内容
人事の機能
人事の機能は一般に、「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6つに分けられます。
流動性
人事の世界では「内部流動性(異動)と外部流動性(転職)はトレードオフ」と言われています。
人は、異動して仕事環境や業務内容が変わると、気分一新また頑張ろうと思います。
しかし同じ仕事をずっとやっていると、仕事のスキルや業務生産性は上がるものの、成長は鈍化します。
すると、外部に成長できるところを求めて転職するのです。
つまり「内部流動性=異動の頻度」を高めれば、「外部流動性は減る=社内に定着する」わけです。
清き川も、流れが堰き止められて淀めば濁ります。
川が濁れば水が腐り、水が腐れば新たな生命は生まれません。
これは組織も同様です。
流れが淀めば、濁り、腐るのです。
組織が濁らないようにするには、まず「人材の内部流動性を高める」必要があります。
つまり、人材を異動させたり、昇格/降格させたりするのです。
内部流動性を高めれば、組織が濁ることを抑止したり、防いだりできます。
マネジメント
背中でマネジメント
初期の組織は多くの場合、数名もしくは1名から始まります。
この段階では、組織の大きさが創業者の認知限界を超えないため、ルールを設定する必要はありません。
あらゆる面で創業者が自らの「背中」を見せ、リーダーシップを執って、組織を直接運営するのです。
行動でマネジメント
管理職の役割は、経営者の目が届かないメンバーをマネジメントすることです。
ただし、これまでインフォーマルで柔軟にマネジメントしていたため、組織自体に方向性やビジョンはありません。
マネジメントを任された管理職は、個別具体的に行動自体を指示することしかできません。
これが、行動のマネジメントです。
マニュアルなどで、やるべきことを1から10まで具体的に直接指示するのが、この段階の特徴です。
方向性が決まらないまま拡大した組織を統制するには、個別かつ具体的な行動レベルの指示が必要だからです。
結果でマネジメント
具体的なことでマネジメントする[Step2]の組織を変えなくてはならなくなると、「結果でマネジメント」する組織が登場します。
結果でマネジメントする組織では、「ゴール」と「ゴール達成時のインセンティブ(ご褒美)」を決めて、それを明示することで、メンバー自身に自由に判断させます。
その狙いは、1から10まで行動を指示されて自律性を失い、指示待ち人間になってしまった社員が再び自分で考えて行動し、創造性を発揮するように促すことです。
[Step3]の組織では、「自由と自己責任」という言葉がよく使われます。
つまり、[Step2]の「面倒見るから俺の言うことを聞け」という状況から「自由にさせるから、自分で責任を持て」へと変わるわけです。
ある意味、「市場原理」を用いて、組織をマネジメントする手法と言えるかもしれません。
[Step2]を飛ばそうと経営者が考えるのは、第一に経営者自身、「自由が大好き」だからです。
経営者の多くは、上司にあれこれ言われるのが嫌で、自由にやりたいから独立しています。
そういう人は、会社が成長して自分ですべてを見られなくなると、組織に自由な気風を持ち込もうと、「自由と自己責任」などと言い始めます。
しかしこれは、多くの人にとってありがた迷惑です。
職場で働く人の大半は、むしろ「細々と指示して教えてほしい」と考えます。
こうした人が自由を享受し、自律して動くには、いきなり自由を与えるのではなく、最初は型にはめることが必要なのです。
計画でマネジメント
計画でマネジメントする組織では、基本的には自分たちで考えて行動するものの、「事前に」行動計画を経営層に提出し、会社としての承認を受けることになります。
これにより、権限の多くを現場に移譲しながら、事前に「部分最適」が進み過ぎた計画を修正し、ヒト・モノ・カネなどの経営資源を組織全体で横断的に管理して、最適配分することが可能になります。
文化でマネジメント
「文化でマネジメント」の組織では、「自由と統制」が統合されます。
行動や結果などの明示的なもので「厳密に」統制するのではなく、文化(価値観や考え方・思想・理念)などで社員の意識を「緩く」統制するのです。
文化でマネジメントする組織では、孔子の「心の欲する所に従えども矩を踰えず(自分の思うがままに物事を行っても、正道からは外れない)」という言葉に似て、「やってはいけないことを定める(OBラインを引く)」「トラブルや例外が起こったときにだけ管理者が介入する」など、全体としては緩く統制されているものの、個々人は自由な創造性を発揮できます。
