なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか

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『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』北村陽一郎

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内容

ブランド認知度

ブランド認知率はなかなか上がらないものなのですが、逆にいったん上がると広告をしばらく休んでもそれほど下がりません。

上がりにくく、下がりにくいのがブランド認知率の動きで、広告認知率との動きの違いはマーケターの間でも意外に認識されていないように思います。

 

ブランド構造

もともと武士の社会には鎌倉時代から、「御恩と奉公」というシステムがありました。

戦功を立てると土地がもらえる Give&Takeの関係です。

これが鎌倉中期以降、元寇などがわかりやすい例ですが、恩賞となる新たな土地がなくなったためにうまくいかなくなります。

織田信長は勢力拡大の過程で部下のモチベーションを高めるため、このことについて考えていたと思います。

ずっと土地が恩賞では足りなくなる。

 

そこでどうするか。

当時窮乏していた足利将軍は、唐物という中国からきた茶道具を売って糊口を凌いでいました。

小さくかつ貴重という茶道具の特性に、信長は恩賞としての可能性を感じたのでしょう。

しかし唐物はそれほど数もなく、入手にコストがかかります。

それなら、原価が安く自由に作れて(新たに作ったものを今焼と言います)価値があるものを作ればよい。

価値を出すためにはその道の有名人を仕立て、「有名人お墨付きの茶道具」とすればよい。

信長が千利休などに投資し権威が出るようにプロデュースしたのには、そうした狙いがあったとする歴史研究があります。

 

実際に、信長の後期の恩賞はほとんどが茶道具です。

職人を雇い、現代であれば数万円の原価でいくつか作らせたうちの一部が、「千利休のお墨付き」という意味が加わることで「城が買える」ような何億円もの価値を生む。

原価が同じでも、意味が加わることで価格が高くなる。

信長は、ブランドというものの構造を理解していたと思われます。

 

間口奥行分析

左の図は、横軸に間口(=1年で1個以上購入した人の割合)、縦軸に奥行(=1個以上購入者1人あたりが1年間でかけた金額)をとって散布図化した「間口奥行分析」と呼ばれるものです。

 

上の世代を狙う

上の世代を狙うことにチャンスがあると思う理由は、3つあります。

 

1つめは、ブランドスイッチをあまりしないためリピーターになる可能性が高いこと。

2つめは、健康が最もわかりやすい例ですが、美容でも、ゴルフなどの趣味でも、若い頃とは違っていろいろと問題が出てくるので、商品の機能訴求は若い世代に比べて届きやすくなること。

3つめは、これが最も大事なのですが、競合他社が見落としがちなターゲットであるということです。

 

3つめだけでも、検討するには充分な理由になるのではないでしょうか。

 

購買行動

購買行動には、「ブランド計画購買」「カテゴリー計画購買」「非計画購買」があります。

例えばコンビニでキリンの「淡麗」を買ったとして、コンビニに入る前から「淡麗」を買うつもりでいたならブランド計画購買、「淡麗」かどうかはともかく何かビール・発泡酒を買おうとしていたならカテゴリー計画購買、ビール・発泡酒を買うつもりはなかったけれど結果的に買ったなら非計画購買となります。

スーパーにおける洗剤の購買行動は、自宅で使っている洗剤が切れそうになって「洗剤を買わないと」と思ってスーパーに来ていますし、普段使っているものにそれほど不満がなければ続けて買うので、ブランド計画購買が多くなります。

 

人は人間関係に関心

人は人に関心があり、さらに言えば人間関係に関心がある。

これは原理原則的なことだと思います。

企業の言うことよりもリアルな人の言うことに心が動きやすく、さらに知らない人よりも知っている人の言うことに心が動きやすいのは、発言内容そのものに加え、それを伝える人や人間関係への関心が上乗せされるからと考えることができるでしょう。

 

おりおう人格、ゆるい人格

一人の人間の中には大きく分けて、「おりこう」の人格と「ゆるい」人格があります。

車を購入するのは理性的に判断する「おりこう」の人格。

それに対し、いつもダイエットに気をつけている人が「今日はカップ麺を食べたい気分」と思ってカップ麺を買うときは、「ゆるい」人格が購入しています。

良い悪いではなく、人間には二つの人格があり、それぞれがモノを買うということです。

しかし、どちらの人格が買うモノの話なのかに関係なく、調査に答えるのは「おりこう」の人格です(回答したデータが誰かに見られない調査でも同じです)。

自ブランドのカテゴリーが「ゆるい」人格が購入するものである場合には、ここに注意が必要です。

 

気持ちの変化

「気持ちの変化を感じたい」というのは人間の根源的欲求であり、購買行動においても時間軸での気持ちの変化という視点を考慮すると理解が進むことがあります。

 

