内容
管理会計の3つのテーマ
①損益分析と業績管理(損益分岐点分析と変動損益計算書の活用)
②原価管理(原価計算の基本)
③意思決定(短期利益計画と中期経営計画への活用)
「管理会計」は、意思決定や業績管理を行なうために使われる管理方法であり、会社の数字を活用していかに事業を行なっていくかを判断することが目的です。
財務会計
経理部門では、売上高が確定して、代金の回収を確実にできる状態を重視します。
つまり返品やクレームの可能性がある受注基準ではなく、検収が終わって、顧客が確実に売上代金を支払う状況になったときに売上高と認識すべきと考えるのです。
これは財務会計の考え方です。
製造原価
製造原価は、材料費、労務費、経費の3つに分類されます。
これを原価の3要素と呼びます。
変動損益計算書
変動損益計算書は、費用(売上原価、材料費、販売費・一般管理費)を変動費、固定費に分類し、利益を計算していく損益計算書です。
人件費や減価償却費、研究開発費は固定費です。
缶コーヒーの例では、90円(120円-材料費30円〈材料費の割合を25%とした場合〉)を限界利益と言います。
この部分がコーヒーの付加価値そのもので、一般の人が直感する粗利益の正体です。
限界利益=付加価値ということを少し説明しましょう。
顧客から受け取った120円(売上高)のうち、材料費30円(変動費)は、コーヒー豆の生産者(メーカー)が作り出した価値で、小売業者が生み出した価値ではありません。
小売業者が自助努力で生み出した価値は90円です。
この90円を限界利益と呼びますが、その性格は付加価値そのものです。
価格における材料費(変動費)以外の割合(90円÷120円=75%)は限界利益率であり付加価値率です。
減価償却
減価償却は、固定資産を使用することによって物理的価値が減少した分を見積り計算し、その金額を減価償却費として損益計算に計上する処理のことです。
減価償却費相当分だけ、貸借対照表の固定資産は減額します。
「利益は見解で、キャッシュフローは事実である」
限界利益(Marginal profit)という言葉は、1個販売すると増加する利益という意味です。
限界利益は粗利益とイコールで、財務会計で使われる売上総利益とは、内容が異なるので注意してください。
損益分岐点図表
①縦軸に費用・利益、横軸に売上高をとります。
②対角線を引きます。これは売上高を示します(売上高線)。
③売上高線を参考に、変動費比率15%の変動費線を描きます。
④固定費96.9万円から伸びる直線を変動費線の上に平行に描きます。この線は固定費線ですが、変動費と固定費の合計額を示す総費用線を示しています。
⑤総費用線と売上高線が交わった点が、損益分岐点(Break-even point)です。
⑥売上高線と総費用線にはさまれた領域(斜線部分)が、損益を表わしています。損益分岐点の左側の領域は損失で、右側の領域は利益です。
カフェクローバーの例で見てみると、
⑦損益分岐点から、横軸への線を引き下ろして交わったところ(A点)が、損益分岐点の売上高114万を示します。損益分岐点の売上高では、固定費=限界利益=96.9万円となっているのを確認してください。
⑧さらに、経営安全額6万円分だけ、売上高の横軸を右に行くとB点です。B点が示す売上高が120万円です。
⑨B点から上に向かって線を引いてみると、総費用線と売上高線に囲まれた部分がわかります。この差が利益5.1万円です。
限界利益図表
①縦軸に費用・利益、横軸に売上高をとります。
②固定費96.9万円の目盛りのところで、横軸に平行に固定費線を描きます。
③限界利益率85%の傾き(売上高1に対して限界利益0.85)で、限界利益線を描きます。横軸と限界利益線に囲まれた領域が、限界利益です。
④限界利益線と固定費線が交わった点が、損益分岐点(Break-even point)です。
⑤固定費線よりも限界利益線が下の領域(損益分岐点の左側)は損失で、上の領域(損益分岐点の右側)は利益です。
⑥損益分岐点から、横軸への線を引き下ろして交わったところ(A点)が、損益分岐点の売上高114万を示します。損益分岐点の売上高では、固定費=限界利益=96.9万円となっているのを確認してください。
⑦さらに、経営安全額6万円分だけ、横軸を右に行くとB点です。B点が示す売上高が120万円です。
⑧B点から上に向かって線を引いてみると、限界利益線と固定費線に囲まれた部分がわかります。この差が利益 5. 1万円です。
価格を決める手順
