マネジャーの最も大切な仕事

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『マネジャーの最も大切な仕事―95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』テレサ・アマビール

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内容

進捗の法則

マネージャーにとって最も大切なのは、「チームや部下にとってやりがいのある仕事が、毎日少しでも進捗するよう支援する」ことだと。

部下全員にその日の「Good=良かった点」「Bad=悪かった点」「Next=次に活かす点」をクラウド上の日誌に書いてもらい、毎日全員にコメントするようにした。

すると、1ヵ月で売上が飛躍的に伸びたという。

 

やりがいのある仕事が前に進むことこそ、インナーワークライフを輝かせ、パフォーマンスを長期にわたって引き上げるものなのだ。

仕事が実際に進捗すると、たとえば満足や嬉しさ、さらには喜びといったポジティブな感情が引き出される。

進捗は達成感や自尊心、そして仕事やときには組織へのポジティブな認識につながる。

こうした思考や認識は素晴らしいパフォーマンスを発揮するのに重要なモチベーションや深いエンゲージメントの糧となる。

 

いかなるマネージャーの職務記述書も、まず「毎日部下たちの進捗を手助けすること」を記すべきだ。

この必須事項は当然のものだと感じる人もいるかもしれないが、多くのマネージャーは明らかにそれを認識していない。

 

インナーワークライフ

秘訣は豊かなインナーワークライフ(個人的職務体験)を生み出す環境を作り上げること。

ポジティブな感情、強い内発的なモチベーション、仕事仲間や仕事そのものへの好意的な認識を育める状況を作り出すことだ。

豊かなインナーワークライフとは仕事そのものから得られるものであり、仕事に付随する特典から生じるものではない。

 

インナーワークライフは「創造性」「生産性」「コミットメント」「同僚性」というパフォーマンスの四要素に影響を与える。

私たちはこれをインナーワークライフ効果と呼ぶ。

 

小さな出来事の28%が大きな反応を引き出していたのだ。

つまり、人が重要でないと考える出来事でさえ、しばしばインナーワークライフへ大きな影響を与えていたのだ。

小さな出来事の力を裏付ける研究資料が増えてきている。

 

2008年の研究では、教会通いやジムでの運動といった小さいが定期的な出来事が、幸福感を累増させることが判明した。

実際に、実験参加者が教会やジムに頻繁に行けば行くほど、幸福感は増していた。

たとえひとつの小さな出来事自体には小さな効果しかなかったとしても、似たような出来事が起き続ける限り効果は消え去らない。

定期的に運動をしている人はジムを出るたびに少しだけ幸せになり、ジムに行っていなかった日々よりも幸せな状態が続いていく。

 

娘の劇を見に行くために上司が与えたオフの時間と、ヘレンの素晴らしい仕事ぶりの費用便益比を計算してみよう。

その計算は不可能だ、なぜならコストはゼロで、ヘレンのインナーワークライフやパフォーマンスに対する利益は計り知れないものだったからだ。

 

モチベーション

最も重要なモチベーションの源泉について根本的に誤解していたのだ。

各企業の内部をつぶさに追跡した私たちの調査が解き明かしていたのは、進捗をサポートすることが日々社員のモチベーションを高める最善の方法であるということだった。

たとえ進捗が小さなものであったとしてもだ。

 

多くの人をある程度までやる気にさせる外発的動機付け、何かを手に入れるために何かを行うというモチベーションだ。

それは昇進へのモチベーションでもある。

給料や手当にかなうものはない。

 

内発的動機付けとは、その仕事自体を愛すること、それが面白く、楽しく、満足でき、熱中でき、個人的な挑戦であるから仕事をするということだ。

内発的動機付け、仕事への深い「エンゲージメント(没頭)」は、対価がないように見える仕事にも驚くほどの努力を払う原動力となる。

 

他人と関わったり他人を助けたいという欲求から生じる関係的あるいは利他的動機付けだ。

気の合うメンバーたちと協力する際に生まれる仲間意識は仕事の動機となり、この仕事は人にとって、グループにとって、社会一般にとって本当に価値のあるものだという信念をもたらす。

