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まさたい

オペレーショナル・エクセレンス

ビジネス

『オペレーショナル・エクセレンス』田中陽一

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内容

BPR (Business Process Reengineering) の手法と言い換えてもよい。

以下のキーワードを使いつつ説明する。

①業務の可視化 : 見えない業務をどのように表現するか

②問題の可視化 : 問題の見つけ方、課題の探り方、真因の突き詰め方

③業務の整流化 : 現状業務の改善に留まらない“強い”オペレーションの設計

④暗黙知の可視化 : 有識者やベテランでしか行えないとみられる業務をひもとく

⑤結果の可視化 : 個々の業務の経営貢献へのつながりを明らかにする指標

「4(可視化)+1(整流化)」という構成にて具体的に詳述したい。

 

業務品質が高い企業

▶指標が整っている(どこに向かって行動を取るべきかが明確である)

▶仕組みが整っている(個人の力量に過剰依存しない仕事の枠組みがある)

▶適材が適所に配されている(スキルが定義され可視化され、育成プログラムが整い、人と機会のマッチングが最適化されている)

これらの特長は筆者が改革支援を通じその内情を見聞きして来た複数の企業のうち、「業務品質が高い」と感じた企業に共通する通奏低音である。

 

仕組みとは Role & Responsibility (役割と権限)、Metrics (指標)、Tool (情報システム)、Operational Scheme (業務体系)の4つであった。

 

業務遂行上いわゆる“職人技”は必ず残るし、残ってよいのだ。

業務は簡素化されるべきだし、可能な限りデジタル化した方がよい。

だがアナログワークは必ず残るし、そぎ落とした結果として残った業務は標準化とは真逆のベクトルでとらえるべきであろう。

それこそは本当に価値の高い業務であり、軽々に情報技術(DX、IT)で置き換えられたりはしない。

一子相伝とも言うべき“手技”・“勘所”の伝承が必要な業務である。

 

管理指標

管理指標の作り込みにおいて留意したいのは以下2つの連携である。

FI (Financial Index) ......財務指標

OI (Operational Index) ......オペレーション指標

経営者の目標値はしばしば FIとして定義される。

図中、縦軸に表示したものが財務系の指標を指す。

いずれも財務三表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)から代表的な項目を抽出したものであり、ROIC・EBITDA・ROE 等々、経営者が対外的にコミットするKPIはここから算出される。

かたやOIは業務を行う現場ワークとの親和性が高く、売上増・リードタイム短縮・コスト削減等、行動に結びつく指標群である。

 

製造現場では工程内リードタイムをより短くしようと努力する。

工場長は工程間のつながりをより円滑なものにし、仕掛在庫が極小化されるよう目配せを行う。

そしてその営為は棚卸資産の圧縮日数の縮減を通して投下資本回転率の良化を生み、ROIC(投下資本利益率) 経営に貢献する。

そのつながりが明示的にかつ直線的に語られれば語られるほど現場の改善に向けた取り組みはスムーズになる。

 

業務体系とITシステム

内部統制等制度上の必要性からやむを得ず作成されたもの、もしくはシステム導入の折に作成されたフローを業務フローと称して提示されるケースが多い。

後者は当該システムをどう使うかが記述の主目的でありシステムが介在しない業務は記載されない。

前者はどうしても文書を中心としたフローになっており、いずれの場合も“業務”が中心ではないのだ。

 

業務フローとは、業務をある粒度(タスク)までブレイクダウンし、タスクをフローチャート形式で表現して流れを可視化したものである。

このブレイクダウンの深さに応じてレイヤーが複数存在することになる。

我々はこれを4つのレイヤーで捉えている。

 

レイヤー1 機能群

企業における事業活動 (機能群) の流れを表現したレイヤーであり、部門間での業務の大きな流れを示すものである。

機能のかたまりを表現しており、モノづくり企業であればほぼ共通であると言えよう。

 

レイヤー2 機能

レイヤー1での一機能を細分化した層であり、部門の下部組織である部署間における業務のやり取りを表現している。

このレイヤーを整えれば、業務改革の折にどの程度のまとまりでBPRに取り組むべきかが見えてくるはずだ。

このレイヤーでの整理が1種類で済むのであればすぐさまレイヤー3への探索に取り組めばよいが、多くの企業でこれが複数種類(パターンのと言ってもよいモデルと称してもよい)に及ぶと想定している。

事業としての個性、顧客との関係性が如実に表れるのでその可視化・文書化にはしっかりと取り組んでほしい。

 