「目標を達成するための価格を決める」手順は以下の通りです。
①稼ぐべき限界利益の総額を出す
固定費+目標利益
②商品1個当たりの限界利益を出す
限界利益の総額÷販売予定数=商品1個当たりの限界利益
③目標を達成するための販売価格を出す
商品1個当たりの限界利益+変動費=目標を達成できる販売価格
CVP分析
コーヒー専門店(カフェクローバー)の販売戦略について、いろいろな条件で考えてきました。
このように原価(Cost)、売上高や販売量(Volume)、利益(Profit)の関係を条件を変えてシミュレーションしながら分析することをCVP分析と呼んでいます。
利益を出すには、固定費を上回る限界利益を稼げばいいのです。
そのためには、2つの視点が見えてきます。
1つは、固定費を減らすことです。
もう1つは、限界利益を多く稼ぐことです。
限界利益を多く稼ぐためには、さらに2つの視点があります。
1つは、コーヒーやケーキの材料単価を下げ、販売価格に占める変動費の割合(変動費比率)を下げることです。
もう1つは、販売価格を高くするなどして、限界利益率をアップすることです。
①固定費の削減は、人件費や家賃などの削減のことです。
固定費を削減できれば、損益分岐点の売上高は下がり、利益の出やすい体質になります。
②変動費比率を低下させるという視点は、変動費総額を下げるのではなく、販売価格に占める変動費の割合を引き下げることです。
カフェクローバーの例で言えば、原料の見直しを図るなどして、1杯45円の変動費を、40円、35円と引き下げることを意味します。
変動費総額は、販売量を増やすとそれに応じて増加します。
総額を削減するという発想では、販売数量を下げる発想になって、間違った方向にいってしまう恐れがあります。
③限界利益率をアップさせるのは、変動費比率を引き下げることでも達成できるのですが、基本的には、販売価格をアップさせたり、複数の商品、サービスをミックスさせて、トータルの限界利益率をアップさせるという方法をとります。
これは、単なるコストダウンの発想ではありません。
変動費の特徴
変動費に共通する3つの性格が見えてきます。
1つは、売上高に比例して発生するということです。その意味で、変動費は比例費とも呼ばれます。
2つ目は、生産活動、販売活動を行なうことに連動して、必ず必要になる直接費であることです。生産活動、販売活動との関連が非常に強いので、変動費は業務活動原価とも呼ばれます。
3つ目は、変動費の本質的な部分、すなわち外部から購入した価値であるという点です。変動費は、自社で作り出した価値ではなく、他社が作った価値を購入したものです。そういう意味で、変動費は、付加価値を構成しません。
固定費の特徴
1つ目は、どれだけ生産・販売を行なっても、その生産高や販売量に比例して費用が増えず、常に一定額が発生する費用であることです。
2つ目は、生産、販売体制を維持し、管理するための費用だということです。月に100万台の生産ができる工場を作れば、生産台数が変化しても、一定額の減価償却費やリース料、地代家賃は発生します。生産設備をメンテナンスする費用も、生産、販売とは比例的に発生するわけではありません。この意味で、固定費のことをキャパシティコスト(Capacity cost:能力原価)と呼ぶことがあります。
3つ目は、時間とともに発生する費用ということです。家賃は月当たりいくらで支払います。給与も毎月一定額を支払い、年俸制の場合でも月割りで支払います。財務会計では、減価償却費は、決算のときに年額を計算して費用に計上します。そのような処理を前提に毎月の損益計算書を作ると、期末に減価償却費分だけ利益の減少が大きくなり、期中は減価償却費の影響を受けません。これでは、営業所などの月次管理を必要とする部門では使いにくくなります。実際の減価は、時間とともに発生しています。管理会計では、この点に注目して、減価償却費の年額を月割り計算して、月次の損益計算を行なうことで、営業現場の業績管理に役立てることができます。
固定費をかけると付加価値(粗利益)が生まれます。
実際の商売では、販促費とか人件費のような固定費(手間)をかけることで、仕入原価に粗利益を乗せて販売できるのです。
管理会計的には、300円で売れるのは、手間がかかっているからと説明します。
もちろんこの手間とは固定費のことです。
缶ジュースは、麓から人に頼んで人件費を支払い、担いで運んでいるとして、200円の粗利益を稼げるのは、人件費という固定費(手間)をかけているからです。
買った顧客もこの点はよくわかっているはずです。
