内容
データドリブン
適切なフィードバックをし、それに応じて予測モデルをチューニングしていけば、勘と経験よりもモデルのほうが予測精度が高くなる。
網羅性:顧客全体を包括的に理解することができる(顧客の全体像を理解しやすい)
緻密さ:一人ひとりの顧客を緻密に理解することができる
客観性:数字は誰もが同じ理解ができるため、コミュニケーションが容易
再現性:データに基づく意思決定方法を定めれば、誰でも同じ意思決定ができる
こうした利点があるので、意思決定をする際には定量情報が最も信頼できる情報になると考えているのです。
データドリブンプロセス
①データでビジネスを変える課題を「見つける」
②データ分析課題を「解く」
③データ分析結果を「役立てる」
データドリブン経営
経営者、事業部などのビジネスサイドは、データサイエンスに精通していなくてもいいのです。
大事なのは、事業に精通していて、課題を発見できること。
そして、適切なディレクションによってデータ分析結果を得たあと、施策に落とし込んでより良い成果を実現することです。
「データドリブン化する」とは、顧客行動データ、データに基づく顧客理解、そして「誰に何をするか」という事業戦略が有機的に連携することです。
それによって、持続的な事業成長という成果を得ることができるのです。
収益性を維持しながらの事業成長
一休の事業成長は、市場成長の追い風に乗ったわけでもなく、マーケティングやプロモーションなどの投資で事業成長をしたわけでもありません。
また、事業領域を広げて成長したわけでもありません。
事業を徹底的にデータドリブン化し、顧客へのサービスをより良くすることで、事業成長を実現してきたのです。
データドリブン化が成功すれば、従来とまったく違う成長ができるのです。
顧客行動のデータそのものが、非常に大きな知性であり、それに導かれて意思決定することがすなわちデータドリブン
一休では私自身が毎週日曜にレポートを書いているので、市場の変化を直接感じています。
そして、その気付きを毎週月曜にチームと共有し、施策に反映しています。
戦略の再定義
事業の進むべき方向性が混迷を極めるとき、最初にすべき重要なことは、戦略の再定義です。
こうしたとき、私は次のように「誰に何をするか」というシンプルな問いに答えるようにしています。
誰に:自社の商品を最も喜んでくれそうな顧客(=ターゲット顧客)は誰なのか?
何をするか:ターゲット顧客に何をすればもっと喜ばれるのか?
この中でも特に、「誰に」というターゲット顧客を正しく見極めることが、戦略づくりにおいて最も重要です。
良い戦略は「誰に何をするか」が明確です。
つまり、次の2つが明確化され、その上で実行されています。
誰に:自社のサービスを最も喜んでくれそうなターゲット顧客を見極める
何をするか:ターゲット顧客が喜んでくれそうな商品やサービスを提供すること
どんな企業や事業の成長戦略や競争戦略でも、その9割くらいは「ターゲット顧客は誰か」で決まっています。
ターゲット顧客を選ぶと、たくさんの施策の中から有効な施策を絞り込めます。
それが、顧客軸で分解することの最大の意義です。
ユーザーファースト
商品の差別性を維持するために、宿泊施設への営業を最重視していた「取引先ファースト」の経営から、顧客体験を最重視する「ユーザーファースト」の経営に転換したのです。
その手段が、私たちがどうすべきかをあらゆるシーンでデータ≒顧客に教えてもらう、データドリブン化でした。
顧客セグメント
データに基づく定量的な顧客理解と、インタビューなどに基づく定性的な顧客理解は、どちらも必要不可欠で、融合させてこそ有効な示唆が得られます。
顧客をいろいろな切り口で細かくマイクロセグメントに分解し、伸びている顧客セグメントを発見することで、ターゲット顧客を見定めたわけです。
つまり、ターゲット顧客は「データ≒顧客」に教えてもらったわけです。
一般的に顧客セグメントは、いろいろな切り口で分析することができます。
実際にターゲット顧客を見極める上では、考え得るすべての切り口で分析することをおすすめします。
例えば、一休では次のような切り口で分析しました。
- 顧客別の利用金額の大きさ(ヘビーユーザー、ライトユーザー、休眠顧客、新規顧客など)
- 顧客別の利用目的(例:出張、レジャーなど)
- 顧客別の利用商品(例:ホテル、リゾートホテル、旅館など)
- 顧客別のおサイフの許容度(例:高級宿メインか、カジュアル宿メインか)
- 顧客の年齢、性別、居住地などのデモグラフィック情報 など
顧客の「利用金額別」「利用目的別」で売上を分解してきましたが、私がよく見ている第3の軸は、「顧客のアクション別」です。
顧客軸で売上を分解
- 販売チャネル別(リアル店舗、ネット店舗、電話販売など)
- 流入チャネル別(テレビ・新聞などの伝統的広告経由、ネット広告経由、自然流入など)