なお、このレイヤーを整えるには組織間のコミュニケーションが必ず必要になる。

かつ可視化するのがそう容易いことではなく、思いのほか組織を跨る部分の流れを明らかにするのは時間がかかる。

前後をつなぐには部門をまたいだ確認が必要だからだ。

業務フローを整えるには当然業務を知っている必要があるが、組織を跨る部分の業務の全てを1人が把握しているというケースは少なく、また知っていると思っていても別組織では違う認識であることも珍しくない。

つまり関係する複数の組織の複数の有識者を集め、現実を明らかにする議論の場が必須となるのである。

そうすると「そちらの組織からはそう見えていたのか」「その情報が欲しかったとは知らなかった」「よかれと思っていたアレは不要だったのか」などの認識違いを是正することができ、そこから組織間でのリレーションの深化、コミュニケーションの活性化が生まれてくる。

 

レイヤー3 処理

レイヤー2での一業務を細分化した層であり、誰が何をどの順で対応するか、担当者レベルでのタスクの流れを定義する。

このレイヤーが所謂業務フローであり最も重要な主役となる。

担当者の違い、判断の有無、例外の有無、マニュアル処理の有無、等々を明確化することができ、それらはあらゆる業務改革において決定的に重要な基礎資料となる。

 

レイヤー4 手順

レイヤー3での1タスクについて詳細に定義したレイヤーであり、俗にいう「業務マニュアル」だ。

作業手順書や、判断基準、チェックリスト、用語集などから構成される。

よいマニュアルとは何だろうか。

様々な定義が可能だろうが、以下3点を掲げたい。

1. 誰もが読んでも理解できる

2. 誰もが読んでも誤読しない (1種類の解釈がなされる)

3. 誰もが読んでも同じ行動が取れる

 

人材リソース管理

職務定義書

①職務等級/職種/職務名/会社概要

②職務概要/具体的な職務内容/職務内容の比重

③期待される目標/ミッション

④責任・権限の範囲に関する補足/報告義務のある直属の上司/部下の数

⑤雇用形態/勤務地/勤務時間/時間外手当支給の有無

⑥必要とされる知識、スキル/必要とされる資格/必要とされる学歴など/待遇・福利厚生

 

我々の推奨する職務定義書は業務体系全体との連関の中で作成されるべきものだ。

決してジョブディスクリプションのみが単体で存在するのではなく、全体の「組織図」があって職能分担を整理する中で当該ポジションの職務定義が可能になるとし、個々の「業務フロー」があってその職務で果たすべき役割が明確化される。

 

オペレーショナル・エクセレンス

「オペレーショナル・エクセレンスを得たいなら業務改革の術を学べ。最初の一歩は業務フローの作成から」

 

業務の可視化

業務を可視化するにはいくつかの切り口がある。

業務の「流れ」、業務上で使用されるドキュメントやシステムなどの「情報」、業務遂行の土台であり役割分担のベースとなる「組織」、実際に業務を遂行する「人・スキル」がそれにあたる。

 

業務の整流化

ECRSとは、業務改善のパターンを示したもので、Eliminate (排除:ムダを取り除く)、Combine (結合/分離:複数のタスクをひとつに結合、1つのタスクを複数へ分離)、Rearrange (入替/代替:作業順の組換、類似タスクでの代替、担当の変更、等)、Simplify (簡素化:手順や成果物の最適化、手順書化、自動化、等)の英語の頭文字を並べたものである。

 

Eliminate (排除)

ムダな作業や会議、成果物を取り除き、リソースやコストを軽減しようとする試みである。

例えば……

●ドキュメントの流れをデータ項目粒度で整理したら、つくったか誰も見ていない項目が見つかった

●自動化で人も作業手順書も不要になった

●この“定例会”、あの“日報”、その“報告書”、昔からやっているが形骸化しているのでやめてみた

●月次で全事業部の情報責任者が東京に集まることになっているが、Web会議にして時間/コストを削減した

目に見えて何かがなくなるため効果を実感しやすく、その後の改革機運を高める効果もある。

 

Combine (結合/分離)

タスクの結合における基本的な考え方は、一度に集中して行うのが効率的であるにも関わらず、複数のタスクとして担当者やタイミングなどが分かれている場合にそれらを結合するべしというもの。

例えば……

●複数の機械工程を1つに結合し、段取り替えを不要にした

●類似する作業をまとめて1人に担当させ、品質向上と共に教育の工数も削減した。

●機械の自動送りとバリ取りはこれまで別作業だったが1つの作業にして時間を短縮した

●3人で行っていたライン作業を屋台化して1人に統合した

 