固定費には、粗利益を生み出す力があります。
ここで言う粗利益200円は、売上高300円-変動費100円を控除した限界利益です。
この限界利益こそ付加価値を示しています。
固定費をかけると付加価値(粗利益)が生まれるのです。
限界利益から固定費を控除するとマイナス(損失)になることもあります(限界利益-固定費=損失)。
損失が発生している場合は、固定費のかけ方が間違っていると考えてください。
固定費以上に付加価値を生めなかったのには、何か原因があるのです。
付加価値を生まない固定費が明らかになれば、その固定費は削減対象にすべきです。
固定費の4つめの特徴は、付加価値創造力を持っていることと言えます。
準変動費
損益分岐点分析や短期利益計画のために使われる変動費、固定費は、2つの前提があるからです。
その前提とは、短期間の分析であること、正常な操業度(販売量、生産量、営業時間などのこと)の範囲で考えることです。
とても重要な視点ですので覚えておいてください。
一定の人員、設備などが変化しない短期間での操業度を前提にすると、固定費と考える必要があります。
短期とは、長くても1年以内の期間と考えたらいいでしょう。
最小2乗法による回帰分析
費用Y=売上高X×変動費比率a+固定費b(Y=aX+b)という式が成り立つaとbを求めます。
変動損益計算書
売上高から変動費を引いたものが限界利益、限界利益から固定費を引いたものが利益です。
損益分岐点分析では、一般的に、利益は営業利益を示しています。
営業利益は、売上高から売上原価と販売費・一般管理費を引き算して求めます。
したがって、変動費・固定費は、売上原価と販売費・一般管理費を対象に分類することになります。
そして、費用を変動費・固定費に分類し、損益計算書にしたものが、変動損益計算書です。
一般的に損益分岐点の売上高を超えていれば(経営安全額がプラスであれば)、経営安全額から生まれる限界利益は、そのまま利益になることを知っておきましょう。
バリューチェーンと固定費
研究開発からはじまり、製品・サービス内容の企画、製造、販売、物流、情報という流れの中で、付加価値が構築されていきます。
この付加価値を生み出す流れは、バリューチェーン(価値連鎖)と呼ばれています。
変動損益計算書は、付加価値を生み出す事業単位で作成して分析することで、有用性が発揮できる。
経営安全率を使うと、利益を稼いだ日数を算出することができます。
つまり、1日から営業活動をはじめて、日々売上が上がり、いつかの時点でその金額が損益分岐点を超えます。
それ以降に稼いだ売上は経営安全額となるわけです。
ですから、稼働日数に経営安全率を掛けると、すぐ計算できます。
総原価
1つは、総原価という考え方を取り入れた場合です。
この考え方は、販売価格の決定において、製造原価だけではなく、販売費・一般管理費を考慮します。
総原価は、工場で発生した原価の3要素(材料費、労務費、経費)を、製品別に集計して製造原価を算出し、そこに販売費・一般管理費を加算して求めます。
販売費・一般管理費は、製品ごとに集計するのではなく、半年とか1年という期間で集計するので、期間原価(決めた期間の原価)と呼ばれます。
そして、総原価に営業利益を加算すると売上高になります。
この考え方を、製品1個当たりで考えると製品1個当たりの総原価や販売価格になります。
総原価を計画値で集計すれば予定販売価格が推定できます。
電力料金など、公共料金の決定の際に行なわれる手法(総括原価主義)です。
総原価を集計対象にする場合は、販売費・一般管理費は原価なのです。
業績管理
業績管理の視点で整理すると、以下のような目的が考えられます。
①決算書の作成……当期、四半期の利益はいくらか
企業は、決算書を作成しなければなりません。
決算書を作成するときに、製品在庫や製品の売上原価を計算する必要があります。
製品の製造原価がわからなければ、これらを計算できません。
利益の計算もできません。
原価計算は、決算書を作成するために必要になります。
②価格決定……製品をいくらで売るか
製品の製造原価がわからないと、販売価格も決められません。
販売価格が決まらなければ、営業活動もできません。
製造業はもちろん、建設業、ソフトウェア業などでは、原価を見積もって、価格を顧客に提案します。
これは事後的な原価計算ではなく、事前の原価計算です。
価格決定においては、原価の見積りが重要です。
③原価管理……原価をどのような方法で、いくら下げられるか
