として、読書は依然として最強の思考装置だ。

 

スポーツに例えれば、毎日シビれるような試合はできないが、ジムでの筋トレや走り込みならばルーティンとして取り組める。

読書は経営のセンスを磨き、戦略ストーリーを構想するための筋トレであり、走り込みである。

即効性はない。しかし、じわじわ効いてくる。

三年、五年とやり続ければ、火を見るより明らかな違いが出てくるはずだ。

 

戦略

戦略の実行局面では「分業しているけれども分断されてない状態」を保つ。

ここにリーダーの本領がある。

戦略全体の合理性は、部分の合理性の単純合計ではない。

部分は全体の文脈のなかに置いて初めて意味を持つ。

 

優れた戦略家のなかにはホットなパッションとクールなリアリズムが常に同居している。

徹底的にロジカルでなければ、ロジックで説明できないことの輪郭もつかめない。

 

因果律の引き出しを豊かにするためには経験を積んでセンスを錬成するしかないと言う。

仮説を現場で試し、失敗したらまた仮説を考え直して実行し、まただめだったらもう一回……と試行錯誤していく。

仮説と現実のあいだを往復することで、自分のまずかった点を抽象化、論理化できて初めて応用が利くようになる。

現実現場の文脈のなかでの具体的な経験に基づいているけれども、最終的には文脈を超えて応用が利くような「論理の束」、これが経営者のセンスを形成している。

 

パッションとロジック、どちらも必要なのだが、要は順番の問題である。

起点には人間のパッションがなければならない。

しかしパッションだけでは商売は動かない。

だから論理が必要になる。

 

しかし、パッション不在の論理だけが先行してしまうと、後からパッションを鼓舞しようとしても無理がある。

パッションは後づけがきかないのである。

パッションが起点にあり、それを論理で後押しするのが優れた戦略ストーリーである。

たとえば、「勝ちの兆候」を早く見せることができるのが優れた戦略ストーリーだと三枝さんは言う。

 

リクルート

まず半径二キロの商圏で、飲食業者、とくに居酒屋に限定して広告受注の営業をかけた。

次に、九分の一ページの広告を三回連続で受注する。

そのために一日、一人、二〇軒、訪問を実行する(後述するように、のちにこの流れは営業戦略の中核として、全員が唱える「念仏」となる)。

このやり方で、半径二キロ圏内でNTTデータに登録されている飲食店件数の一五%を獲得、もしくは一〇〇件を超えたら次の美容院やスクールといったコンテンツに向かう。

このように、「手をつける順番」がやたらとはっきり決められていた。

 

平尾さんの戦略思考の特徴を如実に示しているもう一つの典型的な例が「プチコン」である。

ホットペッパーの営業スタッフは、飲食店の料理の中身や店のコンセプトについては素人だ。

つまり、本格的な「コンサルティング」はできるわけがない。

この辺のリアリズムが素晴らしい。

 

多くの企業が「これからは顧客の問題解決をするコンサルティング営業がカギ!」とか言っている。

しかし、実際はかけ声倒れになっているのがほとんどだ。

平尾さんの思考と行動はそうしたフワフワしたかけ声だけの「戦略」と一線を画している。

ただし、本格的なコンサルティングはできなくても、キャッチコピーのつけ方や、おいしそうな料理写真の撮り方といった表現領域に関することであれば、数多くのクライアントに対してそればかりやっている営業スタッフだからこそ、価値ある提案ができる。

この表現領域に限定したコンサルティングが「プチコンサルティング」、略して「プチコン」だった。

 

戦略を一貫したストーリーとして打ち出せない経営者は、往々にして「わかった」と言うのが早すぎる。

本当に効果のある戦略は、一分で片づくような「短い話」ではありえない。

 

知識の質

知識の質は論理にある。

知識が論理化されていなければ、勉強すればするほど具体的な断片を次から次へと横滑りするだけで、知識が血や骨にならない。

逆に、論理化されていれば、ことさらに新しい知識を外から取り入れなくても、自分の中にある知識が知識を生むという好循環が起きる。

 

言語化能力

建築家に限らず、創造的な仕事をしている人は、往々にして言語化能力が非常に発達している。

抽象化という切り口で見れば、創造と言語化能力の間には太くて深いつながりがあることがわかる。

 

組織の持つ能力

組織の持つ能力には事前能力と事後能力がある。

事前の合理性と事後的な合理性といってもいい。

実行とか試行が行われる前に、目的関数や制約条件が一通り吟味され、比較検討され、その結果として採用するべきオプションが選択され、意思決定が行われる。

これが事前の合理性だ。

 

これに対して、事後的な合理性の世界では、すでに何らかの理由で、あることが行われている。

その後、事後的に目的関数などの情報が与えられ、合理的な行動としての意味づけが後づけでなされたり、活動の修正が行われる。

進化論的な立場に立つ本書では、事前能力よりも事後能力を重視し、そこに議論の焦点が置かれている。

 

組織能力の構築は事後合理性に依存した創発プロセスだ。

特定時点での意思決定よりも事後能力がものをいう。

 

ベンチャー企業が成功する五つの要因

①市場の規模が大きいこと

②商品・サービスに対する消費者の不満が大きいこと

③凧を揚げる風が吹き始めていること

④ライフネット生命は、インターネット販売による「わかりやすく安くて便利な商品・サービスの提供」という明確なソリューションを持っていること

⑤参入障壁が高いこと

 

面白かったポイント

この著者は相変わらず話が長い。

しかし、いい言葉を何個か得ることができた。

残念ながら読みたい本は特になかったかな。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆

 

目次

■序章:時空間縦横無尽の疑似体験
『ストーリーとしての競争戦略』 楠木建著
■第1章:疾走するセンス
『元祖テレビ屋大奮戦!』 井原高忠著
■第2章:当然ですけど。当たり前ですけど」
『一勝九敗』 柳井正著
■第3章:持続的競争優位の最強論理
『「バカな」と「なるほど」』 吉原英樹著
■第4章:日本の「持ち味」を再考する
『日本の半導体40年』 菊池誠著
■第5章:情報は少なめに、注意はたっぷりと
『スパークする思考』 内田和成著
■第6章:「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の戦略思考
『最終戦争論』 石原莞爾著
■第7章:経営人材を創る経営
『「日本の経営」を創る』 三枝匡、伊丹敬之著
■第8章:暴走するセンス
『おそめ』 石井妙子著
■第9章:殿堂入りの戦略ストーリー
『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』 平尾勇司著
■第10章:身も蓋もないがキレがある
『ストラテジストにさよならを』 広木隆著
■第11章:並列から直列へ
『レコーディング・ダイエット 決定版』 岡田斗司夫著
■第12章:俺の目を見ろ、何にも言うな
『プロフェッショナルマネジャー』 ハロルド・ジェニーン著
■第13章:過剰に強烈な経営者との脳内対話
『成功はゴミ箱の中に』 レイ・クロック著
■第14章:普遍にして不変の骨法
『映画はやくざなり』 笠原和夫著
■第15章:ハッとして、グッとくる
『市場と企業組織』O・E・ウィリアムソン著
■第16章:日ごろの心構え
『生産システムの進化論』 藤本隆宏著
■第17章:花のお江戸のイノベーション
『日本永代蔵』 井原西鶴著
■第18章:メタファーの炸裂
『10宅論』 隈研吾著
■第19章:「当たり前」大作戦
『直球勝負の会社』 出口治明著
■第20章:グローバル化とはどういうことか
『クアトロ・ラガッツィ』 若桑みどり著
■第21章:センスと芸風
『日本の喜劇人』 小林信彦著

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