内容
消費者心理
「消費者行動」は「消費者心理の変化」の「結果」にすぎません。
白黒はっきりする「消費者行動」だけでマーケティングを組み立てようとせず、「結果」の源となっている「消費者心理」に迫らなければなりません。
「消費者心理の深い洞察」とは、ターゲットと設定した消費者の、当該商品へのニーズ、情報へのニーズ、購買行動の特性、様々なコンタクトポイントとの関わり方、関係するブランドへの認知・態度、さらにはライフスタイルや価値観まで含めたターゲットの研究ですが、最終的には「それを言われるとどうしても聞きたくなってしまう一言」を発見することです。
カスタマージャーニー
人は十人十色なので、もともと情報ニーズは人により異なります。
また同一人物であっても情報ニーズは変化していきます。
一人ひとりによって異なる情報ニーズを察知し、かつ一人ひとりよって異なるタイミングで発生する情報ニーズの変化を察知して、その人のその瞬間に合致したコミュニケーションを行うのがエンゲージ型コミュニケーションであり、1to1マーケティングのコミュニケーション手法です。
そしてその1to1マーケティングを設計するのに相応しい設計図がカスタマージャーニーなのです。
企業が自分の都合でマーケティングする「時」を一方的に決めて一斉に情報発信するための設計図ではなく、一人ひとりによって変化する情報ニーズに寄り添い、顧客が「今」欲しい情報だけを届けられるようにするための設計図がカスタマージャーニーなのです。
カスタマージャーニーとは顧客体験の連鎖ですが、顧客体験である以上、企業が顧客に指示できるものではありません。
企業のシナリオ通りに顧客が行動してくれる保障はどこにもありません。
パーセプションチェンジ
「PXが良い」だけでなく「PXのある自分の人生は最高に素敵!どうしても手に入れたい」というパーセプション獲得まで目指さなければならないのです。
行程によって施策、すなわち手法とコンテンツが変わることを想定していますから、パーセプションチェンジが終了したと見なし、次のパーセプションチェンジを起こすための施策を打つためには、パーセプションチェンジ終了の判断指標がどうしても必要なのです。
相手にアンケート調査で聞くわけにはいきませんから、行動データによって自動的に把握できる指標が必要なのです。
これを遷移指標と呼びます。
個人情報獲得データ、ログデータや購買データ等を使うことによって遷移指標を設定します。
ターゲットとニーズ
ターゲット規定は、一歩間違えば抽象的概念的な記述に陥り、本当にそんな人間がいるのかなと思えるような不明瞭な人間像を描くことも多いのですが、ペルソナ化することで
「確かにそんな人周りにいそうだよね」
「このペルソナ、〇〇さんみたいだね」
となり、アプローチする相手の人物像を皆がわかりやすく理解することができるようになります。
具体的記述なので人によってイメージする人物像が少しずつ異なることもなく、皆が同じ人物を頭に描けるようになります。
ペルソナ化するということは、ターゲットを一人の実在する人物像として描くことなので、自社商品と直接関わらない側面も描くことになります。
またペルソナを「普段どんな雑誌を読んでいるか」で規定すると、その人となりが下手に説明するよりも明確になることがあります。
雑誌は読者のターゲット設定がよく絞り込まれているので、読者の趣味嗜好、関心事はもちろん、生活スタイルや価値観が反映されます。
昔からあるターゲットセグメンテーションの技のひとつです。
スタートとゴールの設定
購買後も良い関係を継続するメリットは他にもあります。
好意的口コミを最大化し、非好意的口コミを最小化するためです。
何とか興味が継続・深化する商品グループの中に自社商品が残っていられるよう企業はコミュニケーションを続けなければなりません。
相手に興味ある情報を提供するのはもちろんですが、想定ライバルと比較された時の違い・優位性をちゃんと伝えます。
