内容
「センスのよさ」とは、数値化できない事象の良し悪しを判断し、最適化する能力である。
クリエイティブディレクター
僕の定義するクリエイティブディレクターはもっと広範囲なものです。
クリエイティブディレクターを改めて定義すれば、企業価値をセンスによって高めていく仕事。
センスの力は、商品開発はもちろんのこと、名刺、社屋の内装、デスクといった社内環境、制服があるのであれば社員やスタッフの制服におよびます。
社長のネクタイの色までを徹頭徹尾考え、実践していくのがクリエイティブディレクターの役割です。
どんなにいい仕事をしていても、どんなに便利なものを生み出していたとしても、見え方のコントロールができていなければ、その商品はまったく人の心に響きません。
見え方のコントロールこそ、企業なり人なり商品なりのブランド力を高めることにつながっていく。
そのブランド力を高められるのが、センスのよさなのです。
センスにはやはり、「最適化」が非常に大切だということでしょう。
センスが知識の集積である以上、言葉で説明できないアウトプットはあり得ません。
自分のセンスで作り上げたアイデアについて、きちんと言葉で説明し、クライアントなり消費者なりの心の奥底に眠っている知識と共鳴させる。
これがクリエイティブディレクターの仕事であり、ものをつくることだと僕は考えています。
そのためには、知識の精度を高め、アウトプットの精度を高めなければなりません。
そうした時、はじめて成り立つのがセンスだと思っています。
もしもあなたが仕事でデザイナーと関わることがあるビジネスパーソンであれば、デザイナーに何か提案された時、鵜呑みにするのではなく、「これはどういうデザインなんですか?」と質問することです。
それはアウトプットの精度を高めること、売れる商品を作ることにつながっていきます。
もしもあなたがデザインを生業とするならば、自分が何を根拠にそのデザインを決定しているかを「感覚」という言葉に逃げずに説明しなくてはなりません。
それができてこそ精度の高いアウトプットであり、商品を売れるものへと育てる最良の道です。
僕は自分の感覚というものを基本的に信用していないので、「この感覚はどこからやってきているんだろう?」という確認作業をすることにしています。
センスを磨く
「センスがよくなりたいのなら、まず普通を知るほうがいい」と僕は思います。
これは「普通のものをつくる」ということではありません。
「普通」を知っていれば、ありとあらゆるものがつくれるということです。
ものの見方が増えていくことで、センスのよさが養われていきます。
センスを磨くには、あらゆることに気がつく几帳面さ、人が見ていないところに気がつける観察力が必要です。
よいセンスを身に付けることも、維持することも、向上することも、研鑽が必要です。
過去に存在していたあらゆるものを知識として蓄えておくことが、新たに売れるものを生み出すには必要不可欠だということです。
まずは知識をつけましょう。
過去の蓄積、すなわち「あっと驚かないもの」を知っていればいるほど、クリエイティブの土壌は広がります。
そのうえで、あっと驚くアウトプットを目指すべきなのです。
新しいものに接した時、過去のものや過去の知識に照らし合わせて考えるのが自然だということです。
みんなが「へぇー」と思うものは、ある程度知っているものの延長線上にありながら、画期的に異なっているもの、「ありそうでなかったもの」です。
ものをつくる人間は、新しさを追い求めながら、過去へのリスペクトを忘れないことが大切なのではないでしょうか。
知識に基づいて予測することが、センスだと考えているのです。
センスの最大の敵は思い込みであり、主観性です。
思い込みと主観による情報をいくら集めても、センスはよくならないのです。
どんな理由にしても、人は好き嫌いでものを選んでいます。
好き嫌いというのは主観にほかなりません。
そこに「どの服が自分にふさわしいのか」という客観性を加えれば、数値化されない事象を最適化するセンスの力が発揮されることでしょう。
自分を客観的な視点で見るための身近な方法に「服を選ぶこと」があります。
センスがいい服を選ぶには、「好き・嫌い」という定規を捨てることです。
自分の体型や特徴についても、あまりに少ない情報で選んでいることが多いのではないでしょうか?