行動を管理すると、自律性や創造性が低下します([Step2])。
社員に明確に何をすればよいかを指示することで、確実に組織を動かせるものの、働く側から見ると、窮屈この上ないことになります。
退職率
退職率を下げる・上げるために何をやるのでしょう。
退職率を下げる施策は、「求心力」施策とも呼ばれ、会社への定着を促します。
具体的には、組織の一体感や愛社精神を高揚させるイベントや評価・認知活動、社内業務に役立つ能力開発への投資、仕事や職場への適応を目的とした研修、残留インセンティブの高い退職金、報酬アップなどです。
一方、退職率を上げる施策は、「遠心力」施策とも呼ばれ、会社からの退出を自然に促します。
社外を含めた選択肢を検討させるキャリア研修、ポータブルスキル開発への投資、セカンドキャリア支援や早期退職の退職金上積み、昇給や昇格の停止、役職定年制度などがこれに該当します。
この2つを、理想の退職率と実際の退職率とのギャップを踏まえて実施するわけです。
これは、簡単なことではありません。
しかし地道に実施することで、自発的退職率をターゲットに近づけることができます。
日本人とタイ人
日本人はタイ人と並んで、世界で最も直接的なネガティブ・フィードバックを嫌う民族だそうです。
日本人はタイ人と並んで、極めて「ハイコンテクスト=空気を読んで行動する」国民性を持っていて、直接のネガティブ・フィードバックを好みません。
選考プロセス
歩留まりとは、選考プロセスの各段階において候補者を次のプロセスに進める割合(数値)です。
選考プロセスの「エントリー」「書類審査」「筆記試験」「面接」「内定」における、「内定率」「受験率」「書類通過率」「筆記通過率」「面接通過率」「途中辞退率」「内定辞退率」という7つの数値が歩留まりに該当します。
面接
「自己PR」で語る自らの「強み/弱み」や「志望動機」は、多くの場合、主観的で抽象的です。
これは、仕事経験の少ない新卒学生はプロフィール上、訴えるべき実績を持っていないためです。
そして、抽象的な強みや弱み、志望動機をいくら聞いても、候補者の特性はわかりません。
ですから、面接でまず聞くべきは、より客観的でより具体的な応募者の「過去のエピソード」です。
先の自己PRも志望動機も、背景には何らかのエピソードがあるはずです。
インタビューでは、エピソードに対する彼らの解釈ではなく、その事実そのものを丁寧にヒアリングしましょう。
この過程で、「コミュニケーション力」や「論理的思考力」などの基礎能力がわかるのです。
わかりやすいエピソードです。
まず、「1人で頑張ったこと」よりも「人と関わって頑張ったこと」を聞きましょう。
応募者の人となりを理解できるからです。
また、「順風満帆なエピソード」よりも「苦労した話」の方が、その人の行動特性が読み取れます。
順風満帆な状況はあらゆることが追い風になっている「(単に)ラッキーな状況」であることも多く、成果を生み出す上でその人が何にどれだけ貢献したかはわかりません。
一方、何らかの壁にぶつかったり、トラブルを乗り越えたりした話には、その人の力が発揮された生の情報が詰まっています。
最後に、「短期間の出来事」のエピソードよりも、「長期間に渡る出来事(習慣)」のエピソードを聞きましょう。
能力や性格は、「行動や思考の習慣」です。
そして習慣とは、基本的に「長期間に渡る繰り返し」です。
短期間の出来事では、その人に身に付いているものはわかりません。
長期間に渡る出来事こそが、再現性のあるその人の特性なのです。
程度の深掘りでは、その人がやったことのレベル感、言い換えれば「難易度」や「希少性」の情報を押さえます。
程度を押さえる上での基本は、「できるだけ数字に落とす」ことです。
「どれくらいの期間」「何人ぐらいが関わって」「どのような苦労があり」「どのぐらい希少性のあることをやったか」の情報を集めます。
心を開いてもらう
相手に心を開いてもらう上でもう一つ大切なのは、「損得勘定なしに、フラットに相談に乗る」ことです。
面白かったポイント
採用担当者になったら読む本って感じです。
マネジメントの章が面白かった。
満足感を五段階評価
☆☆☆☆
目次
I部 人事のセオリー
1章 そもそも、人事の役割とは何か
2章 組織の成長に応じて、人事の考え方は変わる
3章 採用と代謝は一つの流れで考える
4章 配置によって人を育成する
5章 評価や報酬では納得感を担保する
II部 採用のセオリー
6章 採用計画はどのように立てるのか
7章 候補者集団を形成し、選考する
8章 面接の質を向上させる
9章 優秀層を確保する
10章 中途人材や外国人を採用する