商品情報として伝えるだけでなく、自社使用者の体験談としても伝えます。
課題は「いつか買うかも」から「今買いたい」にパーセプションチェンジさせることです。
「実際にいくらの支払いになるか算出してみませんか → 見積請求」
「情報だけでなく実際に実物を試してみませんか → 試乗会申込、無料サンプル申込、無料体験会申込」
への誘導を図ります。
遷移指標
クッキー取得
自社ウェブサイトを訪問してくれたことの証。
自社商品に興味が芽生え、情報収集意欲が発生したことの証。
自社サイト訪問回数・頻度・滞在時間
自社商品への興味関心の高まりの証。
購買意欲の高まりの証。
閲覧ページ
閲覧ページによって、自社商品のどこに魅かれているのかがわかる。
商品詳細、スペック詳細、価格一覧、最寄りの店舗検索ページ等の閲覧は購買意欲の高まりの証。
動画閲覧
どの動画を見たかで、自社商品のどこに魅かれているかがわかる。
最後まで見たか途中で止めたかでも自社商品への関心の高さや購買意欲の証となることがある。
広告・メール・スマホアプリ等への反応
開封状況、クリック状況、そしてどのコンテンツに反応したかで関心の内容がわかると同時に、自社商品への関心の高さの証ともなる。
流入検索ワード、流入元
検索ワードは全数把握はできないが、何かの証と判断することはできる。
関心やニーズをざっくり表すビッグワードでの検索から商品名をストレートに書き込む指名ワードでの検索に変化、比較サイトから、あるいは競合サイトからの流入等は商品選択行動の進展、購買意欲の高まりの証と言える。
ただしテレビ広告で「詳しくは〇〇で検索」というエンディングでの訴求がある場合は、商品選択行動の最初から指名ワードで来訪することがあるので、注意が必要。
個人情報獲得
個人情報の内容如何にかかわらず、顧客が自らの個人情報を提供してくれたということは、クッキー獲得より一段高い関心の高まり、購買意欲の高まりの証。
もちろんプレゼントキャンペーン等で景品欲しさだけで個人情報を差し出してくる人もなかにはいる。
特定行動捕捉(ホットリード判別)
見積請求、無料お試し商品・サービス申込、無料体験イベント申込、店頭体験予約、営業マンとの商談予約等の行動は、購買意欲が非常に高まり、購買プロセスの最終段階に入ったことの証。
一般的なマーケティング部門から営業部門・店頭への送客のポイントとなることが多い重要な指標。
KPIになることも多い。
位置情報データ
店に来てくれた、街に来てくれた、施設に来園してくれた、イベントに来てくれたことの証。
このこと自体が最終成果となることもある。
購買データ
流通業・金融業・通信業・B2B企業、またはECやコールセンターを使った直接販売ではRFMレベルで確実に把握できるが、営業部門が販売店等他の事業会社の場合は、一人の顧客が両社で同じIDとして管理・連結されてないとマーケティングの最終成果の証が獲得できない。
メーカーと流通業等、他社による店頭販売に依存している企業はもちろん最初から取得不可能。
別の視点での成果の証が必要となる。
ソーシャルメディア行動データ
自社のファンページに何人のファンが登録されていて、参加行動(いいね、投稿、シェア)をどの程度しているかのデータ。
ロイヤリティ度合い、ファン度合いの証。
購買データがどれないファン獲得マーケティングの中核的指標。
自社コミュニティ行動データ
オウンドメディアとして構築運営している自社コミュニティにおける会員登録、参加行動データ。
ウェブサイト上のコミュニティでも実際に対面するリアルのコミュニティでも良い。
ロイヤリティ度合い、ファン度合いの証。
やはり購買データがとれないファン獲得マーケティングの重要な指標となる。
「そろそろ買い替えようかな」というパーセプションが「そうか、〇〇という選択肢もあるな。少し調べてみるか」というパーセプションに変化した証は何か?