 

ハイパフォーマンス

困難な問題を解決するために力を合わせて働かなければならない環境において、「ハイパフォーマンス」には四つの側面がある。

創造性、生産性、コミットメント、そして同僚性だ。

これらは多くの近代組織が勤務評価に用いる指標と同じだ。

 

創造性──新しく有用なアイデアを考え出すこと──は、おそらく現代のビジネス界におけるパフォーマンスで最も重要な側面だろう。

しかし創造性だけでは十分でない。

 

生産性とは着実に仕事を仕上げ、常に質の高い仕事を行い、最終的にプロジェクトを見事にやり遂げることを意味する。

 

仕事、プロジェクト、チーム、そして組織に対するコミットメントとは、苦難を耐え抜き、仲間の成功を手助けし、仕事をやり遂げるために必要なことは何でもやることだ。

 

同僚性は、チームの結束に寄与するすべての行動を指す。

メンバー間の人間関係をサポートし、チームの一員として行動し、チームがきちんと機能しているか気を配っているときに発揮されるものだ。

 

ポジティブ

私たちは創造性がポジティブな感情に続いて引き出されるという驚くべき残存効果さえも発見した。

ある一日の気分がポジティブなものであればあるほど、翌日──そしてある程度はさらに次の日──に創造的な思考を発揮していた。

その後の日々の気分を考慮したとしてもだ。

これは心理学者たちが孵化効果と呼ぶものだろう。

 

前向きな気分は思考をより広範に刺激し──より多くの認知のバリエーションを持たせ──一日かそれ以上持続することができる。

こうした認知のバリエーションは仕事に新しい知見をもたらし得る。

つまり、たとえポジティブな感情を経験したすぐ後に新しいアイデアが生まれようとも、実際に表に出てくるのはもっと後かもしれないということだ。

 

創造性

人は、自分の組織やリーダーをポジティブに捉え、協力的で、協働的で、新しいアイデアにオープンで、新しいアイデアを公正に育んだり評価し、革新的なビジョンを重んじ、創造的な仕事を積極的に讃えるものだと考えるとき、より創造的になっていた。

言い換えると、たとえ最終的に実行不可能なものであっても新しいアイデアが大切なものとして扱われるとき、人はより積極的に意見を出していた。

対照的に、組織やリーダーのことを、社内政治や内部での競争に躍起になり、新しいアイデアには厳しく批判的で、リスクを嫌う人びとだと見なしていると、創造性は低下していた。

チームやリーダーへの認識もまた重要だ。

人はチームリーダーやチームメートからのサポートがあると感じるときの方が創造的になっていた。

 

インナーワークライフの三つめの要素であるモチベーションもまた創造性へ影響を与える。

過去三十年間、私たちは仲間と協力していくつかの研究を行い、関心や、喜びや、満足感や、仕事へのチャレンジといった内発的な要素によってモチベーションを上げた方が、報酬や、低評価への恐怖や、勝つか負けるかの競争のプレッシャーや、厳しすぎる締め切りといった外発的な要素によって突き動かされるよりも創造的になることを示してきた。

実験から得た証拠の多くが、この因果関係を結論づけている。

内発的モチベーションが下がるか、外発的モチベーションが上がると、結果として創造性が低下するのである。

 

インナーワークライフに影響する三大要素

第二のカテゴリーを私たちは触媒ファクターと呼ぶことにする。

「触媒」とは、ある人物やグループによる仕事への直接的なサポートを意味する。

 

インナーワークライフに影響を与える出来事の第三カテゴリーは栄養ファクターだ。

触媒ファクターが仕事に直接関係するものであるのに対し、栄養ファクターは人間関係に関わるもので、人間に直接作用する。

そのファクターには尊重、励まし、慰め、その他社会的あるいは感情的なサポートが含まれる。

 

人間の最も基本的な原動力のひとつは自己効力感。

自分には望む目標を達成するために求められる作業をプランニングし実行する能力があるのだという信念だ。

 

「ワールドオブウォークラフト」のような多人数同時参加型のオンラインゲームの空想の世界に没入し続けるために膨大な時間と金を注いでいる。

何が彼らを惹きつけ続けているのだろうか?