原価計算の主要な目的です。
原価を把握して、その内容を分析し、さらなる原価引下げの検討データを得ることが目的です。
たとえば、製造原価の1つの項目である材料費の増加は、製造原価をアップさせます。
材料費は、材料単価×消費量で計算できます。
材料費のアップがあった場合、材料単価がアップしたのか、消費量がアップしたのかという要素に分けて考えれば、材料費アップの原因がより具体的になり、対策を練ることも容易になります。
また、製品1個当たりの単価や消費量の標準的な数値を決めておいて、製品の製造原価を計算し、実際の消費単価や消費量を事後的に計算して、その差を分析する標準原価計算や見積原価計算は、原価管理の代表的な手法です。
④利益管理……変動損益計算書を活用する
損益分岐点分析、必要売上高の算定、セールスミックス(コーヒーとケーキセットの組み合わせ販売)による販売計画の策定、変動損益計算書など、利益管理のための手法を紹介してきました。
その中心は、変動損益計算書でした。
製品の製造原価を変動費と固定費に分類して、変動費だけで製品の製造原価を計算する手法を、直接原価計算と言います。
変動損益計算書は、直接原価計算による損益計算書を発展させた業績管理のためのツールなのです。
⑤短期的意思決定に必要な情報提供……原価割れの受注を受けるべきか、時給はいくらにすべきか
次期利益資金計画(予算編成)を行なう際には、いろいろなことを決める必要があります。
製造原価を下回る受注を受けるべきか、時給をいくらにすべきか、値下げが可能か、などです。
このような短期的な意思決定に必要な基礎データを提供するのも、原価計算の目的です。
1年以内の計画に反映される情報が中心なので、短期的という呼び方をしています。
管理会計の面白さを感じる分野です。
⑥戦略的意思決定に必要な情報……投資計画の採算
工場建設や店舗の出店計画などの戦略的な投資を決めるときに行なわれる計算です。
このような戦略投資は、投資回収までに5~10年必要なケースも多く、長期間にわたる予想とシミュレーションが必要になります。
長期の予想では、フリーキャッシュフローを使います。
また、M&A(合併・買収)を行なう際に、企業価値や株主価値を算定して、買収価額を決定する際にも使われます。
中長期にわたる条件を検討し、戦略的な事項を決定するので戦略的意思決定と呼ばれます。
標準原価計算
標準原価計算は、実際原価計算の問題点を解決するために考え出された手法です。
材料費、労務費、経費について、あるべき標準となる原価(原価標準)を、科学的、統計的に調査して決めておき、実際の生産量に応じて、製品原価を計算する方法です。
ABM
ABMは、顧客に製品やサービスを提供するプロセスを分析し、ABCによる原価情報を利用して、付加価値を生み出す活動(付加価値活動)に継続的な改善の取り組みを行ない、付加価値を生まない活動(非付加価値活動)は削減・縮小することで、費用の継続的な低減を図ることを狙った管理手法です。
プロセスとは、製品やシステムの開発、購買、製造、販売、物流、顧客サービスという一連の流れのことです。
このプロセスの中で、付加価値活動と非付加価値活動を分析して、業務プロセスの改善や再構築(リエンジニアリング)を行なうのがABMです。
ABMを推進する場合には、顧客にとって必要な活動とは何かを重視して、業務プロセスを再構築することが大切です。
機会原価
管理会計では、機会原価という考え方があります。
ある行為を行なうことで、他の行為を実行できないことがありますね。
他の行為を行なわなかったことで失った利益のことを機会原価または機会損失と言います。
他の行為が複数あれば、その中で最大の利益のことを指します。
利益計画
必要売上高とは、固定費予算をカバーして、目標利益を達成できる売上高です。
目標利益がゼロの場合、必要売上高は、損益分岐点の売上高となりますね。
望ましいのは、目標利益⇒(総合)限界利益率⇒固定費予算の順です。
この流れは、トップダウンで目標利益を決め、それを前提に販売計画を立て、セールスミックスによって限界利益率が決まることを前提としています。
また販売計画は現場で、目標利益はトップダウンで行なうと考えて、限界利益率⇒目標利益⇒固定費予算と考えてもいいでしょう。
①目標利益の決定
次期の目標利益は、トップダウンで決めるべきです。
その際には、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)などの収益性を表わす指標を使うと、貸借対照表との連動性が加味され理想的です。