私はシンプルに「商品〇〇のウェブサイトを見に来てくれた」とするのがいいと思います。
やはり自社ウェブサイトのログデータ解析から推測するしかないでしょう。
ほとんどの場合、情報収集の結果、購入意欲が高まってきた時には、ウェブサイトの閲覧頻度・時間は増加するでしょうし、閲覧するページもより商品の詳細やスペック、価格や購入方法、最寄りの店舗等、実際の購買時に避けて通れない内容のページを徐々に閲覧するようになるはずです。
ウェブサイトへの流入の方法も、明らかに他社と比較検討している証となる比較サイトからの流入、あるいは直接ライバルのサイトからの流入が発生するようになるでしょう。
検索キーワードも漠然としたビッグワードではなく、商品決め打ちの指名ワードに変化しているでしょう。
手法
ウェブパーソナライズはマーケティングオートメーションの得意技です。
メインのビジュアルを相手によって変える、トップページバナーを相手によって変える、相手によって違うポップアップを出させる等のカスタマイズが可能です。
個人情報が取れていて、より相手の望む情報が正確にわかっていることが理想的ですが、クッキーベースでも十分効果的です。
私はウェブパーソナライズはもっと積極的に活用していくべきだと思っています。
多少大げさに言えば、これによりウェブサイトは企業からの一方的情報提供のメディアから、企業と見込顧客の対話ツールに変貌するのです。
いずれにせよ重要なのは、属性データ・購買データ・ログデータ・メール等への反応データをしっかり分析して、どの顧客に、どのタイミングで、どのコンテンツを、どの手法を使って伝えるかを設計することです。
「潜在顧客→見込顧客→ホットの見込顧客→顧客」へのカスタマージャーニーを描いてきましたが、同様に「顧客→やや上顧客→上顧客」へのカスタマージャーニーを描きます。
何をもって上顧客・やや上顧客と定義するかで遷移指標も変わります。
顧客側からすると「私は客なのだから、ちゃんと私のことを理解したコミュニケーションをして欲しい」という気持ちになるでしょう。
リピーターなのにいつまでも一見さん対応されたり、十把ひとからげ扱いされるのは不快と感じる顧客が増えることも念頭に置いておく必要があります。
コンテンツ
同一人物であっても情報の摂取や体験によって欲しい情報は変化することです。
最強コンテンツはやはり実際のオーナーの体験談でしょう。
ウェブサイトでも何人かはオーナーの声を掲載するでしょうが、質も人数ももっと充実させて行程にある見込顧客にはオーナーの声を前工程に続き、さらに徹底的に訴求します。
静止画コンテンツだけでなく、しっかり時間とお金をかけた動画コンテンツが必須です。
個人情報が取れていればメールやスマホアプリで、取れていなければウェブパーソナライズやリタゲで訴求します。
購入後の主なマーケティングの課題は、満足度を高め不満を下げることで離脱を阻止し、使い続けてもらうこと、アップセルやクロスセルで一人当たりの利用金額を上げること、メンテナンス等の仕事を受注すること、そして自らの満足を他の人に推奨してもらうことです。
購入前は夢と期待を膨らませるコンテンツが多くなりますが、購入後はちゃんと使えるようになる、あるいは使い倒すための現実的な課題解決のコンテンツが多くなります。
諦めずに継続的にコミュニケーションすることです。
そして心境の変化・環境の変化を察知する仕掛けを作っておけばいいのです。
メールやスマホアプリに全く反応がなかった人が、ある時から開封・クリックといった反応をするようになった、ウェブサイトを再び訪問してくれるようになった等の行動を見込顧客復活化の遷移指標として策定しておき、その行動内容に合ったコンテンツを提供する準備を予めしておけばいいのです。
コミュニティ参加者の中でも特に参加意欲が高く積極的に投稿する人に対して、自分が属するコミュニティだけでなく、下位のコミュニティにおいても投稿・シェアしてもらうようにプッシュします。
マーケティングオートメーション
顧客情報、購買データ、自社商品ウェブサイトのログデータ、自社商品SNS、ファンページの顧客データ、エンゲージデータ等をマーケティングオートメーションに突っ込みます。
面白かったポイント
カスタマージャーニーからマーケティングオートメーションに落とし込むための情報が整理されている良書です。
MAをやる人は必読でしょう。
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目次
第1章
マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーとは
1 本書が目的とするカスタマージャーニー
2 今までのマーケティングの設計図とカスタマージャーニー
3 パーセプションチェンジ
4 パーセプションチェンジと施策
5 パーセプションチェンジと行動
6 力のあるコンテンツを生むために
第2章
カスタマージャーニーの作り方1 全体設計
1 全体フロー
2 目標の策定
3 ターゲットとニーズの策定
4 スタートとゴールの策定
5 全体行程の策定
6 遷移指標の策定
第3章
カスタマージャーニーの作り方2 施策設計
1 手法の策定
2 コンテンツの企画
3 KPIの策定
第4章
カスタマージャーニーの作成事例
1 輸入高級自動車のカスタマージャーニー
2 健康食品Fのカスタマージャーニー
3 地方温泉街のカスタマージャーニー
4 ビジネススクールMBA学生募集のカスタマージャーニー
5 新業態メガネチェーン店のカスタマージャーニー
6 乳業メーカーAのカスタマージャーニー