内容
うまくデザインされたチームには、明確な目標をはじめ、共同作業を促す熟慮された仕事、その仕事に見合う適切なスキルと経験を持つチームメンバー、十分な資源、そして指導や支援を受ける機会が備わっているのだという。
チーミング
チーミングは動詞だ。
それは、境界のある固定された集まりではなく、動的な活動である。
効果的なチームのデザインや構造によってではなく、チームワークという考え方やその実践によって、主に生み出されるものでもある。
チーミングは、休む間のないチームワークだ。
それは、安定したチーム構造を持たないまま一丸となって動き、協働することを伴う。
チーミングとは、新たなアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々を団結させる働き方のことだ。
集団的学習には次のような行動が含まれる。
情報を集めたり、共有したり、分析したりすること。
顧客をはじめとする人たちから意見を得て、よく考えること。
積極的に試みること。
集団的学習を経験しているときの個人の学習行動には次のものがある。
○質問する
○情報を共有する
○支援を求める
○証明されていない行動を試みる
○失敗について話す
○意見を求める
こうした学習行動によって、グループは適応して進歩するのに必要な情報を手に入れ、処理できるようになる。
集団的学習を行うと、組織は環境の変化を察知したり、顧客の要求に気づいたり、状況についての集団的理解を一人ひとりが深めたり、以前の行動の結果を発見したりできるようになるのだ。
プロセス知識が十分に身についている、あるいは深まっていると、製造現場(ルーチンの業務)でそうであるように、不確実性は小さくなる。
従業員は、あらかじめ受けた指示に従えば、一定の結果を得られるのである。
反対に、イノベーションの業務では求められる知識の多くがまだ見出されていない。
成功しているチーミングは次の四つの特別な行動を伴っている。
▼率直に意見を言う…
チーミングの成功は、個人間でじかに、誠実な会話ができるかどうかにかかっている。
会話には、質問すること、意見を求めること、過ちについて話すことが含まれる。
▼協働する…
協働の姿勢と行動があって初めて、チーミングはプロセスを推し進めることができる。
これは、チーミングを行う所定のグループの内でも外でも言えることである。
▼試みる…
チーミングでは何度も試みが行われるが、これにより個人と個人の交流につきものの新奇さと不確実性を受け容れることになる。
▼省察する…
チーミングでは、プロセスと結果をしっかり観察し、明瞭に質問し、よく話し合うことが重視される。
これは、毎日であれ、毎週であれ、あるいはそのプロジェクト特有のタイミングであれ、仕事のリズムに応じて常に行われる。
さまざまな知識やスキルを持つ人たちと直接交流し合うと、職場はより面白く、充実した、意義深いものになる。
チーミングが当たり前になっている組織では、従業員は互いから学び、仕事のことも仕事が最初から最後までどのように行われるかももっと広く理解できるようになり、進歩の機会をよく見てそれに基づいて行動できるようにもなる。
リーダーシップ
従業員を尊敬していることをリーダーが明確に伝えると、従業員が進んで知識を提供しやすくなる点だ。
具体的には、人々が持つ知識やスキルの必要性を認めると、リーダーは意見をはっきり述べてほしいということを、人々が信頼できる形で広く知らせることになる。
率直かつ効果的に対立に取り組むためのリーダーシップ・スキルを学ぶことを必要としている。
それには、コミットメント、忍耐、どんどん失敗する姿勢、自己認識、そしてもちろんユーモアのセンスが欠かせない。
最低限でも、ある状況での、たとえ激しく意見が対立しているときでも自分自身の役割を積極的に検討し、「自分はここでどのようにこの問題に貢献できるだろう」と考える姿勢が必要である。
▼行動 1 学習するための骨組みをつくる
▼行動 2 心理的に安全な場をつくる
▼行動 3 失敗から学ぶ
▼行動 4 職業的、文化的な境界をつなぐ
認知フレーム
フレームとは、ある状況についての一連の思い込みや信念のことだ。
およそどんなときも、フレーミングは自然に行われる。
私たちはこの自然に生まれるフレームをさまざまな状況に重ね合わせるが、その力に気づくことはめったにない。
あまりに当たり前のものになっているからである。
フレームはおよそ常に存在し、過去の経験によって形づくられる。
そして、いつのまにか、そうした昔の経験によって現在の状況に対する考え方や感じ方が左右される。