たとえば、目標ROA(総資産営業利益率)5%、設備投資後の総資産100億円とすると、5億円(総資産100億円×5%)が目標利益として決定されます。
その後、目標利益5億円を達成するための販売計画を立案するのです。
②販売計画の策定⇒(総合)限界利益率の決定
部門別(商品、製品、サービス、エリア、事業ドメインなどの部門を想定)の販売計画の立案を行ないます。
顧客動向、競合動向、経済動向などの外部環境、自社の生産能力、販売力などの内部環境を加味して、販売目標を決めていきます。
たとえば、各製品の市場規模×目標シェアで、大まかな売上目標が決まります。
製品ごとの予定限界利益率を決めておき、それぞれの売上高の構成比(セールスミックス)が決まれば、全社の目標となる総合限界利益率が決定されます。
各売上構成割合×各限界利益率の合計が、総合限界利益率になります。
③固定費予算の見積り
固定費予算を見積もるということは、活動計画を立てることです。
販売計画や目標利益が決まらないのに、活動計画を立てられるでしょうか。
もし固定費予算が、販売計画や目標利益とは関係なく決められるとしたら、それは経営ではありません。
固定費予算は、人件費予算、販売費予算、その他固定費に分けて考えるといいでしょう。
販売費は、管理会計上、2つに分類できます。
広告費や販売促進費のように売上を上げるための必要経費である売上獲得費、商品を顧客へ届ける際に必要になる物流費(人件費を除く)や外注費などの売上実行費です。
売上獲得費は、変動費的なイメージがありますが、多く使ったから売上高が多くなるとは限らない(売上高と連動しない)ので、性格は固定費です。
これに対して売上実行費は、売上と連動する変動費です。
④必要売上高⇒可能売上高⇒目標売上高の決定
目標利益、(総合)限界利益率、固定費予算が決まれば、必要売上高が計算できます。
ここで注意すべきことは、算出された必要売上高が、実現可能かどうかを検討する必要がある点です。
業績管理の5つのステップ
ステップ1は、財務会計のデータ(過去データ)をきちんと作成できる経理体制固めの段階です。
管理会計を行なうには、財務会計のデータが必要です。
商品や顧客ごとの売上高と限界利益(粗利益)(率)については、日々データがわかるくらいのスピードが必要です。
もう1つの課題は、資金管理です。
資金が回らないと倒産してしまうからです。
特に得意先別売上債権、仕入先別買入債務の管理が重要です。
在庫はなかなかチェックできないのですが、販売機会損失を減少させるために必要です。
会計事務所などの指導を仰ぎ、第1ステップの課題を数年でクリアーするようにしましょう。
ステップ2は、管理会計をはじめて導入する段階です。
全社レベルで、月次決算ができることが目標です。
月次決算では、毎月の変動損益計算書を作成し、それと連動した貸借対照表を作成します。
月次の業績がタイムリーにわかれば、年間ベースの利益計画を立案して、予算管理を行なう基礎ができます。
業績としては、本業の儲けである営業利益を重視し、キャッシュフローは、本業の活動で生まれた営業キャッシュフローを重視します。
月次決算はスピードが命です。
会計事務所から前月分の決算書が1か月ぐらい遅れて提供されるケースもありますが、これでは業績管理ができません。
この段階では、自社で財務データの集計ができる体制(自計化)が必要です。
これができるか否かが、第2ステップの関門です。
ステップ3は、部門別の業績管理を行なう段階です。
部門とは、営業所のように、責任者が管理する単位のことです。
支店や営業所が複数ある企業の課題です。
ステップ1・2の段階にある企業では、社長以外に会社を引っ張る人材が見当たらず、社長に意思決定が集中しているところが多いようです。
そこからステップ3に移行するには、次の3つの課題をクリアする必要があります。
1つ目は、人材の育成です。
人材育成は、ステップ1・2の段階でも必要ですが、ステップ3では、部門を任せられる人材(経営幹部)がいることが必要です。
会社の組織をどのように作るのかという組織化が、企業の今後の成長を左右する段階にあるからです。
2つ目は、部門別業績のタイムリーな把握と部門業績の従業員への公開です。
組織化とは、人を活用する仕組みです。
人の活用のためには、部門成果の把握とそれを評価する仕組みが必要です。
業績の従業員への公開は、中小企業が中堅企業への脱皮ができるかどうかの分かれ道です。
