多様性の科学

ビジネス

『多様性の科学』マシュー・サイド

更新日:

内容

アリの巣はいわゆる「創発システム」〔個々の単純な和にとどまらない組織〕だ。

アリストテレスの言葉にもあるように、「全体は部分の総和に勝る」のだ。

 

「視点が多様化すればするほど、見つけられる有益な解決策の幅が広がる」。

つまりカギは、異なる視点を持つ人々を集めることだ。

 

多様な人々を集めれば、集合知の幅も深みも増す。

人を理解するという点においては特に効果を発揮する。

 

一方、多様性に欠ける画一的な集団は、ただパフォーマンスが低いというだけにとどまらない。

同じような人々の集団は盲点も共通しがちだ。

しかもその傾向を互いに強化してしまう。

これはときに「ミラーリング」と呼ばれる。

 

ものの見方が似た者同士は、まるで鏡に映したように同調し合う。

そんな環境では、不適切な判断や完全に間違った判断にも自信を持つようになる。

まわりの同意を受けて、自分がこれだと思うことが正しいと信じてしまうのだ。

 

多様性のあるグループと画一的なグループでは、メンバーがまったく異なる体験をしていた。

前者はグループ内の話し合いについて「(認知的な面で)大変だった」と感じていた。

多角的な視点でさまざまな議論がなされ、反対意見も多く出たからだ。

しかも高い確率で正解を出したものの、それを知るまで自分たちの答えには強い自信を持っていなかった。

 

一方、画一的なグループの体験は180度違っていた。

彼らは気持ち良く話し合いができたと感じていた。

みな似たような視点で、互いに同意し合うことがほとんどだったからだ。

結局正解率は低かったが、自分たちの答えにかなりの自信を持っていた。

つまり盲点を指摘されることはなく、それがあることに気づく機会もなかった。

彼らは異なる視点を取り入れられないまま、自分たちが正しいと信じた。

画一的な集団が犯しやすい危険はこれだ。

重大な過ちを過剰な自信で見過ごし、そのまま判断を下してしまう。

 

考え方の枠組みや視点の違う人々が集まれば、物事を詳細かつ包括的に判断できる大きな力が生まれる。

「正しい情報が蓄積する一方で、間違った情報は互いを相殺し合う。その結果、驚くほど正確な予測が生まれる」。

集合知を得るには能力と多様性の両方が欠かせないという話だ。

多様性は高い集合知を生む要因となるが、それには根拠が必要だ。

対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々を見つけることがカギになる。

 

複雑な状況下では、たとえどれだけ互いに献身的なチームであろうと、多様な視点や意見が押しつぶされている限り、あるいは重要な情報が共有されない限り、適切な意思決定はなされない。

集団は常に賢明というわけではない。

危険なほどにクローン化し得る。

「人がほかの人と同じ答えを出すのは、他人の答えを正しいと信じるからではなく、自分が違う答えを出して和を乱す人間だと思われたくないから」

 

リーダー

リーダーが複数いる体制では責任の所在が曖昧になり、その結果せっかくのアイデアを殺してしまうことがある。

通常、集団にはリーダーが必要だ。

リーダーが不在では、いさかいが収まらず、決断もなされない恐れがある。

しかしリーダーが賢明な決断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されていてこそだ。

 

支配型のヒエラルキーでは、従属者は恐怖で支配された結果、リーダーを真似る(たとえば同じ意見を言う)。

一方、尊敬型の集団は、「ロールモデル」であるリーダーに対し、自主的に敬意を抱いてその行動を真似る。

 

尊敬型のリーダーが知恵を共有すれば、たしかにほかの誰かが有利になることもあるが、集団全体に寛容で協力的な態度が浸透するメリットも大きい。

人を助けることで、相手ばかりでなく結局自分にもプラスになるという、いわゆる「ポジティブ・サム」的な環境が強化される。

尊敬型ヒエラルキーはこうして発展してきた。

 

これに対し、支配型のヒエラルキーは「ゼロ・サム」環境だ。

誰かの地位が上がれば、ほかの誰かが蹴落とされる。

政治工作、裏切り、報復などの行為が横行し、みな常にまわりを警戒し続けなければならない。

 

支配型も尊敬型もそれぞれに適した時と場所があります。

賢明なリーダーはその両方を使い分けることができます。

何か計画を実行するときに重要になるのは支配型。

しかし新たな戦略を考えたり、将来を予測したり、あるいはイノベーションを起こそうというときは、多様な視点が欠かせません。

そういう場合、支配型は大惨事を招きます。

 

状況が複雑で不確かな場合、支配的なやり方では十分な問題解決ができない。

そういうときこそ多様な声を聴いて、最大限の集合知を得ることが肝心だ。

それなのに、我々は無意識のうちに支配的なリーダーを求めてしまう。

つまり支配型ヒエラルキーの問題は、たんにリーダーだけの問題ではなく、そんなリーダーを求めるチームや組織や国の問題でもある。

実際、もともとは尊敬型のリーダーを好んでいた人々が、状況の変化によって支配型のリーダーを求め出すこともある。

それが最悪の場合、大惨事を招く。

 