フレーミングに良いも悪いもないが、ただ避けることはできない。
私たちは、歩んできた人生や社会状況によってつくられた見えないレンズを通して、周囲で起きていることを解釈する。
問題は、私たちのフレーミングは主観的な「地図」を示しているにすぎないのに、真実を表していると思い込みがちであることだ。
しかし実のところは、フレームはそれぞれに、現実に対する独自のイメージを伝えている。
▼リーダーの役割…
チームリーダーである外科医がみずからを、相互依存するチームリーダーとしてフレーミングするか、それとも一個人の専門家としてフレーミングするか。
▼チームの役割…
チームの役割が、権限を与えられたパートナーとしてフレーミングされるか、それとも技術に長けた補助スタッフとしてフレーミングされるか。
▼プロジェクトの目的…
プロジェクトの目的が、向上心あふれるものとして伝えられるか、それとも受け身で消極的なものとして伝えられるか。
人々に積極的に貢献してもらえるようになることが、リーダーシップの最も重要な仕事である。
これはつまり、めまぐるしく変化する環境にいるリーダーは、集団的学習プロセスを促進・指導する必要があるということだ。
そのためには、リーダーはチームメンバー全員の心に響く明確で説得力のある目的を伝えなければならない。
学習フレーム
学習フレームを強固にするための五つのリーダーシップ戦術を挙げる。
▼言葉と目を使った会話により、学習フレームを促進する。
▼望ましい対人行動および協調的行動について、説明したり手本を示したりすることによって、学習フレームを促進する。
▼そうした望ましい行動は具体的な言葉を使って説明する。たとえば「何か問題に気づいたら、率直に話してください」とか「疑問を感じたらすぐに電話をして尋ねてください」といった具合だ。
▼行動を始める。たとえば、発足会を開催したり、ミーティングをひらいて、チーミングや学習が終わるまでに達成すべき個人的な目標を見つけたり、トレーニングを行って、個人間の対立に対する効果的な対処法を知ったり。こうした行動を行うと、新たなプロセスや決まった手順がうまく進むようになり、チームメンバーの自信を高められるようになる。
▼プロジェクトの作業領域に現れた顕著な兆候などの結果を使って、学習フレームを視覚的に強固にする。
個人がリフレーミングするための4つの戦術
▼このプロジェクトはこれまでにかかわったどんなプロジェクトとも違っていて、新たなアプローチを試し、そこから学習する胸の躍るような機会に満ちている、と自分に言い聞かせる。
▼自分は、プロジェクトの成功に不可欠だけれども、ほかのメンバーが意欲的に参加しなければ成功を収めることはできない、と考える。
▼ほかのメンバーはプロジェクトの成功に欠かせない存在で、自分には予想もつかない重要な知識を提供したり提案をしたりするかもしれない、と自分に言い聞かせる。
▼以上の三つが本当だったら他人にどのように話すだろう。それと全く同じように、実際にほかの人に話す。
職場で直面するイメージリスク
▼無知だと思われる不安…
質問したり情報を求めたりする場合には、無知だと思われるリスクを冒している。
自分のほかには誰も質問する人がいないようだったために、あるいはその情報は知っていて当然だと考えられている気がしたために、尋ねるのをためらった経験はおよそ誰もがしたことがあるだろう。
▼無能だと思われる不安…
間違いを認めたり、支援を求めたり、試みにはつきものとはいえ失敗する可能性が高いことを認めたりする場合には、無能だと思われるリスクを冒すことになる。
たとえば、やってみたことが期待どおりの成果を上げなかったことを認めると、ほかの人たちには、あなたに仕事を確実にこなすだけの技術や能力がないことを示すサインとして受け取られる可能性がある。
▼ネガティブだと思われる不安…
学習して向上するためには、現在と過去の活動や仕事を批判的な目で評価することが不可欠だ。
しかし、ネガティブだと思われるというリスクのせいで批判的な評価を言えなくなることは少なくない。
多くの人が、ほかの人の仕事を批判すると難癖をつけたがる人だとか一緒に仕事のしづらい人に見える、と思っているのだ。
さらに言えば、誰もが知っているとおり、悪い噂が上層部で見過ごされることはまずない。
▼邪魔をする人だと思われる不安…
ほかの人の邪魔になったりほかの人の時間を奪ったりしてしまうのを恐れて、人々は意見や情報や支援を求めるのをやめてしまう。