従業員の協力・貢献なくして、ステップ4以上へのレベルアップは難しいでしょう。
3つ目は、成果配分という考え方の導入です。
成果を何で評価し、どう分配するかというルールが必要です。
第5章で取り上げた、付加価値の分配という課題です。
労働分配率(人件費÷限界利益)、資本分配率(利益÷限界利益)などの目標設定が必要になります。
ステップ3の課題を抱えながら、月次決算のスピードアップができない企業は多くあります。
このような企業では、企業の成長に人の評価、人材育成が追いついていません。
部門管理を整える前に、ステップ2の課題に戻ることが必要です。
ステップ4は、次期の利益計画や資金計画を導入する段階です。
第5章で取り上げたようなテーマを検討できるデータが揃い、予算策定を行ない、月次で予算と実績を比較して問題点を把握します。
もちろん、部門単位で利益計画を立てます。
さらに第6章で説明するような予想キャッシュフローを加えた資金計画も同時に行なう必要があります。
このステップでは、幹部社員が育っているはずです。
予算管理とは、部門責任者が業績達成に責任を持つということです。
そのために、従業員を計画策定に参加させ、経営の勘を養成します。
その結果、従業員が付加価値を高めることの本質を理解し、会社が成長できる基盤ができあがります。
ステップ5は、さらなる成長のために戦略投資を行なう段階です。
新市場参入、新製品開発、多角化などの新たな成長戦略が経営課題になるでしょう。
3年から5年の中期計画の策定と次期利益・資金計画を組み合わせた業績管理が行なわれます。
キャッシュフロー
利益とフリーキャッシュフローの違いを生んでいるのは、設備の残存価額と在庫と売掛金の存在です。
フリーキャッシュフローは、単年度で分析するより、投資効果が出て投資の回収の判断ができる、中長期の累計値で分析する場合に有効です。
減価償却費
資金の支出を伴わない費用を非資金費用とか、非資金性費用と呼びます。
減価償却費は非資金費用の代表です。
非資金費用は、資産の評価損、貸倒引当金繰入など、たくさんありますが、減価償却費を特に取り上げるのは、金額が大きく、投資に関連して発生する費用だからです。
売上収入で増えた資金は、費用の支出分を差し引いて営業利益として残ります。
よって営業利益は、その金額相当分だけ資金を増やします。
減価償却費は、営業利益を減らしますが、資金は流出しません。
つまり、計算上は営業利益が減っていますが、資金としては残っているので、売上収入で増えた資金(営業キャッシュフロー)は、減価償却費相当分だけ、企業内に残ることになります。
営業キャッシュフローを予想
(1)投資計画に関連して初期投資額を算出する
出店計画、工場建設計画、M&A計画などを行なうときに、総投資額を見積もります。
出店計画であれば、店舗建設費、土地の保証金、什器備品の購入額などの合計が総投資額です。
(2)初期投資額に関連して、5年間の減価償却費を予想する
①新規設備投資計画に基づき、新たに発生する減価償却費を予想する
実際は、設備ごとに耐用年数表などを参考にして計算します。
②既存設備があれば、既存設備の減価償却費を計算する
③上の①と②を足して、5年間分の全体の減価償却費を計算する
(3)減価償却費を加味し、5年間分の損益計画を作成する
投資計画によって、どのくらいの売上高が見込め、どの程度固定費(減価償却費を含む)が必要かなどを予想し、それらをまとめた変動損益計算書を作ります。
主な手順は、次の通りです。
①市場分析により、予想売上高、予想限界利益(率)を算出する
②固定費計画として、人員計画、販促計画、その他固定費を見積もる
③変動損益計算書を作成して、営業利益を予想する
④税金(法人税等)を計算・控除し、税引後利益を予想する
(4)5年間の必要運転資金(売上債権、在庫、買入債務)を予想する
これには2つの方法があります。
キャッシュフローを予想するためには、どうしても必要な方法です。
投資計画をはじめて学ぶ人に、ぜひ理解してほしいので、詳しく説明します。
①資産回転率を使って、売上債権、在庫、買入債務を予想する方法
たとえば、売上高を1,000から1,200に20%上げる計画を達成するために、在庫回転率を10回転から11回転にアップさせることにしたとします。
在庫回転率は、売上高÷在庫金額で求められますから、これを変形すると、在庫金額=売上高÷在庫回転率となります。
この式を用いて計算すると、在庫金額は100(1,000÷10回)から109(1,200÷11回)となり、9だけ増加することになります。
