内容
バウンダリレスネス
バウンダリレスネスというコンセプトを例にとってみよう。
それは、多くの人たちが理解するのに骨を折るコンセプトの典型であった。
ウェルチは、組織の中には三つの障害物があると考え、それらを家のアナロジーを使って次のように説明した。
その三つとは、①ヨコに動くときの障害物としての壁、②タテに動くときの障害物としての床と天井、③外部への障害物としての外側の壁だ。
彼のメッセージは、はっきりしている。
つまり、①壁となる職能上の境界、製品別事業部間の境界、地理的境界を叩き壊せ、②階層すなわちヒエラルキーにつきものの床や天井を吹き飛ばせ、そして、③外にいる顧客、部品・原料サプライヤー、共同事業のパートナーと緊密な関係を築け、ということだ。
ウェルチは、バウンダリレスネスがビューロクラシーに取って代わると信じている。
二つの含意グループの議論に進む前に、組織的知識創造についてこれまで発見したことの理解を共有することが大事である。
まず、いかに組織的知識が創られるかを理解するための第一歩は、暗黙知と形式知という二種類の知識を区別する深い認識論的基盤の理解から始まる。
この二種類の知識の相互作用すなわちわれわれが知識変換と呼んだものは、共同化(暗黙知から暗黙知へ)、表出化(暗黙知から形式知へ)、連結化(形式知から形式知へ)、内面化(形式知から暗黙知へ)という四つのモードを生み出した。
第二に、この暗黙知と形式知の相互作用は個人ベースで行われ、組織によって行われるのではない、ということを述べた。
個人を抜きにして組織は知識を創り出すことができない、ということを繰り返し強調した。
しかし一方では、他者と共有されなければ、あるいはグループや組織レベルで増幅されなければ、知識は組織的かつスパイラルに高度化することはない。
いくつかの存在論的レベルを貫くこのスパイラルプロセスが、組織的知識創造を理解する鍵なのだ。
第3章で触れたように、共同化モードはチームを作ることから始まり、そこでメンバーが体験とメンタルモデルを共有する。
表出化モードは、意味のある対話を重ねることによって引き起こされる。
対話では、チームメンバーが自分のものの見方を言葉で表現するが、隠れた暗黙知を表に出すために、メタファーやアナロジーを使うことが多い。
それ以外の方法では難しいのである。
連結化モードが起こるのは、創られたコンセプトを既存のデータやチーム外部の知識と結びつけて、より共有しやすい仕様に仕上げるときだ。
内面化モードは、チームメンバーが、最終的には組織全体に共有される新しい形式知を体得し始めたときに起こる。
すなわち、組織成員は、各自の暗黙知を拡大し再構成するためにその知識を使うのである。
第三に、組織的知識創造プロセスの核心はグループレベルで起こるが、組織はそれに必要な条件を提供する。
組織は、グループ活動ならびに個人的レベルでの知識の創造・蓄積を促進する組織的環境や仕組みを提供する。
知識スパイラルを推進するために組織的レベルで必要となる五つの条件として、意図、自律性、ゆらぎ/創造的カオス、冗長性、最小有効多様性を挙げた。
第四に、われわれのケーススタディは、組織的知識創造が実際には非線形的(ノンリニアー)な相互作用プロセスであることを示唆している。
このプロセスのファイブフェイズ・モデルは、暗黙知の共有、コンセプトの創造、コンセプトの正当化、原型の構築、知識の転移から構成され、それが回転しながら組織のレベルを超えて動くという点で、「水平的」プロセスモデルと違っている。
最初の四つのフェイズは横に動くが、五番目のフェイズは縦に動き、複数の組織レベルで、いくつもの活動層を創り出す。
第五に、トップダウン・マネジメント・モデルあるいはボトムアップ・マネジメント・モデルのいずれも、暗黙知と形式知のダイナミックな相互作用を促進するのに特に適しているというわけではない。
トップダウン・モデルをとる組織は、共同化と表出化を実行する能力に限界があるし、ボトムアップ・モデルは、特に連結化と内面化を実行する際にはうまく機能しない。
ここに、知識変換の四つのモードならびに個人、グループ、組織、組織間の存在論的レベルをめぐる知識スパイラルを引き起こすときのこれら二つのモデルの限界がある。
われわれが提案したミドル・アップダウン・マネジメント・モデルは、トップダウン・モデルとボトムアップ・モデルの長所を統合し、組織的知識創造を引き起こすのに最も適したモデルである。
第六に、形式的な階層組織(ヒエラルキー)と柔軟な任務組織(タスクフォース)のいずれも、ただどちらか一方だけでは、知識創造を盛んに行うのに適した組織構造ではない。
階層構造は連結化と内面化のモードを実行するのに効果的で、タスクフォース構造は共同化と表出化モードに適している。
われわれが提案したハイパーテキスト型組織という新しい組織構造は、階層的なビューロクラシーの効率とタスクフォースの柔軟性の同時追求に最も適している。
これは、ハイパーテキスト型組織が組織的知識創造に必要な前提条件だというのではなく、それが組織的知識創造プロセスを促進するということである。
第七に、知識創造の日本的方法と欧米的方法のどちらも、それだけで完璧な解答をもたらすことはできない。
欧米のやり方では、暗黙知と形式知の相互作用は主に個人レベルで起こることが多く、少数の個人が決定的な役割を果たす。
日本のやり方では、暗黙知と形式知の相互作用は、グループレベルで起こり、比喩的言語とシンボルの多用を強調しすぎて、分析的方法や文書化をないがしろにする傾向がある。
組織的知識創造の普遍的なモデルを開発するには、日本的な方法と欧米的な方法の長所を統合する必要がある。
知識創造は今日の「知識社会」における経営の核心であるから、そのようなモデルは経営一般の普遍的モデルとして使えるだろう。
面白かったポイント
ナレッジマネジメントを解像度高く解説した本。
こういう知識を生み出す仕組みや組織を構築していきたい。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
目次
第1章 序論──組織における知識
第2章 知識と経営
第3章 組織的知識創造の理論
第4章 知識創造の実例
第5章 知識創造のためのマネジメントプロセス
第6章 新しい組織構造
第7章 グローバルな組織的知識創造
第8章 実践的提言と理論的発見