関サバ

大分県の特産品である「関サバ」は、佐賀関という漁港で獲れるサバのブランドです。

魚は海で泳ぎ回っているので別な漁港のサバとの違いがわかりにくいのですが、「関サバ」は漁獲後の処置が違います。

網で取らずに一本釣りし、そのまま船内の生け簀で生きたまま漁港に運ばれます。

漁港では通常、はかりで重さを量りますが、はかりの上で魚が暴れて身に傷がつかないよう水面から目分量で大きさを見極める面買いという方法で取引されます。

さらに釣られたばかりで興奮状態にある魚を専用の生け簀で1日寝かせ、落ちつかせてからしめるという徹底ぶりで、ストレスで味が落ちないよう手間をかけられた関サバは通常のサバの何倍もの価格となりますが、高級魚としてたいへん人気があります。

 

重回帰分析の信頼性

例えば、2×a+3=7というように未知数が1つの方程式は、1本の式があれば解が求められます。

未知数が2つになると2本の式が必要になります。

これらは未知数がa=2のように特定できる場合なのですが、重回帰分析で取り扱う対象は実際にはどこまでいってもズレがあり、そのズレを許容できる範囲まで小さくしていくためにはたくさんのデータが必要になります。

 

目安として、必要になるデータの本数は説明変数の個数の10倍と言われています。

つまり「テレビCM」と「OOH」という説明変数2個の売上に与える影響を見たい場合は、20個分のデータが必要になるというわけです(通常は週単位で集計しますので、20週分となります)。

実際に分析を行う場合は「Web広告」や「ダイレクトメール」など説明変数がもっと多くなりますので、説明変数5個であれば50週で約1年分、説明変数10個であれば100週で約2年分のデータが揃って、ようやく信頼度が出てきます。

 

因果関係と相関関係

「AがBに貢献した」というのは「Aがあったおかげで、その結果としてBになった」という因果関係を想定しているのに対して、重回帰分析でわかることはあくまでも「AとBは同時に起こりやすい」という相関関係にとどまります。

 

A・Bに相関があるときの因果関係は、主に次の4パターンがあります。

①AがBの原因(A→B)

②BがAの原因(B→A)

③CがAとB両方の原因(C→AB)

④AとBには因果関係がない(A×B)

この中で、特に重要なのが③のC→ABです。

この関係を「交絡」と言い、原因Cを「交絡因子」と呼びます。

 

マーケティング

マーケティングは、人の気持ちを考えるものです。

人の気持ちが動いて購入し、それが積み重なったものが売上です。

理論やフレームを学び、それを活かして設計するときに、どこかでその視点が抜け落ちることがある。

 

マーケティングにおける資源とは、次の6つだとされています。

ヒト・モノ・カネ・時間・情報・知的財産

 

マーケティングにおける目標設定ということでは、第2章でお話ししたように、例えばブランド認知率などの心理変容は動きが緩やかです。

新商品のブランド認知率を短い期間で一気に上げるといったようなことはほぼ実現が難しく、時間がかかることとそれほどかからないことを区別した上で、かけられる時間に応じた実現可能な目標を検討していく必要があります。

3カ月など短期のキャンペーンでは、売上やキャンペーン応募数などの行動に繋げる目的と、ブランドに何かのイメージを貯めていく心理変容の目的の両方が考えられますが、心理変容は短期間で変動しにくい面があるため、目標設定としては行動指標の方になりがちです。

しかし、その行動指標の数値を上げたいがために頻繁に値引きをしたり、あまり親和性のないキャラクターとのコラボを行ったりすることには慎重になるべきだと思います。

 

ブランド認知をしていない人に認知してもらいたい場合は⑨の人を、知ってはいるが使ったことがない人にトライアルしてほしい場合は⑦⑧の人を、またすでに使ったことがあるが頻度が少ない人にさらに使ってもらいたい場合は⑤⑥の人を、と考えていく必要があるわけですが、多くの広告主は①の人が世の中に実際以上に多くいるように思ってしまいがちです。

 

企業のビジネスは非常に多岐にわたっているわけですが、要するに何をしているのかを非常にシンプルに言語化すると、誰に、何を、いくらで、どこで、どんな気持ちで買ってもらうか。

 

広告の目的を言語化すると、消費者の心理状態を、「現在の状態」から「理想の状態」に変容させる。

 

マーケティングを考える順序

順序としては、このような型を基本に考えていくといいと思います。

①競合(何が自ブランドに置き換わるのか)

②ターゲット(誰が自ブランドに置き換えるのか)

③便益(自ブランドはターゲットに何をもたらすのか)

④ターゲットの現在の心理状態

⑤ターゲットの理想の心理状態

⑥接点(ターゲットはどこで心理変容を起こすのか)

 

ターゲット

ブランドの利益がどのように生み出されるかというと、利益率の高い高額なグレードを買ってくれるか、何回も繰り返して買ってくれるかの2通りです。

利益率が高くないグレードを1回だけ買うという客層からはあまり利益が出せません(新規顧客の場合は獲得コストの方が上回るケースも多いです)。

つまり、利益の大半を生み出してくれるのはロイヤルユーザーであるわけです。

 