Rearrange(入替/代替)

作業順の入れ替えによる適正化、より低コストの方法での作業代替、より低コストの担当者への変更、手の空いている担当者への変更による負荷の平準化、等々を検討する視点だ。

例えば……

●加工の順序や機械の配置を入れ換えて時間短縮と低コストを実現した

●使用頻度の高い工具をより取り出しやすい位置に配置し、動作や移動距離を削減した

●紙の帳票、ハンコによる承認をワークフローシステムに替え、時間短縮、コスト削減、可視化向上を達成した

●取扱修正の手間を減らすべくチェックのタイミングを早めた

入替は、Combineにおける「結合」の考え方と同じく、一連の流れで連続して行うのが効率的であるタスクを連続させるよう入れ替えることである。

 

Simplify (簡素化)

Simplifyは業務の簡素化を表す。

例えば……

●工場のマニュアル作業を動作分析して簡素化(簡単かつ楽にできる動作に)した

●承認プロセスとして慣例的に3つの組織の上長に回すことになっていたが、「承認」と「共有」を分けて、ワークフローをシンプルにした

●メールベースのコミュニケーションからチャットでプロジェクト毎にスレッド管理を行うことで情報流通を簡素化した

一般的にはECRSは改善パターンというだけでなく、その改善効果の大きさの順番も表したものだと言われている。

改善効果が大きい順に Eliminate > Combine > Rearrange > Simplify となる。

しかしこの考えには少々異論を唱えたい。

最も効果が期待できるSimplifyこそが最も重要で、総合的に考えたときに改善効果が最も大きいとは言えないだろうか。

 

仕組みの構成要素

①ミッション・ビジョン・バリュー

②役割と責任 ( Role and Responsibility)

③人的リソース

④ITツール

⑤業務体系

⑥評価指標

 

BPM (Business Process Management) の役割を果たす。

具体的には以下の4つのタスクを実行する。

①As-Isの可視化

BPMの責任組織としてすべての業務(生産だけでなく)プロセスを管理する(業務フローを作成、更新する)。

②As-Isの分析と改善ポイントの抽出

業務効率を測るKPI (マニュアル率、標準適用率、自動化率等)を設定しプロセスを分析、改善点を洗い出す。

③変革の立案と主導

改善施策を実行計画に落とし込み、変革の完了まで見届ける。

④効果検証と継続運用

変革効果を評価し、継続的運用と改善を主導する。

 

業務改革の専任組織は業務プロセスのお目付け役であると共に事業への価値貢献の役でもある。

決してオペレーションそのものを担うわけではないが、その認証なくして業務が遂行されることはない。

企業価値3本柱のうち“オペレーショナル・エクセレンス”で事業を輝かせる立役者と言えよう。

 

変革のフレームワーク

これは“6バブル”とも称され、企業変革の枠組みを図示したものだ。

まずトップに掲げられるのが「戦略」であり、ここで変革の狙いや成功指標を定義する。

モノづくり企業ならば原価削減、リードタイム短縮、顧客満足度向上等があたり、その数値が明示される。

 

その上で戦略の左下に移り、「業務」 ⇒ 「情報システム」となる。

この際、順番には留意されたい。

世に「ITツールはあるべき業務を達成するための手段であって目的ではない」とのメッセージは広範に流布しているが、それはこの警鐘がいまだ力を持つからに他ならないのではないか。

 

大きな三角形の中にあるもう1つの小さな三角形に着目してほしい。

そこには「組織」「人材・スキル」「風土」とある。

3つのエレメントは相互関連しているが、ここにも順番があり、「風土」は最後に結実する。

「組織」とは体制と言い換えてもよく組織設計を指し、「人材・スキル」とは有意なスキルを持つ意図な人材を指す。

この2つが相俟って組織力となりそれが「風土」を育む構図だ。

「風土」は、最後に結実と言ったが、それは小さな三角形だけでなく大きな三角形でも同様である。

変革のフレームワークは「戦略」から始まって「風土」に結実する。

「風土」こそ“戦略”で定義された目的・目標を超え得る変革の帰着点と言ってよいであろう。

 

風土とは、現場・組織内のメンバー間で言外に共有されその行動を左右する価値観や考え方であり、メンバーがどう行動するかの基礎・土台となっているものである。

それがあることで、誰に何かを言われなくとも、何らかの教科書やお手本がなくとも、自然とその現場・組織として望ましい行動が表出する。

だが、その醸成に際しこうすればよいという万能薬は存在しない。

 

