内容
相対性
値の張るメイン料理をメニューに載せると、たとえそれを注文する人がいなくても、レストラン全体の収入が増えるということだ。
なぜだろう?
たいていの人は、メニューのなかでいちばん高い料理は注文しなくても、つぎに高い料理なら注文するからだ。
そのため、値段の高い料理をひとつ載せておくことで、二番めに高い料理を注文するようお客をいざなうことができる。
相対性は人生における決断を助けてくれる。
けれども、わたしたちをとんでもなく惨めな気持ちにさせることもある。
なぜだろう?
嫉妬やひがみは、自分と他人の境遇を比べるところから生じるからだ。
幹部の報酬が一般に公表されるようになると、マスコミが定期的に最高経営責任者の報酬ランキング特集を組むようになった。
公になったことで幹部の報酬が抑えられるどころか、アメリカの最高経営責任者たちは自分の収入をよその最高経営責任者の収入と比べるようになり、その結果、幹部の報酬はうなぎのぼりに上昇した。
給料の多さと幸福感とのあいだに、わたしたちが思っているほど強い関連がない(というより、むしろ関連は弱い)ことは、これまで繰り返し立証されている。
研究によれば、「もっとも幸福な」人々が住んでいるのは、個人所得がもっとも高い国ではないこともわかっている。
それなのに、わたしたちは、より高い給料を求めてやまない。
そのほとんどはたんなる嫉妬のせいだ。
需要と供給
人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手にはいらないようにすればいい。
ゼロコストのコスト
何かが無料!になると、わたしたちは悪い面を忘れさり、無料!であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値あるものと思ってしまう。
なぜだろう。
それは、人間が失うことを本質的に恐れるからではないかと思う。
無料!のほんとうの魅力は、恐れと結びついている。
無料!のものを選べば、目に見えて何かを失う心配はない(なにしろ無料なのだ)。
ところが、無料でないものを選ぶと、まずい選択をしたかもしれないという危険性がどうしても残る。
だから、どちらにするかと言われれば、無料のほうを選ぶ。
社会規範のコスト
デート相手とレストランに行ったら、料理の値段はけっして口にしてはいけない。
たしかに、メニューには値段がはっきり書いてある。
それに、たしかに、レストランの格を示して相手を感心させるまたとない機会かもしれない。
しかし、値段のことをくどくど言えば、ふたりの関係は社会規範から市場規範に変化してしまうだろう。
わたしたちはふたつの世界に住んでいる。
一方は社会的交流の特徴をもち、もう一方は市場的交流の特徴をもつ。
わたしたちは、この二種類の人間関係にそれぞれちがった規範を適用する。
また、これまで見てきたように、社会的交流に市場規範を導入すると、社会規範を逸脱し、人間関係を損ねることになる。
一度この失敗を犯すと、社会的な関係を修復するのはむずかしい。
社会規範が市場規範と衝突すると、社会規範が長いあいだどこかへ消えてしまうのだ。
社会的な人間関係はそう簡単には修復できない。
バラの花も一度ピークが過ぎてしまうともうもどせないように、社会規範は一度でも市場規範に負けると、まずもどってこない。
多くの人にとって職場はたんなる収入源ではなく、意欲や自己定義の源でもあるのだと思う。
このような感情は、職場と従業員の双方のためになる。
こうした感情を喚起できる雇い主は、勤務時間が終わったあとも仕事がらみの問題を解決しようと考えるような、献身的でやる気のある従業員を得られる。
また、仕事に誇りを持っている従業員は、幸福感や目的意識を抱いている。
こうした福利厚生の金銭的な価値を露骨に表わすのは、楽しみや意欲や職場への忠誠心の低下にもつながる。
雇い主と従業員の関係にも、仕事への誇りや喜びにも悪影響をおよぼすわけだ。
プレゼントや福利厚生は、一見したところ、資源を割り振る方法としては奇妙で効率が悪いように思える。
しかし、長くつづく関係や相互利益や肯定的な感情をつくりだすのに重要な役割を果たしていることを考えれば、企業側は福利厚生やプレゼントを社会規範の領域にとどめるよう努力すべきだろう。
無料の力
社会規範で動いている状況に金銭を持ちこむと、意欲が増すどころか減ってしまうということだ。
需要の理論はたしかなものである──ただし、値段ゼロを扱うときを除いて。
やりとりに金銭が絡まないとなると、かならず社会規範がついてくる。
社会規範は人々に他者の幸福を思いださせ、その結果、利用できる資源に負担をかけすぎない程度まで消費を抑えさせる。
ひとことで言えば、値段がゼロで社会規範が問題になっているとき、人々は世界を共同体のものとしてとらえる。
以上を全部ひっくるめた重要な教訓?
値段を持ちださないことが社会規範をもたらし、社会規範があることでわたしたちは他者のことをもっと気にかけるようになる。
先延ばし
変率強化スケジュールでは報酬がいつもらえるかは予測できない。
一見すると、定率強化スケジュールのほうがやる気が起きるし、やりがいもあると思うかもしれない。
ラット(あるいは中古車販売員)は自分の働いた成果を予測するようになるからだ。
ところがスキナーは、意外にも変率強化スケジュールのほうがやる気が起きることを発見した。
もっとも印象的な結果は、報酬がなくなったときの反応だ。
定率強化スケジュールのラットはほとんどすぐに働かなくなったが、変率強化スケジュールのラットはその後も長いあいだ働きつづけた。
やはりギャンブルの楽しみは、いつ報酬がもらえるか予測できないところにあり、だからわたしたちはやりつづけるのだ。
面白かったポイント
行動経済学の名著。
嫉妬と無料の取り扱いについて非常に勉強になる。
マーケティングと人事はこのような人間心理を理解することで運営がスムーズにいくでしょうね。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆
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