すなわち、在庫の増加額9だけ、営業キャッシュフローが減少するという予想が可能になります。
同様のことを、売上債権、買入債務について計画します。
3つの要素が算出できれば、毎年の営業キャッシュフローの増減がわかり、間接法によって、営業キャッシュフローの予想をすることができます。
②簡便法として、運転資金の要調達率を使う方法
運転資金の要調達率は、売上高に対して運転資金の調達高(正味運転資本)がどのくらい必要かを示す指標です。
業種別の経営指標や実際の企業データから、計画する事業の運転資金の要調達率がどのくらいになるか推測します。
運転資金の調達高がプラスであるなら、その割合は売上高に対して資金が不足する割合を示しています。
マイナスなら、資金が一時的に余る割合を示しています。
たとえば、1年目の年間売上高が100億円あって、運転資金の要調達率が10%ならば、運転資金の調達高は、10億円(100億円×10%)です。
10億円の意味は、運転資金が10億円不足するということで、何らかの資金手当てが必要なことを示しています。
もし借入金で手当てするなら、10億円の借入が必要です。
資本コスト
財務会計で使う利益で言えば、税引後営業利益が最適です。
税引後営業利益のことを管理会計では、NOPAT(Net Operating Profit After Tax)と言います。
収益性とは、投資額に対する利益の割合で、投下資本利益率(ROIC:Return On Invested Capital)です。
借入金の金利が有利子負債の資本コストです。
しかし、支払利息は、損金に参入できる(税務上、必要経費になる)ので、節税効果があります。
よって節税効果を考慮した有利子負債の資本コスト(税引後)を算出するには、以下のように計算します。
自己資本の資本コストは、株主の期待利益率です。
株主は、配当と株式の値上り益を期待しています。
投資額は株価です。
資本資産評価モデルは、市場平均株価(日経平均など)の動きと、個別企業の株価の動きや長期金利を使って、株主の期待利益率を予測する方法です。
無リスク資産の利子率(リスクフリーレート)は、長期国債の利回りを使います。
日経新聞などで毎日公表されています。
市場全体の期待利益率は、日経平均や東証株価指数(TOPIX)の平均的な変動率を使います。
β値は、市場の株価変動に対する個別企業の感応度(市場の動きに対してどれだけ反応するか)のことで、証券会社などが計算し、ウェブサイト上にも公表されています。
β値が1.0ならば、市場平均の株価の変動率と個別企業の変動率が同じであることを意味します。
非上場企業で株価が不明な場合は、資産を時価評価し、そこから有利子負債を控除して、時価ベースの自己資本を求め、それを発行済み株式数で割って株価を求めたり、類似業種の株価と比較して、株価を推定する方法もあります。
株価の推計ができれば、配当利回りを計算することは可能です。
有利子負債と自己資本の資本コストがわかれば、有利子負債と自己資本の平均資本コストである加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)を計算することができます。
これが全体の資本コストです。
企業価値
企業価値とは、企業が今後生み出すと予想されるフリーキャッシュフロー(FCF)の現在価値の合計です。
企業価値から、現時点の有利子負債を引いたものが株主価値です。
株主価値を発行済み株式数で割って求めた1株当たりの株主価値、すなわち株価を推計することができます。
金利が上がると、株価が下がるという話は、よく聞きませんか。
一般的には、次のように説明されます。
1つは、金利が上がると、借入金で設備投資をしている企業の支払利息が増加して、減益要因になるからです。
2つ目は、金利が上がるとリスクの高い株式投資より、リスクの少ない債券を買う人が増えて、株式の相対的魅力が薄れるからとも説明できます。
3つ目として、金利が上がると、資本コストがアップして、企業価値が下がるからだと説明できます。
面白かったポイント
めちゃくちゃ良書。
管理会計の基本について分かりやすく体系的にまとめられている。
経営管理初心者に教える時の教科書としてかなり使える。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
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