とりわけ、自分の仕事に関して周囲からフィードバックをもらえると個人として得るものが多々あるにもかかわらず、なかなか意見を求めようとしない。
これは、ネガティブなことを言われるかもしれないと思うからだが、それもまた、煩わしい人だとか自律できない人だと見られたくないという思いから生まれている。
心理的安全を高めるためのリーダーシップ行動
▼直接話のできる、親しみやすい人になる…
メンバーと直接話をし、個人としてかかわると、リーダーはともに学習するようメンバーを促すことになる。
▼現在持っている知識の限界を認める…
あることについて自分は知らないとリーダーが認めると、謙虚さを誠実に示したその姿勢によって、メンバーにも同様の姿勢を持つよう促すことになる。
▼自分もよく間違うことを積極的に示す…
心理的安全を生み出すために、チームリーダーは自分もよく間違うのだと認めて、失敗に対する寛容さを示す必要がある。
▼参加を促す…
自分たちの意見をリーダーが重視していると思えたら、メンバーはもっと積極的にプロジェクトにかかわり、すんなり意見を言うようになる。
▼失敗は学習する機会であることを強調する…
積極的にリスクを冒してやってみたが期待はずれの結果に終わった場合、リーダーとしてそのメンバーを罰するのではなく、ミスを受け容れ、失敗と有意義に向き合うことを促す。
▼具体的な言葉を使う…
具体的ですぐに行動に移せる言葉を使うと、率直で単刀直入な話し合いが促され、学習できるようになる。
▼境界を設ける…
望ましいことをリーダーができるだけ明確にすると、メンバーは境界が曖昧で予測不可能な場合よりも心理的安全を感じることができる。
▼境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる…
メンバーが、あらかじめ設けられた境界を超えたり設けられた基準以上のパフォーマンスを達成できなかったりした場合、リーダーは適切な、かつ一貫した方法でメンバーに責任を負わせる必要がある。
失敗のタイプ
失敗は次の三つのタイプに大別される。
▼防ぐことのできる失敗…
十分に理解された領域でのプロセスからの逸脱。
行動、スキル、あるいは支援の不足が原因で起きるのがふつうである。
▼複雑な失敗…
プロセスまたはシステムの故障。
内在する不確実性によって起きる。
そうした故障は、結果として起きる事故を防止できるタイミングで認識されるかもしれないし、認識されないかもしれない。
▼知的な失敗…
失敗に終わった試み。
意義ある実験の一部として起きるものであり、新しい貴重な情報やデータを提供する。
経験豊富なマネジャーは、厳しくしすぎることの危険性をよく理解している。
社員のミスへの対応として過度に罰を与えると、組織を向上させるのではなく問題に関する情報が出てこないようにしてしまうのである。
これは明らかによい結果ではない。
マネジャーがすばやく原因を突きとめて問題を解決できるかどうかは、その問題について学べるかどうかにかかっているのだ。
失敗やミスについて罰を与えるのが当たり前になっている組織はこのプロセスを阻止してしまう。
エラーという言葉には、適切にできたはずのことをしなかった、それがミスだというニュアンスがある。
しかしトライアルは、結果を事前に知ることができない場合になされるべきものなのである。
試してみた(トライアル)けれども好ましい結果が出なかった場合、それを失敗(フェイラー)ではなくミス(エラー)だとマネジャーが扱ったら、なぜ問題になるのだろう。
ミスは、すでにわかっているプロセスからの回避可能な逸脱である。
失敗は、回避できるもの(ミス)も回避できないものも両方を含む。
面白かったポイント
チームを構築する時の心構えがまとまっている良書です。
チームの力を発揮するには、コミュニケーションの量が大事。
コミュニケーションの量を増やすには、心理的安全性を確保しなければならない。
問題が起きたら個人を攻めるのではなく、システムを問題視する姿勢を示すことが大切。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆
目次
第1部 チーミング
第1章 新しい働き方
第2章 学習とイノベーションと競争のためのチーミング
第2部 学習するための組織づくり
第3章 フレーミングの力
第4章 心理的に安全な場をつくる
第5章 上手に失敗して、早く成功する
第6章 境界を超えたチーミング
第3部 戦略実行しながら学習する
第7章 チーミングと学習を仕事に活かす
第8章 成功をもたらすリーダーシップ