たとえば「足が細い」とまとめず、「太ももとふくらはぎは細いけれど、足首は太め」と細かく観察したり、「肌がすごく白いから、好きなのはこの色だけれどこっちのほうが似合う」と判断したり、自分を客観視することが大切です。
服は毎日着るものであり、センスを磨く練習にもなるので、一度検証してみてもいいでしょう。
デザインを構成する要素
- 色
- 文字
- 写真や絵
- 形状
に分けられます。
もっと細かな要素もありますが、まずはこの四つに注目するといいでしょう。
この中で、
- 色
- 文字
は、知識による確認作業がしやすい要素です。
色に関しては、隣り合う色に注意します。
同系色もしくは補色にすると、バランスがよくきれいに見えるのです。
同系色か、補色かという二点を気にかけるだけでも、判断の助けになるでしょう。
文字に関しては、歴史的知識が役に立ちます。
書体、特にアルファベットの場合は、歴史的背景があります。
印刷が始まったばかりの頃にできた古い書体から、最近できたばかりの書体。
ヨーロッパでつくられた書体、アメリカでつくられた書体。
それぞれに歴史が宿っているのです。
書体の知識を集積することも、センスを磨く一助となります。
ヨーロッパ風をウリにしている商品には、アメリカの書体を使うよりもヨーロッパ風の書体のほうが相性はいいなどと、分かってきます。
ショップインテリアの場合
第一にしたのは、和風洋風問わず、長く愛される老舗の内装をたくさん見て回ること。
すなわち、「ショップインテリアにおける王道・定番は何か」という知識を蓄えることでした。
同時に、多くの人が通い、一定の基準が設けられているコンビニなども、注意して歩いてみました。
第二にしたのは、流行のお店にたくさん足を運ぶこと。
第三にしたのは、王道と流行以外にもいろいろなお店を注意して見てみながら、「共通項はなんだろう?」と考えてみることでした。
そこから、自分なりに見つけた「入りやすいお店=繁盛するお店」に共通するルールを挙げていきました。
チョコレートの商品開発担当の場合
①まずは王道のチョコレートに関する知識を紐解いてみる。
ひとつは、ベルギーやフランスなどの高級チョコレートの味と雰囲気。
もうひとつは、昔から長く愛され続けているロングセラーの板チョコなどの味と雰囲気。
②次に、流行りのチョコレートを知る。
最近発売された、競合他社の人気商品を調べる。
最近話題の、ヨーロッパの新しいショコラティエの挑戦的なショコラを入手する。
それらを観察し、味わい、パッケージにどのような特徴があるかをつぶさに知る。
③いろいろなチョコレートを知った上で、「そこに共通項はないだろうか?」と考える。
そこからまず、疑問を見つけ、「チョコレートのパッケージってたいてい茶色か赤。なぜだろう?」と考える。
「暖色系の相性がいいのは、チョコレートにはあったかいイメージがあるからだろうか?」
「とろけるチョコレートというイメージが喚起され、おいしそうと感じるからだろうか?」
④次に、疑問から仮説を導き出す。
「パッケージは暖色系、できれば茶色や赤やオレンジがいいのかな」
⑤最後に仮説を検証し、結論に結びつける。
「でも、それじゃありがちだ。茶色の補色にあたる青も併せて使ってみるのはどうだろう。
今回の製品はベルギーチョコレートのイメージだから、ベルギー辺りで生まれた書体を選んでみよう」
センスとはマナー
現代社会において、センスとはマナーです。
「美術大学などで特別な訓練を受けたわけでもないのに、センスがいいと呼ばれる人」とは、知識が豊富な人であり、知識が豊富な人とは仕事ができる人です。
知識が豊富な人であれば、上司やクライアントとの会話の際に相手の専門性を感じ取ったり、自分の普通に照らし合わせたり、「チューニング」がうまくできることは多々あります。
チューニングがうまくいけば、理解の度合いは深まるでしょう。
知識とは不思議なもので、集めれば集めるほど、いい情報が早く集まってくるようになります。
知らないことがあるとき、上司なり同僚なり部下なりの知識を吸収しようとする人は、「知ろうとする姿勢」が習慣としてあるので、ますます知識が増えていきます。
逆に、知らないことがあるときそのままにする人は、どこまでいってもそのままです。
狭い分野で豊富な知識を持っている人は、すべての事象を自分の得意分野に結びつけることができる、そんな特異なセンスの持ち主なのですから。
面白かったポイント
センスとか感性などは、非言語化領域だと思い込んでいましたが、言語化すべき領域なのだというのが発見です。
センスは知識の集積というのは、よく分かります。
また、新たな領域で仕事をする時の情報収集の仕方は、私のこれまでやってきた仕事のやり方そのものだったので自信が付きました。
現場に足を運んだり、雑誌で情報収集するのも、当たり前のように感じるかもしれませんが、意外とできていない人が多いと思います。
情報収集する意欲が高まる本です。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆☆
目次
Prologue センスは生まれついてのものではない
Part1 センスとは何かを定義する
Part2 「センスのよさ」が、スキルとして求められている時代
Part3 「センス」とは 「知識」からはじまる
Part4 「センス」で、仕事を最適化する
Part5 「センス」を磨き、仕事力を向上させる
Epilogue 「センス」はすでに、あなたの中にある