大体において、その要因は二つある。

常に進捗が計測できること、そして達成の記録が目に見えることだ。

どちらも進捗の法則を利用したものである。

 

7大触媒ファクター

  1. 明確な目標を設定する
  2. 自主性を与える
  3. リソースを提供する
  4. 十分な時間を与える、しかし与えすぎてはいけない
  5. 仕事をサポートする
  6. 問題と成功から学ぶ
  7. 自由活発なアイデア交換

 

自主性を与える

明確な目標の設定は、それが社員たちに何をどうすべきか指示してばかりになると裏目に出る可能性がある。

真の意味で内発的に動機付けがなされ、進捗して自己効力感を得るためには、各人が自分の仕事に口を出す権利をもつ必要がある。

その上、社員たちが仕事のやり方に自らの裁量を持つとき、彼らはより創造的になる。

自主性のポイントは、自らの決断が重んじられるという感覚だ。

もし経営陣が社員の決断を覆してばかりいたら、社員はたちまちいかなる決断を下すモチベーションを失い、それが進捗を深刻に阻害する。

仕事が遅れるのは、自分たちが仕事に取り掛かったり何か変更を加える前に上司を待ってチェックしてもらわねばならないと感じるからだ。

 

仕事をサポートする

現代の組織において、人は互いの力を必要としている。

ほとんどすべての人間が持ちつ持たれつの関係で仕事をしている。

周囲からの支援やサポートもなく、完全に自分の意志に任された社員は、わずかばかりの達成しかできない、彼らはサポートを必要としているのだ。

 

問題と成功から学ぶ

失敗から学び前進する能力は、心理的安全性によって特徴づけられる組織風土のなかで遥かに多く目撃される傾向にある。

心理的安全性とは、失敗を避けることよりも、失敗を認めたり指摘することを社員に奨励するリーダーたちの言葉や行動から醸成された共通認識のことだ。

 

チームに明確な戦略的目標を与えると同時に、そのプロジェクトをどう行うかについては自主性に任せていたのだ。

正式にプロジェクトがスタートしたとき、チーム全員が熱意に満ちあふれていた。

明確な戦略的目標と実行の自主性のバランスがチームにエネルギーを与える様子を私たちはオライリー社のあらゆるチームで目にした。

 

時間的プレッシャーと創造性

私たちはこうした時間的に厳しいプレッシャーを受けながら創造的な思考が何ら見られない日々をランニングマシンに乗せられた状態と表現している。

そうした日々では多くの無関係な(そしてしばしば予期せぬ)作業に取り組むことになる傾向にあり、たえずひとつの仕事から別の仕事へと駆けずり回りながら、結局どこにもたどり着かない──あるいは、少なくとも意味ある場所にはたどり着かないのだった。

 

私たちは時間的プレッシャーが低く創造的な思考をする日々のことを探検に出かけた状態と呼んでいる。

こうした日々では仕事に対して探究的になり、問題に様々な角度からアプローチするために一人か二人のメンバーと協働して取り組むことが多かった。

しかしマネジャーたちから革新的な思考に向けたサポートがほとんどないとき、時間的プレッシャーの低さは危険なものになり得る。

そんなとき、人は自動操縦──創造性が少なく退屈が蔓延する状態──に陥る可能性がある。

 

すべての状態のなかで最も希少なのが、厳しい時間的プレッシャーのもとで創造的な仕事を生み出すという使命を帯びた状態になることだ。

しかしこの状態にはちょうどいいバランスが必要になる。

決定的に重要な問題の解決に集中できるよう、緊急かつ重要なプロジェクトでは他の障害物を寄せつけないことが必要になるのだ。

残念ながら、長期間使命を帯びて働くことも「燃えつき」やパフォーマンスの低下につながる可能性がある。

創造的なパフォーマンスを最大限引き出すには、基本的には低い、あるいは適切な時間的プレッシャーのもとで取り組み、時おり急を要する仕事に集中するのがいい。

 