そして実際に会議が始まると、もっとも地位の高い者が最後に意見を述べる。

このルールも、多様な意見を抑圧しない仕組みの1つだ。

 

ブレインライティング

チームの効果的なコミュニケーションを促す仕組みの2つ目は、「ブレインライティング」だ。

口頭で意見を出し合うブレインストーミングと要領は同じだが、こちらは各自のアイデアをカードなどの紙に書き出し、全員に見えるように壁に貼って投票を行う。

「この方法なら、意見を出すチャンスが全員にあります」

 

ブレインライティングで守るべきルールはたった1つだという。

「誰のアイデアか」を明らかにしないことだ。

「これは極めて重要なルールです。意見やアイデアを匿名化すれば、発案者の地位は影響しません。つまり能力主義で投票が行われます。序列を気にせず、部下が上司に媚びることなく、アイデアの質そのものが判断されるのです。これでチームの力学が変わります」

 

概念的距離

心理学者は「概念的距離」という表現をよく使う。

我々は1つの問題に没頭していると、どんどんその細部に取り込まれていって、そのうちそこにいるほうが楽になる。

あるいは表面的な調整だけして満足するようになる。

自分の枠組みの囚人となる。

 

しかしその壁から一歩外に出ると――対象から(概念的に)距離をとってみると――新たな視点が生まれる。

それで必ずしも新たな情報を得るわけではないが、あらためて新たな角度から物事を見られるようになる。

芸術にはこの方法がよく用いられる。

 

まったく新たな何かを創り出すのではなく、既存のものを新たな視点から見て作品にする。

そう聞いてイェイツの詩やピカソの彫刻を思い浮かべる人もいるだろう。

融合が進化の原動力になりつつある現代において、重要な役割を果たすのは、従来の枠組みを飛び越えていける人々だ。

異なる分野間の橋渡しができる人々、立ちはだかる壁を不変のもの、破壊不可能なものとは考えない人々が、未来への成長の扉を開いていく。

 

人とのつながり

知的創造力は人とのつながりの連鎖の中で強まり、そうした文化資本は世代から世代へと引き継がれていく。

創造のエネルギーは人々のネットワークやコミュニティの中で高まる。

 

テクノロジーの洗練度は、その島の人口密度および人々のつながり具合と強い相関関係にあることが判明した。

つまり島内のネットワーク(集団脳)が大きければ大きいほど、アイデアの競合や融合が広範に起こり、情報の波及効果も大きくなった。

 

人は大きなコミュニティに属すると、より狭いネットワークを構築する傾向があることが判明した。

世界が広がるほど、人々の視野が狭まっていくのだ。

インターネットは、その多様性とは裏腹に、同じ思想を持つ画一的な集団が点々と存在する場となった。

 

イノベーションを起こすには頭の良さよりも社交性がポイント。

「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築できる。

つまりバラエティに富んだ知人がいて、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。

 

「社会通念によれば、大成功を収めている人々はみな、モチベーション、スキル、チャンスの3つを持っているという。[しかし]実は4つ目の要素がある。他者との接し方だ。できる限り[自分のために]価値を得ようとするか、それとも他者に価値を与えようとするか。どうやらこの選択が、成功を収められるかどうかに圧倒的な影響をもたらすようだ」

 

集合知の重要性を理解すれば、現代の企業や集団の間でイノベーションの速度や頻度に大きな差がある理由がわかる。

問題は個々人の知性の高さではない。

肝心なのは、集団の中で人々が自由に意見を交換できるか、互いの反論を受け入れられるか、他者から学ぶことができるか、協力し合えるか、第三者の意見を聞き入れられるか、失敗や間違いを許容できるかだ。

 

面白かったポイント

アイデアは、アイデアとアイデアの組み合わせ。

組み合わせの要素が多いほど、思いがけないアイデアが生まれるとともに、アイデアの抜け漏れも防ぐことができる。

 

いろいろなバックグランドを持った人がレビューすることで品質を保証することに近い。

逆に同じバックグラウンドや能力の人が何人レビューしても、人数に応じて品質が上がらないとも言える。

 

個人的には人的ネットワークを広げる余地はまだまだあると感じている。

SNSのおかげで、かなり効率的にネットワークやコミュニティに所属できるのは革命だと思う。

知のネットワークが張りめぐらされ、交流ができているのだと思う。

大きなコミュニティは狭いネットワークを構築するので、意識的に世界を広げることが必要です。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆

 

目次

第1章 画一的集団の「死角」
第2章 クローン対反逆者
第3章 不均衡なコミュニケーション
第4章 イノベーション
第5章 エコーチェンバー現象
第6章 平均値の落とし穴
第7章 大局を見る

-ビジネス

Copyright© まさたい , 2024 All Rights Reserved.