- エリア別(顧客の居住エリアなど)
- ライフスタイル別(検索はGoogleかYahoo!か、携帯電話はiPhoneかそれ以外かなど)
- 年齢・性別以外のデモグラフィック(所得、家族構成、職業など)
LTV
1件1件の売上で粗利までPLを見える化することで、どのような集計単位であっても、収益性を計算することができるようになります。
だから、いかなる顧客に対しても収益性が見える化できるわけです。
LTVは、顧客全体で見ることはもちろん、顧客セグメント別に分解して確認することもおすすめします。
顧客セグメントによってLTVは大きく異なるので、LTVが大きい顧客に十分な投資ができず機会損失が発生することや、LTVが小さい顧客に過剰投資をして損失が出てしまうことが、実際のビジネスでよく起きているからです。
継続利用率が事業に与える影響が非常に大きい
継続利用率
複利を獲得するビジネスについて補足すると、このグラフが単なる直線の右肩上がりではなく、エビ反りで伸びていることが特徴的です。
これが、複利の事業成長を狙うべき理由です。
ただしエビ反りになるには、継続利用率の臨界点を超える必要があります。
2011年以前の継続利用率は70%ほどで、グラフは横這いでした。
これが90%ほどになってから、販売額は年々増えていきました。
氷はマイナス10℃でもマイナス1℃でも溶けませんが、0℃になると溶け始めます。
0℃になることがとても大事で、同じように一休の継続利用率が2011年の70%から2012年の90%の間にあった臨界点を超えたことが、成長のドライバーになりました。
データドリブン施策
プロモーション
①新規顧客を対象とした広告による認知獲得
②既存顧客を対象とした顧客コミュニケーション(CRM)
レコメンド
それだけだと偶然の素敵な出会い、言い換えるとセレンディピティが少ないので、いい塩梅で「most popular=全顧客に人気の宿」も織り交ぜています。
顧客は潜在的には必ずしも「100%パーソナライズしてほしい」と思っていない。
パーソナライズに関しては、このバランスをどう取るかが、経営とデータサイエンティストが解くべきいちばんのイシュー。
アクションではなくリアクション
例えば次のような粒度で顧客行動を捉え、リアクションしています。
Aさんがトップページを訪問し、数分閲覧して離脱した
→何も送らない
Bさんがトップページを訪問し、日付を入れて検索して宿を3件閲覧したが、予約をせずに離脱した
→その3件の宿と、類似の宿を10件ほど紹介する
Cさんが特定の宿「X」を指名検索し、その詳細ページを5分以上閲覧したが予約せず離脱した
→宿「X」の読み物コンテンツを案内する
プライシング
具体的には次のような顧客を割引の対象にしています。
- 購入額は大きいが、購入確率が低い
- いま購入をためらっていて、割引によって購入確率が上がる
データドリブンを阻むワナ
①見たいデータが見られない←データを整備するケイパビリティ不足、データ整備人材の不足
②見たいデータは見られるが、活用されていない←データを分析するケイパビリティ不足
③データは活用されているが、正しく活用できていない←データをニュートラルに見る姿勢の欠如
データは日々蓄積され、データを上手に活用できるのであれば、蓄積されたデータの価値は加速度的に増えていきます。
そのため、継続的なデータ活用を前提に、その価値を最大限に引き出すための組織体制を当初から想定することが極めて重要です。
データ分析ができる人材の不足
データとデータ分析人材がそろっても、「組織としての分析ケイパビリティ」にはつながらないからです。
それを阻んでいる最も大きなワナは、次のような組織と情報の分断にあります。順を追って紹介します。
a)事業部門とデータ部門の分断
b)事業部門と財務部門の分断
c)定量情報と定性情報の分断
データの質
データの質の担保は、AIによってデータドリブンがしやすくなるだけに、今後さらに重要になるはずです。
経営としては、社内でこれらを維持できるよう、努めなければなりません。
面白かったポイント
経営者が語るデータドリブン経営、経営者が見たいデータはどういうものなのか、気づきがいろいろありました。
1件1件の売上で粗利までPLを見える化はメモです、実践しよう。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
目次
はじめに 「DATA is BOSS」の意味
序章 まず知ってほしい「データドリブンは、ビジネスの話」
第1章 データを制するものがビジネスを制す
第2章 「掛け声だけ」で終わっている日本型データドリブン
第3章 データドリブン経営の本質
第4章 データドリブン経営の実装
第5章 データドリブン施策の具体例
おわりに AIの進化が何をもたらすか