便益

便益には、喜びを増やす「Gain系」と悩みを減らす「Pain系」という2つがあります。

そして、そのブランドを使う意味が使う人自身の中で完結する「自己完結型」とその人と周りの人との人間関係に滲み出す「人間関係型」の2つがあります。

 

現在の心理状態

ターゲットの現在の心理状態は、大きく分けて二つあります。

ターゲットが何をしたいか、あるいは何に悩んでいるかという当該ブランドとは関係のない心理状態と、ターゲットから見て当該ブランドがどのように見えているのかというターゲットとブランドとの関係の心理状態です。

前者のブランドとは関係のない心理状態については少し大きな枠組みでターゲットを捉えて考察することができますが、後者のブランドとの関係は、ブランド認知や使用経験の有無などによって大きく変わってきます。

現在の心理状態を考えるには、この両方をふまえることが重要です。

 

好きの言語化

自分が好きなものと好きな理由、それと似た好きでないものと好きでない理由を挙げてください。

マーケターは「好き」を再現することを求められるので、「好き」の理由を言語化してみましょうという意図の質問でした。

「好き」の理由は一つだけではなく、さまざまなルートをたどってロイヤリティに至るわけですが、それらがどんなルートなのかを考察するために、似ている好きでないものとの差分を考えるのは有効な方法です。

 

人に興味を持つ

マーケターも人間なのでどうしても興味が持てないこともあるし、例えば医薬品などでその疾病がなければ自分では使用しないこともあります。

一つの方法としては商品そのものに興味が持てなかったとしても、その商品をよく使っている「人」の方に興味を持つということはできるように思います。

基本的に人は人に興味があり、マーケターは特にその傾向が強いと思いますので、「商品に興味を持つ」を「ある種の人間に興味を持つ」に変換し、その人の考えていることが代弁できるくらいに理解を深められればよいのではないでしょうか。

 

面白かったポイント

けっこうよかった。

マーケティング本はけっこう読んでいるが、新たな気づきを得ることが出来た。

人に興味を持つ、特にその人間関係、そして、感情の変化に関心を持つことが大切だと、原理原則をインプットし直した。

 

満足感を五段階評価

☆☆☆☆☆

 

目次

第1章 なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか
・苦労して社内を通したプランがうまくいかない?
コンペの罪は「言い切り」を生んでしまうこと /間違いのもとは、本当は原理原則的ではないことをそのように見てしまうこと/マーケティング・フレームとは、モデル化の試みに過ぎない/マーケター自身が持っているバイアスを意識する
・3つの過剰
過剰な一般化/過剰な設計/過剰なデータ重視

第2章 過剰な一般化
・ブランド認知
教科書における「ブランド認知」の扱われ方/現場における「ブランド認知」の誤解/現場における「ブランド認知」ご使用上の注意
・ターゲット設定
教科書における「ターゲット設定」の扱われ方 /現場における「ターゲット設定」の誤解/現場における「ターゲット設定」ご使用上の注意

第3章 過剰な設計
・パーチェスファネル
教科書における「パーチェスファネル」の扱われ方 /現場における「パーチェスファネル」の誤解/現場における「パーチェスファネル」ご使用上の注意
・カスタマージャーニー
教科書における「カスタマージャーニー 」の扱われ方 /現場における「カスタマージャーニー 」の誤解/現場における「カスタマージャーニー 」ご使用上の注意

第4章 過剰なデータ重視
・インサイト分析
教科書における「インサイト分析」の扱われ方 /現場における「インサイト分析」の誤解/現場における「インサイト分析」ご使用上の注意
・重回帰分析
教科書における「重回帰分析」の扱われ方 /現場における「重回帰分析」の誤解/現場における「重回帰分析」ご使用上の注意

第5章 現場の広告プランニング
・状況によるマーケティングの使い分け
「かけられる予算」によるマーケティングの使い分け/「かけられる時間」によるマーケティングの使い分け/「目標の違い」によるマーケティングの使い分け/「商品カテゴリー」によるマーケティングの使い分け /「ブランドの立ち位置」によるマーケティングの使い分け
・マーケティングを考える順序
①競合(何が自ブランドに置き換わるのか)/②ターゲット(誰が自ブランドに置き換えるのか)/③便益(自ブランドはターゲットに何をもたらすのか)/④ターゲットの現在の心理状態/⑤ターゲットの理想の心理状態/ ⑥接点(ターゲットはどこで心理変容を起こすのか)
・原理原則的であることと、そうでないこと
原理原則的である「便益・人間の心理」/原理原則的でない「競合」/原理原則的でない「ターゲット」/原理原則的でない「接点」/原理原則的でない「マーケティングそのもの」

第6章 北村塾 受講生との対話から
受講生への質問
受講生からの相談

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