チームリーダーとして取るべき行動

  • どのような形であれチームの仕事に関連する可能性のある情報を定期的に集める。
  • プロジェクトに対する重要な決断をする際はチームを参加させる。
  • プロジェクトに対する情報やサポートの重要なソースとなり得るチーム外の人びととの関係を構築する。
  • プロジェクトを売り込む。優れたプロジェクトが脅威に晒されたときは戦う。

 

ピーター・ドラッガーは、「マネジメントの目的は、一人ひとりの人間の強みと知識を生産的たらしめること」だと記している。

マネージャーの仕事とは難しい仕事に挑戦し満足ゆく仕事人生にしたいという社員の欲求を保証することで彼らに奉仕することだという。

そうやってリードすることは責任を放棄することとは違う。

しかしその実現にはマネジメントに対するまったく違った見方が必要になる。

部下をコントロールするという従来のやり方ではなく、メンバーたちによる実際の進捗をサポートすることに重きを置かねばならない。

 

彼は触媒ファクターをどれひとつとしておろそかにしなかった。

目標を明確化し、自主性を与え、十分なリソースと妥当なスケジュールを確保するために取り組み、仕事を直接的にサポートし、オープンなアイデアのやり取りを促し、問題と成功を学習の機会だと考えて向き合っていた。

 

チームがそうした打撃に対処するのをサポートする達人だった。

騒いだりパニックになることなく、いつも彼は障害を普段の仕事のように対処し、そのひとつひとつが学びの機会であることを明確にした。

ビジョン・チームのシニア・リサーチ・エンジニアのティムが実験の実施過程でミスを犯してしまったときのことを思い出してみてほしい。

ティムがデイヴに告げたとき、デイヴは穏やかかつ分別を持って反応し、「自分がしたことを理解している限り問題ない」と言ったのだった。

この言葉を忘れないでおこう。

これこそマネージャーが心理的に安全な風土を作り出す方法だ。

部下のミスを叱責するよりも、仕事自体と、そこから何を学べるかに話を絞るのである。

 

マネージャーとしての自分のインナーワークライフを高めるには、部下たちが毎日の進捗に必要とする触媒ファクターと栄養ファクターを確実に提供し、阻害ファクターや毒素ファクターからはできるだけ遠ざけることだ。

そうすれば、マネージャーは自分のマネジメントの仕事も進捗し、自身のポジティブな進捗ループを作ることができるだろう。

 

日誌

日誌をつけ始めるにあたって、毎日の終わりに以下の質問に答えることをお勧めする。

  • 今日、どの出来事が自分の心に残っているだろうか。その出来事が自分のインナーワークライフにどう影響を与えただろうか。
  • 今日、自分はどんな進捗をし、その進捗が自分のインナーワークライフにどう影響を与えただろうか。
  • 今日、どんな栄養ファクターと触媒ファクターが自分や自分の仕事をサポートしてくれただろうか。どうすればそれらを明日も維持できるだろうか。
  • 明日、重要な仕事の進捗に自分がひとつできることは何か。
  • 今日、自分にどんな障害があっただろうか。その障害が自分のインナーワークライフにどう影響を与えただろうか。そこから何を学ぶことができるだろうか。
  • 今日、どんな毒素ファクターや阻害ファクターが自分や自分の仕事に影響を与えただろうか。どうすれば明日それらを弱めたり避けることができるだろうか。
  • 今日、仲間たちのインナーワークライフにポジティブな影響を与えただろうか。明日どうすればポジティブな影響を与えられるだろうか。

 

面白かったポイント

タイトルからどんなノウハウがあるだろうと期待しましたが「日々の進捗を少しでも支援すること」という何とも当たり前の内容です。

しかし、こういう当たり前だと思って軽視しがちな点をしっかり実践している組織はたしかに強いなと思います。

 

運用方法は日報を書いてもらって、マネージャーがコメントを書くことになります。

これで結果が出るならすぐにでも実践する価値はある。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

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