改革人材に必要な要素

①変革構想力

●変革対象の業務/ITを知っている

●現状を分析し、問題点を特定できる

●理想の姿を描ける

まずAs-Isを詳らかにでき、課題分析が行え、To-Beを描く営みを指している。

おそらく現状の可視化は個人で完結はしないだろうし、先進事例や業界標準の獲得には外部知見が必要かもしれないが、それは構わない。

改革人材はすべてを理解している必要はなく、必要な人材を巻き込み、そしてそれを統べることができればよい。

分析やTo-Be像を描く行為も同様だ。

ただし、理想像がそのプロジェクトの真の狙いに合致するものであるかどうかは人任せにはできず、改革人材が自ら判断を下さなければならない。

 

オペレーショナル・エクセレンスを目指す改革ではなおさらのことで、描かれたメトリックス、業務体系、ITツール、人材定義、組織体系がその名に値するかは誰でもないトランスフォーマー本人が経営トップと握らなければならない。

 

②変革実行力

●変革の進め方を知っている

●関係者を巻き込み変革を推進できる

オペレーショナル・エクセレンスは数多ある改革プロジェクトの中でも息の長い取り組みと言えるだろう。

一言でいえば仕事の進め方・仕組みを変えるということになるが、仕事は変えずとも今日を代替わりて非効率ではあれ前に進んでいるのは確かだ。

今これを変えなければ明日生き残れないとの切迫感を持ちにくい取り組みであるが故に、より変革の実行力 (見切れないチカラ) が重要になってくる。

ここではプロジェクトマネジメントの知識とスキル、及びコミュニケーションプログラムの巧拙が意味を持ち、トランスフォーマーがその重要性を理解しているかが、大きな分水嶺になる。

 

③変革定着力

●改革の土台を風土とするテクニックを知っている

●次のトランスフォーマーを育てられる

オペレーショナル・エクセレンスに限らずプロジェクトとは有限、一過性のものであり通常業務とはおのずからその成り立ちを異にしている。

だが、改革の自働(じばたらき)化が実現されている企業は強い。

現場発信で改革が生まれ、今日の業務を当たり前だと思わない、次工程と前工程に目が届き一気通貫で業務を俯瞰する。

常にこの仕事の根本的な価値は何かを自問自答する。

そしてどの部門、どの職位から出たものであろうとも正論であれば組織の垣根を越えて変革に取り組む。

そうした企業としての変革の風土を醸し出せるか、一過性の取り組みではなく変革を定着できるかがオペレーショナル・エクセレンスの最終ゴールとなろう。

そのためにも次のトランスフォーマーの育成は欠かせない。

仕組みは導入した直後から陳腐化が始まるのだ。

 

面白かったポイント

業務プロセスについてまとまっている良書。

業務改革のプロセスはシンプルだが、改革を実行することと定着させることの難易度は高い。

また、これを実行できる人材は大企業であってもほとんどいない。

全体最適思考やロジカルシンキング、幅広い業務知識が必要となる。

この領域はいつまで経っても飽きない。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

序章 洗練されたオペレーションの価値
01 企業を支える3つのチカラ
02 求められる経営の認識変化
03 変化対応の源泉
04 増加する専門家と俯瞰目線の欠如
05 本書の構成
06 チームの仕事が個人を輝かせる
事例1 収益を生むオペレーション ── ナイキ

第Ⅰ部 オペレーショナル・エクセレンス理論編
01 業務品質が高い企業の特長
02 オペレーショナル・エクセレンスを実現に導く3つの要素
Column コンサルティング業界における“業務改革テーマ”の位置づけ
事例2 競争優位を生むオペレーション ── ZARA

第Ⅱ部 オペレーショナル・エクセレンス実践編
01 オペレーショナル・エクセレンスへの道
02 4つの可視化と整流化
03 業務の可視化
04 問題の可視化
05 業務の整流化
06 暗黙知の可視化
07 結果の可視化
08 人ではなく仕組みで回す~定着化に向けて
09 仕組みを実態に追従させ続ける
10 風土としての定着化へ向けて
事例3 オペレーションモデルによる高収益の実現 ── キーエンス
事例4 ディスコン推進でオペレーションを軽くする ── 大塚商会

終章 改革人材になろう
01 改革人材に必要な要素
02 改革人材をどう育成するか

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